江戸のナポレオン伝説: 西洋英雄伝はどう読まれたか (中公新書 1495)
- 中央公論新社 (1999年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121014955
作品紹介・あらすじ
北からも南からも出没する異国船。海の外がどうも騒がしい。そう直感した蘭学者たちの前には、「鎖国」という厚い壁が立ち塞がっていた。その頃世界は一人の風雲児によって激動の嵐に巻き込まれており、日本近海の動揺もその余波であった。"震源地"ナポレオンの事績に関心を持ち、伝記を訳述、紹介した小関三英は、蛮社の獄直前に自刃。しかし、彼が開いた西洋偉人研究は兵法研究へと広がる一方、幕末の志士たちの精神的な糧となった。
感想・レビュー・書評
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幕末維新期の大物には,意外にもナポレオンから影響を受けた人が多い。情報源が布教の恐れなしのオランダ・中国に限られていた江戸時代,人々はこの風雲児についてどのように知識を得たのか探っていく。
カトリックのフランスに支配されたオランダが,貿易打ち切りを恐れ情報を隠したため,はじめて日本人がナポレオンを知るのは彼が落ち目になってからのことだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いわゆる鎖国政策によって海外の人・物・情報の流通が幕府によって統制されていた江戸時代にあって、ヨーロッパ大陸の風雲児ナポレオンの情報がどのように日本に伝えられ、どのように受容されたのかを追跡する研究。ナポレオンに制圧されたオランダ側による情報の秘匿のなかで共時的にナポレオンの情報を得られないなか、幕府関係や市井の蘭学者たちの間で徐々にナポレオンに関する情報が蓄積され、頼山陽の「仏郎王歌」や小関三英のナポレオン伝(刊本の他にもいくつか写本があるようだ)に結実していく流れが分かりやすく、しかし緻密にまとめられている。また史料引用の際、基本的に現代語訳をつけてくれているのが実に親切であり、この問題に興味がある初学者にとってもありがたい仕様となっている。
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考えたことのない視点だった。そういえば、幕末ものでときどき「奈翁」が出てくるとは思っていたので、江戸時代の人にも、同時代の英雄譚として知られているのだろうとは思ってはいたけど。
しかし、フランス革命抜きでナポレオンを知っても、「今の時代にも三国志みたいなことがあるのか」ということにしかならないだろうし、フランス革命のあたりの近代的社会を江戸時代人がどう認識したのかということに考えが及ぶけど、そこまではこの本では追えなかった。
もっというと、「維新の元勲」は、けっこうあっさりと台湾出兵とか征韓論に走るわけだが、それとの連続性も見たかったな。
個人的な趣味なのだけど、私は幕末を英雄サーガにするのが好きではないので(「日本の夜明けぜよ!」ってノリは好きじゃない)、幕末の相対化として、文化文政頃のことをもっとちゃんと知るというのは、したほうがいいんかなと思う。