観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い (中公新書 2443)
- 中央公論新社 (2017年7月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121024435
作品紹介・あらすじ
観応の擾乱は、征夷大将軍・足利尊氏と、幕政を主導していた弟の直義との対立から起きた全国規模の内乱である。本書は、戦乱前夜の動きも踏まえて一三五〇年から五二年にかけての内乱を読み解く。一族、執事をも巻き込んだ争いは、日本の中世に何をもたらしたのか。その全貌を描き出す。
感想・レビュー・書評
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権力をめぐる骨肉の争いのストーリーとして、「ゴッドファーザー」や「ゲームオブスローンズ」、「吾妻鏡」なんかと似てる。違うのは勝者が敗者を排除し権力を奪うことなく、敵味方主従問わず勝つ→許して復権→裏切るの繰り返しなところ。煮えきらないところがもどかしい。
個人的に三十年前の大河ドラマの印象が強く、陣内孝則や高嶋政伸、柄本明の顔を思い出しながら読んだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
大河ドラマ「太平記」を思い出しながら,読みました。
あまり知識のないところでしたが,非常にドラマティックな内容で,面白く読めました。
本当によく分からないのが,尊氏が実子の直冬を疎んじた理由です。
尊氏の直冬の扱いが酷いからといって,それを周囲の者が不満に思ったことが観応の擾乱の原因の一つというのも,いまいちピンときませんでした。
この点については,今後,研究が進んで,新たな知見が発表されることを期待したいです。 -
「室町時代」というのはどうにも派手な戦国時代に飲み込まれてしまって日本史でも影が薄いが、著者も指摘するとおり200年も続いた長期政権であり、その成立背景は大変興味深い。
征夷大将軍足利尊氏という名前だけは有名で、「とにかく何かした」みたいに扱われがちなところ、しかしその時代を拡大していけば生き生きと立ち回る武士や天皇がそこにいるのである。
大枠だけは有名で細部がよくわからないというのは歴史研究ではよくあることで、しかも有名な小説になっているとあるエピソードが史実なのか創作なのか、史実として伝わっている創作なのか、そこを一つ一つ明らかにしていかなければならないわけで、いうなれば出来上がっている模型をいったん全部ばらして、一つ一つのパーツを確かめて、偽物を除外し、時には新しいパーツを採用して組み上げる途方もない作業である。
本書で取り上げられた感応の擾乱は1350年から52年というわずか2年程度の出来事であるが、勢力も趨勢も目まぐるしく入れ替わる。今でこそ居ながらにして全国どころか世界のニュースも調べられるご時勢だが、当時の人々はどうやって情勢を知っていたのだろうか。敵だと思って戦っていたら、実は味方の味方になっていた相手だったなんてことはなかったのだろうか。
情報だけでなく、実際に登場人物たちも京から九州、そして北陸を経由し関東なんて風に全国を移動する。敵を大群で囲んでいたかと思えばいつの間にか瓦解し逆に追い込まれていたりする。そういった目まぐるしい情勢の変化が、押さえつつも生き生きとした筆致で描かれる。著者も楽しんで書いていることが伝わってきて非常に好ましい。
以前に読んだ「奪われた『三種の神器』」(渡邊大門著)においては南北朝期の皇室の混乱が描かれていたが、本書はそれを幕府側から見ているということになろうか。本書だけでもとても面白いものだが、歴史というのは(あるいは知識全般に言えることとして)多面的に見ることでより面白くなるように思う。 -
日本の中世で(ひょっとしたら通史でも)2大訳の分からん争い(もうひとつは当然、応仁の乱)とも言うべき、「観応の擾乱(“じょうらん”と読みます)」の解説書。
あ、でも、とりあえず足利尊氏、直義、義詮、直冬、高師直あたりを押さえとけばいいので、応仁の乱よりシンプルかも?
ようするに上記武将が同盟したり敵対したりを繰り返しながらふたつの朝廷とくっついたり離れたりに終始した一連の戦いのこと(文字にすると余計に分からんなw)。
その他の武将は自己都合全開で、どれかに味方していたので、マニアでなければスルーしとけばOKです。
今も派閥争いに明け暮れている人たちがあちこちにいるけど、人類は600年前から進歩してないっすね(諦観)。 -
「応仁の乱」がベストセラーになるなかで、さらに地味なテーマを投入してきた。さすがは中公。日本史好きは泣いて喜ぶね。
人気や知名度はいまいちだけど、将軍と弟の対決、父と子の確執、裏切りを次々と繰り返す家臣団、第三勢力としての南朝、奥州から九州まで広範な舞台……と話題には事欠かない。ここまで要素を詰め込んでおいて、どうして人気がないのか。
読んでて思うのが、兵を動かすこと戦闘を行うことの感覚が、現代とは全く違うんだな、ということ。簡単に挙兵して、簡単に寝返る。寝返っても再び帰順すればすぐ許される。交渉のちょっとした駆け引きくらいの感覚っぽい。幕府といえども絶対的権力・軍事力を持っているわけでなく諸勢力との関係で成り立っていることの表れだろうし、すぐに沸騰して喧嘩っ早いという中世日本人のメンタリティもあるだろう。 -
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「観応の擾乱」とは南北朝時代にあった足利尊氏・直義の兄弟間にあった権力争いである。本書ではこれを多彩な一次資料を引用しながら簡潔にまとめられていて、とても読みやすかった。著者はこれまでにあった「足利尊氏は朝敵」という歴史観に異を唱えており、そこにも共感ができた。
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室町時代の初め、いわゆる南北朝時代に起こった、足利高氏とその弟足利直義による争いが観応の擾乱。一緒に腐った鎌倉幕府を倒して、新しい世の中を作る…はずが、なんで殺し合うような兄弟・家族喧嘩になってるの!?という中世日本史の謎の一つ。そんな観応の擾乱について詳しく解説した新書だ。
個人的に、「太平記」を見た後だったので、割りとすんなり入り込めたが、応仁の乱と並び、非常に複雑な話だと思うし、中公新書は専門性が高く、易しくはない。
もっと勉強して理解を深めたいと思いました。 -
教科書の説明からすれば、一行程度の出来事。
しかし、そのなかではめまぐるしく勢力が変わる二年間の大混乱。
やる気スイッチが入るのが遅い尊氏。
燃え尽き症候群と微妙なやる気、保守的な弟・直義。
逆にやる気に満ちた一部の周囲。優勢劣勢で流動化の限りを尽くす各将。
所領や官位を目当てにがんばったのに、それを保証してくれるハズの男は微妙なやる気と現状維持の塊。
そんな不穏な休戦期間に立ち上がるあっちの人やこっちの勢力。
常時殺意と殺気に満ちた南朝。
九州で暴れまわる嫌われっ子(理由不明)・直冬。
突然やる気スイッチの入る尊氏。
叔父とも父親とも仲良くできない義詮。
あまりに当たり前のことだが、歴史は人間によって作られる。
そして、現代社会の「退職理由」第一位は「人間関係」である。
今も昔も人間はあんまり変わらない。
室町時代だろうと、バサラ大名だろうと将軍だろうとそのあたりの面倒臭い人間関係、利害対立は存在していたし、そしてそれが命取りにもなる。
政治的な側面も当然あるが、この面倒過ぎる人々の動きというのもなかなかに面白い。…当人たちは大変だろうが。
あとひとつ面白かったのは、敵方に居た人でもわりと簡単に帰参できていることだろうか。
これが戦国時代なら首を跳ねられて終わり、お家も消し飛びそうだが…やり直しがきくというのは逆に新鮮。
地元にゆかりのある武将も、その許された一人だった。
道理で戦国時代の頭まで続いているわけだ、と思いながらも、地元での紹介では「足利氏に忠誠を尽くし、重んじられた」云々と書かれている。
まあ、直義も足利氏だけどさ…。「忠臣」「幕府の有力者」という印象を与える地元史跡の看板を思い出す。
「尊氏派には反抗したことあるのにね、さらに負けたし…」
となんともいえぬ気持ちになった。
しかし、よく生き抜いた、おらが町の守護大名。