論文捏造 (中公新書ラクレ 226)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121502261

感想・レビュー・書評

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  • NHKで放送されたドキュメンタリー番組「史上空前の論文捏造」の
    書籍化である。

    科学の世界に彗星のごとく現れた若き研究者ヤン・ヘンドリック・
    シェーン。世界中の優秀な科学者が終結するアメリカ・ベル研究所
    を舞台に、彼は超伝導の世界で次々と斬新な研究結果を発表した。

    物理学上の大発見だった。いくつかの科学賞を受賞し、ノーベル賞
    受賞も確実視され、様々な研究機関からの好待遇でのヘッドハン
    ティングも行われた。

    しかし、有名科学誌に掲載された彼の論文を元に、多くの科学者が
    再現実験を試みるが誰一人として成功しない歳月が続いた。

    そんななか、とある研究者の元に匿名のメッセージが届く。「これは
    あなたへの宿題です。シェーンのふたつの論文をよく見て下さい」。

    決定的な瑕疵だった。ふたつの論文に掲載されていたデータは、
    そのノイズまでもが完全に一致していた。

    まるでミステリーを読むようなノンフィクションである。疑惑を持たれ
    ながらも、何故、3年もシェーンの不正が発覚しなかったのか。

    共同研究者に名を連ねた著名な研究者の権威、企業が運営する
    研究所と特許や利益との関係、再現実験が不成功に終わった際
    の研究者たちが論文の整合性を疑うよりも「自分の技術が悪い
    のではないか」と思う性善説。

    この論文はおかしいのではないか。そう思ってもそのおかしさを
    明確に立証できなければただの誹謗中傷になってしまうんだよね。

    そうして、一番難しい問題は「誰が責任を負うのか」という点。この
    シェーン事件は責任を負い、研究の世界から身を引かざるを得な
    かったのはシェーン本人のみだ。

    論文を掲載した科学誌「ネイチャー」「サイエンス」の両誌には
    論文を精査する能力がなく、組織には自浄作用が働かない。

    研究室で長時間を過ごしていたシェーン。しかし、誰も彼が実験を
    している姿を見たことがなかった。異なる論文への同じデータの
    掲載が明るみに出ると「間違って掲載した」とあさっりと言う。

    何かに似ていないか?そう、記憶に新しいSTAP細胞問題だ。

    尚、シェーンはベル研究所を去った後、故郷のドイツの田舎町で
    暮らしていると言う。

  • NHK制作担当者による、ベル研の空前絶後の捏造乱発の過程と、その後の人々を追うドキュメンタリー。

    高温超伝導(本書に沿った記載)において、2001年から誰もなし得ないと予想されていた温度限界を、次々に突破していった、アメリカ・ベル研究所の新進気鋭の研究者ショーン。一流紙に載ったデータはすべて捏造だった…。

    物理学という、ちょっと特殊ともいえる研究の世界を描くため、用語や状況を非常に噛み砕いて書かれており、理系ならずとも理解のし易い文章である。今著者の経歴を見たけど、東工大卒?その割には科学的なツッコミが浅い気がするが…。

    本編はテレビ制作人らしく、全てにおいて場所や人物の見た目を描写するところから始まる。ビジュアルを想像しやすい、非常に参考になる書き方である。お陰で各章各セクションの導入の理解が素早く出来る辺りは素晴らしい。

    また本書の良い点は、とにかく取材取材で世界中の関係者に直に会っている。会った順に記載しているため、ドラマチックに感じるのだ。一つ前に読んだ本とは大違いだ。

    また、論文のレフェリーなど、本来ならオープンにされるべきでない部分まで突っ込んで取材しているのも交換が持てる。

    ただし、「夢の後」と題して、ひたすら「科学は相互チェックが働かない」とグダグダ愚痴を述べている部分は、ほとんどが本編中に記されているもので、駄長・冗長にしか感じなかった。そこで意味がある文章は「成果主義とは何か」ということだけだ。

    また、星をひとつ減らしたのは、NHKという看板であり盾をかざして取材し、関係者の批判"のみ"を繰り返すに終わっているところは、大いに不満だ。

    STAP細胞の時もそうだったが、本当に2001年前後のNHKは、ファン・ウソクのヒトES細胞や、件の高温超伝導について、批判的に報道してきたのだろうか?

    筆者は「科学誌にチェック機構がない。おかしい」と述べるのなら、NHKを始めとしたマスコミにだってチェック機構がなければおかしいのだ。専門知識が無いというのを盾にするなら、科学誌の編集だって同じだろう。チェルノブイリ関係でメチャクチャな報道や特集をしまくったNHKの反省は一切感じられない。

    その部分の反省があれば☆5である。

  • NHKディレクターが自ら手がけたドキュメンタリー番組を書籍化したもの。2002年に発覚した名門ベル研究所の研究員シェーンが起こした捏造事件の経緯と関係者へのインタビューで構成されている。ドイツ生まれの科学者はベル研究所に入ってから二年後立て続けに画期的な実験結果の論文を発表する。これまでにない高い温度での超電導が可能になったと。ノーベル賞クラスの内容に、世界中の研究者が追試を行うがだれも再現できない。次々に更に高い温度を更新していき、多い時には8日に一本の割りで論文を発表していくシェーン。そんな彼の栄光と没落は映画のようだ。番組は某動画サイトにある。

  • 日本はアメリカの10年後ろを走っているとか言われているけど、シェーンの超電導についての捏造から約10年後に小保方さんの問題が起こっているのは偶然ではない気がします。
    捏造には科学と経済の結びつき、捏造の立証の困難さ、分野の細分化と色々な問題があるが、
    特に経済との問題については受け入れるしかないと思う。特許などの権利が確立された以上それを昔に巻き戻すことはできない。であるなら、やはり学問の自由のことも考えて、事後規制で対応するしかないように思います。

    #読書 #読書記録 #読書倶楽部
    #論文捏造
    #松村秀
    #2016年56冊目

  • ベル研究所のシェーンによる、有機物+酸化膜による超電導の発見。サイエンスやネイチャーへの何本もの論文掲載により、世界中の研究者が熱狂したが、実験データも証拠サンプルも提示されなかった。。

    小保方さん事件より前の2002年に発覚したこの事件について、丹念に掘り起こしたNHKのドキュメンタリーの詳細書籍版。
    非常に読みやすい。

  • ※以前個人のブログで書いたのと同じ内容です。
    この本は,高温超電導において次々と画期的な,世界を一新するような成果をあげたと論文を書き続けた人物の登場から,その成果への疑惑が強まり,そして捏造であると断定されるまで―のみならず,なぜそのような事が起こったのか,それを食い止めるための仕組みがなぜ機能しなかったのかを関係者へのインタビューを元に構成したものである.



     まず前提として高温超電導とは何かについてごく簡単に書いてみる.電気が流れるときには抵抗が存在する.この電気抵抗は発電所から家庭・工場へと電気を運ぶ際にも発生し,そのロスは無視できない量になっている.

     この電気抵抗が,超電導体では0となる.他にも多くの事が起こるのだが,問題はこの超電導が発生する温度が極めて低温であることだ.しかし,これが比較的高温でも発生する物質が存在するとしたら,そのメリットは計り知れない.

     この本で取り上げられている「捏造」は,その高温(といっても,氷点下130℃と一般的な感覚では低いのだけれど)超電導についての研究である.



     実際にどのように自体が推移したのかは読んでもらいたい.私はこの本を読んで不正の舞台となったベル研究所の対応と,不正を行った研究者の言動への興味を持った.研究者の不正に対し,研究所はどこまで責任を負うのか.共著者に責任はないという結論は正しいのか.特に,高温超電導の研究で以前から有名であり,この研究において「彼が共著者なのだから」と多くの研究者が信じる要因ともなった人物が,全く何の責任もないと言えるのだろうか,と.

     また,不審な点を指摘された際に「これはミス」「間違えた」と繰り返し,論文の元となった重要なサンプルを「なくした」といい,大学時代から捏造をしていたのではと疑われているこの研究者―彼は,何を思ってこのようなことを起こしたのだろうか,と.

     この本を読んで感じることは他にもある.著名な学術誌はなぜこの捏造を見抜けなかったのか,多くの世界の研究者が疑念を抱きつつなぜ捏造だと指摘する声があがらなかったのか.

     読み終えた時に,今,我が国を騒がせているあの事件が浮かぶだろう

  • 片山真一先生(総合科学部数理科学コース)ご推薦

    NHKの番組の制作に携わったディレクターが文字に起こしたドキュメンタリーです。ベル研究所の無名の若手研究者だったシェーンが、ノーベル賞は確実と言われるほど画期的な常温超電導に関する研究成果を「ネイチャー」、「サイエンス」を含む一流雑誌に2000年から2002年にかけて立て続けに発表しました。ところが、ベル研究所の大立者のバトログとの共同研究として発表されたシェーンの成果は、日本人を含む数多くの研究者が必死に追試をしても誰一人再現に成功しなかったのです。そんな中、匿名のメールによる内部告発をきっかけに、シェーンは、実際には実験を行っておらず、研究成果は捏造であったことが明らかになります。最近日本で起きたスタップ細胞の事件の構図とも非常に似通っていますが、理研や早稲田大の対応を見ると、日本の科学社会は、研究不正に関して組織的な対応策を全く用意していなかったことが良く分かり反省させられます。

  • 「捏造の科学者 STAP細胞事件」の中で紹介されていた本。STAP細胞から遡ること10数年、規模さえ違えど全く同じような事件が発生していたことに驚いた。科学は常に真実であるべきである。将来に渡り二度と同じ過ちは繰り返してもらいたくない。

  • 最近起こった論文捏造問題に酷似している、
    ヤン・ヘンドリック・シェーンの不正を取り上げていると、
    インターネットでみかけて。

    NHKの番組を画像を書物に落とし込んだものながら、
    素人でもわかるぐらい論文内容の超伝導を易しく説明してあり、
    インタビューした人物やその場の雰囲気が伝わってきて
    非常に面白かった。

    ベル研究所と共同研究者バートラム・バトログの高名さに目がくらみ、
    画期的な発見と信じ込んで興奮し、
    追試できない自分たちの技術の無さに落ち込み、
    実験のノウハウが企業秘密になっているのではないかと疑心暗鬼になり、
    誰かが追試に成功したらしいという噂話をメールで飛ばし合い、
    画期的な実験マシンがあると思い込んで「マジックマシン」と名付けたり、
    論文内容に疑問を抱くようになってからその「マジックマシン」が壊れたという噂に踊らされたり、
    世界の研究者さんたち、あなたたちオレオレ詐欺にだまされている被害者とどこが違うの?
    という人間ドラマとして。

    また、ミステリーとしても非常に面白かった。
    サンプルを見せてもらえないベル研の同僚が感じる疑念。
    研究者にとって子供とも言えるサンプルを全て捨ててしまっているらしいという噂の中、
    新しい方法で超伝導の新記録を樹立したという論文が発表され、
    その方法が納得できないと多くの人に広がる疑惑。
    マジックマシンと思われていた実験装置を他の人が使うことになり、
    シェーンが実演してみせたが実験は失敗し、しかも彼の技術が拙いことが露見。
    その直後、二人きりで車で移動するシェーンと高名な共同研究者。
    矢継ぎ早過ぎる論文発表、またその中身の理論と美しすぎるデータに対する疑問をもとに、
    研究所内で行われたシェーンを招いてのセミナー。
    セミナーで納得できる説明がなかったことによるの内部告発、
    そして本人に直接確認するという研究所上層部の失態。
    不正ではなく間違えてしまったというシェーンの申し開き。
    ベル研究所の研究者からの他の大学への告発、
    そしてデータの使い回しに気付いた他大学からベル研究所を含む関係各位への告発、
    調査委員会の設立、ついに捏造と結論付けられた論文。
    正直、そんじゃそこらのミステリーよりも面白かった。

    最近、日本での論文捏造が問題となった研究についても、
    税金が使われていたことに怒りを感じたが、
    このシェーンの論文捏造には世界各国で10億円以上の費やされたことともに、
    若い研究者たちの時間とキャリアが無駄になったことにも、
    問題の大きさを感じた。

  • 歴史は繰り返すというか、学ばないというか、近年話題の事件と酷似している点が多いのと、ジャーナル誌の役割については驚いた。
    結局捏造した意図は何だったのかわからないままなのが(本書とは関係なく)気になるところ。

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著者プロフィール

1990年NHK入局。新潟放送局、番組制作局 科学・環境番組などを経て、衛星ハイビジョン局 特集番組 ディレクター。担当した「NHKスペシャル 生殖異変〜しのびよる環境ホルモン汚染〜」で科学技術映像祭・内閣総理大臣賞、放送文化基金賞・テレビドキュメンタリー番組部門・本賞、地球環境映像祭・大賞を受賞。他に「NHKスペシャル 環境ホルモン汚染 人間の生殖に何が起きているか」「ワイドスペシャル地球環境」「クローズアップ現代」「サイエンスアイ」「生き物地球紀行」など担当番組多数。

「2003年 『環境から身体を見つめる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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