失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122018334

作品紹介・あらすじ

2019年9月19日、日本経済新聞「私の履歴書」連載で反響!
第二次世界大戦前後の「大日本帝国の主要な失敗策」を通じ、日本軍の組織特性を探求する1冊。日本軍の失敗例を、担当執筆者が個々に調べ、日本軍の組織の特性や欠陥を抽出。結果、日本軍の戦略は短期決戦を志向し目的が不明確だったこと、結果よりも動機やプロセスを人材評価の基準にする組織だったこと、そして過去の成功体験への過剰適応があったことなどが論じられる。
昭和後期のベストセラーであり、いまなお読み継がれる名著。

感想・レビュー・書評

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  • さすがに読むのに時間がかかった。
    読んだといっても字面を追うのが精一杯だった感じ。要再読です。
    内容はすごいです。大東亜戦争における日本軍の組織的・戦略的な問題点を見事に分析・指摘しています。で、この指摘事項がそのまま現在の日本の政治や官公庁、はたまた企業の問題点に当てはまってしまっている。日本人の特質なのか、問題点が指摘されているにもかかわらず変わっていない。変えられないのかな。
    「戦略上の失敗要因分析」として、
    ・あいまいな戦略目的(両論併記的折衷案の連発)
    ・短期決戦の戦略志向(長期的展望の欠如)
    ・主観的で「帰納的」な戦略策定(楽観論、精神論の横行)
    ・狭くて進化のない戦略オプション(成功体験への依存)
    ・アンバランスな戦闘技術体系(オタク的な技術論,1点豪華主義,攻撃力だけで防御力を顧みない)
    の5点を、
    「組織上の失敗要因分析」として、
    ・人的ネットワーク偏重の組織構造(馴れ合い体質,情緒的)
    ・属人的な組織の統合(法的権限ではなく人間関係で動く,暗黙知,心内の汲み取りを期待する)
    ・学習を軽視した組織(同じ失敗を繰り返す,成功体験を頑なに引きずってしまう)
    ・プロセスや動機を重視した評価(結果よりも熱意を重視,無謀な作戦に異を唱えれば更迭)
    の4点が挙げられている。
    学習論とかにも触れられており、内容は濃ゆい。日本のサラリーマン、しかも中堅ところより上の人は一度読むことをお勧めしますよ、この本は。
    もともとTLで紹介されていて、気には留めていたのですが、「永遠の0」を読んで即購入決定。永遠の0で太平洋戦争のことに少し興味が涌いたので。これを機に永遠の0も再読だな。
    わが社も指摘された日本軍の組織的問題点と同じものを抱えている気がする。
    じぶん自身も考え方が古く、思考が硬直していると最近特に思う。成功体験に縛られているというか、あきらめに似た失敗への恐れで、新しいアイデアが出ていないよなあ。
    ちなみに単行本刊行は1984年。実に28年前。

  • うーん、みんなの感想が判で押したように「今も全く変わってない、何も進歩していない」とあるけど、本当の失敗の本質はこの「わかっちゃいるけど、変えられない」気質のところにあるんじゃないかと。ここで書かれる日本軍の失敗例は参考にはなるけど、じゃあなぜそれを自分の所属している組織で実践できないのか?空気に逆らい客観的な判断をしようとしても、なぜ当事者になったときに阿諛追従な態度しか取れないのだろうか?それは個人的性格や環境に左右されるものなのか?そうした部分まで踏み込まない限り、これからも失敗し続けるよ、きっとね。

  • 大平洋戦争においてなぜ日本軍が敗北を喫したのか。それはアメリカ軍との物量差が圧倒的にあったからだとか、兵器の精度が違ったからだとかなどの理由で、敗北は開戦した瞬間に決まっており、なぜ日本政府は開戦に踏み切ってしまったのかということに目がいきがちである。しかしこの本では真珠湾攻撃後の日本の敗戦を決定づける緒戦、それも日本軍の組織体系に焦点を当て問題を提起している。この本を読んで思ったのは、日本軍の各々の重要な作戦に失敗しておきながら責任の所在を曖昧にし、その結果を過小評価し次に生かせない組織体質、楽観主義、硬直した思考、平時に為すべき準備が不十分なため非常時の混乱、これら全ては現代のあらゆる組織に見られるのではないかということである。それは政党や官僚にあるだけでなく企業、学校、部活動などあらゆるレベルの組織においても共通してみられるのではないかと思ってやまない。戦勝国のアメリカに習えということではないが自分が今属する組織の問題点を洗い出し、考えるきっかけになればいいと思う。

  • 日本軍が戦ってきた6個の戦争で何故負けたのか分析し、それをビジネスにも生かしてほしい主旨の書だと思う。戦略のミスは戦術では取り返せない、コンティンジェンシープラン(不測の事態に備えた計画)をたてよ、リーダーの考えがメンバーに伝わっていないと戦は負ける、戦略や作戦目的即ちビジョンを明確にせよ、合理性、効率性を追求せよ、等ビジネスと全く同じだ。目的を決めて戦略を立て軌道修正していく。これを実行していきたい。

  • 日本軍的組織になるのをどう防ぐか?私は「意思決定層が対外的に学習し続けること」しかないと考える

    ●本の感想
    *失敗の本質は「変われない」ことにある 
     面白い。名著はやはり迫力がある。さすが様々な読書本で薦められているだけあって、本書のメッセージは時代を超えて役に立つ。本書の日本軍組織分析の結果がまとまった表を引用しよう。日本軍組織の特徴を米軍と比較して以下のように整理する。

        日本軍 vs 米軍
    1.目的... 不明確 vs 明確
    2.戦略思考... 短期決戦 vs 長期決戦
    3.戦略策定... 機能的 vs 演繹的
    4.戦略オプション... 狭い vs 広い
    5.技術体系... 一点豪華主義 vs 標準化
    6.構造... 集団主義 vs 構造主義
    7.統合... 属人的統合 vs システムによる統合
    8.学習... シングル・ループ vs ダブル・ループ
    9.評価... 動機・プロセス vs 結果 
    ※p338 表 2-3より引用
     日本軍の各作戦における失敗は、上記の9つが重なり合って起きたのが原因と指摘する。一言でまとめれば「変われない」ということであろう。そして、この「変われない」組織は今も多く存在する。人間社会の問題のほとんどはこの「変われない」ことによって引き起こされるといっても過言ではない。だから、本書のメッセージは普遍性を持ち、身につまされるのだ。読んだ後に自分の所属企業のこと、政府の組織的実態を考えずにはいられない。本書で日本軍に指摘していることは、そのまま現代組織に通ずるからである。あとがきで本書は、「日本軍の失敗の本質とは、組織としての日本軍が、環境の変化に合わせて自らの戦略や組織を主体的に変化することができなかったということにほかならない。戦略的合理性以上に、組織内の融和と調和尾を重視し、その維持に多大のエネルギーと時間を投入せざるを得なかった。このため、組織としての自己革新能力を持つことができなかった。」と説く。いや全く、耳が痛い。

    *社会的に一般論や法則を語りたい人はこれぐらいの「定性的研究」が知的生産の理想形と知っておこう
      加えて、一般向けの本の中でもかなり優れた定性的(仮説構築型)研究であった。インプリケーションが面白いだけでなく、その根拠となる事実の編纂と記述をしっかりとやっているからだ。本書は3章立で構成されている。第一章が「事実確認」第二章が「分析(仮説構築)」第3章が「展望」という流れで理解しやすい。第一章が軍事的専門用語、地理用語が頻出するため読みづらいのだが、著者がきっちり研究・調査をやっている証でもある。多くの定性情報を集めてこそ、説得力のある仮説が構築できる。普通の本の類では、ここまでファクトを集めて、仮説構築につなげるものは少ない(出版もビジネス化している)。6人も研究者が集まって書いた本ならではある。これが著名な論評家とか、コラムニストになると、ここまで時間やエネルギーを割いて事実情報を集めて書いていられたい。一足飛びに「モノ申したい!俺論!」を書いてしまう。もちろん、皆がここまでやるわけにはいかないと思うが、知的生産の理想型としては、本書のように「事実確認(膨大な調査)」を経て「分析」に入るべきことは念頭に置きたい。

    *「日本軍的組織」にならないためにはどうすればいいか
     本書を読めば「日本軍的組織の駄目さ加減」が分かる。それを踏まえて浮かび上がる疑問が「どうすれば日本軍組織にならずに済むか」である。本書では、簡潔に以下の観点が重要だと述べている。
    *自己革新組織の原則
    ・不均衡の創造
    ・自律性の確保
    ・創造的破壊による突出
    ・異端、偶然との共存
    ・知識の淘汰と蓄積
    ・統合的価値の共有
    だという。ただ、これらの指摘は、既に「変われなくなってしまった」組織には無意味だろう。日本軍的組織の特徴を逆に述べているだけだからだ。別の例で言い変えてみよう。これは、得点力の無いサッカーチームに対して、「前半に1点、後半に2点入れられれば得点力が付きますよ」という助言に等しい。つまり、「変われない組織化」を防ぐための指摘にはなっていないのである。我々が考えるべきは、どうすれば「自立性」を持ち合わせ「知識」を淘汰し、蓄積する組織にできるか、である。もう一段階whyを繰り返そう。
     私の結論は「意思決定層が対外的な学習をし続けること」である。そうすれば、組織は自己革新し続けられるであろう。ここでいう「対外的な学習」とは、「組織外で知識・知恵・法則を学ぶ」ということとする。具体的には、本を読むとか、ライバル企業の動向を知るとか、最先端の論文を読むとか、異業者と交流するなどの活動だ。逆説的だが、ある組織を発展させたければ、その組織の外にある知見や価値観こそが役に立つだろう。日本軍は、第一次世界大戦によって戦争にパラダイムシフトが起きたことを知らなかった(これが信じられないのだが(笑))。地上戦では強固な戦車が歩兵に代わって主導した。海戦では巨大な戦艦は役割を失い、戦闘機の発達によって空母がより重要視されていた。戦争のベストプラクティスを学ばなかったため、自分たちの異端性・弱さを自覚できなかったのだ。そのため、過去の栄光を踏襲し、過去の規範・戦い方に過剰適応した。これが日本軍が変わられなかった理由である。「変わる」ためには「今のままではダメなこと」に気づくことが必要だ。そのためには、権力を持つマネジメント層が外に出て、対外的に学び続けるしかない。

    ●本の面白かった点、学びになった点
    *組織の目的を現場まで共有しきることが重要
    →トップ層の目的が現場までそう簡単に浸透しない

    *日本は戦争の目的とその終結までの道筋から非常にあいまいだった。一方アメリカは具体的だった
    ・日米開戦直前の戦争終結の論理は次のようなものであった
    「すみやかに極東における米英蘭の根拠を覆滅して自尊自衛を確立するとともに、さらに積極的措置により蔣政権の屈服を促進し、独伊と連携してまず英の屈服ををはかり、米の継続意思を喪失せしむるに勉む」
    →きわめて曖昧な戦争終末観

    *日本軍のエリートにはコンセプチュアルスキルを持ち合わせたひとがいなかった
    ・「日本軍のエリートには、概念の創造とその捜査化ができた者はほとんどいなかった」

  • ▼日本が敗戦した理由

    日本が敗戦した理由の中には、次の点が考えられる。

    従来の戦争での成功体験に縛られ、第二次世界大戦環境下では不適合な以下観点を修正できなかった。

    ・戦略・戦術:目的が不明確で策定の方法が帰納的であり、短期決戦志向。それ故戦略の選択肢は狭く統一性を欠き、技術は偏った分野が伸長する一点豪華主義の傾向があった。加えて主に従来の戦争勝利の要因を参考にした戦略志向があり、これが当時としては不適合な種々の戦術へとつながった。

    ・組織・仕組み:組織の目標や構造の修正に繋がる「学習」の姿勢が乏しかった。人的ネットワークを中心とする集団主義的な組織構造であり、これは人間関係中心の属人的統合を生み出したり、結果よりも動機やプロセスを評価する業績評価指標につながったりした。





    ▼本書を踏まえた、意識やアクション

    次の3点。

    1.Tips等の整理は、組織の強化のために自分が貢献できることである。

    というのも、その活動が各SDが本書で言うところの「主観的で帰納的な戦略策定」に陥る対応策の1つとなるから。日本軍中央部は、海外から輸入した近代戦戦略論を十分に咀嚼し、自分のものとする努力が弱かったという。一方の現場は、現場体験による学習の積みあげしかなかったとのこと(参照:p.288)。いうなれば中央末端どちらにも体系だった理論知識の整備・理解が不十分だったと言えるだろう。当社では過去現在の様々なSDの方に業務のTips等をシェア頂いている。整理・文書化が得意と自負する自分にとっては、こういったナレッジの整備が組織への貢献に繋がるだろう。



    2.”The Modelの体現””SaaSの雄”といった外部からの当社の評価に驕らない。

    というのも、組織の自己変革を妨げる可能性があるから。日本海軍は日本海海戦以前、危機感の中から当時の環境に適した組織を作り上げた。日本海海戦の「大勝利」の後、国民や新聞から無敵海軍などとちやほやされ、時の経過とともに当時のハングリーさを欠いていったという (参照:p.378)。それが第二次世界大戦への適合の遅れに影響した。当社も業界No.1として他社やSNSとうで評価されることが多い。事実は謙虚に受け止めつつも、それに驕らず常に周囲の環境や、それに適応した組織体制となっているか、確認・行動していく意識が必要だろう。まずは自分が社員の1人として、その様に意識する。



    3.戦略が硬直化していないか、周囲の環境を把握しながら常に評価する。

    というのも、狭く進化のない戦略オプションは環境変化に脆く、組織の衰退につながるから。日本軍の従来の戦略は、そのかつての成功体験から、ある種の経典のようなかたちで硬直化した(参照:p.293)。これは想像力の貧困化、視野の狭小化、思考の硬直化を引き起こす。ひいては本来進化を生むはずの変異(あるいは改良)の発生を殺す方向に作用し、戦略オプションの幅と深みを制約してしまった。

    当社ではCallが大変重要だという共通認識としてあり、もちろん私も納得している。だが、Callが全てだと極論化したり、EmailやAEとのMTG、JSK、SDが直近でシェアしたTipsの実践、、、等々を疎かにしたりと、戦い方が硬直化していないか?といった意識は常日頃持つべきだろう。

  • 何年も読もう読もうと思っていてやっと読むことができた本。読んでよかった。

    職業柄、人や組織というものを相手に仕事しているのでこの本から学ぶことは多い。名著と呼ばれるものであり、この本の中で書かれている組織論的な個別の要素については現在では多くの研究や本でもさらに語られていて、むしろそちらを先に読んで知っているというものも多い。

    例えば本書の中で語られる環境に適応しながら進化していく「自己革新組織」は最近では「学習する組織」に通じる部分も多い。それでもやはりこれだけ丁寧に、明快に書かれると気持ちが良い。いや、書かれている内容自体はむしろ現在の多くの組織にも共通していることも多すぎて暗澹たる気持ちにもなるのですが。

    外部環境が変化していく中で「自己革新」していくことが求められるが、日本軍というのは過去の成功を元にした特定環境への最適化が極端に進みすぎたために組織としての柔軟性を失った。官僚型組織体制と集団主義が両面から良くない方向へ作用し続けてあまりに多くの犠牲を生み出すこととなった。特にアメリカ軍との比較は明瞭。

    環境が変化しているにも関わらず、それどころか正常な判断であれば損失が出続けることが明確になって尚盲目で思考停止した状態で進み続けてしまう。最近歴史ある大手企業やあるいは行政で多くの不祥事が発生している背景も概ね本書で指摘されていることのように感じる。残念ながら歴史は繰り返されている。

    日本社会は、そして世界は、徐々に変化が加速し先の不透明な時代にどんどんと突入している。その中では柔軟性を持ち自己革新し続けることが重要であることを、本書は「日本軍の失敗」を題材に記述している。自己革新していけない組織で何が起こるのか、何が起こったのかをノモンハン・ミッドウェー・ガダルカナル・インパール・レイテ・沖縄の6つの具体的作戦を詳述する事で明らかにしている。ここで起こったこと、犠牲になったもの、その後の日本社会や世界が歩んできたものを知っておくことは、大きな変化の時代にいる現在の私たちにとっても大切なことだと思う。

  • 【感想】
    この本は現代の企業にも大きく当てはまる指南書なんだと思う。
    タイトルの「失敗の本質」について、これ以上ないセンスを感じた。

    作中、「演繹」と「帰結」という事で大きく分けられていたが、要するに目的が明確でない作戦などいくら精神論でカバーしようとも上手くいく可能性が低いという事がよく分かった。
    また、内部の浸透性というか、そこに澱みがあればあるほど情報伝達「報連相」がうまくいかず、結局不得手になってしまうという事もよく分かった。
    この点、決して大東亜戦争だけではなく現代の企業にも多く当てはまるモノだな。

    その他にも、楽観論や敵の軽視、情報収集不足、戦況の曖昧な予測、不測の事態に対する迅速な対応欠如、共有不足、現場第一の機転がきかないなど、
    多くの場面で自分たちの首を絞めるかのようなシステムが日本軍にはあった気がする。

    1番怖いのは、幹部の多くが絶望的な状況を自分の口から言い出せなかったその環境ではないだろうか。
    正確な情報を伝達できなければ、うまく行くものも行かなくなってしまうのは至極当然の話である。

    日本はこの戦争から何を学んだのか。
    どのような成長を遂げることができたのか。
    自分の組織と重ねあわせても、今の会社は「失敗の本質」を分からずして進んでいるかつての日本軍に見えて仕方がない。


    【内容まとめ】
    1.開戦したあとの日本の「戦い方」「敗け方」が研究対象
     ノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、レイテ、沖縄の5つのケース

    2.戦闘は錯誤の連続であり、より少なく誤りを犯した方により好ましい帰結(アウトカム)をもたらす。

    3.コンティンジェンシー プラン「不測の事態に備えた計画」
     トップダウンで目先の事に忙殺され、過去を顧みず、コンティンジェンシープランも熟考せず、
     十分かつ正確な情報のないまま猪突猛進を繰り返していた

    4.日本軍は帰納的、米軍は演繹的
     演繹…既知の一般的法則によって個別の問題を解くこと
     帰納…経験した事実の中からある一般的な法則を見つけること

    5.日本は「神話的思考」から脱し得ていなかった。
     精神力の効果を過度に重視し、科学的検討に欠けているところがあった。
     また、トップに対して「もはや何を言っても無理だ」というムードに包まれていた。
     組織内の融和や調和を優先させ、合理性をこれに従属させた。


    【引用】
    第二次世界大戦、日本側の絶望感にあふれた恐ろしいレポート


    本書は、なぜ敗けるべき戦争に突入したのかを問うものではなく、なぜ敗けたのか
    開戦したあとの日本の「戦い方」「敗け方」を研究対象とする。

    ノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、レイテ、沖縄の5つのケース


    p37
    ・ノモンハン事件
    作戦目的が曖昧であり、中央と現地とのコミュニケーションが有効に機能しなかった。
    情報に関しても、その受容や解釈に独善性が見られ、戦闘では過度に精神主義が誇張された。

    第一次世界大戦を経験しなかった日本軍にとって、初めての本格的な近代戦となり、最初の大敗北となった。
    「やってみなければ分からない、やれば何とかなる」という楽天主義の日本軍に対し、ソ連軍は合理主義と物量で圧倒した。


    p56
    ・戦果を挙げられない理由
    ①敵を軽侮しすぎている
    ②砲兵力不足
    ③架橋能力不足
    ④後方補給力不足
    ⑤通信能力不足
    ⑥任務荷重
    ⑦意気の不足

    相手の事情、情報を十分に詮索せずに実施した攻撃が失敗するのは当然。
    →しかし、思いきりの良さやスピード感もまた大切。結果論じゃない?

    当時の日本軍においては、観念的な自軍の精強度に対する過信が上下を問わず蔓延していた。


    p70~
    ・ミッドウェー作戦
    海戦のターニングポイント
    作戦目的の二重性や部隊編成の複雑性などの要因の他、日本軍の失敗の重大なポイントになったのは、不測の事態が発生したとき、それを瞬時に有効かつ適切に反応できたか否かであった。


    p97
    ・ミッドウェー海戦
    戦闘は錯誤の連続であり、より少なく誤りを犯した方により好ましい帰結(アウトカム)をもたらす。
    戦闘というゲームの参加プレーヤーは、次の時点で直面する状況を確信を持って予想する事ができない。
    このような不確実な状況下では、ゲーム参加プレーヤーは連続的な錯誤に直面することになる。


    p107~
    ・ガダルカナル作戦
    陸戦のターニングポイント
    失敗の原因は、情報の貧困と戦力の逐次投入、それに米軍の水陸両用作戦に対して有効に対処しえなかったからである。
    日本の陸軍と海軍はバラバラの状況で戦った。


    海戦敗北の起点がミッドウェー、陸軍が陸戦において初めて米国に負けたのがガダルカナル。
    この戦闘以来、日本軍は守勢に立たされ続けることになった。


    p141~
    ・インパール作戦
    賭の失敗。
    しなくても良かった作戦。
    戦略的合理性を欠いたこの作戦が、なぜ実施されるにあたったのか。
    作戦計画の決定過程に焦点をあて、人間関係を過度に重視する情緒主義や、強烈な個人の突出を許容するシステムを明らかにする。

    徐々に悪化する戦局を打開し戦勢を挽回するための賭けとしての性格をも有していたが、莫大な犠牲(参加者10万のうち戦死者3万、戦傷3万、残兵5万のうち半分以上も病人)を払って惨憺たる失敗に終わった。

    原因の大半は、作戦構想自体の杜撰さにあった。


    p163
    ・コンティンジェンシー プラン
    →不測の事態に備えた計画。
    万一作戦が不成功になった場合を考えて、作戦の転機を正確に把握し、完敗に至る前に確実な防衛線を構築して後退作戦に転換する計画が必要。


    p172
    当時南方軍は、太平洋の急迫する戦局に備えフィリピンおよびニューギニアの防備強化に忙殺され、ビルマの戦況を顧みる余裕がなかった。
    →今でも変わらないのでは?
    トップダウンで目先の事に忙殺され、過去を顧みず、コンティンジェンシープランも熟考せず、十分かつ正確な情報のないまま猪突猛進を繰り返している気がする。


    p178~
    ・レイテ海戦
    →自己認識の失敗
    「日本的」精緻をこらしたきわめて独創的な作戦計画のもとに実施されたが、参加部隊がその任務を十分把握しないまま作戦に突入し、統一指揮不在のもとに作戦は失敗に帰した。
    レイテの敗戦は、いわば自己認識の失敗であった。


    p178
    レイテ海戦は、敗色濃厚な日本軍が昭和19年10月にフィリピンのレイテ島に上陸しつつあった米軍を撃滅するために行った、起死回生かつ捨て身の作戦。

    当時の連合艦隊の8割に相当する艦艇を準備して、日本海軍が総力を結集して戦った事実上最後の決戦となった。
    結果、日本海軍はこの海戦によって壊滅的な損失を被り、以後戦闘艦隊としての海軍はもはや存在しなくなった。
    また、日本本土と南方の資源地帯とを結ぶ補給線が断たれる事となった。


    p193
    朝日新聞の誤報?
    大本営による情報の不提示?
    この日本側の戦果の過大評価ぎ、あとで見るようにその後のレイテ海戦に大きな影響を及ぼすことになるという事実。


    p212
    ・レイテ海戦のアナリシス
    レイテ海戦は日本海軍の惨敗、米国の圧倒的勝利に終わっている。
    また連合艦隊の壊滅という決定的な失敗も日本側は行なってしまった。


    p222~
    ・沖縄戦
    →終局段階での失敗
    相変わらず作戦目的は曖昧で、米軍の本土上陸を引き延ばすための戦略持久か航空決戦かの間を揺れ動いた。
    特に注目されるのは、大本営と沖縄の現地軍にみられた認識のズレや意思の不統一であった。

    大東亜戦争において硫黄島と共にただ2つの国土戦となった沖縄作戦。
    日本軍約86,400名と米軍約238,700名が激突、戦死者は日本軍約65,000名、日本側住民約100,000名、米軍12,281名に達する阿修羅の様相を呈した。

    死力を尽くして86日間に及ぶ長期持久戦を遂行し、破れたりとはいえ米軍に対し日本本土への侵攻を慎重にさせ、本土決戦準備のための貴重な時間を稼ぐという少なからぬ貢献を果たした。



    p265~
    【第2章】失敗の本質
    ・6つの作戦に共通する性格
    ノモンハン事件、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテ、沖縄、いずれも日本軍が敗北。

    1つの失敗が次の失敗、また次の失敗にという形で直接あるいは間接的に関連し合っている。

    ・6つのケースに共通して見られる作戦の性格
    1.複数の師団あるいは艦隊が参加した大規模作戦であった。

    2.作戦中枢と実行部隊の間、また実行部隊間にも、時間的・空間的に大きな距離があった。

    3.直接戦闘部隊の高度な機械化、それに加えて補給・情報通信・後方支援などが組み合わされた統合的近代戦であった。

    4.相手側の奇襲に対応するような突発的な作戦の性格はほとんどなく、あらかじめ策定された作戦に基づいてしか戦えていなかった。


    p268
    ・曖昧な戦略目的
    軍隊という大規模組織を明確な方向性や目標を欠いたまま指揮し、行動させることになった。
    本来、明確な統一的目的なくして作戦は実施できない。

    米国軍が劣勢にも関わらず勝利を収めたのは、暗号解読による日本軍の作戦を詳細に知り得ていたことに加え、目的を空母群の撃滅に集中し、「空母以外には手を出すな」と厳命していた。
    戦力集中という点で有利な状況を生んでいた。

    また、米国は戦争に対して、連合国と共同作戦を展開しえたのに対して、日本は同盟国の独伊との連携がほとんどできないままに終わった。


    p277
    日本軍の戦略志向は、短期的性格が強かった。
    一つの決戦に勝利しただけで戦争が終結するのか、また万一敗北した場合にどうなるのかを真面目に検討していたわけではなかった。
    確たる長期的展望のないままに、戦争に突入したのである。

    山本五十六
    「やれと言われれば、初め半年から一年は、随分暴れてご覧に入れます。しかし2年3年となっては、まったく確信は持てません。」
    山本は日本には米国という大国を相手に長期戦戦い抜く力はない、なんとしても戦争は短期戦で終わらせなければならないと考えていた。


    p283
    ・日本軍は帰納的、米軍は演繹的
    演繹…既知の一般的法則によって個別の問題を解くこと
    帰納…経験した事実の中からある一般的な法則を見つけること

    日本は「神話的思考」から脱し得ていなかった。
    精神力の効果を過度に重視し、科学的検討に欠けているところがあった。
    また、トップに対して「もはや何を言っても無理だ」というムードに包まれていた。
    組織内の融和や調和を優先させ、合理性をこれに従属させた。

    対して米軍のコンセプトは、演繹・帰納の反復による愚直なまでの科学的方法の追求であった。


    p288
    牟田口軍司令官、補給問題について
    「なあに、心配はいらん。敵に遭遇したら銃口を空に向けて三発打つと、敵は降伏する約束になっとる」
    結局食糧は敵に求めるという方針が押し通り、結果インパール作戦において食糧と弾薬の補給はほとんどなかったことが日本軍の敗北を決定づけ、さらにその損害を大きくした。


    p322
    陸海軍の統合的作戦展開を実現するという大本営の目的が十分達成できなかったのは、組織機構上の不備が大きな理由として挙げられる。
    大本営令では、両軍の策応共同を図るよう命じていたが、現実には多くの摩擦や対立が生じた。


    p325
    ・学習を軽視した組織
    およそ日本軍には、失敗の蓄積・伝播を組織的に行なうリーダーシップとシステムも欠如していた。
    日本軍の精神主義は、2つの点で組織的な学習を妨げる結果になった。
    1.敵戦力の過小評価。敵にも同じような精神力があることを忘れていた。
    2.自己の戦力の過大評価

    また、対人関係、人的ネットワーク関係に対する配慮が優先し、失敗の経験から積極的に学びとろうとする姿勢の欠如が見られる。


    これに対して米軍は、理論を尊重し学習を重視した。
    「どんな計画にも理論がなければならない。理論と思想に基づかないプランや作戦は、女性のヒステリー声と同じく、多少の空気の振動以外には具体的な効果を与える事はできない。」


    p339
    目的の不明確さは短期決戦志向と関係があるし、また戦略策定における帰納的な方法とも関連性を持っている。
    (帰納的…プラニングせず、経験則で動くという意。)

  • コロナウイルス対策で日本全体がてんやわんやしている2020年3月に読んだので、とても身につまされたよ。この本に書かれている知見を個人レベルで生かすにはどうすればいいのかが、問われているなあと感じた。

  • 大東亜戦争について、敗戦へのターニングポイントといわれている6つの事例(ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ沖海戦、沖縄戦)の分析を基に、日本軍に対する組織論の観点から、敗戦に至った原因をあぶりだしている。

    日本軍の敗因は、日米比較を出発点として、環境や新しい戦術に適応できなかったということがよく論じられているが、本書では、逆に(内部)環境に過剰に適応しすぎたために、「学習棄却」ができない組織だったからだと結論付けている。

    この結論には賛否あるであろうが、軍隊や敗因に対する分析を組織論という視点からアプローチする試みが非常に興味深い。
    官僚制組織の究極の姿である軍隊の失敗について分析・研究することは、組織論でいうところの「官僚制の逆機能」に陥らないための処方箋となり得るのではないだろうか。
    官僚制組織とは、ある決められた目的・役割を遂行するためにはもっとも効率が良い組織形態であるが、逆に言うと変化に弱い形態でもある。

    3.11後の原子力行政の醜態を目の当たりにしてこの本が多く読まれたことからもわかるように、決して過去の歴史的事実を考察した書籍ではなく、不確実性がますます高まっている21世紀社会の今日的課題に対する一つの解決策を提示してるといえる。

    経営学を勉強する上で、組織論はどうしても面白く感じられず好きではなかったのだが、この本のおかげで奥深く、社会システムの本質を探究する分野でもあることがわかり、学ぶ意義を見出すことができた。

    それまでになかった新しい分析アプローチに対する批判・批評を覚悟の上で執筆された、野中郁次郎先生をはじめとする6名の著者に敬意を表したい。

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著者プロフィール

国際日本文化研究センター名誉教授

「2020年 『戦争のなかの日本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)を本棚に登録しているひと

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