本の音 (中公文庫 ほ 16-4)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 232
感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122055537

作品紹介・あらすじ

愛と孤独について、言葉について、存在の意味について-本の音に耳を澄まし、本の中から世界を望む。小説、エッセイ、評論など、積みあげられた書物の山から見いだされた84冊。本への静かな愛にみちた書評集。

感想・レビュー・書評

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  • 堀江作品らしい、すっきりとした装丁が素敵で、手に取りました。タイトルの響きも素敵。

    堀江さんの書評では、取り上げられている本が完全アウェーなことも多いもので(笑)、「『子午線を求めて』のように、読んでいて微妙に苦しくなるのでは?」と思って、こわごわ開きました。ですが、目次を開くと、比較的ポピュラーな本が取り上げられており、その中でも自分が読んだことがあるものがそこそこあるからか、緊張感なく本編に進むことができました。

    自分が読んだ本を、こんなにも言葉を尽くして、優美で的確な文章で紹介できるのか!と感じ入らずにいられない書評のかずかず。本好きに加え、知見の広さがあるから、1冊の本の紹介したいポイントをだらだら書いて広げていくんじゃなくて、自分のフィールドに引っぱりこんで、奥行きのある文章で表すことができるというのが、ありありとわかります。ああ、自分がこんな文しか書けないことが本当に嫌になる(笑)。

    複数の雑誌に掲載された書評の原稿がまとめられているので、掲載誌によって要求された字数の多少はあるとは思いますが、仏文関連の評が、やはり語彙が豊かで雄弁に書かれているように思います。ちょっとついていくのに焦る点もあるかも(苦笑)。どこから読んでも、堀江さんの体温の低い、でも冷たさを感じない穏やかな筆致が素敵なのですが、「堀江さんの書評と相性がいいな」と思って読んだのは、川上弘美と小川洋子とジュンパ・ラヒリ。起伏の少なく見える物語を紹介するのは、相当の技量が必要なんだろうな…とつくづく思います。

    実はこの本に掲載された文章中、私のベストは、「あとがき(単行本刊行時の)」。いろいろ書いたあげくにこれを選ぶのはちゃぶ台返しっぽいんですけど…書き出しの数行のさりげなさと的確さには、もうまいっちまうよ!

    -----[2011.10.25 未読リストアップ時のコメント]------

    タイトルは、ダブルミーニングなのかしら?

  • その音を聞くために、なくてはならない静けさ。


    説得力が欲しい。そう思うとつい、拳を振り上げて熱弁をふるわせなければならないような気がする時もあるけれど、これは大きな罠ですね。自分が五月蝿かったら、本の音が聞こえなくなってしまうのですから……。
    でもやっぱり、汗をしたたらせながら叫んだ方が目立つので、書評、ブックレビューと呼ばれるものは、だんだん宣伝文句の貯蔵庫みたいににぎやかになっていってしまいます。読者書評でさえそう。最近いけないと思っています。自分も。出版社の回し者になってしまっては意味をなさないのではないでしょうか?
    プロの書評家も信頼できるとは限りません。「○○氏も大絶賛か、それは凄い!」と、読んだその時は何だか気圧されて納得します(させられてしまいます)。でも、あとになって「彼を信じた?」と聞かれると、首を縦に振ることができず考えこんでしまう……。最近そういうことがちょくちょくあって、考えこんでいるのです。

    本好きにとって「さあ、何を読もうか」というのは、その日の晩御飯のおかずを決めるのと同じくらい、あるいはそれ以上に、非常に重要な、切実な問題ではないですか。そういう人間にとって、書評は大切な手がかりです。
    しかし、書評集を探すのは簡単なのに、胡散臭くない書評集を探すのは存外難しいものです。

    胡散臭くない書評本を見つけたら、それはとても落ち着いていて、大人でした。
    本は、それぞれ一冊ずつが、違った文体、違った声色で話します。特に私の好みがそうなのかもしれないけれど、好感の持てる声ほどどこか淡々と、冷静に、落ち着いて話します。
    本を開いたらここちのよい、音数の少ない世界が広がっていると、ほっとして信頼を寄せることができます。それは、煽り立てるような表現では実現できないことなのです。
    『本の音』は、ときどき勝手に「森の中みたい」と思うくらいにしんとしているけれど、それは、本それぞれの音に耳を澄ませるため、なくてはならない静けさなのでしょう。

    堀江敏幸自身が小説家だということもあるでしょう、一つ一つの作品を、じつに誠実にまなざしています。
    新聞や雑誌の書評をまとめたものだそうで、それがただの一度として声高にならず、どこまでもおだやかな調子なのです。一回一回テンションがかわってしまうということがなく、端正なたたずまいを崩さずに、一冊一冊一定の調子で紹介しています。
    みだれたさまはいつだって簡単に人目を引くけれど。決してみだれないということのひそやかなうつくしさに気づき、目を瞠りました。

    さっぱりしすぎていて淋しいと感じる人もいるのかもしれませんが、そこにこそ『本の音』を信頼できる理由がひそんでいます。堀江敏幸自身の声は、主張しません。だから、書評される本の音が際立つのです。
    何を読もうかと迷った時に信頼のおける、得がたい書評集ですが、たまに、評している本よりも書評の方がずっと心地よかったりもするのでした。

  • 須賀敦子さんの本でも思ったのですが、書評エッセイを1冊まるまる通読するのは、かなり厳しいものがあります。
    なので、自分の読了作品を中心に拾い読み。
    トゥーサンが懐かしかった。
    最近の国内作品では小川洋子さんと川上弘美さん。堀江さんの読書の嗜好傾向がわかる1冊でした。

  • 小説や評論、エッセイなど多岐に渡る、堀江氏の書評を纏めた一冊。
    本を読んだ時に感じる、ある種の旋律。気の利いたタイトルや扇情的な宣伝文句では決して伝えることのできないその音色を言葉に換え、テーマ別に分けて綴じてある。(カバーの袖部分引用)
    ほぼ読んだこともタイトルさえも知らない本ばかりだったけれど、堀江氏の静謐な筆致に必死にしがみついて読みました。興味を惹かれた本、数冊見つけました。
    流れる文章が作り出す空気に惹かれるのって気持ちがいい。

  • 端正な書評。

  • 『郊外へ』が良かったので他の著書も読みたくなったので買ってみた。
    タイトル通り、短文の書評集。
    小説とフランス文学についての文章が多いように思う。
    最後、小川洋子『まぶた』評は一読の価値あり。

    エッセイは非常に好みだが、小説はどうだろうか……。

  • 300 みちくさ

  • 書評でありながら文化論。書籍の中に埋め込まれたエッセンス、良質性が堀江さんの視線を通して丹念に浮き彫りにされる。ため息が出るほど端正な文章で。文学、歴史、建築、写真…縦横無尽に堀江さんの感性が駆け巡る。

    取り上げられているのは馴染みのない作者、分野の書籍が大半だったが、未知の世界に対する知的好奇心をそそられる。

  • うますぎる。語彙が豊富なのに流れが滞ることのない豊かな文章で書かれた、フランス文学、写真集、日本の小説など様々なジャンルの書評が納められている。川上弘美の「神様」の書評を読めば堀江敏幸さんの文章力や視点がいかに卓越しているかわかりやすいと思う。

  • ブックガイド、として読んでも面白い。著者の感想文集ととらえてもよいし、書評集と考えてもよいかも。この中で読んだことがある本もあるし、これから読んでみようと思う本もある。著者がどんな本を読んできたのかということにも興味があるけれど、やっぱりちょっと偏っているというかマニアックかなあとも思うな。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

堀江敏幸の作品

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