青空と逃げる (中公文庫 つ 33-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (457ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122070899

作品紹介・あらすじ

深夜、夫が交通事故に遭った。病院に駆けつけた早苗と息子の力は、そこで彼が誰の運転する車に乗っていたかを知らされる……。夫は何も語らぬまま、知らぬ間に退院し失踪。残された早苗と力に悪意と追及が押し寄せ、追い詰められた二人は東京を飛び出した。高知、兵庫、大分、仙台――。壊れてしまった家族がたどりつく場所は。早見和真

感想・レビュー・書評

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  • 父親と有名女優が起こしたある事故によって、妻子が騒動に巻き込まれて逃亡、その行く先々で出会う人々の優しさに触れながら、親子ともども成長していく物語。

    著者の作品は3作目。
    自身のブクログの記録によれば、今から8ヶ月14日前、前読の「鍵のない夢を見る」でレビューに綴った通り、私的に全く感情に響かなかった。それ以降、正直著者から遠ざかっていた。避けてきたのだ。

    そんなある日、書店で平置きされている本作を発見。
    完全に表題名と装丁に惹かれ手に取るに至った。


    逃げる。佇んではまた逃げる。逃げる。

    繰り返す逃避行の先で描かれる人との触れ合いは、方言も相まってとてもリアルで繊細で微笑ましく、ひとの温かさが伝わってきて心地が良かった。

    特に息子の各独白章は、読み進めるごとにどんどん逞しくなっていき、息子の父親である私としてはエールとともに感情移入した。

    しかしながら、そもそも母子が逃げなければならない根本的理由が腹落ちせず、肝心の父親の不甲斐なさが美談化されている設定は、とても残念に感じてしまった。

    ただ、今回の作品で「ツナグ」を読んだときに感じた、ひとの心理描写の巧みさには再度好感が持てた。
    他の作品も読んでみようかなと。

    何より、旅がしたくなった。
    四万十川でテナガエビが食べたい。
    別府で砂湯に入りたい。

  • 季節の変わり目か、やたらと眠くて読書のペースが落ちている。
    月1のカウンセリングの時に、”先月は眠れなくて困ってたのに最近は眠すぎて困る”と話したら、”何か力が抜けたからでは”と言われて、個人的には「夏物語」のレビューで色んなことを吐き出せたことや、ブクログでたくさんのフォロワーさんと、コメント欄を使って話せたことが大きいのでは、と思っている。

    ストーリー:深夜に交通事故に遭った夫・拳(けん)が、失踪。しかも、夫が乗っていたのは助手席だった。では、運転をしていたのは…?妻・早苗(さなえ)と息子・力(ちから)にじりじりと迫る追手。逃げる母子。高知、兵庫、別府、仙台へと転々としながらも、その先々で人情に触れながら真相に近づいてゆく母子の、力強く勇気をもらえる作品。

    ブラック辻村ファンとしては、ちょっと刺激が少なめ。
    もちろん、起きている事件としてはブラックなのだけれど、母子が逃げる過程で描かれている場面の一つ一つは、まるで旅行先で見るような美しい風景と心温かい人達の描写で、この母子の身に降りかかっている事件そのものを忘れてしまいそうになる。
    そんな旅行のような気分でぽやぽやと読みすすめていると、突然物語がぐ、と動く。次の街へ行く瞬間、その街を出る瞬間だ。
    この瞬間、ぽやぽやとした気分は一掃され、半分を過ぎたあたりから一気読み。あれ?読書のペース落ちてたんじゃなかったのか自分!

    家族に振り回される力と、息子を振り回して申し訳ないと思いながらも、力と共に必死に生きようとする母・早苗が交互に語り手となって物語がすすんでゆく。見知らぬ土地と、その土地の見知らぬ人の温かさに、何度も泣きそうになる。

    そういえば、学生の頃。伊坂幸太郎が好きすぎて一人仙台へ旅立ち、仙台で先行上映された「アヒルと鴨のコインロッカー」を観に行って、ロケ地を巡ったり、伊坂さんがよくいると言われているスタバへ行ってみたり、した。東京へ戻る日、方向音痴のわたしはちっともバス乗り場へ辿り着けなくて、やっと辿り着いた時にはバスは出たばっかりで、数十メートル先を曲がってしまった。諦めようとしていたら、バス乗り場のおじさんに「まだ間に合うよ!」と言われて走っていたら、今度はタクシーの運転手さんに「乗りな!さっきから見てて間に合うかなって気になってたんだ!」と言われ、信号待ちしてるバスのぎりぎりのところまで行ってくれた。お金を払おうとしたら「いいからいいから!」って言って降ろしてくれて、バスが信号待ちしてる路上でなんとかわたしはバスに乗ったわけだけど、運転手さん的にはやってはいけないことだったらしく、渋い顔をしていて。だから東京着いてから、お客さんが全員いなくなるのを待って、運転手さんに、ちゃんと謝罪とお礼をしたんだよね。

    その時のことをふと思い出した。未だにエモい。

    旅って一時的なものだし、この時に助けてくれたおじさんたちのことははっきり言って顔も覚えてないし、たぶんもう会えないだろう。それでも、これほど強烈に残ってる。
    この母子がしていたことはもちろん旅じゃない。でも、見知らぬ土地の、見知らぬ人からの好意というのは、たぶん見知った土地でのものとは別格で、本当に、ずっと心の中に残ってる。
    この二人にとって、特に力にとって、この逃避行がどんなものだったか。どんな風にそれが彼の中に残るのか。

    この作品のタイトルは「青空と逃げる」
    青空「と」、となっているのが、最後にすごく効いてくる。
    辻村さんの作品「朝が来る」が「朝が来た」ではないように、このちょっとした言葉一つに、物語の大きな希望が込められている。
    帯にある「大丈夫、あなたを絶対悲しませたりはしない」
    このメッセージは、誰から誰へ向けたものなのか。最後にまた違った捉え方ができる。

    解説P456
    「ただおもしろいだけじゃない。辻村深月という小説家は、自らにとって切実なテーマと常に対峙し続けている」

    • pさん
      学校ねー。
      逃げる事で精一杯ってのもあってなのか
      せっかく慣れた学校で、また逃げなきゃ行けなくなるとかそんな風にしか思ってませんでした。
      学校ねー。
      逃げる事で精一杯ってのもあってなのか
      せっかく慣れた学校で、また逃げなきゃ行けなくなるとかそんな風にしか思ってませんでした。
      2021/09/23
    • naonaonao16gさん
      pさん

      それもありますよねー。
      たぶんまた転校しないといけないだろうし、子どもの世界って残酷だから、何らかの噂がたってしまうかもしれないし...
      pさん

      それもありますよねー。
      たぶんまた転校しないといけないだろうし、子どもの世界って残酷だから、何らかの噂がたってしまうかもしれないし…
      でも教育の機会が奪われているのは少し残念でした。
      2021/09/23
    • pさん
      あとは、現実的に学校の手続きするとバレるなとか。笑
      あとは、現実的に学校の手続きするとバレるなとか。笑
      2021/09/23
  • タイトルがいいですね。
    タイトルで即買い。

    夫の遭った交通事故がきっかけで、母と息子が高知→兵庫→大分→仙台と逃避行する物語。
    男の子の母親はキュンとくるストーリーなんじゃないかな、と勝手に想像。

    毎度のことながら読ませる。ページを繰る手がなかなか止められない。
    けど、いささか冗長かなぁ、とも思った。
    それぞれの地での人々との交流は温かく胸を打つんだけど、全体的にばらっとするというか…統一感が少なく別々の短編を読んでいるような気がした。
    それだけに後半の収束、いつもの巻き返しを期待したけど、この小説は残念ながらピンと来なかった。

    第四章にデジャヴを覚えたが、そういえば「傲慢と善良」にこの写真館出ていた。繋がってスッキリ。

    • naonaonao16gさん
      なんと!本日わたしもレビューアップ予定の作品です!
      「いささか冗長」、同感です…個人的には、物語のベースにある逃避という非現実感との対比で、...
      なんと!本日わたしもレビューアップ予定の作品です!
      「いささか冗長」、同感です…個人的には、物語のベースにある逃避という非現実感との対比で、その街や人の魅力を伝えるためには必要だったのかなぁ、と認識してます。
      文庫待ちしてる「傲慢と善良」にもあの写真館出てくるんですね!
      伏線回収はしっかりしてましたが、少し控えめでしたね。
      2021/09/16
    • たけさん
      naonaoano16gさん、おはようございます!

      そうなんですね!奇遇ですね!
      レビュー楽しみにしてます!

      今度はコメント書き込みにい...
      naonaoano16gさん、おはようございます!

      そうなんですね!奇遇ですね!
      レビュー楽しみにしてます!

      今度はコメント書き込みにいきますね!
      2021/09/16
  • 『青空と逃げる』

    涙ぽろり ★★★★★
    勇気   ★★★★★
    物語性  ★★★★★

    【読み終えて】
    ページをたたんだ時、自然に涙がこぼれていました。
    旅先で出会う人々と主人公の二人のやりとり、会話が人間らしいからなのでしょう・・・。
    本、書籍の中とは思えない空気でした。
    紙面から、声なき声がこぼれてきそうな雰囲気が最初から最後まであふれている作品でした。ありがとうございました。

    行き先に 不安はあれど 必ずや 仰げば空と 星降る夜よ

    【主人公】
    小学5年生の男子とその母親の2名を中心とする物語です。このふたりと二人の旅先で出会う人々たちが物語をつむぎます。

    【物語】
    男子の父、つまり母の夫は劇団員です。その夫は、劇団で著名な看板女優と車に同乗している最中に交通事故に合います。
    夫は入院、看板女優はそれを契機に自殺します。
    これをきっかけに物語は大きく動きます。
    この事件を報道するマスコミ側の取材は過熱し、さらに看板女優所属の事務所からの攻勢も拍車をかけます。
    そのような状況のなか、夫は病院から退院後に失踪し、男子と妻は居住地の東京を離れざるをえなくなります。

    【主人公たちの成長】
    逃亡の期間は約1年弱に及びます。そして、逃亡先は高知、兵庫、大分そして仙台へと移り変わります。

    小学5年生の男子がどれだけ心細かったことでしょう。
    しかし、旅先での出会いと経験が少年を青年に変化させていくのです。
    地元漁師、地元中学生女子、宿泊先の女将らとの出会いです。
    自然、魚の命にふれ、初恋に出会い、旅先での会話を当初は恥じらい、警戒しながらも続ける姿勢。

    夫と対話ができない妻。連絡がなく途方にくれる暇もない妻。
    しかし、子供一人の住むところと食べることを確保しなければならない環境。
    身寄りの少ない、または無い土地で専業主婦だった妻は変わらざるをえなくなります。

    男子は母を想い、母は子供を想う。
    思春期の子どもの微妙な感情の機微を感じ取る母。

    物語では、丁寧につづられています。

  • 母親と息子で目線が交代されながら物語が進んで行った。途中でドキッと思ってしまう場面や早苗はこのときどんなことを考えていたのだろう?と思ったりしました。

  • 積読の2冊目。
    ある理由で逃げる母の早苗と息子の力。

    力は小学5年生。第二章の力と中学1年生の優芽との何気ない出会いが、何故か印象に残りました。
    行く先々で助けてくれる人たち。これがとても救われた。そして一年も満たない逃亡生活だったけど、力はとても逞しく成長しました。そして早苗も吹っ切れたのか大団円を迎えます。

  • 母早苗と、息子の力の逃避行。
    風光明媚な土地を転々とし、そこで出会った温かい人たちの人柄に触れる。真面目で子供を守りたい一心の早苗と、思春期手前の力、それぞれの視点が交互に入れ替わり物語はすすむ。
    ひっかかって、仕方なかった。なぜ逃げてるのか。悪いことをしたわけでもないのに。二つ目の理由にしても、それ、かたをつけずに逃げるんですか、と。逃げている先々で早苗は仕事を見つけ、働き、自信をつけていく。そこは分かるのですが、それよりまず、力君を学校に行かせな。肝心なことに向き合いな。という思いを抱えつつ読んだ。
    小5の力は歳のわりに、大人びていると感じた。自分の息子のときどうだったかな。母親に対して言葉が少なくなってくる頃、母にしても子供の胸の内がわからないことが増えてくる頃。その辺の母と息子という、少々の緊張が漂う気を遣う心理描写がよく伝わってきた。
    ラスト、力は多くの体験をし成長した。早苗はこの先、なにが起ころうと、この日々があったことを振り返ればたいていのことはもうどうにかなる、と思えるようになった。やはり、体験は必要。
    砂かけの場面で、四季の歌を歌う早苗。
    そうか、母は冬だったんだ、と思い返した。
    冬を愛する人は心広き人 根雪をとかす大地のような僕の母親。
    心は広くありたい。
    447頁と長い、中盤長いと感じたのですが、さらっと読めたのは(解せない点があったとしても)、風景描写が美しかったのと、母と息子の絡みに入り込んでいたかも。別府温泉で砂かけの仕事をする早苗。この場面が一番印象に残った。砂かけってどんな感じだろう。

  • 旦那さんが問題を起こし突然の失踪…
    家には怖い人が来る…

    そんな中、小学生の息子との逃避行

    いろいろな場所を転々とするも
    やつらは追いかけてくる

    息子の成長していくところと息子との距離感が変わっていくところがよかった。

    一人じゃ何も出来なかったけど、息子がいたから頑張れた。
    守るものがあると強い。
    でも、守られてたのは自分だったと最後に気づく。

    息子が母に内緒で父親と連絡を取り合ってたのには、驚いた。
    不倫相手とされ亡くなった女優の一人息子との奇妙なコンビもなかなかよかった。

    砂湯行ってみたいなぁ。

  • 傲慢と善良に出てくるキャラクターのお話ということで読んでみた。
    とあることをきっかけに、逃げながら生活する親子のお話。
    逃げながらという部分だけ見ると、とてもつらそうなお話を想像するかもしれなない。
    実際、生活拠点が変わるシーンが何度もあり、そのたびに、安住の地はないのか…という想いを抱かずにはいられないのだが、見知らぬ土地で出会う人々の関りがとても暖かく、その逃げる辛さをいっとき忘れながら読むことが出来る。
    ラストシーンはこうなるんだぁという展開だった。
    辻村深月さんのお話はやはりどれも面白いなぁと思った。

  • 人気女優と交通事故に遭い、退院した後行方知れずになった夫。その夫の消息を知ろうとするマスコミに毎日押しかけられるようになった妻、早苗と10歳の息子、力。
    この物語は、大半が早苗と力の逃避行が描かれています。

    物語の終盤、力が自分の呼称を旅の序盤から使っていた「オレ」からそれまでの「僕」へ変化したこと、早苗が「自分なんかに」と自信の無い人柄から「自分にならできる」といったマインドへの変化など、前向きな進歩もあったものの、
    そもそもの逃避行の原因となった夫の不甲斐なさが美談のようになっているのが気になりました。
    まずは妻に事情を説明すべきだったのでは。

    早苗も、小学5年生を7ヶ月も学校に行かせないことの後々への影響をもっと考えるべきでした。『大人も子どもも逃げていい。』というキャッチコピーでしたが、逃げることになったのは大人の事情。
    終始感情移入ができなかったのが残念です。

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

辻村深月の作品

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