作品紹介・あらすじ
不可思議なおもちゃを手にした兄妹の成長を描く表題作他、7篇を収録するアンソロジー
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センス・オブ・ワンダー? 知りたきゃこれを読め!
よくSFの魅力は「センス・オブ・ワンダー」だと言われています。
ただこの言葉、具体的に説明するのが難しい。“もっぱらSF作品で味わえる驚き”とでも言えばいいんでしょうか。SFファン同士なら「あれはセンス・オブ・ワンダーを感じるよねー」とか「あの作品にはセンス・オブ・ワンダーが足りない」とか言えば話は通じるんですが、ぜんぜんSFを知らない人にどう伝えればいいのか、いつも悩みます。生まれてから一度も赤いものを見たことがない人に、「赤」というのがどんな色なのか説明しろというようなものです。
でも先日、とてもいい本が出たんです。SFを知らない人に説明するのに、「この本を読め。これを読んで感じた驚きがセンス・オブ・ワンダーだ!」と自信を持って言える一冊が。
伊藤典夫翻訳SF傑作選『ボロゴーヴはミムジイ』(ハヤカワ文庫SF)──半世紀以上も海外SFの翻訳をやってこられた大ベテランの伊藤典夫氏がこれまでに訳された膨大な量の短編SFの中から、傑作を選りすぐったアンソロジーです。
:book:2881488:伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ:
クラークやハインラインやディックのような有名な作家の作品なら、後で短編集に収録されているので、今でも読むことができます。特にディックなんか、『バーナード嬢曰く。』の神林さんじゃないですが、「ディックが死んで30年だぞ! 今更初訳される話が面白いワケないだろ!」と言いたくなります(笑)。そんなの訳す暇があったら、もっとマイナーな作家にスポットを当ててよと。
この『ボロゴーヴはミムジイ』に収録されているのは、ディックやクラークに比べてやや知名度で劣る、いわば二軍の作家の作品がほとんど。そのため、〈SFマガジン〉に訳されたきりで一度も単行本になっていないとか、アンソロジーに入ったことはあるけどそのアンソロジーもとっくに絶版だとか、現代の読者の目にふれにくいものが多いんです。
でも、二軍だからってバカにしないでください! 面白さは保証します!
特にSF初心者におすすめします。だって、どれも僕が若い頃に読んで、「面白い!」と思ったものばかりなんですから。
具体的にどういうものがセンス・オブ・ワンダーなのか? 分かりやすいのがフリッツ・ライバー「若くならない男」です。
変なタイトルですよね、「若くならない男」。何かの比喩だろうと思う人が大半だろうと思います。
ところが違うんです。これ、文字通り、若くならない男の話なんです。
時間が逆行している世界。すべての人間が墓から生まれ、若返って母親の胎内に戻り、文明が二十世紀から中世へ、さらに古代エジプト時代へと逆戻りしてゆく。そんな中で、主人公だけがなぜか若くならず、人類の数千年の歴史を見つめ続ける……。
逆行時間の中の不死人! 初めて読んだのは1977年の〈SFマガジン〉ですが、ものすごい発想にくらくらきました。しかも書かれたのが1947年と知って二度びっくり。「フリッツ・ライバーって、30年も前にこんなとてつもないものを書いてたのか!」と。今、再読しても、まったく古さを感じさせません。
時間ものならデイヴィッド・I・マッスンの「旅人の憩い」もすごいです。こちらは南に向かうほど時間の流れが速くなる世界。北の果て、時間が停止する寸前の地域では、いつ果てるともない激しい戦争が続いています。兵士である主人公は解任され、南の平和な地域に向かいます。そこで結婚して家族を持ち、数十年を過ごすのですが、戦場ではまだ数十分しか経っていない……。
これも思い出深い話ですね。僕の長編『時の果てのフェブラリー』はもろに影響受けてます。
衝撃という点では、フレデリック・ポール「虚影の街」も強烈です。同じ六月十五日がえんえんと繰り返されている街の話。真夜中になると住民の記憶もみんなリセットされるんですが、主人公はふとしたことから記憶が消えず、同じ日が続いていることに気づいてしまいます。
今ではマンガやアニメなんかでもよく使われるようになった“タイムループもの”の一種なんですが、なぜこの街でそんなことが起きているのかという謎解きが、まさに唖然呆然。この強烈なラストは一生、忘れられません。
このアンソロジーの中で、僕の一番のおすすめは「思考の谺」です。
作者のジョン・ブラナーはイギリス人。どちらかと言えば社会派の印象がある作家なんですが、1959年、24歳の時に発表したこの作品は、モンスターも出てくるばりばりのB級SF。雰囲気もちょっと安っぽい。でも、謎とサスペンスに満ちていて、抜群に面白い!
ロンドンの下町の安アパートで、一文なしでみじめな暮らしをしているヒロインのサリイ。彼女はなぜここにいるのか、自分の名前以外、何も思い出せない。時おり襲ってくる記憶のフラッシュバック。しかし、その記憶は地球のものではありえないものだった……。
雰囲気はのちのTVシリーズ『ドクター・フー』をほうふつとさせます。まさに「イギリスSF」って感じなんです。僕が〈SFマガジン〉のバックナンバーで読んだのは17歳の頃ですが、終始、ロンドンの一画を舞台にしていながら、背景には広大な宇宙の広がりと何十万年にも及ぶ歴史があるという構成にはしびれました。でたらめに見えたサリイの奇怪な記憶の数々が、しだいにつじつまが合ってきて、ついには銀河の命運を左右する壮大なスケールのドラマが浮かび上がってくるんですよ!
こういうのがセンス・オブ・ワンダーなんです。
17歳でこんなの読んだら、絶対ハマりますって。これも〈SFマガジン〉に載ったきり、一度も再録されたことのない作品で、この再録は涙が出るほどありがたいです。
もっと軽いユーモラスな作品がお望みなら、ヘンリー・カットナー「ハッピー・エンド」はいかがでしょうか? 主人公は未来から逃亡してきたロボットに出会い、小さな装置を貰います。そのボタンを押すと、はるかな未来世界にいる科学者と一時的に精神がつながり、未来の科学知識の断片を知ることができるのです。でも、そのせいで、サーンという不気味なアンドロイドに追い回されるはめになり……という話。
この小説、〈この物語は、こうして終わった〉という一文ではじまり、まずラストのハッピー・エンドを描いてから、次に物語の中間部分を描き、最後にファーストシーンを描くという変わった構成になっています。結末が分かっているにもかかわらず、話がどこに転がってゆくのか予想がつかないのが面白い。ラスト(つまりファーストシーン)のどんでん返しを予想できる人は、まずいないでしょう。“トリッキー”という言葉はこの作品のためにあるようなもの。
このヘンリー・カットナー、1936年にデビューした当時は、ラブクラフトの亜流のホラーや、R・E・ハワードの亜流のヒロイック・ファンタジー、いかがわしいスペースオペラ(笑)などを書きまくっていたのですが、1940年、「シャンブロウ」で有名な年上の女流作家C・L・ムーアと結婚してからは、夫婦合作で、あるいはカットナー単独で、ルイス・パジェット、ローレンス・オドネル、キース・ハモンドなど、20近いペンネームを使い分け、多数の短編SFを発表しています。
本書の表題作「ボロゴーヴはミムジイ」も、ルイス・パジェット名義で発表された作品。未来から飛ばされてきた教育用玩具を拾った子供たちが、それで遊ぶうちに、しだいにその精神が変容しはじめ……という話。タイトルから分かるように、『鏡の国のアリス』とからんでいて、ルイス・キャロル本人もちらっと登場します。
カットナー(パジェット)には、他にも「トォンキイ」「今、見ちゃいけない」「黒い天使」「プライベート・アイ」「ショウガパンしかない」などなど、今では忘れられた佳作・傑作が多いんです。決して“大作家”ではないけれど“名人”だなと、しみじみ思います。前に短編集が出てからもう30年以上になりますから、できればまた短編集を出していただきたいんですが。
レイモンド・F・ジョーンズ「子どもの部屋」も「ボロゴーヴはミムジイ」と似たような発想。大学の図書館にある、普通の人間には見えない〈子どもの部屋〉。主人公の息子がそこで借りてきた本は、特殊な能力を持つミュータントにしか読めないものだった……という話。
決して悪くはない話なんですが、ジョーンズの作品では、僕は「子どもの部屋」より「騒音レベル」や「よろず修理します」の方が好きなんですよね。だからこのセレクトにはちょっと疑問だったんですが、編者の高橋良平氏のあとがきを読んで納得。
これは「伊藤典夫翻訳SF傑作選」の一巻、それも時間・次元テーマの作品を中心に選んだアンソロジーで、好評ならば続刊も出るとのこと。
おおっ、ということは「騒音レベル」は二巻目以降に収録される可能性があるということ? じゃあ、やはり一度も再録されたことのないポール・アンダースンの「救いの手」とかジェイムズ・ブリッシュの「コモン・タイム」とかブライアン・オールディスの「リトル・ボーイ再び」とかも? あるいは収録された短編集やアンソロジーがすでに絶版になっているアルフレッド・ベスターの「マホメットを殺した男たち」やゴードン・R・ディクスンの「コンピューターは語らない」やラリイ・ニーヴンの「終末は遠くない」とかも?
そりゃあ応援しないわけにいかないでしょ!
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やっと読み終わった。全てがお勧めできる短編ではないが、個人的には子どもの部屋が好み。
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SFって「自分以外が皆宇宙人」「起きたら自分以外の人間が消えていた」とか「ぼっち設定」がかつて自分にはことのほか恐怖だったのですが、もちろんいい人間もいるんだけど、大抵の人間のことが嫌い、関わりたくないっていうことをいい加減悟り、「天変地異起きても全然平気そう」「一人でいて全然楽しそう」、と周りや身内にあまりに言われ続けて生きてきたら、なんだかSFが特別に感じられなくなってきて、恐怖感や特別感がなくなって来たかなー。
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SF者なら知らぬ者はない伊藤氏の訳した短篇を集めた傑作選。さすがに読み応えのある作品ばかりで、ゆっくりじっくり味わう様に読ませてもらった。お気に入りは「子どもの部屋」「旅人の憩い」この二作品が強烈に印象に残った。ところでデイヴィッドIマッスンて誰?旅人の憩いがとても面白かったので、ほかの作品も読んでみたい。
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SFマガジンのために若き日のSF翻訳家伊藤典夫が選りすぐって訳した傑作中短編から、時間・次元テーマを中心に精選したアンソロジー。ボロゴーヴはミムジイ、子どもの部屋、虚影の街、ハッピーエンド、若くならない男、旅人の憩い、思考のこだま。
かつての時代のSF、未知の夢があって、時代のエネルギーがあって。もちろん、今でもすごいんだけれども。
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『2001年宇宙の旅』も翻訳したSF界の翻訳者伊藤典夫氏の傑作選。
網中いづるさんの表紙がいい感じでした。
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フレデリック・ポール、フリッツ・ライバー、ジョン・ブラナーは積毒で、今回初めて短編で読んだけど面白かった。編者あとがきと巻末の伊藤典夫インタビューを読むと、この企画の続編が待ち遠しくなった。
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目次
・ボロゴーヴはミムジイ ルイス・パジェット
・子どもの部屋 レイモンド・F・ジョーンズ
・虚栄の街 フレデリック・ポール
・ハッピー・エンド ヘンリー・カットナー
・若くならない男 フリッツ・ライバー
・旅人の憩い デイヴィッド・I・マッスン
・思考の谺(こだま) ジョン・ブラナー
学生の頃、長編よりもひねりのきいた短編小説が好きでした。
ことにSFの。
設定が奇抜で、なおかつオチが意表をついたもの。
当りまえの日常が、少しずつ意外な結末へとスライドしていくもの。
この作品集は、ちょうど私がそんなSFを好んで読んでいたころに「名作」の評価が高かった作品を集めたもの。
科学の進歩は当たり前として、その先は明らかなバラ色ではなく、かといって全くのディストピアでもない、今とつながっているような別世界。
ああ、こういうのが好きだったんだよなあ、と夢中で読む。
『ボロゴーヴはミムジイ』と『子どもの部屋』は、大人と違って柔軟に変化を受け入れる子どもと、取り残され、見送るしかない大人の対比が、この年になって読むと身につまされるものがある。
多分高校生の時に読んでいたら、今のようには感じなかったと思う。
『虚栄の街』は、すごく好きな設定。
多分小学生の頃に読んで、タイトルも作者も忘れてしまったのに内容だけは覚えている小説に雰囲気が似ているから。
町に、町の人たちに感じる違和。不穏。
何かが起こっているのに、それが何かわからない不安。
そして、ようやくたどり着いた真相が!
設定は好きだったけど、やっぱり子どもの頃に受けた衝撃には及ばなかった。残念。
『思考の谺』は、一番長い作品で、一番ハラハラドキドキの展開だった。
SFであり、ミステリでもある作品。
主人公の女性は、社会の底辺で、不安にさいなまれながら、人目を避けながら暮らしている。
なぜ?わからない。記憶がない。
いや、記憶があるのだけれど、そんな記憶はありえない。
アパートの大家夫婦がとてもうさんくさくて、いったい彼女に何が起きたのか、今何が起こっているのかがすごく気になって。
途中、彼女を救うことになった青年がピンチに陥った時などは、こちらの心臓も止まるかと思い、最後の奇想天外な結末に古き良きSFを感じた。
最近はなかなかSFらしいSFを読むことが少なくなったけど、やっぱり好きだなあSF。
頭も心も揉みほぐされて柔らかくなったような気がする。
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