本格ファンタジーの風格もエロティックさも兼ね備えているが、ひとりの少女の成長を描いた少女小説としての側面が強い。
このため、人によっては絢爛豪華で悪の物語という魅力を損なったと評する人もいたが、私はこの側面が大好き。
絶版なのであらすじをかいつまんで説明。
主人公ソーヴェ改めアズュリアズは父親そのものの美貌と黒髪を持つ美少女。中身もお父様によく似たツンデ…いやその残酷で傲慢な王者。
ただ一つ、美しい青の双眸を除いて。
前作で父親のもとに引き取られたこの少女は、育児放棄した父親によって孤島に半ば封印された状態で長い時を過ごす。
そこに現れたのが前作で彼女が母を失うきっかけを作った狂気の君チャズ。
彼は彼女を手に入れるためいろいろ小細工して、人間の体を使って島に入り込み反抗期の娘さんと駆け落ち成功。
そしてチャズの君は、母親のいきさつはひっかかるけれど体の持ち主はともかく、悪い人以外は酷い目にあわないように配慮してあったりして、彼女の父親よりはましな人格でソーヴァズも彼を保護者として恋人として愛するようになる。
しかし、そのラブラブな駆け落ちも父親が登場して終わりを告げる。
悪と狂気の君二人は力が拮抗しているので、ソーヴァズがいる以上、実はチャズが有利なのだがなぜかチャズはアズュラーンの報復を甘んじて受け狂人として彼女のもとを去る。
保護者で恋人だった男が自分との愛より父親との駆け引きを選んだことで、ソーヴァズの怒り爆発、父親と大喧嘩。
父親そのまま女性形に作られたアズュリアズだからいつかは父である自分に従順になるだろうと言われて、天から神が下りてきて人間に跪いたらそうすると啖呵きって出奔再び。
あちこち世界を巡って、最強家出娘の名をほしいままにしてなんだかんだあって(例:吸血鬼の都にいって、ちょっくら滅ぼしたんだけれどその吸血鬼の母親に恨み言言われてこんなんでも子供がかわいいのにうちの父上ときたら!とか)、宿命の君ケシュメトさんと出会っていろいろ思うところあって、天から神のイリュージョン作って父親に従うことを決めました。
そして、立派な悪の娘として更正し、『神様は人間なんか無視している教』みたいなのを作って世界に君臨。
そんなとき謎の石を献上され、それが『死の王』に出てきた彼女の父や叔父たちに深いかかわりを持つジレク(ジレム)の眠っている姿だったのですが、無理やり起こします。ひでえ。
唯一己の美しさにひれ伏さない男、そして過去父と対立した人間に当然興味を抱くアズュリアズを無視するジレクは修行僧として旅に出ます。
アズュリアズのストレスと無気力が最高潮に達するころ、天の神が彼女を討つことを決め『天使』を差し向けます。
敗れた彼女は海の底へ、そこで知り合った海底人の貴族との新たな恋とその破局にもうぼろぼろ。
ライトノベルな概略ですが、言い回しや言葉が本当に美しく面白いです。
特にツンデレ親子の会話が泣ける。
父親に服従することを決めたアズュリアズに『妖魔は泣かぬものだ』『誰が泣いておりますか、私ではありませぬ』この後の父親の言葉がすごくいいのだが、ネタバレなので言えない。読んでみてほしい。
アズュラーンがアズュリアズを当初遠ざけたのも、彼女の双眸が母親そのものだったからというのも、貴方いつのまにそんなにロマンチストにとつっこみいれつつ、きゅんきゅんが止まらない。
最初は母、そして父、チャズ、さらにはジレクにも去られ、孤独の中、少女は何を求めるのか。
同作者の銀色の恋人では過干渉でお人形のように大事に育てられた娘が恋人を選ぶことで、親の呪縛から逃れ去るまでの物語だが、母の幼子ソーヴェから、孤島の娘アズュリアズ、狂気の君の恋人魔女ソーヴァズから、女神アズュリアズ、と名前と共に立ち位置がどんどん変わるが、彼女は常に孤独だ。
だが、それはあくまで彼女の主観的な感じ方であって、魂だけになっても女神になった娘を見守り続けている母ドゥニゼルや、わざわざ外に連れ出しに来たチャズ、手を差し伸べたケシュメトと、実は作品上一番心配され案じられている主人公。
けれど彼女が一番こだわっているのが、父親の無関心。
余談ですが前田珠子の破妖の剣シリーズとよく似ています。