黒衣の女 ある亡霊の物語〔新装版〕 (ハヤカワ文庫 NV ヒ 5-2)

  • 早川書房
3.32
  • (6)
  • (16)
  • (20)
  • (4)
  • (4)
本棚登録 : 200
感想 : 26
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150412685

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 構成がうまいなー。
    まず、明るい
    幸せな日常を描くことで
    次にくる闇が余計に
    暗く、深く、濃く感じる。
    コントラストが効いている。
    小さな恐怖の種を散りばめ
    何かありそう
    そうならないで欲しい
    これだけじゃないはず
    とあえて予感させ
    展開を想像させることで
    じわじわと締めつけてくる。
    そして主人公と同様
    恐怖の館の秘密へと
    どんどん引き摺りこまれてしまう。

  • <亡霊が出てこなくても引きこまれる沼的魅力>


     実力派作家スーザン・ヒルが手がけた、揺るがぬ人気を誇るゴシックホラー小説! 完成度の高さから、発表当時から一貫して評価され続けているのは知っていました。読書好きとして一度は読んでおきたかった有名作です。

     本作品は、弁護士キップス氏の見習い時代を回想する形式で幕を開けます。遺産整理の仕事で、都会ロンドンを抜け出し遠路はるばる訪ねていったのは、ドがつくほどの田舎でした★ キップス氏が向かうのは<うなぎ沼の館>……世にも奇妙な名で呼ばれる屋敷。この館を話題を出した時だけは、地元住人たちが落ち着かない様子を見せ、嫌なムードが漂います★
     そこでは、○○が沼に引きずり込まれるような音や悲鳴が聞こえるなどの怪奇現象が! また、館の周辺では、全身から負のオーラを発する喪服の女がうろちょろ。それでも己を過信していた若きキップス氏が、その古めかしき館で知った故人の秘密とは……!?

     何が起きているのか分からないまま引きこまれていく沼的魅力に、ヌルッと(?)はまりました。半分を過ぎても「何となく嫌な感じ」「なぜかわからないけど気味が悪い」という、雰囲気的なもののみで進行するんですね★ にもかかわらず、いくら読んでも少しも飽きない! 著者の並々ならぬ力量によって、すべてが計算されて運ばれていきます。
     もっとも、肝心の黒い女の境遇に関心を寄せるべきでしょうに、完全に別のところに気を取られてしまったのを告白しなければなりません。本書で心霊現象よりも私が魅入られたのは、情景描写の素晴らしさでした☆ 空、風、光、霧、草、土、水。天候を鏡のように映し出しながら刻々と変化していく景観を、著者はなんと詩的に表現するのでしょう。自然観察記として一流で、亡霊いなくてもいいかと思ったくらい。
     おかげで、私の中では、キップス氏は田舎を虚仮にした態度への報いを受けたのだということになっています(独自解釈)。

  • 上質の英国ゴシックホラー小説。
    描かれる世界は繊細で叙情的で、
    凄惨な美しさが漂う。
    そう、この物語をもとに、
    いくつもの印象的な名画を生み出せそうな…。
    ゴシックホラー好きにはたまらない、
    いかにも、な設定を踏みつつも、
    その「いかにも」の質が良いために、
    かえって斬新な気持ちを抱かせてくれる。
    ひたひたと迫る恐怖、
    少しずつベールが剥がされていく謎、
    主人公の感情の波、
    そのどれを取っても申し分ない。

    秀逸なのは、まずは、明と暗のコントラストの書き分け。
    これ以上ないくらいに安心できるシチュエーションを用意しておきながら、
    次の瞬間にどん底に叩き落とす手腕はたいしたもの。
    全体に対してだけでなく、随所にその手法を発揮させていて、
    その細かな積み重ねがじわじわと読者の心に恐怖感を伝染させる。

    そして、場面設定の巧みさに脱帽。
    潮が満ちると陸の孤島と化す古い館、
    そこへ通ずる細い土手道、
    もくもくと馬車を走らせる男…。
    光景が浮かぶ。
    浮かんだ瞬間、物語の持つ世界観に引きずりこまれる。

    清々しい恐怖感、
    という形容はなんだか奇妙だが、
    正直に言えばそれがしっくりくる。
    愛すべき一冊。

  • 書類整理の仕事で古い館にやってきた若手弁護士の体験する恐怖を描くホラー。

    雰囲気といい舞台設定といい周りの自然描写といいまさに正統派のホラーという感じがします。いい意味で古臭い感じがします。

    たぶん雰囲気を格段に盛り上げてラストの章につなげたかったのだと思うのですが、オチが読めてしまったためあまり恐怖はなかったかなあ。もちろん先が読めていても「うわあ!やっぱり……」となる作品もあるのですが、読む前にハードルを上げすぎたためか、途中までの盛り上がりの場面でもあまり怖さを感じられず、それを最後まで引きずってしまった感じがありました。

    でもやはり雰囲気作りは抜群だったので、フラットな目で見れば十分読み応えありだと思います。スプラッタやサイコキラーなんかとは一味違うとても格調高いホラーでした。

  • 読みませんよ、怖いから。。。勿論映画も観ません。。。

    早川書房のPR
    「【映画化 12月1日全国公開!】  「ハリー・ポッター」のダニエル・ラドクリフ主演。沼地に孤立した館で遺産整理にあたる青年を襲う恐怖とは? 英国伝統のゴースト・ストーリーに新たな光をあてた傑作が、映画化を機に新装版で登場!
    広大な沼地と河口に面し、わずかに水上に出る土手道で村とつながるだけ。その館は冷たく光りながら堂々とそそり立っていた。弁護士のキップスは、亡くなった老婦人の遺産整理のため、館にひとり泊まり込むことになる。だが立ちこめる霧があたりを覆うと、想像もできなかった怪奇が襲いかかった……孤立した館にしのび寄る恐怖をじっくりと描きあげ、英国伝統のゴースト・ストーリーに新たな光をあてた傑作が、映画化を機に新装版で登場!」

    【公式サイト】映画『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』12.1 ROADSHOW│『ハリー・ポッター』シリーズ ダニエル・ラドクリフ最新主演作
    http://www.womaninblack.jp/

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99458215

  • たいした心境の変化など無いのだが、最近はホラー/幻想小説に以前よりも手を伸ばすようになった。他のジャンルに比べてさほど読んでこなかったこともあるが、ラヴクラフトの箴言「最も起源が古く、 最も強烈な感情である恐怖」を主題とする小説の真髄に、あらためて触れておきたいという気持ちが強い。ただし、作家の技倆が如実に表れるジャンルのため、つまらない作品もひときわ目立つ。結局のところ、プロットよりも、単に文章/描写が駄目なことが多い。恐怖心を煽るためには、イメージを喚起する的確な語彙と優れた表現力が必要だ。
    つまりは、語り口なのである。日本古来の伝承文学ともいえる怪談は、今も夏の風物詩として子どもから大人まで楽しんでいる訳だが、同じ題材でも話し手の技術によって、怖さがまるっきり違ってくることと同様である。

    1983年発表の本作も、英国伝統のゴシックホラーを継承し、全編「ゾッとする恐い話を聞かせてあげよう」という怪談話のスタイルを貫く。作者は、構成からレトリックまで〝聞き手〟を強く意識した〝語り手〟に徹している。主人公の過去を朧気に伝える切り出しから、人生を大きく変えることとなる本筋への自然な流れ、徐々に恐怖心を植え付けていくエピソード、真相が明かされたあとの静かな小休止を経て、一気に戦慄の悲劇が訪れる幕引き。すべては、〝落ち〟となるエンディングで最大の効果が得られるよう綿密に練り込んでいる。

    クリスマス・イヴ、古い屋敷に集った家族が順に怪談話を始める。子どもらが話し終えた後、父親の番となるが、どうしても口を開くことができない。かつて自らが体験した真に恐ろしい幽霊譚。決して忘れることができず、誰にも言えない記憶。男はひとり、回想というかたちで物語り始める。
    舞台はロンドンから遠く離れた小さな市場町クライシン・ギフォード。まだ見習い同然だった若い弁護士アーサー・キップスは、所属事務所の古くからの顧客であったアリス・ドラブロウ夫人の遺産整理のために町に赴く。途中、夜汽車で偶然乗り合わせた紳士デイリーは、キップスの目的を聞き、妙な反応を示した。宿に着いた翌日、ドラブロウの代理人ジェロームとともに葬儀に参列するが、身寄りもなく長らく人との交流を絶っていた夫人を弔う町の人間はいない。ただひとり、青白く痩せ衰えた黒衣の女が、墓場の陰で見つめる以外は。夫人が住んでいた館に通じる路は、河口と沼地に面していた。砂地に造られた細い土手道は、潮の満ち引きよって、通行できる時間が限られていた。やがて、馬車に乗ったキップスの眼前に、荒涼とした丈の高い〈うなぎ沼の館〉が姿を現す。日が暮れ、孤立無援の地を深い霧が覆い尽くしていく。屋敷内の開かずの間から、響き始める異音。屋外から、霧の中を突き抜けて届く子どもの絶叫。呪われた館の長い一夜は、まだ序章に過ぎなかった。

    本作は、或る女の凄まじい怨念を物語の主軸とし、プロット自体は古典的で捻りは無いものの、聞き手の心理を揺さぶる描写力には圧倒される。短く引き締まった構成、情動を鮮やかに表現した流麗な文体、細部までこだわった舞台設定。劇作や児童小説など幅広い分野で作品を発表しているヒルは、ホラー専門の作家ではないが、創作にあたり過去の作品をとことん研究した節があり、見事に自家薬籠中のものとしている。というよりも、英国人として慣れ親しんできた怪談を、よりモダンに洗練させて蘇らせたと言うべきか。

    いずれにしても、血と暴力で染め上げたモダンホラーが主流となっている昨今、本作のような正統派ゴシック・ホラーは貴重であり、新たなメルクマールとなるだろう。

  • 2012-10-25

  • 好きな俳優さんがこちらが原作のお芝居をすると言う事で購入。結局お芝居は見に行く事は出来ませんでしたがどの様な舞台になるのか想像しながらじっとりとした気持ちで最後まで読みました。

  • 恐い。の一言。最後まで気を抜けないストーリー展開。一気に最後まで読んでしまった。

全26件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1942年、英国ヨークシャー生まれ。五作目の本書でサマセット・モーム賞受賞。作品はいずれも、「傷つく者」を描いて共感に満ち、自然描写の美しさは、トマス・ハーディ以来とも評される。代表作に、本書のほか、The Woman in Black(邦題『黒衣の女』早川書房)、The Magic Apple Tree(魔法の林檎の木/邦題『イングランド田園讃歌』晶文社)など。本国では、近年、長編ミステリの分野でも注目を集めている。


「2018年 『城の王』 で使われていた紹介文から引用しています。」

スーザン・ヒルの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×