越境 (ハヤカワepi文庫 マ 1-2)

  • 早川書房
4.38
  • (29)
  • (18)
  • (8)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 292
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (675ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200564

作品紹介・あらすじ

十六歳のビリーは、家畜を襲っていた牝狼を罠で捕らえた。いまや近隣で狼は珍しく、メキシコから越境してきたに違いない。父の指示には反するものの、彼は傷つきながらも気高い狼を故郷の山に帰してやりたいとの強い衝動を感じた。そして彼は、家族には何も告げずに、牝狼を連れて不法に国境を越えてしまう。長い旅路の果てに底なしの哀しみが待ち受けているとも知らず-孤高の巨匠が描き上げる、美しく残酷な青春小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 国境三部作の第二作目。

    オオカミを故郷へ帰そうというくだりは本当にすばらしかったが、その後が少し冗長。
    「すべての美しい馬」を先に読んでいたので、同じような展開に感じてしまい、あまり入り込めなかった。

    ただときどき入る逸話はとても興味深かったです。

    もう少し集中して読めば、この小説の神話的な真価が感じ取れるのかしら。

  • コーマック・マッカーシー著作初読。

    感情をほとんど排除した、乾いた、粛々と綴られる文体は、
    アメリカ南部、メキシコの荒涼とした風景の写像そのものだ。
    文体が光景を生み、光景が文体を生み出す。

    そこには広大で荒涼とした光景がある。
    馬の蹄の音、風、雨等の自然音のみが反響する。
    17歳の青年は馬に跨り、冷然と過酷な旅路を行く。
    大人への階段、運命の旅。

    まるでアッバス・キアロスタミの映画を観ているようだ。
    素晴らしい作品。

  • 2010年下半期分をまとめて登録

  • 読後しばらくしてから、じわじわと話が心に沁みてきた。
    細部を咀嚼し切れていないので、あくまで感覚的なものだけれど、無性に胸が詰まる。
    この作品(「すべての美しい馬」もそうだけれど)における「メキシコ」とは、“どこか別の場所”ってことなんだろう。自分が生まれ育った世界(=アメリカ)ではない、異世界。
    希望も絶望も、夢も血も暴力も、何もかもが混沌とした場所。
    ビリーは運命に流されて三回の越境をしているように見えるけど、ただ流されているのではなくて、そこには彼の意思があっての選択だったのだと思う。

  • 国境三部作の2作目。
    本作もアメリカ西部に住む少年が、メキシコへと越境し、数々の苦難の冒険を経験するという粗筋である。

    が、こちらは『すべての美しい馬』以上に強烈な喪失の物語である。
    主人公ビリーの3度にわたる越境が描かれるが、そのたびに近しいものを失っていく。失われていくものを何とか取り戻そうとしても、全ては逆効果、予めそう決まっていたかのように失っていく。

    主人公の喪失の物語の合間に3つの挿話があるが、それも全て主人公の運命を示唆し、主人公の孤独を強調するかために配置されているのは明白である。

    しかし、何故か陰鬱な雰囲気、悲しげな雰囲気はない。全ては淡々と進んでいく。

    西部のカウボーイという、失われし時代、失われていった人種、失われた社会を象徴しているのかな、とも思うが、もっと宗教的なテーマなのかもしれない。

  • アメリカとメキシコを行ったり来たりしつつ、悲劇に見舞われながら生きる主人公と対話する人々との哲学的な挿話で構成されている。様々な暗喩が込められて語られる会話がほぼ全体を支配してるので、相変わらず読みにくいが、分かり易い物語や伏線回収云々な小説よりずっと心に残るし、何度も再読出来る小説だと思う。

  • 舞台は1940年代のアメリカ・メキシコ国境地帯。主人公の少年は、三度び国境を越え、馬に乗ってメキシコの地を延々と放浪する。
    一度目は捉えた雌狼を生まれた地に送り届けに、二度目は盗まれた馬を取り戻すために、三度目は生き別れた弟を探しに。
    主人公は孤独な旅を逞しく続けるが、その過程であらゆるものを抗いがたい暴力によって喪失していく。
    壮大で厳格な喪失の物語である。

    文庫本で600ページを超える大作だが、最初の1、2ページを読んだところで、あまりの読みにくさに挫折しそうになった。
    独特な言葉遣いと長いセンテンス、詩的な情景描写、短い言葉を交わすだけのダイアログ、場面の切り替わりのわかりづらさ。
    心理描写は極力排除され、ただひたすら事物だけが描かれていく。
    特に、主人公が放浪の過程で出会う人物によって語られる挿話が長くて哲学的・宗教的で難解で、心が折れそうになるが、そこを乗り越えたときに頭で理解するのとは異なる、深淵な何かが確かに生じるのだ。
    主人公の旅に付き合うことで、時間感覚や地理感覚が拡張されていく感じ。

    先般(2023年6月)亡くなったコーマック・マッカーシーの「国境三部作」の2作目とされる。
    1作目の『すべての美しい馬』より先に読んでしまった。
    三部作すべてを読んでみたい気はするが、相当なスタミナが要求されそうだな…

  • 『すべての美しい馬』とこれと『平原の町』で国境三部作とのこと。
    気になる.

    そして1995年単行本を読んでいる.
    最初に、主人公が夜寝床から起き出して、狼の姿を見守る場面でもう絶対にわたしの好きな物語だと確信したし、読み終わるのがすでにもったいないと思った。

    そして読後、すばらしくて、訳わからなくて打ちのめされる。。。

    主人公は手に入れたいものを追ってアメリカとメキシコの国境を3回越境する。2回は手に入れたいものが手に入らなかった、3回目は手に入れたけどほしいかたちじゃなかった、といった意味の文章がある。
    狼を追っていって戻った後、まだ物語が続いて、なんでだろうと思っていたけれど、読み進めながらじわじわとそうかそうかこれでいいんだなと思う。そういうことなのだよ。

    3部作の3作目も読みたい。そして、フォークナーの『熊』も読んでみなければ。

  • 文学ラジオ空飛び猫たち第100回紹介本 https://spotifyanchor-web.app.link/e/KxSicJV3hwb すごい小説。初めて読んだときのインパクトは今でも残っている。今の自分が生きている社会とは違った倫理、ルールで生きているような世界観で、それは残酷で厳しくて、かなり暗くはあるけど、美しさも感じる。この何ともいえない、美しさがいい。 読むのは大変だけど、マッカーシーの世界観にはまったら、自分の世界観も影響を受けるかもしれないので、惹かれたら読んでみてほしい。

  • 三部に分かれるだろう。狼を連れてメキシコへ越境、盗まれた馬を探しにメキシコへ越境、弟を探しにメキシコへ越境の三部である。狼の部分はそれだけでも充分、独立した小説となるが、作者は物語を進めていく。
    すべての美しい馬は読んでいたが、その作品と比べると登場人物が語る『物語』が多いのがこの小説の特長のようだ。神もこの小説では大きな声でテーマだ。キリスト教でない私は浅くしか響かないが。

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

【著者略歴】
コーマック・マッカーシー(Cormac McCarthy)
1933年、ロードアイランド州プロヴィデンス生まれ。 現代アメリカ文学を代表する作家のひとり。代表作に『すべての美しい馬』『越境』『平原の町』から成る「国境三部作」、『ブラッド・メリディアン』、『ザ・ロード』、『チャイルド・オブ・ゴッド』(いずれも早川書房より黒原敏行訳で刊行)など。

「2022年 『果樹園の守り手』 で使われていた紹介文から引用しています。」

コーマック・マッカーシーの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×