緋色の記憶〔新版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 HMク 17-2)

  • 早川書房
4.06
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151799525

作品紹介・あらすじ

村にやってきた美しい美術教師。悲劇はここから始まった。老弁護士の回想で語られる事件の真相とは? 傑作ミステリがついに復刊

感想・レビュー・書評

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  • ある田舎町の学校に女性教師が赴任し、そこから起きた事件
    田舎町の平穏だけど退屈な空気感
    そこに現れた異質な存在に惹かれる少年(過去)と、それによって人生が変わり果てた老人(現在)が事件について語っていく。
    真相がわからないまま進むが
    引っ張り込むようなエンタメの要素は無い代わりに各場面静かで鮮明な描写と比喩に浸り、物語に引き込まれた。

    意図してるものかはわからないけど、現在と過去を交互に読むうち老人と少年が混ざり切り替わりの境目が無くなる瞬間を何度か感じ、混乱するではなくて「語っている現在の主人公自身が過去と行き来している」ように読めた。

  • まさかのトマスHクック、緋色の記憶、版元を変えての新版。20年ぶりくらいに再読。

    村に降り立った美術教師が同僚を愛した。その結果、悲劇が起こる。過去を悔やむ老弁護士が語る、チャタム校事件の真相とは。

    過去を振り返る系の小説としては、完璧。最高の小説だと思う。
    あの日あの時、誰が何をして、誰に何が起こったのか。徐々に明らかにする読ませ方が良すぎる。
    全編を通して漂う悲劇の匂い。合間合間に幸せだった頃の思い出がカットバックする。そこがまた、最後の悲劇をより強いものとし、胸が締め付けられる。

    ミステリというより、文学か。
    緋色の記憶で海外ミステリの良さを知り、どっぷりとはまってしまうことに。感慨深い小説。
    しかしまさか新版で出るとは思いもよらず。このまま夏草の記憶、死の記憶、沼地の記憶も続けて出て欲しい。

  • 1926年、アメリカ。ケープ・コッドにあるチャタム校に、新しい美術教師のミス・チャニングがやってきた。校長の息子ヘンリーは絵の才能を見込まれ、放課後や休日も黒池のほとりにあるチャニングのコテージを訪ねるようになる。だが、チャニングが同僚の文学教師リードと親しくなりはじめてから、少しずつヘンリーの世界は歪みはじめた。少年時代の記憶の澱を揺さぶるミステリー。


    完成度が高くて面白かったんだけど、最後まで読んで語り手がやらかしたことを知ると、途中で何度も「しんどい記憶だけど、今思えばあれも青春だった……」みたいな感慨を漏らしてたのが後からムカついてくる(笑)。最終章は激しい罪悪感から生みだされた捏造記憶の可能性もあると思うけど。
    これは保守的な父母や村の人びとを見下し、外の世界に飛びだしていきたいという憧れに目が眩んだ思春期の認知の歪み小説だ。前半は、村の異物でしかないチャニングの教養豊かで凛とした姿をきらきらとした理想化込みのヘンリー目線で追う心地良さがあり、たしかにヘンリーが”青春の日々”としてチャタム校事件を追憶する気持ちもわかるのだ。一方でチャニングが村に降り立ったその日から、絶え間なく悲劇がほのめかされ続けるのだが。
    認知が歪んでいたのはヘンリーに限らないのだと思う。棄てられるという不安に怯え続けたアビゲイルも、チャニングにファム・ファタルを見いだしたという意味で似た者同士のリードとパーソンズも。灯台での最後の会話からして、リードはアビゲイルを棄ててもメアリは連れていくとチャニングに話したのだろうし、その身勝手さに父の面影が重なり、チャニングは絶望したのだろう。ヘンリーもリードもチャニング自身とチャニング父の放浪癖を同一視しすぎていた。そして、生徒に詩を読み聞かせるリードの姿を眺めていたチャニングも、リードを誤解しながら恋に落ちたと言えるのかもしれない。そんななかで、思春期のヘンリーからつまらない人間と決めつけられていた父(校長)だけは噂に惑わされず、目先のわかりやすい”正しさ”に飛びつくこともない静かな真心に溢れた人物として面目躍如する。
    少年時代の回想と証人となり裁判で語った言葉、そして弁護士になった老ヘンリーの現在と、何層もの時間が重なり合い、悲劇をほのめかしながら丹念な心理描写で焦らしに焦らす。思わせぶりなミスリードの匙加減がとても上手く、死ぬのがサラだと察した瞬間が一番悲しかった。チャニング、サラ、アビゲイル、メアリが悲劇のなかに閉じこめられ、ヘンリーの母も(奥行きのある書き方はされているが)倦怠感に飲み込まれ怒り続けた女性として退場することを思うと、本書は女性の苦しみ、特に女性が一人で生きていくのがまだ難しかった時代の苦しみをテーマの中心に据えていながらも、老いた男の後悔と甘美な思い出から奥へ踏み込み切れてない、前時代的な”リアル”を感じられる物語だとも思う。

  • トマス・H・クックは初めて読んだ。
    すごく好みで驚き。クラシックな雰囲気、静かな筆致で、過去の事件が少しずつ浮かび上がる。
    その少しずつの書き方が、すごく上手い。最初は地味かなと思って読んでいたけれど、ぐんぐん引き込まれました。登場人物も多くないけれど、一人一人の置かれた立場からの思惑が練り込まれている。
    堪能しました!

  • ミステリーと一言で表現出来ない。細やかな情景、語り部の心情、結末は最初から分かっているようで、しかし深層は分からない・・・とても残酷な美しい、人間を描いた物語だった。初クック作品だったが、善き作家との出逢いに感謝。

  • 初版は1998年。ミステリーですが、恋愛を主軸にしています。心理描写や比喩表現が非常に美しい。主人公の過去の回想と現代を行き来しながら物語は進みます。エンタメ要素は皆無。文学的な作品となっています。ただ読む人によっては、それが難解に思えたりすることもあるかもです。読後、余韻に浸りたい方にオススメです。

  • 以前にクックの「夜の記憶」を読んだことがあり、この作品はまあかなり、いわゆる「イヤミス」で読んだ後になんとも言えない気持ちになって、登場人物の名前を全く別のシチュエーションで聞いてもその気持ちが蘇るトラウマミステリーでした。
    なので、なんとなくしばらく遠ざかっていたクックなのでした。


    こちらの作品も形は違えど、遠い日に起こった出来事を深い悔恨をもって回想する、そして出来事の真相が明らかになる、という点では同様の展開。

    他にも「記憶シリーズ」があるらしくて多くがこのようなパターンで展開されるお話との事、普通ならばワンパターンと感じてしまうところなのですが、これがクックの筆力にかかると仮にワンパと思っていたとしても深く引き込まれてしまうのです。
    ミステリーといってもかなり文学フレーバー強し。
    エンタメを求める方にはフィットしないでしょう。

    巻末の翻訳家の解説によると本国アメリカの書評家の間ではクックは「雪崩を精緻なスローモーションで再現するような」と表現されているらしいのですが、ほんと、これ、上手い事言うな〜と感心しました。

    まさにその通りで、事件の起きた背景や小さな誤解や保身の嘘や優しい嘘などをとても繊細に描いて秀逸。
    人物描写、その感情の描き方もとてもセンシティブです。

    この作品は「アメリカ作家クラブ賞最優秀長編賞」を受賞していたり、邦訳された1996年の「文春ミステリーベスト10」の海外部門1位、「このミス」海外編2位など、クックの実力を日本国内にも知らしめた1冊なんですよね。

    クックを初めて読む方はこの作品をぜひお勧めしたいです。

  • 静かな文章だからこそ、ぞっとする内容だった。
    文学小説慣れしてない人には、ちょっと読むのが苦痛かもしれないと思った。

  • 本筋と関係ないけど、さりげなく出てきたオキナワへの出征の途中で命を落としたという表現、当然そういう方がいるのに考えたことなくて、突然出てきてびっくりしてしまったな。
    最初から街に禍根を残した事件だってことはわかってたけど、その輪郭が削り出されるにつれてどんどん不穏さが増していって、どういう結末なのかと思ったら、ヘンリー!思ったよりちゃんと引きがね引いてた!
    本当の本当の真実って、本当は誰にもわからないよね。
    子供の頃やったことって自分で記憶捏造したり忘れ去ったりしがちだけど…とか思ったりもした。

  • 9月2日 日本経済新聞 書評
    摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50324697

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