病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘 下

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152093967

感想・レビュー・書評

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  • 後半は喫煙やアスベストなど、公衆衛生学上の知見によるがん予防、バップテストなどによる早期発見など、本格化するがんとの戦いが描かれる。

    HBVなどのウイルスやピロリ菌などの細菌による、環境因など、様々な要因によってがんが起こる原因として、細胞の分裂をつかさどる遺伝子の変異(がん遺伝子)や、暴走を制御する遺伝子(がん抑制遺伝子)の変異が明らかになり、これらは数百も見つかる。がんを起こすのは通常、こうした遺伝子一つのみの異常ではなく、複数の遺伝子が障害されることによる。一つの遺伝子異常を抱えたまま静かに増殖する細胞群の中に、2つ目の異常が起き、3つ目がおき、、、がんになる。

    タモキシフェン、ハーセプチン、グリベックなど、薬物療法の開発は進み、がんゲノムシークエンスにより、複数の遺伝子が障害されてがんが発生するメカニズムも明らかになっている。現状はまだ、がんは手強い存在であるが、今後は明るい(?)と思わせる書きぶり。

    ・がんのウイルス(鳥に肉腫をおこすウイルス)を最初に見つけたのはペイトン・ラウスであった。30歳の時に見つけたが、当時はその発見を冷笑され、87歳になってようやくノーベル賞を受賞した。

    ・乳がんの手術は時代とともによりラジカルな術式に移っていき、それはより広範で、身体的な代償を支払う手術であったが、1981年に大規模な臨床研究の結果が発表され、単純乳房切除術と長期予後は差がないことが示された。今日では、根治的乳房切除術が施行されることはほとんどない

    ・スクリーニング検査の指標として生存期間を設定するのはよくない。全く同じ時期にがんが発生した場合、鋭敏なスクリーニングでがんがみつかり、5年後に亡くなったケース、スクリーニングを受けずに同じ時期に亡くなったケース、二例を比較すると一見、スクリーニングにより5年、余命が伸びたように見えるがこれは間違い。このバイアスをリードタイムバイアスという。

  • 不死・永遠であり、原罪であり、まごうことなき自分自身であり、考えていくほどに深淵を覗いているような気にさせられる。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを見ているのだろうか。
    遺伝子変異の3ストライクで発症というのは仏教であるかのようだし、巧妙な耐性獲得は進化した次世代の生物のようですらある。
    正直、冗長で読みづらい部分も多いが、がんリテラシーの基礎本として、現代人は飛ばし読みでも読むべきかもしれない。

  • そして下巻はがんの予防、そしてついに来ましたがんのメカニズム解明。

    細胞分裂の開始と終了を司る遺伝子が変異するのが原因、てことで分裂のアクセル踏みっぱなし、かつブレーキが壊れた状態になってまうらしい。そりゃワサワサ増えるわな。。。で、その遺伝子を標的にした、副作用の少ない分子標的薬がついに出回り始めました、という現状でこの大作は締めくくられとります。

    最後まで読んでふと思ったのが、実は"がん"って病気とは違うんとちゃうか、と。もちろん発がん物質のような外部要因もあるけど、普通の細胞分裂でもDNAのコピーミスが発生して、そこからがん、ってのも確率的にありうる話やからなあ。

    あらかじめ生命の設計図に記載されてる、自分の別バージョンみたいなもんとも言えるなあ、とそんなことを考えさせられました。もちろんできれば発症したくはないけど(-_-)

    がんを知るにはホント最適な本やと思うので、あまねく人にぜひオススメ!

  • 140201 中央図書館
    少なくともこの本を読んでタバコを吸い続ける人がいる、というのが信じられない。疫学的に実証されたことでも、人々が納得するのは大変だ。

  • 下巻は、予防の占める割合が多い。特に、喫煙と発癌の関連が今まで感じていたよりもはるかに強いことを知らされた。
    その差の原因は政治的な情報制御としか考えられず、自分で情報収集しなければならないことを痛感した。
    癌がいずれ克服されるというような薔薇色の夢は描けないが、個々の癌に対して治療法がみつかって行くことには率直に感動させられる。

  • 読める人は全員読むべき本です。無関係な人はいない。

  • とんでもなく面白かった。
    疫学的、分子生物学的、
    腫瘍遺伝学的アプローチのお話もわかりやすく、
    他分野でもそうだが、
    科学の進歩と人類の探究心のすごさを思い知った。

    2011 年 ピューリッツァー賞一般ノンフィクション部門受賞作品。

  • がんはどうやってできるのか?最初のヒントは1775年のロンドン。クライミング・ボーイと言う煙突掃除夫に陰嚢がんが多発した。チムチムチェリーはすてきな歌だが実態は病気の温床だった。1761年素人科学者のジョン・ヒルは噛みタバコが口腔がんなどを引き起こすと発表した。タバコの消費は増え続け1855年頃クリミア戦争を契機に爆発的に拡がった。イギリス、フランス、ロシアの兵士が紙巻きタバコの習慣を持ち帰り、アメリカにも伝播した。1870年に一人当たり年間1本未満だったアメリカのタバコ消費量は30年後にはアメリカ全体で35億本のタバコと60億本の葉巻を消費した。しかしタバコと発がん性の関係が調査されたのは1948年ごろアメリカとイギリスの別のチームが同じ結論に達した。しかし喫煙と肺がんの相関関係がわかったとしても将来のリスクはわからない。1951年10月31日ロンドンのドールとヒルはついに追跡調査をすべき集団を見つけた。4万人を超える医者からのアンケートを回収し喫煙者と非喫煙者の仮想の集団を観察したのだ。集団内の死亡報告が上がるたびに集計し29ヶ月後789人の死亡が確認されその内36人の肺がん患者は全て喫煙者だった。1964年には臨床試験参加者数112万3千人と言うルーサー・テリーの報告書が提出され連邦取引委員会はタバコ会社にパッケージに「喫煙は健康に害を及ぼします」と表示するように提案した。政治的な力を持つタバコ会社の抵抗にも関わらず反タバココマーシャルはタバコのテレビコマーシャルを1970年末に中止させた。1983年に弁護士マーク・エデルは肺がん患者シポロンに勧めてタバコ会社に対して訴訟を起こした。シポロンがタバコのリスクを認識していたことは認めながら、重要なのは「タバコメーカーが喫煙リスクをどれだけ認識し、そのリスクを消費者にどれだけ公開していたか」だと。裁判自体はタバコ会社の勝利となった(責任は20%)がタバコ会社はその後も攻撃にさらされつづけた。

    がん研究の重要な一歩はエイムズによるサルモネラ菌の変異の研究から生まれた。サルモネラ菌を様々な化学物質で曝露し、元の菌が増殖できない培地に置いたときにどれだけ増殖するかは菌の突然変異によって決まる。菌を突然変異させる化学物質はがんの原因物質にもなりやすいと言うことが研究で裏付けられた。これが変異原性試験ーエイムズ試験で今では新しい化学物質を登録する際には必須の試験になっている。しかし、アスベストなどはエイムズ試験では変異原性を判定できない、万能ではないのだ。

    1960年代にはHBV(B型肝炎ウイルス)に感染すると、肝細胞がんのリスクが高まることが発見された。ブランバーグは遺伝子調査をしている際に血中タンパク質に注目し、HBVの感染を見分ける方法に気づいた。ウイルスが直接ガンの原因になることは証明できなかったもののブランバーグは発ガンウイルスの検査法とHBVのワクチンを開発することで伝染を止める方法を開発した。

    1979年胃炎の原因を調べたマーシャルは未知の細菌をなかなか見いだせずにいたが、ある時放置したままの培養基からピロリ菌を発見した。細菌が胃炎の原因になることを証明するためには感染させる実験をしなければいけないが、ブタは感染しなかった。1984年7月マーシャルは行き詰まり、助成金の申請も難しくなり究極の実験を行う。絶食して培養されたピロリ菌を飲み込んだのだ。数日後に具合が悪くなり内視鏡検査をした結果、急性胃炎を起こしており胃壁は細菌の層に覆われその下に潰瘍ができていた。若年層に対しては除菌は胃がんの発生率を大きく下げたが、慢性胃炎の高齢者にはあまり効果がなかった。

    1920年代に徹底的な細胞観察で子宮頸がんの異常細胞を発見したパパレンコウは発表時点では笑われた。子宮頸がんを診断するなら細胞塗抹なんて面倒なことをせずに、なぜ子宮頸部の生検をしないのか?パパレンコウのド録画実ったのは1952年、NCIの史上最大規模の臨床試験で15万人の女性がパップテストを受け、555人に浸潤性のがんがみつかり、そしてより大きな意味を持つ発見、557人のほぼ無症状の前浸潤がんが見つかった。そして前浸潤がんと診断された女性の平均年齢は浸潤がんと診断された女性より平均年齢が20才若かった。これにより子宮頸がんは治る病に変わった。そして、早期発見の可能性も拡がっていく。

    1981年それまでは化学療法によって大多数の白血球を破壊されたがん患者によく見られたニューモシスチス肺炎がアメリカ中の若い男性患者に見つかる。後にAIDSと名付けられたこの病気は当初ゲイ関連免疫不全「GRID」と呼ばれた。この病気が変えたのは認証薬のあり方だった。エイズ活動家はFDAの承認プロセスを攻撃した。「二重盲検法をつくった者たちは、末期の病のことなど念頭に置いていなかった。何も失うもののないエイズの犠牲者達は、喜んでモルモットになりたがるだろう。」シュプレヒコールは「薬を体へ、薬を体へ」。がん患者も声を上げる。エイズが未承認薬を使うのならばなぜがんには使えないのか。転移性乳がん患者は効果が確認されていないにも拘らず大量化学療法と骨髄の自家移植へと殺到した。未承認の治療法への治療費支払いを拒否した保険会社は敗訴し、保険会社のその姿勢のために治療が遅れたと8900万ドルを賠償請求をされた。この時にはまだ臨床試験は続けられていたが、患者は臨床試験ではなく高額の治療を選んだ。しかし、この治療法を推進する強力なデーターであった南アフリカの治験データーは全てねつ造されたもので、1999年から5年間かけて実施された臨床試験では乳がんのリンパ節転移に対して超大量化学療法と自家骨髄移植は否定された。(その後ある種のリンパ腫を自家骨髄移植が完治させることが判明している)

    がんの原因は何か?1970年代にはがん遺伝子が見つかった。srcと名付けられた遺伝子からつくられるタンパクがいくつもの細胞を活性化させ分裂加速状態へと陥らせる。では、がんは内在的な病気なのか。これまでの発がん物質との関係はどうなるのか?遺伝子の研究が進むと細胞分裂を進めるアクセル遺伝子(原がん遺伝子)と止めるブレーキ遺伝子(がん抑制遺伝子)があることがわかってくる。網膜芽細胞腫(Rb)遺伝子のケースでは正常なRb遺伝子は対になっていてブレーキとして働き、二つの遺伝子が両方変異して不活性化するとブレーキが壊れ分裂が止まらなくなりがん化する。発がん性物質は様々な理由で遺伝子を変異させ、結果としてアクセルを踏むかブレーキを壊す。また、細胞分裂を繰り返すと遺伝子のコピーミスが起こり変異した遺伝子ががんを発生させる。

    がん細胞はタンパク質をスイッチにして次々と他の遺伝子を活性化することがわかってきており、その際がん遺伝子が特異的につくるタンパクと結合する物質が考えだされた、それが分子標的薬だ。組み替えDNAの技術によってジェネンテック社は薬としてタンパクを作れるようになっていた。乳がん組織のHer-2と言うタンパクに結合する特別なタンパクー抗体がわずか3年で合成された。92年に臨床試験が始まり、98年にFDAに認可されたハーセプチンだ。

    1993年、6年前に乳がん手術と化学療法を受けていたマーティ・ネルソンは乳がんを再発しいろいろな文献を調べハーセプチンにたどり着く。しかし、健康維持機構はハーセプチンは未承認だからHer-2陽性かどうかを調べるのは無意味だと言い、ジェネンテックはHer-2陽性とわからなければ使用許可を出せないと言う。1994年10月手を尽くしてようやくハーセプチンの理想的な候補者だとわかったが遅すぎた。9日後ハーセプチンの使用承認を待ちながらネルソンは亡くなった。この事件がきっかけでジェネンテックは臨床試験は患者に対して行うのではなく、患者と一緒に行わなければならないと気づかされた。副作用に対するリスクを重視すれば未承認の薬をばらまくわけにはいかないが、一方で副作用がどうとかを待てない患者がいる。患者と製薬メーカーと行政がどう折り合いを付けるかは病気の種類や深刻さによっても変わるのだろう。

    ヒトゲノムは解読されたががん遺伝子の解読はまだ始まったばかりで散発的にがん遺伝子と抑制遺伝子が見つかってきている状態だ。同じがんでも人により効く薬も違う。がんとの戦いはまだまだこれからだが、少なくとも進むべき方向はわかってきたようだ。

  • ガンがエジプト/ペルシアなど古代文明で認識(ペルシア王妃が乳がんを切除)されて、そのかにのような固さ、広がった形からcancerと名付けられてから、現代までの経緯を著者自身の臨床経験と交えて熱く語る今年一番の力作。
    特に20世紀は寿命が伸び、タバコなどの発がん性物質もより一般化して来たガンの世紀となった。一方治療も手術は過激ともいえる、できるだけ切除する方法、化学療法は大量のカクテル療法を行い、正常細胞を死ぬまで追い込むあるいはがん化させるリスクを十分冒して対抗した。その背景は、遺伝子に異変を引き起こすガンの仕組みが明らかではなく、対処療法にとどまったことだ
    21世紀の後半にかけて
    1.増殖シグナルの自己否定、2.増殖抑制シグナルへの不応答、3.アポトーシスの回避、4.無制限な複製力、5.持続的な血管新生、6.組織への浸潤と転移
    と行った特徴が明らかになった。がなかなかこれらの知見に対応する治療法が生まれず/認可されず、時間の限られた患者との間での摩擦が高まった(エイズも同様)。しかし1980年代後半から、増殖シグナルを抑制する分子標的薬ハーセプチンの研究/認可が進むなど局所疾患、急激な成長、生体の機能の利用(血管を持ってくるなど)へ対応した治療法が出て来ており、完治数がこの20年で毎年改善していることは医学の勝利への希望が高まっている。

  • 第4部 予防こそ最善の治療
    第5部 「われわれ自身のゆがんだバージョン
    第6部 長い努力の成果

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著者プロフィール

シッダールタ・ムカジー(Siddhartha Mukherjee)
がん専門の内科医、研究者。著書は本書のほかに『病の皇帝「がん」に挑む——人類4000年の苦闘』(田中文訳、早川書房)がある。同書は2011年にピュリツァー賞一般ノンフィクション部門を受賞。
コロンビア大学助教授(医学)で、同メディカルセンターにがん専門内科医として勤務している。
ローズ奨学金を得て、スタンフォード大学、オックスフォード大学、ハーバード・メディカルスクールを卒業・修了。
『ネイチャー』『Cell』『The New England Journal of Medicine』『ニューヨーク・タイムズ』などに論文や記事を発表している。
2015年にはケン・バーンズと協力して、がんのこれまでの歴史と将来の見通しをテーマに、アメリカPBSで全3回6時間にわたるドキュメンタリーを制作した。
ムカジーの研究はがんと幹細胞に関するもので、彼の研究室は幹細胞研究の新局面を開く発見(骨や軟骨を形成する幹細胞の分離など)で知られている。
ニューヨークで妻と2人の娘とともに暮らしている。

「2018年 『不確かな医学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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