実力も運のうち 能力主義は正義か?

制作 : 本田 由紀 
  • 早川書房
3.84
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本棚登録 : 3369
感想 : 196
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152100160

作品紹介・あらすじ

出自に関係なく、人は自らの努力と才能で成功できる――能力主義(メリトクラシー)の夢は残酷な自己責任論と表裏一体であり、「勝者」と「敗者」の間に未曾有の分断をもたらしている。この難題に解決策はあるのか? ハーバード大の超人気教授の新たなる主著

感想・レビュー・書評

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  • アメリカでも(政治・人権・経済等で)深刻な社会の分断が起きていて、その始まりは、「実力主義的な成功」によるものだと本書では指摘しています。
    私たちは、能力主義の原則により忠実に生きる事よりも、選別や競争を超えた共通善を追求するべきだとの主張に、僕も同感です。
    日本でも、勝間和代のように「やればできる」とか、ホリエモンのように自分が頭の良い事を、環境や世の中がたまたま評価する才能を持って生まれたことに感謝せず、社会的な弱者をたたく人たちが大勢いますが、彼らは、社会的絆と総意の敬意が共通善を作り出すことを理解すべきだと思います。

  • 能力主義社会の問題点を述べた本です。
    言いたいことは分かったのですが、同じメッセージが繰り返されている印象があり、6割くらい読んで読むのをやめました。
    機械の均等が与えられる能力主義社会よりも、むしろ封建社会の方が貧困者の精神衛生は良いのではないか?と言うのは興味深い観点でした。
    筆者の主張の具体例に、アメリカの政治や社会問題が挙げられていたのですが、アメリカの社会情勢に精通していないため、あまりピンと来ない箇所もありました。

  • 物性研の所内者、柏地区共通事務センター職員の方のみ借りることができます。
    東大OPACには登録されていません。

    貸出:物性研図書室にある借用証へ記入してください
    返却:物性研図書室へ返却してください

  • 「これからの正義の話をしよう」を始めとするベストセラーを残す著者による、現在の能力主義をめぐる弊害と解決策を提示した一冊。
    過去、生まれや人種による差別をなくすために導入された能力主義的な考え方が、学歴社会を生み新たな格差が徐々に目立つようになり、ブレグジットやトランプ当選で顕在化した課題はどのようなもので、どう解決すべきか、といった内容。
    アメリカを中心とした政治情勢や様々な研究結果などを基にし、考察を加えています。課題解決策については、少し現実場馴れしている印象もありますが、それだけ問題意識があるということの表れであるのかもしれません。
    若干、似たような内容が繰り返しているような部分も見受けられますが、能力主義を完全に否定するのではなく、よりよい制度に変えていこうとする著者の思いが伝わってきます。一朝一夕に変わることができるものではなく、国によって状況が違うため、難しい面もあるものの、今後どのような社会にしていくべきか、そのためのヒントがこめられている一冊だと感じました。

    ▼成功は幸運や恩寵の問題ではなく、自分自身の努力と頑張りによって獲得される何かである。これが能力主義的倫理の核心だ。この倫理が称えるのは、自由(自らの運命を努力によって支配する能力)と、自力で獲得したものに対する自らのふさわしさだ。
    ▼自分の成功は自分の手柄、自分の努力の成果、自分が勝ち取った何かであるという信念だ。
    ▼高い教育を受けた者に政府を運営させることは、彼らが健全な判断力と労働者の暮らしへの共感的な理解ーつまり、アリストテレスの言う実践知と市民的美的ーを身につけているかぎり、一般的には望ましいと言える。だが、歴史が示すところによれば、一流の学歴と、実践知やいまこの場での共通善を見極める能力とあいだには、ほとんど関係がない。
    ▼人種差別や性差別が嫌われている(廃絶されないまでも不信を抱かれている)時代にあって、学歴偏重主義は容認されている最後の偏見なのだ。欧米では、学歴が低い人びとへの蔑視は、その他の恵まれない状況にある集団への偏見と比較して非常に目立つか、少なくとも容易に認められるのである。
    ▼非大卒者が政府にほとんどいないという状況は、能力主義時代の所産だ。しかし、先例がないわけではない。これが、大半の労働者が選挙権を手にする以前の状態への逆戻りだと気づくのは少々難しい。こんにちのヨーロッパ議会に高学歴者が多いという特徴は、財産資格によって参政権が制限されていた十九世紀末によく見られた状況に似ている。
    ▼優れた統治のために必要なのは、実践知と市民的美徳、つまり共通善について熟考し、それを効率よく推進する能力である。ところが、現代のほとんどの大学ではー最高の評価を受けている大学でさえーこれらのいずれの能力も十分に養成されているとは言いがたい。
    ▼不平等の解決策としてひたすら教育に焦点を当てる出世のレトリックには、非難されても仕方がない面がある。尊厳ある仕事や社会的な敬意を得る条件は大学の学位だという考え方に基づいて政治を構築すれば、民主主義的な生活を腐敗させてしまう。大学の学位を持たない人びとの貢献をおとしめ、学歴の低い社会人への偏見をあおり、働く人びとの大半を代議政治から実質的に排除し、政治的反動を誘発することになるのである。
    ▼消費者であり、生産者であるというわれわれのアイデンティティを仲裁するのが、政治の役目だ。ところが、グローバリゼーション・プロジェクトは経済成長の最大化を追求した結果、消費者の幸福を追求することになり、外部委託、移民、金融化などが生産者の幸福に及ぼす影響をほとんど顧みなかった。グローバリゼーションを支配するエリートは、このプロジェクトから生じた不平等に立ち向かわなかっただけではない。グローバリゼーションが労働の尊厳に与えた有害な影響に目もくれなかったのだ。

    <目次>
    序論ー入学すること
    第1章 勝者と敗者
    第2章 「偉大なのは善良だから」-能力の道徳の簡単な歴史
    第3章 出世のレトリック
    第4章 学歴偏重主義ー何より受け入れがたい偏見
    第5章 成功の倫理学
    第6章 選別装置
    第7章 労働を承認する
    結論ー能力と共通善

  • サンデルの論旨は実に明快だ。ぼくはついつい、自分のいまの環境についてそれが自分が為したことの結果と見なすくせがある。つまり、自己決定や自己責任の範疇で片付く問題だと。サンデルはそれに異を唱え、そうした「いま」「ここ」が環境や運という因子が働いた結果による可能性を提示する。ゆえに、そうした環境や運をも味方につけてこの競争社会の勝者になった人間は謙虚になる必要がある、と(彼らの富をどう再分配するか、も重要な論点となるだろう)。面白いのだけれど、ややもすると「心構え」を説く本としてのみ終わりそうでなかなか剣呑だ

  • 能力主義とはなにかと問題提起し一石を投げ入れている本。現代で言う能力主義で成功を収めたとしても、それはどこかの段階で誰かが手を貸してくれ、人生のどこかに素晴らしい先生がいたからであって、運命の偶然も含めて能力主義であり、一方では能力主義は目指すべき理想ではなく、社会的軋轢を招く原因であるとも語っている。運の一部である実力をどう評価すべきか、今後管理者がしっかり考えていかなくてはいけない問いである。

  • マイケル・サンデルの最新書にして最高の内容だと感じた。ポピュリストが欧米で優勢となっており、社会の分断を、能力・功績主義や学歴偏重主義がグローバリズムの時代も合間って格差を拡大し、労働の尊厳や民主的な政治を低下させたことによるものと分析。とくにアメリカの話題が中心だが、これから全世界が直面する問題だと思う。それを戦後間もない時代に早くも予期していたマイケル・ヤングなる社会学者に脱帽。欧米を真似て能力主義・成果主義を重視しようとしている日本も他人事ではないはずで、こういった議論を認識すらしていない人がほとんどではないか。これから世界トップのエリートたちが倫理観を身につけていってどのように変わっていけるか見ものだ。プロテスタントと能力の道徳についての歴史的な解説も面白かった

  • この人の本はいつも頭を殴られる感じ

    固定概念が如何に昔の知識やいい加減な根拠を基に作られているか認識させられる
    タイトルは内容を端的に現していると思う

  • 思いの外時間かかってしまったが読了

    能力主義≒成果主義の平等性を部分否定しつつ、やはり共通善や機会の公平性について論じている。
    日本のエリートは大したことないと思っているが、相対的に見ればその中にいるであろう人間としては
    筆者指摘の通り疑問を感じたり、逆に感じなかったりしてしまうことが多かった

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著者プロフィール

1953年、アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス生まれ。アメリカ合衆国の哲学者、政治学者、倫理学者。ハーバード大学教授。

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