ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業〔下〕(ハヤカワ・ノンフィクション文庫) (ハヤカワ文庫 NF 379)

  • 早川書房
3.80
  • (28)
  • (58)
  • (46)
  • (5)
  • (0)
本棚登録 : 733
感想 : 43
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150503796

作品紹介・あらすじ

指名手配中の弟の居場所を捜査当局に教えなかった兄は、その行為を責められるべきなのか?論議を呼ぶテーマの向こうに見え隠れする「正義」の姿とは?日常のアクチュアルな問いに切りこむ斬新な哲学対話が、世界の見方を大きく変える。知的興奮に満ちた議論は感動のフィナーレへ。NHK教育テレビで放送された「ハーバード白熱教室」の第7回〜12回、および東京大学特別授業の後篇「戦争責任を議論する」を収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 上巻を読んでから随分経つので、またイチからだったのだけど、とても刺激的で面白い議論が展開されていく。

    私が生きることと哲学は切り離せない。

    偶然、今日読んだ本の中でも、まさに東京大学で交わされたような、日本人が戦争中に起こした過ちについて謝り続けるべきか?というテーマが論じられいた。

    私が培ってきた思想や価値観、つまり考えの土台となる部分はこの国の教育が成したものだ。
    私のアイデンティティの少なからずは日本的なものと結び付いているし、離れたいとも思わない。

    この意味でコミュニタリアンの言わんとすることに重なる部分もある。

    例えば自分の家族が過ちを犯したとして、私にその責任を負う義務があるのだろうか。
    親の育て方だとか、犯罪者の家族だとして後ろ指をさされ続けることは、是としなければいけないのだろうか。

    後半の結婚という社会的承認のことも、考えさせられる。

    結婚が、生殖を目的としたものであるなら、男女間での結婚以外は認められないのか。
    また、宗教的信念が交わるのであれば、結婚という制度そのものを、国の手から離すことは可能だろうか。

    「私には、他者を深く考え、関与していくことは、多元的な社会にはより適切でふさわしい理念のように思える。私たちの道徳的・宗教的な意見の相違が存在し、人間の善についての究極的な多元性が存在する限り、私たちは道徳的に関与することでこそ、社会の様々な善を、より深く理解できるようになると思える」

  • 前回に引き続き面白い議論がたくさんあった。やっぱりハーバードなだけあって、学生の鋭い視線もすごい。指摘や批判も的確。そのような多様な意見を拾って、議論を上手にファシリテートするマイケル・サンデルも素晴らしい。自分も多角的な視点を持てるようになりたい。

    同性婚、愛国心・忠誠心のジレンマ、アファーマティヴ・アクションなど社会問題は判断が難しい。自分でも何が正しいのか結論が出せない。

    quote:
    この講義の目的は理性の不安を目覚めさせ、それがどこに通じるかを見ることだった。我々が少なくともそれを実行し、その不安がこの先何年も君たちを悩ませ続けるとすれば、我々は共に大きなことを成し遂げたということだ。

  • ≪目次≫
    第7回  嘘をつかない教訓
    第8回  能力主義に正義はない?
    第9回  入学資格を議論する
    第10回 アリストテレスは死んでいない
    第11回 愛国心と正義 どちらが大切?
    第12回 善き生を追求する
    東京大学特別授業(後半)
    特別付録 「それをお金で買いますか」より

    ≪内容≫
    ハーバード大の講義録の下巻。私には相変わらずついていけない部分がある。これを読むと、難しい世の中になったと自覚。いろいろと考えないと生きていけないのだが、あまりに日本人は”能天気”だと思う。

  • ハーバード大学で大人気の政治哲学の講義と東大安田講堂で行われた特別授業を書籍化した下巻となります。「正義とは何か?」この単純にして最も難しい命題に挑戦するサンデル教授と受講生とたちとの掛け合いに注目。

    この下巻は、NHK教育テレビで放送された「ハーバード白熱室」の第7回~12回まで、および2010年8月に行なわれた東京大学特別授業の後篇「戦争責任を議論する」を収録したものになります。

    僕がこういう講義に魅かれるようになったきっかけとは、現在は東進ハイスクールで教鞭をとっている英語講師の今井宏先生が大学時代の恩師の授業をはじめて受けたときにちょうど、サンデル教授が展開しているような授業たったと参考書に収録されているエッセイで述懐していたからです。自分がかくまっている人間を尋ねて人が訪ねてきたときにその人はいないと答えるということは果たして正義か否かという問題は、あんまり詳しいことはここでは言えませんが、この命題に近いことが実際の生活のうえで起こったことがあって、本当に考えさせられるものがありました。

    そして、東京大学で行われた講義には、前の世代で行われた過ちを今の世代が背負うべきか?という命題には。すごくデリケートかつ普遍的なことで、こういうことがものすごくまじめにやり取りされるのは、一般社会の営む上ではほぼありえない話で、普通は何も考えることなく通り過ぎていくものですが、いざ、この問題が浮かび上がってきたときに、きちんと立場を明確にできるのか?などと読んでいて自分に問いかけました。答えは出ていませんが…。

    この本はできることならば上巻とあわせて一気に読まれることをお勧めいたします。

  • 正義を考えるためには善を考えることが必要。

    善を考えるためには「原理と具体例を相互に往復しながら考えていくというアプローチを取るべき」
    by ロールズ(反照的均衡)


    カントの考えでは、人間が自律的に行動していると言えるのは、義務という名の下に何かを追求している時だけで、自分の個人的な利益のためではなく義務のために、何か善い道徳的な行為をしているときだけ。
    その行為は自由から生じている。
    なぜなら強制されたのではなく、道徳法則を受け入れることを自分で選んだから。

    道徳法則は主観的な条件に左右されないので普遍的な法則である。

    純粋理性とはどんな外部条件にも左右されず自分自身に適用されるもの。

    「正義の原理は、仮設的契約から最もうまく導かれる」by ロールズ

    「すべての正義は差別を内包する」byアリストテレス

    アリストテレスの考え方は
    「目的論的道徳理論」という考え方
    目的、目標から論理を組み立てる

    アファーマティブアクションへの反論を「大学教育にふさわしい目的や目標とは何か」という問いに置き換えることは、目的論的道徳理論の考え方

    アリストテレスの政治論
    政治とは、善い人格を形成すること、市民たちの美徳を高めること。つまり、善き生をもたらすもの。

    カントやロールズの政治論
    政治は私たちを善くするものではなく、私たちが善や価値、目的を選択する自由を尊重し、他者にも同様の自由を認めること。

    コミュニタリアニズム
    「自己というものは、ある程度までその人が属するコミュニティや伝統や歴史によって規定され、負荷をかけられている存在である」という考え方。
    負荷ありし自己

    コミュニタリアニズム批判
    「責務が、そのコミュニティの構成員というアイデンティティによって定義されてしまったら、責務どうしが対立したり、重複したり、競合したりするかもしれない。そこに明らかな原則はないから」

  • 2023.2.7読了

  • 「犠牲になる命を選べるか」「徴兵制の是非」「同性婚について」など馴染みやすい命題で議論が展開されますが、理解するにはある程度、哲学用語の知識が必要だと思いました。

    「格率」自分で自分に定めた行動の法則。信念とも言い換えることができる。
    「道徳法則」人間界には従わなくては道徳法則があるとカントは考えた。道徳的な行いを善しとする理性は人間だけに先天的に備わっているからである。
    「定言命法」道徳法則は目的を達成するための手段ではなく、目的そのものでなくてはならない。
    例:人に親切にすることに目的はない。なぜなら親切にすること自体が目的だから。
    自分の利益や要求、特別な状況がほかの人のそれよりも重要であるという理由で自分の行動を正当化するべきではないというのが定言命法の特徴であり要求である。

    自死について:生命の権利はとても重要で、とても基本的なものなので不可譲であり、自分でも放棄することはできないという。私の命は私自身の所有物ではない。なぜなら、他の人々が私に頼っているかもしれないから。人生を生きるとは、自分の命を絶って単に自由に放棄することはできないという、他の人に対する責任を含むかもしれない。

    人の尊厳を尊重するとことは、人を単なる道具とみなすのではなく、目的そのものとして考えることを意味する。だからこそ、他の人の福祉や幸せのために人を使うのは間違いである。

    恵まれた者は、恵まれない者の状況を改善するという条件でのみ、その幸運から便益を得ることが許される。

  • 『これからの「正義」の話をしよう』で有名になったマイケルサンデル。
    政治哲学をテーマに、生徒とディスカッションしている様子が記載されている。

    哲学や道徳、倫理について、深く深く思考を張り巡らせることが出来る上に、サンデルの超絶プレゼンも学べる1冊。
    アリストテレス、ロック、カント、ベンサム、ミル、ロールズ、ノージックといった古今の哲学者を、巧みなリードのなかで把握できるのも素晴らしい。

    価値観を右往左往してパラダイムシフトが起きる超良書。

  • 下巻も引き続き読んでみる。
    上巻よりも若干難しくて理解しにくいところがあったので、何度も読み返したりしていて時間がかかった。

    でも、やっぱり人を引きつけて惹きつける、この方の話術はすごいと思う。生徒のいろんな意見を分類したり、ぐちゃぐちゃになりがちな討論をきちんとまとめあげている。

    人気講座なのも納得。
    その場にいたら、すごく興奮するんだろうな。

  • 皆さんの正義とは?なんでしょうか。続編。自分の心に問いかける。

全43件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1953年、アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス生まれ。アメリカ合衆国の哲学者、政治学者、倫理学者。ハーバード大学教授。

マイケル・サンデルの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×