波〔新訳版〕

  • 早川書房
4.00
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152100276

作品紹介・あらすじ

遠い太陽の光が海辺の1日に降り注ぎ、生まれては消える波のうねりを情感豊かに描き出す。男女6人の独白が物語るのは、幻想のように過ぎた半生の思い出。くり返す描写と語りが重なるとき、意識が風景に打ち解けていく。ウルフの傑作が、45年ぶりの新訳で甦る

感想・レビュー・書評

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  • 人が成長し年を重ねるにつれてどうにも制御のしようがない偏りを持った個人になり、老いてからはかつての人間関係のなかにほどけてゆくさまがゆらゆらと描かれている。ストーリー全体を把握したあとで一文一文を味わうことだけに集中して読みたいし、できることなら原文で単語の並びを味わいたいという気持ちになる点で、詩に近い。一読して概観は把握できたので、これから読み返すのが楽しみだ。

    6人のだれにもウルフの一面が溶かし込まれているのだろうけれど、各登場人物にある内向性と頑なさの違いがじわじわ明確になっていくのがおもしろかった。ウルフが上手っていうのと、あー人間そうですよねっていう納得感と。

    後半になるまで題名の意味がひとつしかわかっていなくて(それも個人的にそう思ったというだけだが)、さらに別の層での波に気づいてあっとなった。どこを切っても波な本だった。

  • パフォーミングアーツを鑑賞しているような感覚だった。タイトル通り、誰かの語りに別の誰かの語りが(場合によっては同じ人の語りが)打ち寄せては消えていく。感情を揺さぶるでも、答えにたどり着くでもない、こんな読書体験があるのかと読み終わって震えた。

  • 本書は、同じ時をともに過ごした男女6人の独白と、独白の主体にはならないパーシヴァルという人物を合わせたの7人の物語である。

    海辺の風景に合わせて物語も進んでいく。

    つまり、本書の始まりは海辺の風景は日の出前から日の出に至るシーンから始まる。そこから物語が進んでいくにつれて、太陽も進んでいき、日が沈み、物語も終わる。

    太陽の位置と、彼らの人生の位置を関連づけて計算された物語であった。

    今まで『ダロウェイ夫人』『灯台へ』を読んできたが、本書も何気ない日常を描かれている。日常に潜む細かな動きを取りこぼすことなく拾い上げるこのウルフの感性にはすっかり虜になってしまう。

    ただ、6人のそれぞれの視点による独白のみで語られているため、一人一人の特徴などを思い浮かべて読んでいくことに時間を費やした。読んでいくうちに、それぞれの個性が分かってくるため、徐々に面白さは増していく。

    そして、脚注が充実して読みやすく、分かりやすい。とても親切な配慮がされている。

    ウルフ自身の体験はもちろん、当時ウルフが読んでいた本の内容も作品に反映されていたりするので面白い。

    『ダロウェイ夫人』のパーティや『灯台へ』のディナーの場面のように、本書でも複数の人物が集まって、同じ思いを共有する場面がある。

    ウルフにとってそのような場面はとても意味のある場面なのだろう。

    最後の最後まで『波』というタイトルについて考えた。

    それは最後の方でなんとなく薄らとイメージされる。

    消えては、生まれ、沈んでは、昇るような、1回きりでは消滅しないような。人ととの関わり、繰り返される日常、感情、生命、のような回帰的なものなのだろうか。

    1回の読了では理解が及ばない部分もあるが、最後の訳者による解説もすごく分かりやすいため、「なるほどなぁ」と思いながら読んでいた。

    繰り返し(引いては押し寄せるような波のように)読んで自分なりに理解を深めていきたい。

  • SNSでおしゃれに紹介されていて、憧れを持って手に入れて、読み出してびっくり!難しいというか、流れが、意味が頭に入って来ない…最初の20ページほどで中断し、数ヶ月。それでも何とか再開し読み進めるうちに、(ああ、タイトルの波とは、この波のように寄せては返すような文章の構成のことを言うんだな…)と理解してから何とか最後まで辿り着きました。訳者あとがきに著者ウルフのご主人が「一般の読者には最初の100ページは難解すぎるだろう」とおっしゃったとあり、私は心の内で「それな!」と叫びました(笑)私が特別読解力がないわけではなかったのだ…と安堵しました。というわけで、内容についての感想はあと2回くらい読まないと書けそうにありません。頑張ります(拳)

  • ヴァージニアウルフ、幕間で挫折してる。波。なんとも詩のことばでストーリーは掴めない。こんな読書体験はしたことないかもと思いながら読んでいます。
    923読了。
    いままでよんだ小説でいちばん追えなかった。

    さいごのさいごで、男女6人がなにものだだったのかが薄ぼんやり。

  • ちゃんと入ってきていない。
    詩に触れてこなったし(散文とは言え詩的な受容体を要する気がする)、読むのに早すぎたか遅かったかもしれない。味わいはまだ。うっすら。これが円だとすれば、接線にぶつかれば円に入っていけるのに、まだ平行線、とでも言おうか。
    感性で読みたいのに邪魔が入ってきてしまう。本の読み方、意識の仕方をやっぱり鍛えないとな、と思った。

    美しい本だと思う。
    繰り返されるフレーズ。
    青灰色の装丁、よくぞ選んでくれた。

  • 『波』を読み終わった後に何を読めばいいかわからない。土曜の夜11時に。1人で座っているときに。読書プランはあった。でもいまどこに居るんだ?ここからどこに戻ればいい?最も近そうな他のウルフ小説でさえ、永遠の彼方に感じられる。この空間、この思考。これが終極点?これがブラックホールの中心なのか。目を閉じて、この思念を抽象化し傍に避けてしまって新しい余地を生み出す?そしてその入れ物に次のインプットを待ち受ける?それが人生なのか。明日が月曜日でないとしても、いつかは常に月曜日が来る。せねば、せねば、せねば。そこから逃れる術はない。しかし、ここにいて、この戸惑いに目を背けるだけで抱えることになる虚無感、それはどんな本にも癒せない。そもそも初めからそういうルールで人生が進んでいく(かのように思える)こと自体も、『波』の空間からは全時間を凍結し、それら全てを見渡す視野と精神の領域を感受したのではないか。仕方なく、積み上げてきた読了本の山が崩れ去り、心の中からフレーズが消えていく、そのときを待ち受ける。静かに動かず、自分の喪に服すように。あるいは何かフレーズに頼って書き残したり、気休めに10秒数えて節をつくり、次の本を読む口実を、人生自体を問うのではなく、人生上での行動と経験を探るための嘘を重ねるしかない。いつか打ち立てたフィクションは現実に勝るという信条を、人生とはフィクショナルなものなのだというフレーズに刷新し、死を思うことも、美そのものに対する切迫性も捨て去る。身軽になり、現実という言葉の海、虚構に、回帰するのだ。少なくともそれは死と対極にある。

  • 台詞がト書きのような具合で延々続き、台詞だけで物語が展開していく。劇=詩《プレイ・ポエム》の極地ここに極まれり。

  • 男女6人の子供時代から老年期までを、それぞれの登場人物が語り口となって描かれる物語。
    ストーリー性はほとんどないに等しいが、美しい散文詩が降り注ぐかのように次々に現れて、読んでいてとても心地が良かった。個人的には間違いなく今年読んだ中でトップ3に入る作品。

  • タイトル通り、寄せては返す「波」のような作品だった
    散文詩を読んでるみたい

    「人と出会い、別れ、ぼくらは様々な形を作り出し、様々な模様をなす」という表現が、絶え間なく形を変え続け、決して一つの場所に定まることがない「波」のようだなと思った

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著者プロフィール

1882年―1941年、イキリスのロンドンに生まれる。父レズリーは高名な批評家で、子ども時代から文化的な環境のもとで育つ。兄や兄の友人たちを含む「ブルームズベリー・グループ」と呼ばれる文化集団の一員として青春を過ごし、グループのひとり、レナード・ウルフと結婚。30代なかばで作家デビューし、レナードと出版社「ホガース・プレス」を立ち上げ、「意識の流れ」の手法を使った作品を次々と発表していく。代表作に『ダロウェイ夫人』『灯台へ』『波』など、短篇集に『月曜日か火曜日』『憑かれた家』、評論に『自分ひとりの部屋』などがある。

「2022年 『青と緑 ヴァージニア・ウルフ短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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