時ありて

  • 早川書房
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本棚登録 : 168
感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152101846

作品紹介・あらすじ

戦記ノンフィクションを専門に扱う古書ディーラーが、即売会で手にした一冊の詩集『時ありて』。彼は詩集に挟まれた手紙に書かれた事実を追ううちに、第二次大戦の戦火を生きた二人の男をめぐる迷宮を彷徨うことになる。英国SF界のレジェンドによる傑作時間SF

感想・レビュー・書評

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  • 古書店主の主人公が、古本の間に挟まれていた手紙を見つけることから始まる物語。

    戦時中に出会った二人の間で交わされていた手紙
    その男性パートと二人がどうなったのかを追う古書店主パートが交互に進む。

    雰囲気がある文体なのだけど、状況がわかりづらく感じてしまった。
    ところどころ何回か読んでようやくどういうことかがわかる(何とも情けない…)
    話自体は面白かったのだけど、語り始めているのが何についてなのかを追うのに苦労して
    満喫できたのかが微妙でした。
    途中までSFだってことをわすれていた。

    時間の揺らぎと自分の存在の揺らぎ、話全体の揺らぎのリンクする点は見事だった。
    あとは文体に慣れるかどうか

  • 同性愛の時間旅行者ベン・セリグマンとトム・チャペル。この2人の痕跡を追う古書ディーラーのエメット・リー。2人の通信手段として使われているらしい書籍『時ありて』。イングランド東部海岸沿いの町シングル・ストリート、不確定性部隊。

    う~ん、最後までわけわからない作品だったな。最初の40頁くらいは内容が全く頭に入ってこなくて2回読んだ。途中からなんとなく話がつかめてきたが、モヤモヤしたラストで再びけむに巻かれた感じだ。

  • ロンドンにあるアパートの一室で本に埋まり、ネットで古書を売っている「私」は、有名な古書店の閉店に伴う在庫の処分品の中から、一冊の本を掘り当てた。E・L著とイニシャルだけが記された詩集で『時ありて』というタイトルだ。第二次世界大戦が専門分野である「私」は、普段なら手を出さないところだが、なぜか好奇心が働いた。刊行は一九三七年五月、イプスウィッチ。出版社は記されていない。紙も表紙の布地もいいものが使われている。中に何かが挟まっている。便箋が一枚。トムからベンに宛てたラブレターだった。

    「私」を視点人物とする、手紙にまつわる謎を解いてゆくミステリー調の章と、シングル・ストリートに暮らす「ぼく」とE・Lとの出会いや運命の相手と関係を深めていく話が交互に語られる。「私」の専門が第二次世界大戦関連の戦争物だったというのがミソだ。手紙の中に書かれた地名その他から、だいたいの時期が推測できるからだ。それによると手紙が書かれたのは一九四二年十月。エジプトのエル・アラメインの戦いの最中だと見当がつく。一切合切をフェイスブックに投稿すると、翌朝にはイースト・アングリアから返事が来ていた。誰かがトムとベンを知っていたのだ。

    ソーンという女性の曽祖父が従軍牧師としてエジプトにいたとき、二人に会っている。戦時中の記録が屋根裏に残っていて、写真もあるという。「私」はソーンのいるフェンランドに駆けつけた。ベン・セリグマンとトム・チャペルの名が、スフィンクスをバックにした写真の裏に書いてあった。「私」は許可を得たうえで写真を撮影し、一度目にした顔は絶対忘れない、という相貌認識の超能力を持つシャフルザードという帝国戦争博物館に勤める女性にメールで送った。五日後に面白い物を持っていると返事があった。彼女が見つけた写真は一九一五年にステネイシャムのパブの前で撮られているが、そこにトムとベンが写っていた。

    面白いのは、二人が所属していたのはオスマン・トルコの大軍と戦っている最中に、消えたと言われる、第五ノーフォーク連隊だったのだ。そして、もう一つ不思議なのは二十年もたっている割には、エジプトで撮られた二人の顔があまり変わっていないことだった。さらに、もう一枚、ボスニア戦争の最中、一九九五年に撮影されたドキュメンタリー番組のビデオをコピーした写真の一枚にセリグマンとチャペルが写っていた。カメラに向かって微笑む二人の顔はどう見ても百五十歳には見えなかった。

    どうやらトムとベンはいつも二人一緒にいられるわけではないのが手紙から分かる。二人は離れ離れになったとき、相手との通信手段として、欧州各国の大都市にある古くから続く古書肆に『時ありて』という詩集を売り、書棚に置かれた後、こっそり手紙をはさむ、という手を使っていた。ところが、ロンドンにある「黄金の頁」書店はつぶれてしまった。そして、偶然「私」がその手紙を手に入れることになったのだ。ネットで検索すると『時ありて』を置いている書店は他にもあり、中には複数置いている店もあった。ということは、いつかはそこにトムが顔を出す可能性がある。「私」は店を見張ることにした。

    英国SF界の重鎮、イアン・マクドナルドの手になる、詩情溢れる一篇。時を超え、国の垣根を飛び越え、あらゆる戦場に顔を見せる二人はいったい何者なのか。どうしてそんなことが起きるのか。二人の秘密を覗き見た「私」はその謎を解くため、残された文書を手がかりに、関係者を訪ね歩き、真相に迫ってゆく。一方、トムのほうはシングル・ストリートで、軍の仕事の合間を縫ってベンとの束の間の逢瀬を愉しんでいた。こうして「私」が探り当てて行く事の真相とトムによって明かされる事実が一つに撚り合わされたとき、運命ともいえる邂逅に出会うことになる。

    基本的には古書にはさまれた手紙の謎を追うミステリといっていいだろう。ある種のタイムトラベル物のSFともいえるが、量子論や不確定性原理についてよく知らなくても、二十世紀後半のUFOやオカルト・ブームを知る年代なら十分楽しめる。男性同士の切ない恋愛と「私」とソーンの馴れ合い的な同棲生活との対比が利いているし、ソーンの祖父をはじめとするフェンランドの変人たちの奇矯な振舞いがいかにもイギリスの田舎町といった雰囲気を醸し出している。パリの古書店の迷路めいた佇まいと一風変わった棚づくりも本好きにはたまらない。砂利浜の続く向こうにそびえるマーテロ塔は『ユリシーズ』ファンならお馴染みの物件、といろいろと愉しみの尽きない趣向に満ちている。

  • 時ありて | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015279/

  • この短さで、この読後感!
    果てしないものの前に放り出された気分。
    スティングのあの曲を絡めた一文は笑ってしまった。

  •  愛、あったか?
     
     本を手に取ってこんな薄くて、謎の解明と愛について書き切れるのだろうか?と不安になったが、その不安は解消されなかった。
     トムからベンへの感情は残された手紙で分かるけど、ベンの気持ちが分からない。ベンには性欲しかないようだ。エメットとソーンとの恋愛の件、必要だったのだろうか? それを書かずにトムとベンについてもっと書いて欲しかった。
     あと「リー」って名前に付く人が多くて、ソーンとやってた「リー」がどの人だか分からない。祖父? 訳者あとがきに「作中人物の名前が明らかに矛盾を起こしている部分に関しては、適宜修正をした。」ってあるのは何処の事? 

     この人の本を初めて読んだので、いつもゲイカップルが出て来るのか? 命の危険がある戦場という場所でないとタイムトラベル出来ないという縛りがあるから男女は無理で男同士のカップルにしたのか? それが気になっている。

     分からないとこ気になるとこいっぱいで星2の気分だけど、文章表現は好きなので星3にしました。もう一回読み直そう。
     なんか色々もやもやする。もやもやするのは、主人公エメットのもやもやした存在が上手く作品に反映されているから? うーん。

  • イギリスの古書専門ディーラーのエメットが主人公。偶然手にした詩集に挟まっていた手紙を追う形で綴られるSF小説。手にする言葉の端々に過去に生きて来た個人が蘇る。少し退屈だったが、最後の最後に、、素晴らしかった。

  • イギリスのSF作家、イアン・マクドナルドが2018年に発表したSFミステリー。待望の邦訳ということで、氏の作品を初めて手に取ってみた。

    古書ディーラーのエメット・リーは、閉店する書店の在庫から『時ありて』というタイトルの古びた詩集を手にする。その詩集にはトムとベン、二人の男性が第二次世界大戦中に行っていた秘密のメッセージの遣り取り、その一通が挟まっていた。手紙に隠された真相を追求するエメットは、彼らの「時をかけた物語」を目の当たりにする―――。

    一冊の古書、一通の手紙から始まるタイムトラベル・ロマンス。話の大枠自体は捉えることが出来たが、それだけ。明かされる真相が、それまでの展開で読み手を魅了させる対象となっていないため、盛り上がるべきところで盛り上がらないし、内容も中途半端で不完全燃焼感が強い。テキストも合わず、寝落ちすることも度々。残念ながら、私には合わなかったようだ。

  • イギリスの古書ディーラーのエメットは、詩集「時ありて』を手に入れる。そこには第二次大戦中にトムという青年が恋人に宛てた手紙が挟まれていた。物語は、手紙と詩集の謎を追うエメットの視点と、恋人ベンとの出会いから彼らが時間旅行者となる出来事までを語るトムの視点が交互に語られる。歴史の流れの中を旅する運命となってしまった恋人たちが、時に出会い別れ、各地に手紙を残していく姿が切なくて心を揺さぶられる。そして作者のELの正体がエメットに明かされた時、環が閉じられるのだ。見事な結末。

  • 短い言葉で説明するのが難しい小説である.
    帯に「英国SF協会賞受賞」とあるが,SFという語で乱暴に括れる小説ではない.この10年ほどで読んだ小説では,クリストファー・プリーストに一番テイストが近いなあ,と思ったが,そういえばプリーストもイギリス人だ.
    幻想的なファンタジーに,SFを組み合わせている感じか.

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