書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 早川書房
3.31
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感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350335

作品紹介・あらすじ

推理作家のクローンとして公共図書館の書架に住まう男。彼の力を借りるべく、謎を携えた麗しき令嬢が図書館を訪れる。令嬢に貸し出された彼の元に立ちはだかった驚愕の事件とは……。SF界の巨匠、ジーン・ウルフの最新作にして、騙りに満ちたSFミステリ

感想・レビュー・書評

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  • ハヤカワSFシリーズは初めて手にとったように思う。
    銀の背表紙、天地小口が茶色く塗られた特徴的な装幀。
    めくったページも茶色なのかと思っていたら、そこは他のハヤカワポケミスと同じ黄色だったのに、あ、そうなんだと思った。

    本書は既に没した人物でも脳のスキャンにより複製体(リクローン)を作成することができる近未来の設定。
    そして図書館の書架には作家のリクローンが配架され、借り出すことができる。
    ただ、この世界ではリクローンを借り出す人は稀で、書架のリクローン達は貸出記録がないことで自分がお払い箱にされる(焚書される)ことに怯える日々。

    とある日、ミステリ作家E・A・スミスのリクローンはコレット・コールドブックに借り出される。
    話をすると、亡くなった彼女の父親の屋敷の金庫から、スミスのかつての書『火星の殺人』が発見されたという。
    発見したのは兄だが、発見後程なくして屋敷で何者かに襲われ殺されてしまった。
    幸い『火星の殺人』は兄からコレットに手渡されていたので手元にある。
    何かしらの秘密があると睨み、その著者の力を借りたいとのこと。

    という、見た目は「人間」、扱いは「本」という主人公スミスが、ちょっとちぐはぐな言動をしながら、屋敷の秘密に迫っていく。

    『火星の殺人』の謎を追うというメインテーマが軸にありミステリ寄りではあるものの、所々SFらしいふわふわした感のある物語だった。
    フリッター(飛翔機)やスクリーン(コンピュータ的なもの)、メイド・ボット、小型原子炉等この作品世界を象徴するものがしれっと当たり前のように登場することで、現実とのズレが埋めきれず、あぁなんかそういうものねという眩暈を覚える。

    主人公のスミスも、自身の立ち位置(ただのリクローンで本物の人間ではない)に対する負い目が強く、「探偵」と言うにはいささか頼りなげなのだが、それもそのはず原題は「A BORROWED MAN」、つまりただの借りられた男。
    借主に対する忠誠心、感謝の念と生前のミステリ作家という職業から探偵っぽい振る舞いをしているだけなのだ。
    でもそうして行き着く真相は、ちょっとありがち感はあるが、ちゃんとミステリした結末。

    しかしこれが著者84歳の作品とは。
    すごい創作力。
    続編『書架の探偵、貸出中』もあります。

  • 人口が十億人にまで減少した未来の世界のニュー・アメリカ。
    亡くなったミステリ作家の複生体(リクローン)は
    図書館の書架を住処として
    希望者に貸し出されるのを待つ、蔵書ならぬ「蔵者」だった。
    ある日、コレットと名乗る女性がやって来て彼を連れ出し、
    生前の著書の中に重要な秘密が隠されていると告げた……。

    ――というディストピアSFミステリ長編だが、
    予想外に肩の力を抜いて楽しめた。
    文明批判の一種には違いないけれども、
    凝った「騙り」の多いこの作家にしては、すっきりしたストーリーで、
    入門者にもとっつきやすいかもしれない。
    随所で様々な先行作品のイメージを喚起する言葉選びが
    なされているのも楽しい。

    売れっ子ミステリ作家の若かりし日のコピーで、
    顔は晩年のイメージに合わせて改変されているが、
    内面はナイーヴな青年のままだし、
    目覚めてからずっと図書館で暮らしているため世事に疎い、
    賢いけれど非力な男が外に出て奮闘する様が愛おしい。

    途中からバカSF風味(!)が入ってくるけれど、それも含めて面白い。
    映画化したら、上質なサスペンスが後半でB級ホラーっぽくなって
    脱力すること必至と見た(笑)。
    ラヴクラフト「ランドルフ・カーターの陳述」をご存じの方は、

     Q.“こちら”と“あちら”で携帯電話での通話は可能か
     A. ドアが開いていて電波が届けば

    といった問答でニヤリと笑うこと請け合い。

    ところで、この作品中にも "island" "doctor" "death"の三語が
    浮かび上がるのだなぁ。
    『デス博士の島その他の物語』を再読したい……。

    結末の主人公の選択は……どこの誰とも知れぬ「あなた」に向かって
    この物語を綴るためだったのかもしれない、そんな気がする。

    それにしても、80歳を過ぎても
    こんなに瑞々しい小説を発表できる作家とは!
    普通は年を取ると気力・体力が衰えるので、
    アイディアが湧いても作品を完成させるのは――特に長編は――
    厳しいと思うのだけど、驚嘆の至り、そして、惜しみない拍手を!

  • 序盤読み始めてこのジェンダー観やばくない?古典か?いつの本だよいうて確認したら2015年のでビビり倒したけど書いたのが84歳のおじいちゃんで二度ビビる

    おじいちゃんことジーン・ウルフさん本初見

    全体的にキャラ立ちよすぎんか?という印象 翻訳もいいのだろうな、というかんじ

    主人公(100何年前に存在した作家のクローン、図書館に蔵者として収蔵されている)は自分を借りてくれた人物に起きたことについて首を突っ込み奔走する。その過程でまるで本当の図書館に所蔵された本のように色んな人に借りられたり、借りられそうになったりするが、受ける扱いはぞんざい。その扱いからも分かるように人間からは人間未満とみなされている。しかし実際のところは内省的な存在であり、その境界は曖昧、むしろ人間なのかもしれない。その内省的、という点で、私達の現実世界における本もその実そうなのでは?というかんじ は?となるだろうが、私もは?となっている、詳しいところが言語化できない くるしい 言語化できるようになりたい とにかくミステリ色つよめのこのSFにおいて、このクローンがオリジナルの自分、そこといまの差異について思案するのがめちゃくちゃツボ 最高

  • ファンタジーかと思えばミステリ、さらにはハードボイルド、SF、そしてまたぞろミステリ、と様々な顔を持つ本書。ジーン・ウルフのガチのファンの方には物足りないでしょうか。「ケルベロス…」などと比べるとエンタメ寄りというか、親しみやすいというか。確かに、その分読後の高揚感は足りないかもしれません。ただ、続編が予定されているようなので(ウルフじいちゃんがんばれ)しっかり評価するのはそれからということで。

  • おもしろかった。

    素敵な表紙に中世ヨーロッパぐらいの探偵ものを予想すると、まさかの未来設定。
    図書館に住まう主人公は
    デジタル移植でつくられた人間扱いされない、人間。
    生きたデータとして、貸し出され、不要となれば廃棄もありうる、と。
    いやあ、ほんっとすごい設定。
    そしてとある女性に貸し出されたことから、始まる事件。
    これはどーゆー展開に?と思いつつ読んでいたら、
    なんと屋敷に別の惑星に通じるドアが、とまたまたとんでもない設定が!
    あれ、なんかSF系なの?とか一瞬戸惑う。
    なんだか先がみえず、どうなってんだー?っとくらくらしてたら、最終的には身内のごたごただっただと~!
    っと、いやあ、最後の最後まで飽きさせないなあ。
    にしても、結局、実年齢としては彼はいくつなのだろう?
    最初っから、元の人間が死んだときの年齢にされるのだったら、クローニングされて、数年ってこともありうるんだよなあ。

    なんかぶっとんだ設定なわりに、主人公の語りが、
    落ち着いている、とゆーか古めかしい
    (いや、それは脳が過去の人のものだかららしいんだが)
    ので、ぶっとび感が緩和されてちょうどいい感じで読めた。
    よく考えると海外SF系はいつも途中挫折するんで、
    最後まで楽しく読めてうれしい。

  • 謎も謎解きもしっかりとある少しSF風味の入ったミステリ
    なのだが、この本のキモはそこではないと思う。

    物故した作家の、記憶までも完全にコピーしたクローン体─
    リクローン─を、蔵書ならぬ「蔵者」として図書館に収蔵
    するということが実現したら一体どういうことになるのか。
    そしてそんなことが起こる社会とはどのようなものなのか。
    そういう一種の思考実験がこの本の面白いところなのでは
    ないだろうか。

    もちろん素直にミステリとして読んでも十分に楽しめるの
    だが、さすがはジーン・ウルフ、エンタメ寄りでわかり
    やすい作品でありながらいろいろと考えさせられる内容で
    あった。本を大切にしよう。

  • 全てが「スクリーン」で事が足り、「ボット」が些事を片付けてくれる世界。脳スキャンされた「物語の作者」が「貸出」できるようになっていた。処分寸前の「彼」は久しぶりの「貸出」にわくわくしていたが……。なんだろう、このだらだらしているのに楽しい感じ。ジーン・ウルフってこんな感じだよなあ。

  • 表紙に惹かれて何となく借りたもので、この著者の作品は初めてです。

    図書館の蔵書ならぬ蔵者、が主人公です。死んだ作家の脳をスキャンして作ったクローンで、外見も記憶も言動も(多分思考の方向性も)オリジナルそのもの。一人の作家に対してクローンは複数作れるし、長期間借り手がなければ売られるか、買い手がなければ焼却!される。面白いけれど、増えてきたら図書館は管理が大変だろうなあ。

    いずれクローンの人権とかも問題になるだろうけれど、まだそこまではたどり着いてない、未来のいつかの話です。

    自分を借り出した女性と一緒に危険に巻き込まれていき、謎解きをしていくわけですが、読み終わってちょっと不完全燃焼です。なぜ鍵がこの著者の作品でなければならなかったのか? 途中出場の素敵な協力者たちは、その後どうなったのか? で、何がどうしたら(物理法則をどういじったら)それを実現できたのか? 続編があればそこで明かされるのかもしれません。気ままに待ってみます。

  •  図書館の蔵書は借り出されることを待っているか? きみが来るのを待っているんだよなんて童話がありそうだが、では、図書館の蔵者はどうか。
     待っているのである、借り出されることを。
     舞台は何百年か未来。図書館の書架には小説家や芸術家のクローンが暮らしている。彼らは生前のオリジナルから脳スキャンで採取された記憶がインストールされている、作家の複製なのである。彼らは閲覧されたり、借り出されることを待っている。あまり借り出されないと焼却処分となるからである。

     さて、わたしは少し身構えながら本書を読み始める。ジーン・ウルフの小説、何が仕掛けられているかわからないからだ。しかし話はわりとスムーズだ。蔵者である「わたし」、E・A・スミスは『宇宙のスカイラーク』の作者ではなく、ミステリ作家だった。もちろん『火星のプリンセス』の作者でもないが、『火星の殺人』なんて本は書いたことがある。そんな「わたし」のもとにコレット・コールドブルックという美しい女性が来て、「わたし」を10日間借り出していく。
     コールドブルック家は謎の多い一家である。コレットの父は投資家で一代にして巨額の富を得ているが、最近亡くなった。自宅には子どもたちを入れさせない秘密の実験室がある。母もすでに亡くなっているが風変わりな人物だったらしい。父が厳重に保管していたのは1冊の紙の本。金庫を開けてその本を取り出したコレットの兄は何者かに殺されてしまう。しかしその本はコレットの手に渡っており、彼女はその本に何か秘密が隠されているのではないかと考えている。そしてその本とは『火星の殺人』なのである。

     「わたし」は図らずもコレットに付き添って探偵のような作業を始めることになるが、「わたし」だって自著に何の秘密があるのかはわからない。そこにコレットの兄を殺した者たちの手が迫ってくる。
     「わたし」はE・A・スミスの一生分の知識を備えながら、しかしたいへん若く、日がな一日、書架で過ごしていただけの何の経験もない男。しかも真正な人間ではなく、人権もない。コレットが誘拐されてしまうと、「わたし」にはもうなすすべがなく、自分の所蔵館に戻るしかない、というのが、はじめのほうの展開。

     さて、登場早々にウルフはコレットに「女は嘘つき」などと語らせており、話者であるスミスのオリジナルが生きていたのは一世紀以上も前で、世間のことも十分にはわかっていない。これは信用ならない依頼人のミステリか、あるいは信用ならない語り手のミステリか。
     よく当たる投資家だったら、タイムマシンでも発明したのかなどと予測しながら読むが、『火星の殺人』並みの展開があることは保証する。ま、火星は出てこないが。

     ウルフの小説にはいつだって含蓄深い言葉が埋め込まれているのだが、所蔵館へとトラックで連れ戻される途上、「わたし」はトラックの運転手をみくびっていたと思い、こう独りごちる。人が人をみくびるのは主として人が自分自身をみくびっているからだ、と。
     原題は『借り出された男』。上記の設定を説明しないとわかりにくいので『書架の探偵』と訳したのはいい。しかし、「書架の探偵」のイメージは安楽椅子探偵である。書架ですべてを推理するのかというと、そうではなく書架から出るところから話は始まる。スミスは行動的である。特に自分を見くびっていたことに気づいてからは。
     行動する探偵の一人称の物語とはハードボイルドなのが普通。しかしウルフはそれも裏切る。蔵者はオリジナルらしい喋り方をするように脳に調整がなされていて、「わたし」は、本文の描写によると「大学教授のような堅苦しい喋り方」をするのである。翻訳だとむしろ執事のようだ。それがこの「探偵」に奇妙な味わいを付加する。
     オリジナルの生きていた時代から1世紀以上も未来の世界を歩きながら、文明論的な観点にもちょっと触れつつ、SF的な筋立てをへて、しかし最後はしっかりとミステリらしい謎解きになる。
     そしてスミスは書架に帰る。書架に帰って次の事件を待つ。続編が予定されているらしいのだよ。高齢のウルフが蔵者にならないかぎり、いずれそれは読めるだろう。

  • 亡くなってる作家のクローンを作り、図書館で閲覧、貸出ができる未来。彼らは一定期間に閲覧、貸出がないと焼却される運命だ。ミステリ作家E・A・スミスのクローンがある女性に借り出された。彼女の父親が残した本の謎を解いてほしいという。その本はスミスの著作なのだが、死んだ作家の記憶を完コピしてるはずのクローンには全く覚えがない。とにかくSF的なガジェットが多数ぶっこまれてるのに、スルーされるネタが多すぎる。いったい何の意味があって登場したのか分からない人物や、異星につながってる謎の部屋等、何も説明してくれない点が多いのがこの作者らしい。あらすじはハードボイルド調で、謎の女には裏があり、探偵役のクローンも礼儀正しいお人好しでは終わらないのが面白かった。

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著者プロフィール

1931年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。兵役に従事後、ヒューストン大学の機械工学科を卒業。1972年から「Plant Engineering」誌の編集に携わり、1984年にフルタイムの作家業に専心するまで勤務。1965年、短篇「The Dead Man」でデビュー。以後、「デス博士の島その他の物語」(1970)「アメリカの七夜」(1978)などの傑作中短篇を次々と発表、70年代最重要・最高のSF作家として活躍する。その華麗な文体、完璧に構築され尽くした物語構成は定評がある。80年代に入り〈新しい太陽の書〉シリーズ(全5部作)を発表、80年代において最も重要なSFファンタジイと賞される。現在まで20冊を越える長篇・10冊以上の短篇集を刊行している。

「2015年 『ウィザードⅡ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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