ポリティコン 下

著者 :
  • 文藝春秋
3.29
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感想 : 64
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163299600

感想・レビュー・書評

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  • 阿部和重の「シンセミア」等もそうであるが、
    ローカルな閉鎖的とも言える社会で、
    一見平和に均衡を保っている個々人が、
    腹の中では実に人間らしい思いを抱えており、
    一線を超えダークサイドに落ちてゆく過程の物語は、
    作者の筆力もあり、大変読み応えがある。
    ラストを読むと続編を考えているのかな、と勘ぐってみたり。
    2 人のその後、マヤの母、脱北者について、もっと知りたい気がする。

  • +++
    唯腕村理事長となった東一は、村を立て直すために怪しげな男からカネを借りて新ビジネスを始める。しかし、村人の理解は得られず、東一の孤独は深まる一方だった。女に逃げ場を求める東一は、大学進学の費用提供を条件に高校生のマヤと愛人契約を結んでしまう。金銭でつながった二人だが、東一の心の渇きは一層激しくなり、思いがけない行為で関係を断ち切る。それから10年、横浜の野毛で暮らしていたマヤのもとに、父親代わりだった北田が危篤状態だという連絡が入る。帰郷したマヤは、農業ビジネスマンとして成功した東一と運命の再会をした。満たされぬ二つの魂に待ち受けるのは、破滅か、新天地か。週刊文春と別冊文藝春秋の連載が融合されて生まれた傑作小説、堂々の完結。
    +++

    上巻は主に東一の視線で綴られていたが、下巻は主にマヤの視線で綴られている。東一の慰み者になる代わりに大学進学の費用を出してもらう契約をし、夏休みに進学セミナーに参加したまま唯腕村に帰らず、怪しげな小杉の店でホステスのアルバイトをしていた。そこで東一と出くわし、学費の形に売られて東京にやられ、唯腕村とは縁が切れたかに思われたのだったが、北田の危篤を知らされて村に帰り、一見生まれ変わった村の内実を目の当たりにし、しかも、長年親代わりと慕ってきた北田やスオンの存在に疑いを持ち始め、逃げるように唯腕村を後にするのだった。
    元はと言えば母の理想と命がけの仕事に振り回され、逃げるように唯腕村に入村してからは、東一の理想と強引さと身勝手に振り回され、運命の過酷さと非情さに振り回され続けたマヤだったが、最後の最後に自分として心からの選択ができたのだとしたらそれが唯一の光だろう。まさにこの国の縮図のような一冊である。

  • 相変わらずの筆力の凄まじさ。ページをめくる手が止まらず一気に読みました。

    我土に生き…云々な理想を掲げたコミューン的な村はやがて、過疎化、高齢化による労働力不足で貧窮にあえぎ、ユートピアからディストピアへと変容していく。
    上巻は村の若き理事、東一の自分探しから始まり、やがては自分の生き方を村に見つけていくストーリーですが、下巻はひたすら村から逃げ出したかった少女マヤのストーリー。

    閉鎖的なディストピアと化した村に風穴を開けるべく新しい住人を迎え入れても、そこには脱北者、食品偽造の問題など、近い将来、本当にこんなことも起こりうるのではないのかという妙にリアルな不安に包まれながら読んでいました。

    村の名前が「唯腕村」というのはトルストイ云々の由来という設定だったのですが、どうも最後の「イワンの馬鹿」エピソードが書きたかったのもきっとありますよね(笑)
    妙に俗でずるい、長いものには巻かれろ的な村の理事になってしまった東一がどんどん因果応報な目に遭うさまは、童話でまっさかさまにやぐらから落ちて死んでしまう悪魔のイメージと重なります。
    ただ、このずるくせこい私利私欲に走る東一も、ワタシはなんだか個人的にそこまで憎むことはできませんでした。(きっと自分もずるいからだと思いますが(笑))

    と、この辺りまでは大変面白く読んでいたのですが、ラストで
    「あるぇ~??」
    と思ったのは、きっとワタシだけではないはずです(笑)
    悪くない、悪くないんだけどあー、これ、結構賛否両論だろうなぁ~と思ってしまいました。
    桐野さんにしては珍しく若干カタルシスが見え隠れするラストなので、好きな人は好きだとは思いますが、個人的にはちょっと尻切れトンボかなぁ~、ピリオドはもう少し後で打って欲しかったです。
    続編を望む方もいらっしゃるみたいですが、ワタシもその後の話がもう少し読みたいですね。

  • 上巻で東一のエゴや醜さが垣間見えたところで
    下巻は「唯腕村」で彼がどのように立ち回るのか...
    現実を直視しないリーダーは今の政治にもあてはまる。
    題名の「ポリティゴン」はアリストテレスの
    人間は政治的動物(=ゾーオン・ポリティコン)であると言う
    定義から。
    ラストに一條の光りが見えるがこれは希望なのか?

  • 感想は上巻に記載してます。

  • ユートピア「唯腕村」でのドロドロした感じのお話のつづき。

    やっぱり、ユートピアってなかなか難しい。
    理想が高ければ、高いほど、現実とのギャップに苦しめられる。

    今の自分の生活がやっぱりいいな。と思ってしまった。。

  • 図書館にて。
    朝の時間で夢中で読んだ。
    ラストまでどうしようもない、なまぬるい地獄を這いまわっているよう。
    それなのにあのラストはどう?守って来たつもりのものから追い出されて、どうしてか生き生きと希望があるようにみえる。
    でもやっぱり、すごく気持ちの悪い世界。
    この作者の書く世界って、自分もそこに放り込まれたようなリアルさがあって、しばらく世界から抜けられない。今も東一の息遣いや、イワン村の匂いがすぐそばでしてくるようで、気持ち悪い…。

  • 「東京島」の田舎の♂版かと思いきや、いつもの桐野夏生と違い、W主人公の♀に救いの手を差し伸べる意外なラスト。
    利己的な、ある意味素直な主人公の東一が憎めないキャラで上巻はあっと言う間に引き込まれて読んでしまった。
    下巻は、マヤというもう一人の主人公の母の失踪の謎解きが軸となっているが、イマイチ不完全燃焼な結果であった。
    ただ、美しいマヤが他の人以上に不幸な人生を歩んでいることは確かだが、東京に出て同じように不幸な人生を歩んでいる人がたくさんいることに気付く。
    思春期って自分だけが不幸な気がするもの。歳を取るにつれ誰もが結局同じような人生を歩んでいることに気付き、もうこれ以上は望めないことを悟るんだと思う。
    勿論、桐野夏生はその周辺にいる人々を意地悪いまでに様々な人の悪意を描き、感心する。後半村の人々が歳を取り、10年後から始まるのが勿体無い。もっと、村の人間関係のドロドロを見て見たかった。
    特に、山形県の新庄市の外れという設定がまさに我が故郷近くのため、孤立する村の雰囲気が良くわかった。
    さすが桐野夏生!であるが、ラストの優しさが心境の変化⁈とうたがいたくなった。
    あー、楽しかった♪桐野夏生に感謝!

  • どこまでも自分勝手な東一、村の老人達の汚さにムカムカしながらも読んでしまう。理想郷なんてあくまで理想であって存在し得ないものなんだなと改めて分かる。やっぱり桐野さんの作品はエグい、まさに絶望郷。ま、私はそういうものが定期的に読みたくなるんですけどね。

  • なんか、下巻はいきなり話が飛んだイメージ・・・・

    最後の〆は結構好きなんだけど、上巻の濃さに比べて下巻は密度がうすい。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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