送り火

著者 :
  • 文藝春秋
2.87
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感想 : 158
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  • Amazon.co.jp ・本 (120ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163908731

感想・レビュー・書評

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  • 暴力シーンの迫力ある描写に圧倒されました。
    凄惨で理不尽な暴力を、一切の感情を交えずに、微細に描く。
    時に眼を背けたくなるほどの迫真性を帯びています。
    いや、見事というほかありません。
    東京から青森に越してきた中3の歩が主人公。
    クラスには、リーダー格の晃を筆頭にやんちゃな男の子たちがいます。
    歩はすぐに打ち解けますが、物語はここから不穏さをまとっていきます。
    その不穏さの火元は、男の子たちが興じる遊び。
    不良の先輩たちから受け継いだらしい遊びには常に暴力の影が付きまとい、時にその片鱗を現します。
    物語は単線的に進みますが、読者はこの不穏さに憑りつかれて、ページを繰る手が止まらなくなります。
    そしてラスト。
    ついにその暴力があられもない姿を現し、歩をはじめ登場人物たちを喰うのです。
    もちろん、これは比喩。
    ただ、飼いならしていたはずの暴力が、当の飼い主に襲いかかることもあるのだと。
    私はそのように読みました。
    それにしても、作者の描写力は半端ではありません。
    いくつかインタビューを読んだ限りでは、著者は大学時代の一時期に読書に夢中になった程度とのこと。
    読書量は並以下ではないでしょうか。
    それでも、これだけ豊富な語彙を持ち、言葉を的確に運用できるのですから、これこそまさに天性の才能というものでしょう。
    芥川賞選評で島田雅彦が「言葉にコストを掛けている」と述べていました。
    言い得て妙。
    ショートピース並みのガツンと来る小説を読みたい方は、ぜひ。

  • 芥川賞受賞おめでとうございます!
    読み進めてすぐに、その不穏な空気感と緻密な情景描写に惹きつけられました。
    高橋弘希さんは小説執筆のとき、まず鮮明な映像が頭に浮かびそれをただ文字に起こしていく、っておっしゃっているのを聞いてたので「作者本人と同じ景色をみている」という感慨が強かった。

    東京から青森にひっこしてきた中学3年生の歩。これまでに何度も転校してきたが、今回は過疎により次年度での廃校がきまっている中学校で、最後の卒業生となる学年だった。
    クラスにはリーダー格の晃がおり、燕雀(えんじゃん)という花札のようなゲームで負けた者が罰を受けるという遊びがあった。
    歩は持ち前の処世術でそれらを切り抜けるが、標的になるのはいつもどんくさい稔であることに気付く。
    夏休み、集落の"習わし"が行われるその日、グループのみんなでカラオケに出かけようと誘われた歩だったが、連れていかれたのは、暗い森の中を進んだ先にある錆びたトタン小屋で……。

    圧倒的なほどの暴力。読み終えて動悸がしていた。
    意識が朧ろで生死の境をさまよっているようなラストのつくりかたは「指の骨」を思い出した。好き。
    トタン小屋の数日前、晃と歩が銭湯でバッタリ会ってそのまま川沿いの道を村外れまで散歩するシーンもやけに印象に焼き付いている。
    まさに孵化せんとしている蝉の幼虫。エメラルド色の柔らかな薄翅。静止。二つの小豆色の複眼。晃の変貌。
    たまらなく純文学!でした。

  • 第159回芥川賞受賞作。転勤族の父、青森に引っ越してきた中学3年生、歩。ひたひたと感じる悪、最後に圧倒的な暴力。青森の風景、数少ないクラスメートとのやりとり、遊び、文化、無駄なく、緊張を孕んででよく書かれている。読んでて決して気持ちの良いものではないけれど流れは素晴らしい。緊張感持続で読了。純文学だねえ。

  • 読了直後の「あれ?もう終わり?」という気持ちは、振返り考えるにつれて、じわりと薄れていく。
    行き過ぎかと思った結末も、妙な現実味があって怖い。

    物理的に強いものが、支配側につく。ありふれた子供の世界。そこに、気まぐれな暴力が加わる。
    でも、より強いものがいて、その世界も一変する。
    それも、弱い役割だったものに覆される。
    一見、稔のうっ憤は理不尽に歩に向かったように見えるけど、実はそれも違う。
    歩が仕組まれた勝敗を黙認した時、あきらかに加害側に身を置いていた事に気が付かされる。

    因果応報かといえば、それも違う。大人たちが足りなかったか。そうとも思えない。

    登場人物、どの立ち位置でみても、各々の役回りに落ち着いていただけのはず。


    実は間に挟まれていた晃は、つらかったのだろうな。稔たらしめる稔の役割が、小さな反抗で崩されてしまうと、彼の立場がなくなってしまう。それを防いであげたかった。という事だろう。稔に自分自身を重ねることもあったろう。

    なんという後味の悪さか。

  • 実は弱いいじめっ子と、無敵になったいじめられっ子と、「なんで俺が!?」となる傍観者
    割とよくある組み合わせではあるよね

  • 美しい言葉で描かれている。
    あまりにも暴力的であまりにも理不尽。怖いです。しかしリアリティを感じざるを得ない…
    子供でも大人でも関係ない、生きることとはすなわち暴力と理不尽を浴びることなのかもしれない。
    花札、サーカス、これらが第三の先輩から理由もなく継承されている、というところも怖いです。

  • 特別な事件が起こったでもないけど、なぜか興味を引かれるようなストーリーだった。
    主人公の豊かな感性に、美しさがあった。

  • 確かな実力で積み重ねて行くタイプの、少し退屈な小説という印象だったのですが、中盤以降良い意味で変わっていきます。
    ひきこまれる。
    暴力シーンや、晃や稔の関係性に着目されがちな気がしますが、そこに着目すると単純に感じてだから何となるかも。見るべきは主人公の精神面と感じました。
    難をいえば主人公はもう少し子どもらしさがあったほうがリアルだった。

    デビュー作「指の骨」もすごかったけどこちらのほうが人間を書いているという感じがあって好きです。
    「指の骨」を読んだときは、他の作品が想像できないと思ったのですが、とんでもない。
    作者は硬派な超実力派といった感じですごく私の中のイメージの文学界らしい。

  • 都会から北の田舎町に転校してきた中学生の男子。もうすぐ廃校になるかもしれない学校での級友との関わり。

    空や田んぼ、山々など、どれをとっても健康的な風景に満たされた暮らし。
    それと対比的に不穏な思春期の葛藤が描かれる。
    閉塞的で長閑な田舎で、どこにも脱出出来ない、そして危うい友人関係が、またたくまに狂気へと変貌する。

    ラストは壮絶で圧倒された。
    血が滾る。火が滾る。濁流が滾る。

    田舎のひと夏の、少年たちの多感さと残酷さを描いた力作。

  • 終盤に衝撃のクライマックスが待ち受けるとてつもなく恐ろしくてバイオレンスな芥川賞受賞作。帯裏に書かれた5行の文章はさわりにしか過ぎず実はホラーと呼び得ると思える程の強烈な残虐描写がありますので苦手な方にはお奨めできませんが、私はエンタメ性とは別の部分で本書を通じての著者の陰湿なイジメ問題に対する憤りを強く感じましたね。まず事態を甘く見て放置する教師の態度がなっていない事、そして主人公・歩の見て見ぬ振りの傍観者の姿勢も反省すべきでしょう。哀しいけど優しさではなく起こり得る悲劇をハードに描く事も道でしょうね。

著者プロフィール

「指の骨」で新潮新人賞を受賞しデビュー。若手作家の描いた現代の「野火」として注目を集める。同作にて芥川賞候補、三島賞候補。「日曜日の人々(サンデー・ピープル)」で野間文芸新人賞受賞、「送り火」で芥川賞受賞。

「2019年 『日曜日の人々』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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