噂の皇子 (文春文庫 な 2-24)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167200244

感想・レビュー・書評

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  • 以仁王の辺りは武士のイメージが強すぎたのでその時代の貴族的な小説は面白かった。特に以仁王周辺の皇族について調べてみたい。
    藤原佐理の話は物語というよりも随筆よりの文章。藤原行成との比較が興味深かった。

  • 平安時代を舞台とした短編集。

    「噂の皇子」…三条天皇の皇子敦明の小説
    「桜子日記」…和泉式部に仕える女の視点からの独白
    「王朝無頼」…藤原保輔についての小説
    「風の僧」…平将門の存在を背景とした、とある話
    「双頭の鵼」…源頼政を、娘・二条院讃岐、三井寺の僧、藤原俊成の娘・建春門院中納言、頼政の郎党の視点で描く小説
    「二人の義経」…近江源氏の”山下義経”と、頼朝の弟源義経の小説
    「六条の夜霧」…藤原道明の登場する、とある話
    「離洛の人」…藤原佐理についての話

    この本の短編はどれも読みやすく、気が利いていて面白かった。
    『この世をば』で登場した、敦明や、藤原佐理について、
    『この世をば』での人物解釈の延長線で描かれているので、
    番外として読んでも楽しめる。

  •  平安王朝期の貴族男性や武士の物語を中心に編纂された、複眼的体系の短編集。
     初っ端は、三条帝の皇子・敦明が藤原道長を相手取る密かな駆け引きの妙と、政治社会における弱者の宝刀の使いこなし、そして権力に固執せず東宮位を投げ捨てた奇矯さが淡々と描かれる。
     権力欲の奔流に頓着しない青年の、飄々とした爽やかさが素敵。
     奇行の皇子と噂された彼の魅力を最初に見せ、ラストに、三蹟の一人と呼ばれる巧みな書を遺したが故に、官僚貴族の平均的失態と本人の世渡り下手を後世に露呈することになった、藤原佐理の怠惰な間抜けぶりを持ってくる構成が巧くて笑える。
     高位なお坊ちゃんでありながら、当世を震駭させた大怪盗でもあった青年、藤原保輔の存在を知ったのも楽しかった。
     これがまた、目許優しげで寛闊優雅な貴公子だったりするし。
     更には、一人の人間の行動や心中を、周囲の複数の者の目線から解釈していく一編は、読み手の印象を操作しながら、不可解な最期を遂げた人への思いを喚起させる文章運びが見事。
     平安末期に起きた以仁王の乱で、強かで保身的であった老獪な源頼政が何故、不利な王の決起に最後まで殉じたのか。
     そつのない奸智に長けた老人が、初めての負け札を故意に握って死ぬ興を選んだとの見解を軽やかに提示され、改めて題名を振り返る。
     猿の頭、狸の体、蛇の尾、虎の手足を持つ妖怪・鵺(ぬえ)。
     かつて頼政が射抜いて退治したのは、妖かしの化け物、「双頭の鵺」であったかもしれぬと。
     その含み、奥行きに唸らされる。
     加えて、興味を惹かれたのが「二人の義経」。
     有名過ぎる源九郎義経の生きていた時期に、近江源氏の山下(やまもと)義経なる人が実在したことを初めて知った。
     合戦における名将ぶりは確かでも、九郎本人は男前ではなかったという説は耳にしたことがあるものの、それを裏付けるかのような同名の別人がいたとは。
     九郎に劣らず、天才的な組織作りとゲリラ戦で平家崩壊の端緒を作ったとされる、山下城の義経。
     民衆に英雄視され、おそらくは美男であったろう、もう一人の義経の後半生は全く不明とされ、結果的に九郎と同一視されて印象が混同し、現在のヒーロー像を生んだという一案は、歴史好きには堪らない盲点。
     同一人物説もあるとはいえ、古文献の記事を検証して別人説を採る著者を、個人的には推したい。
     同名の一人の活躍とイメージがもう一人の人間の記録に統合され、最初の者が歴史の表舞台から密かに消えていくモチーフは、物語の構築としても興味深い。

  • さまざまな時代の歴史小説を発表し続ける著者による

    平安末期を舞台にした短編集。


    源頼政を「藪の中」スタイルで描く『双頭の鵺』は、

    私が最も好きな作品のひとつです。

  • 『噂の皇子』
    藤原道長と三条帝の政治的駆け引き。皇后の母親としての葛藤。その中に浮き上がった主人公、敦明皇子。どこかいわゆる「草食系」を見るようなおぼつかなさを感じさせるような皇子の思惑は…。
    ほんの50頁ほどの短編ですが、道長の政治家ぶりと、帝のプライドのぶつかり合いなど、なかなか読み応がもあった。

    『桜子日記』
    架空の人物桜子の視点から、和泉式部を描いた作品。和泉式部の「軽さ」が普通の娘にはわからない感覚というのは、歴史小説としてでなくても楽しめそうだ。

    他の作品も面白かった。


    永井氏は架空の人物を使って歴史を多角的に描くのが巧いと思う。

  • 望みしは何ぞの前に、噂の皇子を読んでおくと、敦明のイメージが湧きやすい。
    というか、ファザコン萌えなんで、読んだ当時萌えたわ。

  • 三条天皇第一皇子・敦明親王をはじめとする様々な時代の皇子、もしくは皇子に近い存在だった人物たちを取り上げた短編小説。
    特に敦明を取り上げた「噂の皇子」が印象的であった。道長の権勢に押され東宮を辞退したことが有名であり、時代の敗者と認知されがちであるが敦明本人の深い思惑があってことだったと理解できる。史実では見落としがちな人物たちを知れる貴重な一冊だと思う。

  • (借.新宿区立図書館、単行本)
    図書館にあったのは単行本のみ。ブクログにはないのでやむなく文庫で登録。平安中期から鎌倉初期にかけての歴史の一端を切り取り、こうあったかもしれないという想像を加えて書かれた時代短篇小説集。さすがに少々歴史学的には古い解釈も入って入るがそれでもうまく書かれている。個人的には「二人の義経」で山本(下)義経がどう書かれているのか知りたくて読んだのだが、本人は登場せず九郎義経の眼から書かれているのはなるほどと思わせる。他の短編もなかなかだが、最後の「離洛の人」という藤原佐理を描いた作品は小説というより歴史随想的なもの。これはこれで興味深い。

  • 主に平安時代中期の短編小説。読みやすいのですが、設定時代順ではなく、主要人物もまちまち。読みはじめが中々入り辛い。やっと入り込めたらあっけなく終わりという、少し物足りなさを感じた。
    どれもメジャーではない人物にスポットを当てたお話で、中には全く知らない人物も…調べながら読みました。表題の噂の皇子は、三条天皇とその皇子側の心情が描かれている。この道長時代前後は天皇不遇の時代が続いていて、天皇は置いてきぼりの孤独と戦い、その皇子は案外父帝の苦悩を見て引き下がったのだと妙に納得した。

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著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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