- Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167266028
感想・レビュー・書評
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タイトルから察しがつくかもしれないけれど、一般的な「幸福な終わり方」と呼べるものは、4篇中「かもめ家物語」1篇しか見当たらない。
他は、明るい方に向かって見えても、まだどこか悩みや苦しみの中にいる。
それなのに、読後感にやるせなさと呼べるものは、ほとんどなかった。
虚しさ、というか、それに近いものはあったけれど、追い詰められたようなものはない。
改めてなぜだろう、とページをめくっていて、気づいた。
あ、そっか、みんな生きているからだ、と。
前に読んだ『葉桜の日』もそうだったけれど、溺れそうでも、あがいていても、這いずっていても、私はこの人の作品を読んでいて、明確な死を感じない。
生活している気配が、そこかしこに染み出ている。
だから、陳腐な言い方になるけれど、読み終えた後に、「ああ、今日も生きていこう」という気持ちになる。
元気づけられるのとは違うけれど、そういう気持ちも大事なのではないだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鷺沢さんの初期の文芸もの「川べりの道」「かもめ家ものがたり」「朽ちる町」「帰れぬ人びと」を収録。すごく久々に読んだ。どれもこれもじんとくる。以前読んだ若い頃より染みる気がするな。
解説の小関智弘さんが、鷺沢さんは街を描くことのできる作家だといっていて、まさしくそうだと思った。どれもこれも荒んだようでいて、やはり人が息づいている街の風景がかなり巧みに描かれていると思う。なかでも「朽ちる町」は、具体的な街の名を出さずに描いている点で秀逸。ひいき目かもしれないが、これを二十歳前後で書いた鷺沢萠という人はやっぱりすごかった。自身の家の事情で大変な日々を過ごしたことがこれらの作品の糧となり、骨になっていることを思うと、つらいこともあっただろうけど作家としての鷺沢さんにとっては宝といえるかもしれない。ただ、そのぶん早熟してしまい、よりつらい思いをしたと考えると何ともいえない気持ちになる。 -
東京23区の西と東に流れる川べりの空気感が濃縮されたような短編集。デビュー作『川べりの道』は鵜の木、『かもめ家ものがたり』は京急蒲田、『朽ちる町』は東京の東に飛んで向島(というより玉の井)、『帰れぬ人びと』は成城、柿の木坂、そして京急大鳥居。『朽ちる町』に言及されているとおり23区の西と東は京急〜京成線が横断しており、乗ればすぐわかるが、水辺を走り抜けていく。川べりは工業と密接に結びついているし、女たちが春をひさぐ土地でもあった。どの話も家庭がテーマ。各々が演技をし続けることで成立しているふりをしている。
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Twitterのスペースでご紹介頂いた本。表題作他「川べりの道」「かもめ家ものがたり」「朽ちる町」収録。どの作品も何処か懐かしいような町の匂いがする。昭和中期の、昔の町の風景の面影が徐々に失われていく悲哀。そこで暮らす人々の小さな営みと郷愁。どんなに住まいを変えても、町を転々と移り変わっても、故郷を持たなくても、過去という膨大な時間と記憶の堆積からは逃れられない。しかしそれらは過ぎ去ったもの達であり、もう二度と訪れることは不可能な場所でもあるのだ。帰りたいけれど、もう帰れない。そんな思いを抱いて、人は生き続ける、寂しい生き物なのかもしれない。
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タイトルが、まず、いい。帰れぬ。どこへ?人びと。私だけじゃないんだ。短編という中編小説。匂いがすごく刺激される。いい匂いではないんだけど、その町特有の匂い。川の匂いだったり、そういう匂い。昭和中期。経済成長で開発される町並みの中に取り残された場所や開発しきれなかった恥部。そういうものを感じる。切ないでもノスタルジックでもなく。ちゃんとやれよ。っていう苛立ちに近い感情。家を失い、故郷がない人びと。「家」が変える場所ではないし、家はただのいれもので、中身が変われば居住まいすら変わる。理不尽で不確かなものだ。
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うんうん。
好き。
暗いといえば暗いし重いといえば重い。
みんなが心の底に共有してるようなものを揺さぶってくるような感じがした。
高校生で「川べりの道」書くなんて。
どれも印象に残る短編集でした。
「帰れぬ人びと」がやっぱり好きかな。「川べりの道」もなんかキラキラしたものを感じたし、「かもめ家ものがたり」もあったかくて切なくて…
どれも好きです。 -
“街”が描かれていました。どうしてだろう、説明的なことは一切ないのに、匂いまで立ち上がってくる。それぞれの街で、それぞれのさびしさが鳴っていました。
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古い本は読めないことがある。だから貸してもらった時、一瞬不安になった。中学の時に初めて読んで本が好きになったきっかけの本、らしい。すごいなと思ったけど、一抹の不安はあった。
わりとさくさく読めて、かつ物語に引き込まれて、読んでよかったなと思った。 -
18歳の女性が書いたとは思えない内容に驚愕。いったいどんな人生経験、読書体験をすると、これほどの物語が溢れてくるのだろう。
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全体的には荒削りだなと思いました。脇役の人物や風景まで丁寧に描かれすぎているところとか(特に中間の二作)。
でも、『帰れぬ人びと』で村井の母が美竹家を出てきてしまうくだりは、それぞれの錯綜する暗い感情にハッとさせられます。それから、冬の夜の空気を描くのがとてもうまい。小説って感じがすごくします。