- Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167561024
感想・レビュー・書評
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この本のおかげで、週末を幸せな気持ちで過ごせました。
ひとたびページを開くと、南の島にひとっ飛び。
魔法が、精霊が息づく、どこか懐かしい10編の物語です。
きっと、昔はどこもこんな風に見えないものが信じられていたんでしょうね。
文明が発展して便利になる一方で、失われてしまったものもたくさんあったのだと思います。神様がいて、精霊の声を聴く人がいて、生命の息吹を感じられる。魔法だって信じられる。そんな世界の存在自体が、こんなにも自分を癒してくれるなんて。
「絵はがき屋さん」
受け取った人は、必ず来たくなる。
そんな魔法のような絵はがき。ものすごく、わくわくしませんか?
ピップさんが語る渡り歩いた世界の話もわくわくするし、思わず旅先から絵はがきを出したくなりますね。
「草色の空への水路」
ちょっといたずら好きな、すこし子どもっぽい神様の存在が感じられるお話です。
今でも神様に挨拶をしたり、お伺いを立てたりする風習は世界中で残っていますよね。神様が見せたあまりにも幻想的な風景にもうっとり。
「十字路に埋めた宝物」
幸せの連鎖って、あるんだろうな。
そう思わせてくれる、いいお話。責める前に、耳を傾ける姿勢も、独り占めしない姿勢も、とても大切ですね。
「帰りたくなかった二人」
どうしてもその土地に惹かれて仕方がない、ということは、あるのかもしれないですね。
仲良しな二人と冒険のような日々に心が温かくなります。
「星が透けて見える大きな身体」
これもまた幻想的なお話です。
美しい子は神様に愛される、幼い頃に命を落とした子は神様が呼んだからだ、なんて言いますよね。
大事な友達を取り戻すための勇気のお話。暗に親では呼び戻せないと示されてるのが実は切ない。
「エミリオの出発」
失われゆくものを大事に慈しむエミリオ。
周りに流されることなく、自分がすべきことを見つめる強さに惚れ惚れします。
楽をしようと思えばいくらでも楽ができるのに、そうしなかった彼の真摯さがすばらしい。
ひたひたと心を満たす幸せな余韻。あとがきもとても素敵なんですよ。
疲れた週末の読書におすすめの1冊でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
豊かな自然と精霊の息づく島の、
透明な、絵はがきみたいな短編集。
見たことがないはずの美しい景色が鮮明に、
なぜか懐かしく思い浮かぶような、
原風景のような作品でした。
それにしても、精霊とか南の島とか、
そんなに馴染みやすい舞台設定ではないはずなのに
なんでこんなにすっとはいってきて、
心地よく馴染むのか。
子供を読者として想定している池澤さんの作品、
すごい好きだ。
風景描写もさることながら、
登場人物のおおらかさ、あっけらかんとした感じも
さっぱりと心地よい。
“たぶん勇気というのは男らしさや元気や
無謀な冒険心とはまるで違うもので、
ひょっとしたら愛と関係があるのかもしれない。”
主人公のティオが優しくて、素直で、
透明で研ぎ澄まされた感性の持ち主なので、
この物語の案内人として
とっても優秀なのもいいんだろう。
実は大学生の頃、『ティオの夜の旅』という
合唱曲を歌ったことがあって、
この作品が原作になってるんだけど、
これも風景の浮かぶ名作なので
ぜひ一緒に味わって欲しい。
複数の表現方法で
ひとつの作品世界を味わえるなんて超リッチだ…! -
南の島のティオ
著作者:池澤夏樹
発行者:文藝春秋
タイムライン
http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
ページを開けばそこは南の島バカンスを味わえる爽やかな小説です。 -
優しい語り口が良かった。
多分、この本はもう一度読み直す日があると思う。 -
うつくしくて優しいお話。
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2020.08.19~08.27
子供文学だから、言葉遣いがとても優しい。
でも、内容は十分大人を楽しませてくれる。そして、自然が隣同士の世界を思い描かせてくれる。
背景描写が特に好き。空、海、山、それぞれが色を持って、目の前に現れてくれる。朝、昼、夜の空気感もわかるし、そこに身を置きたくなる。
ああ、こんな島に遊びに行きたい!!! -
南の島に暮らす少年ティオと、島でホテルを営む父、そして彼らを取り巻く島民たちと、島を訪れる人びととの交流をえがいた連作短編集です。
不思議な絵ハガキを売りにくるピップという男や、島にあるムイ山に登るために島にやってきたトモコとトムの夫婦、太平洋戦争中に出会ったマリアという女性をたずねてきたホセ、予言者のカマイ婆など、魅力的な登場人物たちと、ゆったりとした時間の流れていく南の島での生活が、少年ティオの視点からていねいにえがかれています。
本作は、児童文学の雑誌『飛ぶ教室』に連載されていたということで、できることならば少年時代に読みたかったと思わされます。もちろん大人になっても作品の魅力を十分にあじわうことはできるのですが、本作がオリエンタリズムをどのように回避しえているかなど、余計なことを考えてしまうことなく、この本の美しさをあじわうことのできる年少の読者がうらやましく感じられます。 -
10篇のショートストーリー。南の島を舞台とした、少年ティオを取り巻く人たちとの出会いや、別れ、生活や、ファンタジーなど、島の情景がよく想像ができるくらいの緻密で、美しい文章でした。絵はがき屋さんはどうなったのだろう。
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不思議な話もあり、人間としてのあり方を問う話もあり。
南の島のティオという少年を主人公にした短編集。 -
<u><b>理想郷ではなく、私の住む世界の比喩としての「南の島」</b></u>
<span style="color:#cc9966;">受け取る人が必ず訪ねてくるという不思議な絵ハガキを作る「絵ハガキ屋さん」、花火で「空いっぱいの大きな絵」を描いた黒い鞄の男などの個性的な人々とティオとの出会いを通して、つつましさのなかに精神的な豊かさに溢れた島の暮らしを爽やかに、かつ鮮やかに描き出す連作短篇集。</span>
「つつましさのなかに精神的な豊かさに溢れた島」とあらすじには書いてあるけれども、その島はいつでも私たちが憧れる理想的なとしてに描かれているのではない(もちろんそういう部分もあるけれど)。「エミリオの出発」を読めばよくわかる。ティオは、南の島と比べククルイック島に「つつましさのなかに精神的な豊かさに溢れた島」という理想郷を見ているのだろう。そんなティオの住む南の島は、私たちにとって理想郷というより、「昔は良かったのに」を内に抱え込み、理想郷を夢見る私の住む世界の比喩と考えた方が良いだろう。あんまり”良くないヤツ”に”良いヤツ”、”変なヤツ””普通なヤツ”…いろんな人がいて、そこに住んでいる人はそれなりにそれぞれ、いろんなゴタゴタを抱えており、いろんな大事な物を抱えている。じっと読んでいると、自分の住んでいる世界と共通する部分がすっと見えてくる。[more]
それにしても、池澤夏樹の言葉の使い回しってホント好きだ。カッコイイ。
<blockquote>ぼくはどう返事をしていいかわからなかった。人生でやるべきことを一通りやってしまった時に、振り返って人が何を思うのか、そんなことは十四の少年にわかることではない。ぼくはただ人にはいろいろな人生があって、みんなそれぞれに誠実に生きようとしているのだということを少しだけのぞき見たような気がした。
「ホセさんの尋ね人」</blockquote>
<blockquote>たぶん勇気というのは男らしさや元気や無謀な冒険心とはまるで違う物で、ひょっとしたら愛と関係があるのかもしれないと僕は考えた。
「星が透けて見える大きな身体」</blockquote>
<blockquote><span style="color:#cc9966;"><b>目次</b>
「絵はがき屋さん」
「草色の空への水路」
「空いっぱいの大きな絵」
「十字路に埋めた宝物」
「昔、天を支えた木」
「地球に引っ張られた男」
「帰りたくなかった二人」
「ホセさんの尋ね人」
「星が透けて見える大きな身体」
「エミリオの出発」
「あとがき、あるいはティオのあいさつ」</span></blockquote>