錆びる心 (文春文庫)

  • 文藝春秋 (2000年11月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784167602031

AIがまとめたこの本の要点

プレミアム

みんなの感想まとめ

人間の内面に潜む悩みや葛藤を描いた短編集で、特に「ジェイソン」の物語が印象的です。主人公が自らの酩酊後の姿を知ることで、自己認識の欠如や他者との関係の微妙さに気づく様子は、読者に深い共感を呼び起こしま...

感想・レビュー・書評

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  • 桐野夏生さんの短編はどれも面白かった。その中でも(ジェイソン)と(錆びる心)が、特に良い。ジェイソンの主人公がとうとう酩酊後の我が姿を知る事になる。酒が無くても常軌を逸した行動を批判され、自分だけが知らされていない呼び名が普通に通じている事がある。「スピーカーさん」なんて言われている事も知らず交友関係が広く情報通を自慢気に話されるとつい傷付けずに助言する方法はないものかと思ったことがある。そう言う自分にも、
    気付けない事実があるのでは?怖いなと思った。

  • 桐野夏生さんの文章が好き。
    短編集は初めて読んだが、とても読みやすかった。長編のイメージだったが、短篇でもこんなに上手くまとめられる、本当にすごい作家さんだなと思った。
    錆びる心が一番良かった。
    最後にもあったけど用意周到に傷つくようにそこまでは変わりなく過ごして計画通りに家を出るということは、夫を傷つけたい、そして自分を忘れないようにしたいということなんだと思った。
    なんの気持ちもなかったら用意なんてしないかもしれない、どうでもいいから。傷ついてもつかなくてもどうでもいいから。

  • 「OUT」以来の久しぶりの桐野夏生さん。

    短編6篇の登場人物がそれぞれ心の内で悩んだり怒ったり決意したり、その決意が鈍ったり…その辺にいる人間らしくて、各々の話にどっぷりハマりこんで読めた。
    特にジェイソンが気に入った。ジェイソンに変貌した自分を知るにつれ落ち込む主人公。ラスト、妻さえいてくれたらと開き直ったのに、やっぱりジェイソンは妻に対してもジェイソンだった。けど、お酒の失敗でなくても時に誰かのジェイソンに誰でもなり得てしまうんではないだろうか?私だけが知らないだけで…。

  • 短編集なのでさくっと読める。
    そこまで印象に残るものはなかったかな…

  • 短編集なので、いいところで終わる。まだまた続きがあるんじゃないか とか、何か起こってほしいとか。未消化だぁ。面白いけど。

  • テーマが微妙に不揃いな6本の短編集。どの話も先が超気になり読書速度を加速させる掴みは完璧、結末はキツい尻切れトンボが多めで★4寄りの★3。表題作が一番印象的だったかな。

  • 先日『ナニカアル』で初めて読んだ作家さんの初の短編。
    『グロテスク』や『東京島』で名前は知っていたが、それまで読んでいなかった。
    『グロテスク』を図書館で見つけて借りたまま読んでいなかったんだけど、一時帰国時にこちらをみつけて購入し、『グロテスク』が結構面白かったのでつづけて読了。

    まず、文章がとても読みやすい。
    抵抗なくぐいぐいと本の世界に引き込まれ、没頭することができた。

    本作は六篇の短編からなっている。
    どの作品にも共通するのは自己と他者との意識・認識の乖離かな、と思う。
    そして、主人公はみんなとても自己中心的だ。
    もう、後戻りができないようなところまできて、墜ちる。
    人の自己中な所、思い込み、思い上がり、妄想、欲望、恨み妬み・・・そんなものたちが、桐野さんによってかなりアンプリチュードされて描かれていると思う。・・・ぞっ。

    読んでいて、今村夏子さんの作品のような居心地の悪さを感じたが、今村さんが柔らかな文体で書くのに対し、桐野さんはもう少しシャープな感じ。

    個人的には"虫卵の配列"と"羊歯の庭"が好きかな。
    "月下の楽園"は羊歯の庭に少し似ている気がする・・・荒廃した庭に惹かれるようになったきっかけの部分が凄く気味悪いけど・・・。

    "ネオン"は個人的には微妙でした。
    "ジェイソン"は主人公の心理描写が凄くよかったけど、最後のパンチが弱い気がした。

    登場人物に教職が多いが、何か桐野さんの経歴などと関係あるのだろうか。

  • サクッと読める短編集。
    一番おもしろかったのはジェイソン。
    アルコールの破壊力は侮れないと思いました。

  • 6つの短編集。
    消化不良な話もある気がするけど
    おもしろかったし、読みやすかった
    人間の裏側をちょっと覗き見たって感じ

    "錆びる心"は、1番印象に残った
    主観で見よることが
    自分の世界やし正義で正解なんやろうけど
    見方を変えたらちょっとズレとることもあるんやろうなって思った

  • 後味の悪い話が多い。
    でも読んでしまう。

  • 偶然桐野さんのペンクラブ会長の就任会見を動画で見て、桐野さんはしばらく読んでなかったと思ってこの本を引っ張り出した。書棚の整理中に見つけていたので再読。期待通り面白かった。
    短編が六編だが、とに角最初の「虫卵の配列」という題名にインパクトがある。
    昆虫は可愛らしいものも多いが、きれいな葉っぱをふと裏返してみて、並んだ卵はさすがに気持ちが悪いこれOUT。

    ☆虫卵の配列
    教師向けの雑誌を作っている私は、中学の生物教師をしている瑞恵と偶然出あった。会いたいと思っていたので嬉しかった。教師を辞めて今は介護施設で働いているという。私は付き合っていた画家に失恋をした話をした。意外なことにおとなしいイメージだった彼女はもっと積極的になれといった。
    彼女は今では劇作家の大ファンで作家にファンレターを送り続けていた。その手紙が脚本に使われているというこれは作家の愛情だ。
    四個の卵が並んでいる斬新な前衛劇には観客の彼女も姿のない形で参加している。そして演じている女優は作家の奥さんで排斥される異物役だったという。作家に心から愛されているのだ。だが関係がこじれ、虫の卵が詰まった箱が送られてきて……
    誘われたのでその劇団の公演に行ってみることにしたが、壁のポスターは、聞いていた「虫卵の配列」ではなかった。そして修羅場。
    虫卵のうすら寒い感覚まで短いストーリーに溶け込ませる腕は鮮やか。

    ☆羊歯の庭
    暮らしの中からいつも外の風景の中を覗いているような、趣味で羊歯ばかり描いているような男。
    年上の妻と子供たちとの味気ない暮らしから抜け出して気ままに絵を描く暮らしをしたい。
    昔別れた女から電話があって付き合い始めた、すっかり女に溺れたといっていい。夢のような外の暮らしが手に入りそうで妻に離婚を言い出した。女のことを妻は知っていた。
    女は裕福で下見した家を即買って住むことにした。趣のある羊歯の庭があるような家で、その上格安のその家は、聞いてみると自殺者が出た曰く付きで途端に熱が冷めて尻込みをしてしまった。女は落ち着いたものでもうもとには戻れない。今となってはあちらが夢か。

    ☆ジェイソン
    院正時代の友人と飲んだ。どうやって帰ったのか思い出せないが二日酔いがひどい。「しーちゃん、しーちゃん」と新婚の妻を呼ぶが返事がない。甘えているのがばれたかな、「俺どうやって帰ってきた」友人は言葉を濁してそそくさと出て行った。泥酔すると記憶が飛ぶ、不安になった。
    「あんな人とは思いませんでした」メモを残して妻はいなかった。

    無理をして職場の女子大に出た。レポートが遅いと学生を皮肉混じりにとがめたら、彼女に昨夜の醜態を見られていた。仰天の事実。
    友人に電話して言いにくそうな昔の出来事の真相と、ジェイソンと呼ばれていたというあだ名の由来を知った。大学を中退した友人の屋台に飲みに入った、寂れた店で昔の話と中途退学の訳を知った。

    もう取り返しがつかない、その上訪ねて行った妻は怯えていた。

    ☆月下の楽園
    宮田はその荒れ果てた庭を見た時、興奮して震えた、名園ではないその荒れ果てた風情に魅せられた。不動産屋はいかにも嫌そうに大家のところに案内した。
    荒廃した広い屋敷から出てきた大家は白髪でシミの付いた服を着て「どうぞ」といってすぐに消えた。
    借りる離れは裏門に一つ出入り口があり、汚れた長い竹垣をまわっていった。伸び放題の庭木の風情がなんとも言えない雰囲気を醸しだしている。
    離れのまわりは竹垣が味気ないコンクリート塀に変わり、小さな木の扉が入り口だった。
    「息子さんのために建てた家です、当時はよく手入れされて庭も立派だったのですが」と案内人は言う。庭続きであったらしいところが今は高いコンクリートの壁で仕切られていた。
    塀を見て呆然として脱力した。「借りた方は牢獄みたいとおっしゃって」「息子さんは亡くなったんです」詳しいことはわからないまま借りることにした。
    ビールケースを積んで覗いてみると、凝った庭づくりだったらしいのを夢中になって眺めた。感動した。
    仕切りのコンクリート塀を何とかしてもらえないか、という心づもりで引っ越しの挨拶にいった。「何とかしてもらえませんか」「そんなことはしません」にべもない。
    あばら屋に手を入れるのに来た老人が噂話を耳に入れた。「大家さんはもとは神楽坂の芸者で後妻、一人息子はこの離れで死んだようですよ」
    それもこれもあの庭の風情には代えられない。
    塀に下で横穴を見つけた。「防空壕があったとか」老人が手伝って塞いだ石を取り払うと横穴が現れた。「こりゃ立派だ」
    スコップとツルハシで穴を広げとうとう隣の庭に入った。月に照らされた庭を歩いてみた。
    冷え込んだ夕方雪になった。荒れた雪の庭は一層趣深く幻想的だった。ちびちび飲んだウイスキーが効いてきた。宮田は服を脱いで石に横たわった。そこにぬっと白衣の人影が。

    ☆ネオン
    舞台は新宿歌舞伎町、初期のミロシリーズを思い出すほど、この風景を描き出す桐野さんの筆は快調。
    桜井は何でも屋でうだつの上がらない小柄な店の用心棒をしているが、顔を利かして店を見回り、北村を連れて流して歩く態度も大きい。
    栄枯盛衰のやくざな世界でテキヤから取り上げたシマを流している。
    路地の奥のパブの前で、立ったままかつ丼を食べていた男に「裏に行け」というと体格のいい男だったが恐れ気もなく刃向かって来た。
    面白い、桜井組に入れて様子を見よう。
    この男島尻清隆は「仁義なき戦い」をバイブルに組に入れてほしいという。
    「あいつ極道のセンスないっすよ」「そうかもしれねえな」
    思った通り、かぶれすぎて言葉も広島弁崩れ。セリフもそれなりにまねる。
    「体いいじゃねえか」「高校時代サッカーやってましたけ」「おお高卒か、うち一番の高学歴じゃねえか」と少しずつ組に馴染んでいく。
    「お前広島か」「岩手じゃけ」
    組員の思惑とは別に、それなりに使い道はあると桜井は様子を見ることにした。
    北村の携帯に電話が入った「喧嘩」だという。そこで島尻は暴れた、まるで猛獣のように襲い掛かっていった。
    一夜明け喧嘩に勝っても、呆けた顔の島尻は芝居の幕が下りたような妙な雰囲気だった。
    北村は言う。妙なやつです。夢見ているというか、酔っているというか。喧嘩でも「仁義なき戦い」が乗り移ったというか。セリフもそっくりなんですよ。キレ方も気持ち悪くて。
    アノ狂気はそれとして組に入れることにした。酒を酌み交わした後、島尻は型通り盃を背広のポケットにしまった。今時そんな、桜井は見た。
    「カシラ」「今時そんな」「すんません桜井さん」
    どうもこうも、だが「命を懸けて勤める」という。今時そんな台詞をぬけぬけといい、それよりデカイ島尻が並んで歩くのが窮屈だ。

    戦争だ。組員は乗り気でないそれなりの理由もある。だが桜井は鉄砲玉に島尻を使うことにした。しかしジリは来なかった。さて。

    おかしかった。ユーモラスな島尻の浮世離れ具合がツボ。幕切れの鮮やかさには脱帽。


    ☆錆びる心
    良幸とは見合い結婚だったやすやすと決めたことに後悔している。
    つい昔の上司と不倫関係になりその妻が怒鳴り込んできた。友人のところに身を寄せたが、夫は三日後に迎えに来るといった。春休みになるので。
    夫は大学の講師をしている。迎えに来た夫はお礼にと五百円玉が詰まったフィルムケースを二個差し出した。「変わってるねあんたの旦那」 恥。
    それから十年、娘が育ったらこの家を出るのだと決心した。忍従の十年。いざ自由な世界へ。
    家事が趣味なので住み込みのお手伝いがいい。
    高級マンションで面接。何人家族なのか玄関は乱れた靴がいっぱい。男の子が三人。「朝お弁当三つと朝食、それに軽く夕ご飯、休日もね」ここはいやだ。
    次は湘南、車いすの老女と独身の男二人。どうかお願いという娘を振り切った。ここもダメだ。
    友人も長居でそろそろイラつき始めた。決めないと。
    住み込み、二十三万。料理できる人。個室あり。
    応募の三十人がひしめく中採用された。
    小太りの老女が二人、実は息子が病気で寝たっきり。娘もいます。
    ああ、まぁいいか、「私でよければ親身になってお世話させていただきます」
    娘のミドリは子供の様に無邪気であどけなく「こんにちは」と可愛らしい。
    食費は一日五百円でお願い。それでも何とかそれぞれの体調に合わせて工夫する。しばらくするとそれにも慣れた。
    寄り添って暮らし、助け合い、一日は無事に営まれる。家もきれいに掃除され、育った花をミドリが飾る。
    胃がんの靖男だけは次第に弱ってくるがミドリが甲斐甲斐しく世話をしている。
    睡眠薬の飲み過ぎて救急車を呼んだり、ミドリが靖男のベッドで寝ていたり、靖男の動けない体を支えて庭の芝生に寝かせたり。
    若い靖男は「死んでいくのをミドリに見せておきたい、記念樹の桜の幼木は育って生き続けるが」といって木を見上げたり。
    「他人だからできるんだなこういうこと、ミドリに悲しみを植え付けたいという衝動があるんですよ」。

    初めてもらった給料をもって娘とお茶を飲んだり。夫が離婚はしない紙の上だけでも繋がっていてうれしいと言ったとか。
    これが日々の充実というのだろうか。

    桐野さん、内面描写も深いです。

  • 虫卵の配列
    羊歯の庭
    ジェイソン
    月下の楽園
    ネオン
    錆びる心

    「現状を変えたい」とか「こんな生活はイヤだ」とか思って
    現状を変えるべく何かことを起こしたら、必ず誰かに影響を及ぼす。
    自分の思うように、思った通りに、事態は推移していかない。そういう中で
    立ち現れる、その人それぞれの姿、本性、実力?

    イチオシは「虫卵の配列」。静かな狂気と思い込みの脆さ。
    表題作「錆びる心」も良かったです。

  • 桐野夏生は好きな作家のtop3に入るけど、人間のおどろおどろしい感情を描くのが得意な彼女だからさっぱりとしたら短編小説は合わないのかもしれない。

  • 6の短編集。

    初っ端から驚きの話でした。
    これは相手が知り合いだからなのか
    普通だったからなのか。

    どれもこれも、普通に始まっているのに
    妙な方向へねじ曲がって着地するので
    不思議になってしまいます。

  •  6つのお話、ミステリーというのだろうけど、怪しげな世界観があり、ファンタジー(大人向け?)という感じもする。
    表題となっている『錆びる心』。自分が去ることで、相手に「自分を植え付けたかった」というところ。共感しすぎて、息が詰まりそうだった。

  • 桐野作品に出てくる登場人物は、安易な感情移入を許さない癖の強さを感じます。6つの短編も語り手の常識や行動の方向は私と異なっていて、予測できない分、おもしろかったです。

  • これを読んで好きな小説家が増えた。『柔らかな頬』のときも感銘を受けたが今回もそうだった。日常の中でふっと訪れる狂気。それは何も特別ではなく、他者の眼差しで冷ややかに見つめる自分自身も同じ狂気に染まっていた、といった安住のなさがある。こと「安住のなさ」にはいくつか在り方があるのだが桐野夏生の場合のこれは好きだ。別の在り方としては真実で四方八方を追い詰めるやり方だがそもそも真実とは?といった果てのない疑問を残すのだが、『錆びる心』の場合は「何を信じるのか」から出発するので問題の回答権を自身が掌握することができる。答えることのできる問題。そのようなものに挑戦できるのがこの著者の書く小説の真骨頂なのだと感じた。

  • ジェイソン好き

  • 現実にありそうな世にも奇妙な物語。
    初めての桐野夏生の本だったが、するすると読ませる巧みな文章を書く作家だと思った。
    感情の描写も巧く、震えるほど共感した部分が所々あった。
    様々な人生を垣間見れておもしろかった。
    桐野夏生の長編にも挑戦してみたい。

    虫卵の配列 ★4
    羊歯の庭 ★4.5
    ジェイソン ★3.5
    月下の楽園 ★3.5
    ネオン ★3
    錆びる心 ★3.5

  • 桐野夏生さんの短編小説集。
    はじめ把握していないまま読み始めたのだが、収録作は作者デビュー翌年の1994年から1997年で、大ブレイクする『OUT』(1998年)より前の、初期の作品群だ。
    これらは多彩で、どれも面白く読める豊かな短編小説である。なるほど、松本清張の作品のように、それぞれに心理的な劇の物語時間が推進されていて、それが確かな人間観察に基づいているからこそ、リアルな感触を持ち、読者の心を引きずり込んでいくのだろう。
    ただし、結末は
    「あれ? これで終わり?」
    と驚かせるような、少々肩すかしを食わせるようなものが多く、一般的な多くの読者をいくらか失望させるのではないだろうか。
    古典的な「完結感」を演出せずに、突然パタッと止まるかのような終結をしばしば導き出す現代音楽を私はよく聴いているので、「終わり方」に関しては何でもありと考えているから、「それもOKかな」ととらえる。しかしたいていの読者はやはり落胆するのではないか、という終わり方が幾つかあった。大衆向けのエンターテイメント小説としては、それはうまくないと思われる。
    本書はあくまで作家初期の作品集なので、後年の短編は円熟によって形式的にも「よくまとまった」作品になっていくのかもしれない。
    だがこれをマイナス要素としても、作者の人間理解の鋭さが端々に現れるこれらの小説の魅力は代えがたいものがある。
    特に巻末の表題作は、結婚生活にウンザリした主婦の心理を鋭くとらえ、家出からさすらい歩く新たな生の歩みが、場面転換に応じてラプソディックに綴られてゆくが、全く違う場所に到達したかのような最後のところで上手く冒頭の場面の状況と結びついていて、印象深い作品となっている。
    本書全体にわたる、多彩な心理世界を描出するこの手腕が、後年さらに円熟してどのような短編集を生んでゆくのか、興味をそそられた。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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