センセイの鞄 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167631031

感想・レビュー・書評

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  • なんとも言えないセンセイとの距離感。

    時にもどかしくも感じるが、終始美しい。
    そして最後は切なくなった。

    大きな変化はないのに2人が気になって読み進めてしまう作品。

  • ピュアな一冊。

    なんてすがすがしい関係なんだろう。
    これほどピュアという言葉が似合う二人はいないと思う。

    年齢が離れたセンセイとツキコさんの四季折々の時間。思い出の積み重ねと距離感が瑞々しく、時にせつなく心を潤した。

    相手と出会い、時間を共有するたびに空っぽだった心に名もなき感情が次第に積もっていく。
    やがて満タンになる。
    それが一気に溢れ出した時に恋というものが始まるんだと思う。

    月子さんのその心の積もりと揺れと溢れる瞬間が美しく伝わってきた。

    鞄の中に詰め込まれた二人の思い出。
    静かに開けて静かに閉めたいほどの良作。

  • センセイへの想いがはっきりしてくるにつれて、一人でいるより不安な感じがしてきて、成就するのが怖くなってしまう。
    そうなることはわかっていたのに、泣きそうになった。

  • ブクログ通信で「新しい出会いを描いた小説」にあった本。

    「ワタクシはいったいあと、どのくらい生きられるでしょう」
    親子ほどの年の差の不器用な二人の大人の愛です。
    ともすれば安っぽい感じになりそうな内容ですが
    ギリギリにいい感じでとどまっているのが好感が持てます。

    私も親子ほどの年の差ほどの元部下から
    「浦島さん、わたし日本酒飲みたいです!」
    って言われて飲みに行ったりしますが
    彼女も不器用なので、誰かいい人早く見つかんないかなー
    と読みながら共感して思いました。

  • 親子ほどの年齢差や、この先どうなるかなんて考えない大人の恋だとおもった。ツキコがかわいくて、それを温かく受け止めるセンセイも幸せそうだ。「センセイどこにも行かないでくださいね」というセリフに泣けた。だってツキコの知らないところへいってしまいそうで。
    二人が共有した時間は消えない。かけがいのない貴重な時間を過ごした。居酒屋のカウンターで距離を縮めるかんじが素敵だった。ほかの恋愛ものも読んでみたい。

  • 数十年ぶりに再会した高校の先生との恋。
    それは、恋と呼ぶのでいいのだろうか、と少し迷うけれど、あれは確かに恋、なのだと思う。
    37歳ツキコと70歳を越えるセンセイ。

    肴の好みや距離の取り方が似ている2人。
    燃え上がるような恋、とは違う。
    けれど、ふと頭に浮かぶ、不在をすこし寂しく思う、時に、おかしいくらいに緊張させられる、これはまさしく恋。

    季節は移り変わって、忙しい日もあり毎日はどんどん過ぎ去って、そんな隙間にふと、その人の存在がある。
    ツキコは私と年齢が近い。
    だからこそ、70代への男性への恋、というのが、どうしても老いが前面に感じられて共感しがたい、ように思った。
    実際、ツキコもセンセイの「老い」を感じている。

    一方で、根底にある寄る辺のなさやふいに襲ってくる孤独、老いへの恐れ、不器用さ、はとても身近で、私の知っているものを思い出させた。

    時間は確実に過ぎている、それなのに、どこか夢見心地な、不思議な時間の流れが混ざる。どこか怖いけれど、浸りたくなる世界観ですね。

    かな遣いがまた素晴らしい。大人の女は、いくつになっても内に小さな子どもを秘めている、と私も思っています。本当に、いくつになっても。

    どこまでもどこまでも孤独、なのかと思いきや、思わぬラストを用意してくれた。
    未読の方は、読んでからのお楽しみです。しずかな読書が楽しめます。

  • 温かくて穏やかなお話

  • 緩やかな時間が描かれた後、弔辞的に締め括られるため、一気に思いが溢れる。

  • 月子さんと、先生の距離感が、とても、心地良かった。
    気づいたら、お互い惹かれていた…って、こんな事を言うんだなあ。
    一緒にいて、安心出来る、居場所。そして…、
    いつか、別れが、来るんじゃないかという、切なさもあり…、最後は、夢中で、読みました。

    頭を、ポンポンされるシーンが、とても、好き!

  • 川上弘美さんの描く恋愛は、ただ幸福というよりは、どうあがいても払拭しきれない寂しさ(それは、男女関係だったり、もっと大まかな関係性だったりするかもしれません)がいつも潜んでいるように感じます。
    たとえ燃えるような恋をしても、たとえ徐々に関係を深めて行くような静かな恋をしてたとしても、人生のどうしようもない寂しさはたとえそれが一瞬であったとしても消し去ることはできない、そんな人生の「どうしようもなさ」を川上弘美さんはいつも描いている気がします。
    知人の女性はこの作品を「色っぽいよね」と評していましたが、そんな人生の「どうしようもなさ」こそが、人生の色気や艶やかさなのでしょう。

  • 言葉がほろほろと綺麗に流れていくようなお話でした。
    ツキコさんとセンセイの着かず離れずの心地いい距離感や想いが読み手にとっても心地の良い作品。
    ツキコさんの恋の駆け引きのお話のようにも感じました。
    恋の駆け引きといってもバチバチした激しいものでなく、それもまたほろほろとした美しい言葉で表現されていて、大人の渋くてほろ苦くて、それでいてチャーミングな恋愛を見ているようでした。
    結末がとても美しい終わり方で、じんわりと心に沁みて読み返したくなりました。

  • まるで月がゆっくりと夜空を巡るような恋愛小説。
    ツキコがだんだん「センセイ、すき」ってなっていく時間の流れが愛しい。

  • 静かだけれど、温かい時間が流れています。

    田舎の夜の様な、どこか懐かしい気持ちになりました。
    センセイのデートの申込み方、素敵だなぁ。。

    何より、季節の食べ物、お酒が物凄く美味しそうー。
    そら豆で一杯。

    たまりませんね!笑

    恋情は『育てるから、育つ』
    なるほど。素敵な言葉です。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「お酒が物凄く美味しそうー」
      飲まない私でも、良い雰囲気だなぁって思いましたよ。パッパと、アテを注文する様が粋です。
      「センセイのデートの申...
      「お酒が物凄く美味しそうー」
      飲まない私でも、良い雰囲気だなぁって思いましたよ。パッパと、アテを注文する様が粋です。
      「センセイのデートの申込み方」
      歳をとってからでも、お誘さそい出来たら素敵だろうなぁ~
      2012/09/05
  • 正直なところ、終始自分と父親くらいの年齢差であることが頭の片隅に引っかかり、感情移入ができなかった。
    終わり方も予想できるもので泣くことはなく。
    解説を読んでようやくしっくり来るものがあった。
    ただそれでも星4をつけたいと思ったのは、ひとえに川上弘美さんの文章力。
    こんなに情景描写の素晴らしい本は初めてかもしれない。
    わざとらしくなく、それでいてすべてが心情や行く末を暗示しているように感じられ、引き込まれる瞬間が多々あった。
    もう少し私が大人になって、いろいろな経験を乗り越えれば、ふたりの恋愛にも素直に心が動くのかもしれない。
    それも含め、いずれまた読み返したいと思う。

  • 居酒屋で再会した高校で先生と生徒だったセンセイとツキコさん。
    ふたりは居酒屋でのんびりと飲んだり、そこからセンセイの家で飲み直したり、日本語を直されたり、居酒屋の店主ときのこ狩りに行ったり、島に行ったり、教師の花見に行ったり、古市に行ったり。
    そして募る恋心をどうしたらいいのか考えながら、ツキコさんはセンセイとの距離を掴もうとしたり、すり抜けた手を見つめたり、やけ酒を飲んだり、追い詰めてみたりする。
    そして二人はお互いをお互い以外ではどうすることもできない存在になっていく。

    おいしいお酒を飲んでいるようなお話。
    やわらかで、軽妙な言葉が並び、お猪口の水面にうつった月のような世界にゆられていた読書だった。

  • 中盤まで退屈を感じていたけど、途中から一気に面白くなった!
    センセイの元妻が「死んだ犬のフリ」をする奇妙な女性だった、という話が出てくるが、これは「私はグズな人間なんです」というセンセイの台詞とリンクしている。こっそり俳句を愛すセンセイもそこまで器用な人間ではないから、主人公のようなちょっと浮世離れした女性に惹かれてしまう。
    事実主人公は小島孝のような優秀なサラリーマンには居心地の悪さを感じていた。
    盲目的な恋情は、相手が歳の差で亡くなると自身の若さを無駄にしてしまうことに対する空虚感すら打ち砕くんだな……と不思議な気持ちになりました。

  • センセイとツキコさんのお話です
    この呼び方も ちょっと古めかしい、そして頻繁にでてくる 居酒屋さん、季節の肴 お酒 どれも欠かせない
    けして パスタや洒落たバーのカウンターでない、馴染みの店主がいる居酒屋 そんなところで並んで過ごす心地よさ、この作品の味わいは 湯豆腐、豆腐に鱈と 春菊が入ったもの…
    さいごにでてくる この湯豆腐みたいに あっさりして でもちゃんと鱈や季節の野菜もある 味わい深く そして季節の移ろいが感じられる そんな作品でした


  • 川上さんの本は、寂しいなんて、とても誰かに言えない時に読みたくなる。 
    そしてしんみりと静かな気持ちになる。

  • 大好きな今野さんの去就を読んで、解説を読んだことで興味を持って書店で手に取った本。
    普段なかなか手を出さない系統のお話だけど、しっとりしみじみと読み進められた。
    ツキコさんとセンセイの距離感がとても良い。
    たまにところどころだけ読み返すのも良いかもしるない。

  • 30代後半の女性とその高校時代の恩師との、付かず離れずのゆったりとした恋愛を描いた作品。
    谷崎潤一郎賞受賞。

    父娘ほど年の離れた男女の恋というと、ともすると不健康な生臭さがつきまといがちだが、近所の居酒屋で酌み交わす二人の姿は、何とも微笑ましい。若い男女のように一途に突っ走る訳でもなく、かといって達観し過ぎているわけでもない。うぶな恋心を織り混ぜても不自然にはならず、酒好きの二人の会話も愉快で、すべてにおいてさじ加減が絶妙だ。

    常に漂うふわりとした浮遊感が心地よく、終盤で一気にぶつかり合う激情で盛り上がり、切なく最後を締めくくる。
    大人のための一冊と言えるだろう。

  • 恋愛小説なのだ
    飲み友達⇒好きな人へ
    40女と30歳離れた男とが、恋をする物語
    お互い 気合いながらも一緒にならないのは なぜ?世間体なのだろうか

    「こおろぎ」 が せつない

  • 最初はなんの話かわからんように進むけど、結局はアラフォー女性と高校の時の国語の先生のじいさんとの恋の話。
    いきつもどりつの本屋本屋した話で好き嫌いのわかれそうな文章。
    自分的には好きな文章だったので著者の他の作品も読んでみようかなと思った。こういう微妙な心理の機微を描いた作品は好きかも

  • 男と女がそろったら、結局は「そういう」展開になってしまうのでしょうか。
    前半部の月子さんとセンセイの、これという名称を付けられない関係性に羨望にも近い感情を抱いた私には、後半部は正直、肩透かしでした。彼等に裏切られたように感じてしまったのですが、それは私の身勝手だし、あまりに夢見すぎですね。

    嗚呼、やっぱり一人の男と一人の女が軸の物語は、「そう」ならざるを得ないのか。つまんないな。

    そんな風にがっかりしながらも、何故かページを繰る手は止まらず、気付けば月子さんのもとから去っていった「センセイ」を恋しく思ってしまったのでした。

    辛口なんだか甘口なんだか訳の分からないコメントになってしまいました。
    女って、面倒臭いですねえ←


    何の飾り気もない背表紙の内容紹介が、読了後、何だか胸に迫ったのでそのまま引用↓↓
    駅前の居酒屋で高校の恩師と十数年ぶりに再会したツキコさんは、以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは島へと出かけた。歳の差を超え、せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。谷崎潤一郎賞を受賞した名作。

  • もっと早くに読んでればよかった・・・。この人の文章が好きです。よく擬音が出てくるのが印象的でした。繊細で柔らかい雰囲気の文体。
    わたしに感情移入するのか、センセイを応援しながら読むのか。ちょっぴりしんみりしてシリアスで笑いもある。人生ってそういうものだなぁ・・・。二人の気持ちが合わさっていく過程が微笑ましくて、それだけにあのラストは急に大切なものを失った気持ちで思わずツキコさんと一緒に涙をこぼしてしまいました。
    切ないけど、素敵な小説です。

  • センセイと月子。年は離れているけど、ゆったりとそして淡々と流れていく時間の共有が素敵。

    小泉今日子と榎本明主演で映画になっている。

  • 最初、この本を読み始めたとき、センセイの話の内容や言葉の遣い方など、難しい表現が多く何を読んでいるんだろうとただ文字を読んでいました。

    が、次第にツキコさんとセンセイの会話や間柄が、読んでいていつの間にか当たり前のように馴染んできて、最後には二人に愛着が湧いていて、わかっていながら読み進めるのが辛く、数ページを大切に慎重に読みました。

    まだ余韻で心が熱い感じがします。
    このお話の日常と愛情が凄く上手く描けていて、読んでいても知らぬ間にゆっくりと、自分の中に浸透していました。素敵なお話でした。

  • センセイとツキコさんの温かく愛のあるつながりがとても良かった。年齢関係なくこんな出会いをしてみたい。物語りの温度感や時の流れ方が心地良く読み始めると止まらなかった。

  • 好きな本
    物語はちゃんと進むし日常の感じが面白い
    大人な関係が素敵だった

  • 寒さでかじかんだ手を、両手でそっと包んで温めてくれるような本だった。カイロよりも熱燗よりも温かいその手の熱を、なんだか泣き出したくなるような気持ちで感じていた。

    ひとりは、気楽で、自由で、ときどき心細い。
    ひとりを愉しんでいたはずなのに、ひとりよりも居心地の良い誰かの隣を見つけてしまったら、もう前のわたしには戻れないのだと知る。それは喜びではなく絶望だ。もしその相手がいなくなってしまったら、その時わたしはどうなるのだろう。

    「一度出会ったら、人は人をうしなわない」と、以前読んだ本の主人公は言っていた。すぎたことだけが、確実に自分のものであると。

    目を閉じて考える。あなたはわたしの内側に確かに存在している。あなただったらどうするか、あなただったら何と言うか、日々あなたの存在が私を生かす。

    あなたが隣に、いなくても。

  • 恋愛文学と知らず手に取ったのですが、
    センセイとツキコの会話、居酒屋で季節の料理と酒を楽しむ描写に、引き込まれました。
    料理やお酒を嗜む2人の様子につられ、私も今日は飲もうと日本酒を飲むこともしばしば…

    「梅雨の雷」の章で、ツキコが自分のことを「時間と仲良くできない質なのかもしれない」と表現する文が、とても刺さりました。大人なのに少女のような幼さを併せ持つツキコを表す言葉に、胸がキュッとしました。そんなツキコを背伸びさせずいさせてくれたのが、センセイだったのですね。
    とても優しい人たちの小説でした、良かったです。

著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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