まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫 み 36-1)

著者 :
  • 文藝春秋
3.80
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本棚登録 : 21259
感想 : 2266
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167761011

作品紹介・あらすじ

まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦がころがりこんだ。ペットあずかりに塾の送迎、納屋の整理etc.-ありふれた依頼のはずがこのコンビにかかると何故かきな臭い状況に。多田・行天の魅力全開の第135回直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 「あんたはきっと来年忙しくなる」
    「旅をしたり、泣いたり笑ったりさ」
    「とてもとても遠い場所。自分の心の中ぐらい遠い」
    まほろ駅前の便利屋の多田が依頼を受けて「息子」として見舞いに行った曽根田のおばあちゃんの予言だ。
    新年早々、多田は子犬を預りながら、市バスが間引き運転をしていないか監視をするという仕事をしていた。ふと気付くと子犬がいない。と、バス停のベンチに座っている男の膝に子犬は抱かれていた。
    「お前、多田だろ」
    その男は高校時代の同級生、行天だった。小指の傷で分かった。高校の工芸の時間、裁断機を使っていたとき、同級生がふざけていて、小指がスパッと飛んだ時の傷跡である。行天はその時すぐに拾ってくっつけたので、くっついてはいるが、いつまでも生々しい傷跡を残していた。
    行天は小指が飛んだ時に「痛い」と言った以外は、高校時代、全く言葉を発しなかった。
     だから、行天は高校時代、多田だけでなく、誰とも友達ではなかったのだが、何十年ぶりかであったその夜、自分から話しかけてきたのだ。
    「あんた、今何の仕事してんの?なあなあ」とちゃらけた感じで。
    真冬なのに、素足にサンダル。「今晩、多田の事務所に泊めてくれ」と言う。
    二人ともずっとまほろ市にいたのに、高校卒業後会わなかった。行天は多田の予想に反して結婚歴があり、子供も一人いるということだった。多田は順調に幸せな人生を歩んでいるという行天の予想に反して、離婚して子供はいなかった。そして、大学を卒業して順調に就職したにもかかわらず、今は便利屋をしていた。行天は今は家族はおらず、帰るところも無いようだった。
    そのまま行天は多田の事務所に居候を続け、たいして役に立たない従業員として働いた。
    まほろ市は東京の町田市がモデルになっているそうである。
    東京か神奈川かどっちつかずの町。夜はヤンキーであるれる町。東京都南西部最大の住宅街、歓楽街、電気街、書店街、学生街。スーパーもデパートも商店街も映画館もなんでも揃い、福祉と介護制度が充実している。まほろ市民として生まれた者は、なかなかまほろ市から出て行かず、一度出て行ってもまた帰ってくる割合が高いそうだ。
    そんな、まほろ市の「便利屋」多田のところには、さまざまな依頼がくる。大抵は自分でやれないことはないのに人にやってもらいたい依頼。
    依頼者の代わりに動物を預かったり、探し物をしたり、家族の送迎をしたり、物置の片付けをしたり、人を匿ったり…。
    「便利屋」の仕事を通して、様々な人間模様が見えてくる。一見「教育ママ」でありながら子供に無関心な親。その結果、知らぬ間に闇バイトに巻き込まれている子供。DV、風俗、暴力…。
    多田も行天も心に深い傷を負っている。そのため淡々としているが、実は傷ついた分、誰かを愛そうと無意識のうちにしているのが分かる。だから二人の行動は滑稽だが暖かい。

    「旅に出るよ」と予言があった割には、「まほろ市」の中から出ず、まほろ市の中を深く、そして人の人生の過去を深く旅する小説だった。

  • 東京のはずれまほろ市の便利屋。多田便利軒。
    (三浦さん在住のM市ですね。)
    なるほど、最後まで軽快に面白く読みました。
    三浦さんは、ヘヴィな題材をライトに書いて、作品に引きずり込んでくれます。
    バス停で元同級生を拾ってしまい、二人になった多田便利軒。彼らに依頼される仕事から、街の風景や近所の人間模様が見えてきます。
    もちろん、怪しい依頼ばかり。
    主軸二人のトラウマになている過去部分は読み足りない気もするけど、血縁とか親子とか家族とか、構えず読める良作です。

    • みんみんさん
      わたし好きよ〜ライトで濃い♪
      わたし好きよ〜ライトで濃い♪
      2023/10/26
    • おびのりさん
      まやまと同系統かな。
      これも良いんだけど、三浦さんはポラリスが好きなのよね。
      いろいろ書くよね。
      まやまと同系統かな。
      これも良いんだけど、三浦さんはポラリスが好きなのよね。
      いろいろ書くよね。
      2023/10/26
  • 三浦しをんさんの本は、同じ人が書いたの?と思うくらいジャンルが違い、文体というか作家さんが変わったような印象を受けます。

    「愛なき世界」や「舟を編む」のように淡々と、ほんわり進むお話を読んで忘れていましたが、そうだ、「光」を書いた方だったと思い出しました。
    あれ程の暴力と固執、絶望感と孤独ではありませんが、多田さんと行天さんの抱える仄暗い過去や後悔、暴力的なところは少し似たようなものを感じました。

    世界観もしっかりして、本当にこんな町があってこんな人たちがいるのではないか、実録かな?というくらい出てくる人たちが生き生きとした存在感を感じました。
    テンポよく進む話で、多田さんと行天さんのやり取り、個性的な登場人物がとても魅力的で面白かったです。

    個性的な人が出てくるところは一貫して三浦しをんさんかな、と。
    続編も楽しみ!

  • 作者の初読み。
    本当は、「風が強く吹いている」を購入したかったが、なくて……。
    今年もひそかに初読みキャンペーン継続中。

    同級生と一緒に便利屋を営み、日頃の色んな出来事が絡み合う物語。
    ほのぼのと読める感じでした。多田さんの心の中のツッコミがたくさん出てきて面白い。
    シリーズ続いてるようなので、次以降の方が楽しそう……また期間あけて購入してみよう。

    あら、、三浦しをんさんって舟を編むの作者なんですね、、!!私これは映像で観てました。
    生田斗真だったから。笑
    もしかしたら、10年前にきみはポラリスも読んだかも!!

    次は、、、、ミステリーかな、、昨日また数冊仕入れ済み( ✌︎'ω')✌︎

    • 1Q84O1さん
      なんなんさん
      「舟を編む」も忘れず読んでくださいね(๑´ڡ`๑)
      いいですよ!
      もちろん「まほろ〜」の続きもですw
      なんなんさん
      「舟を編む」も忘れず読んでくださいね(๑´ڡ`๑)
      いいですよ!
      もちろん「まほろ〜」の続きもですw
      2023/02/03
    • なんなんさん
      1Q84O1さん、おはようございます。
      舟を編む。も!!ですね。渋滞中。笑
      まほろ〜も。
      読みたいのがたくさんありすぎますが楽しみ!
      ・:*...
      1Q84O1さん、おはようございます。
      舟を編む。も!!ですね。渋滞中。笑
      まほろ〜も。
      読みたいのがたくさんありすぎますが楽しみ!
      ・:*+.\(( °ω° ))/.:+
      2023/02/03
    • 1Q84O1さん
      なんなんさん
      おはようございます~♪
      きっと本の渋滞はずーっと解消されないんでしょうね…w
      自分もヤバいです(^o^;
      もっと時間が欲しいで...
      なんなんさん
      おはようございます~♪
      きっと本の渋滞はずーっと解消されないんでしょうね…w
      自分もヤバいです(^o^;
      もっと時間が欲しいです〜!
      2023/02/03
  • 高等学校のクラスの人数って40名くらいでしょうか。毎日朝から夕方まで、一年という長い時間を一緒に暮らす、たまたま一緒になった人たち。さらにたまたま隣の席になったから、その時にたまたま好きな歌手が一緒だったから、様々な理由で、たまたま一緒になった人たちの中から友だちという一段上がった輪が、繋がりが生まれます。同じクラスといっても全員と友だちになるわけじゃない。その時たまたま友だちになった人、友だちにはならなかった人。その時、友だちにならなかった、もしくはなれなかったとしても、長い人生かけてみれば、もしかするとその人たちの中にこそ、あなたにとって、あなたの人生にとって知り合うべきだった人がいたかもしれません。あなたの人生に影響を与えた人がいたかもしれません。

    『おおげさに言えば、まほろ市は国境地帯だ。まほろ市民は、二つの国に心を引き裂かれた人々なのだ。外部からの侵入者に苛立たされ、しかし、中心を目指すものの渇望もよく理解できる』東京23区の西部に位置し、『外部からの異物を受け入れながら、閉ざされつづける楽園。文化と人間が流れつく最果ての場所。その泥っこい磁場にとらわれたら、二度と逃れられない。それが、まほろ市だ』という主人公・多田啓介が生まれ、暮らす街・まほろ市。そんな街の駅前で便利屋を営む多田。『庭に猫の死骸があるから片づけてほしい。押入のつっかえ棒がはずれて洋服をかけられないので取りつけてほしい。夜逃げした店子の荷物を処分してほしい』などなど、そんなことは自分でやれ、と言いたくなるような依頼を嫌な顔ひとつせず引き受けていく多田。

    そんな多田が、とあるバス停のベンチに、遠い記憶の中にあった顔を見かけます。『成績はすこぶるよく、見た目も悪くはなかった。校内では変人として有名だった。言葉を発さなかったのだ』という高校時代のクラスメイト・行天春彦。当時繋がりは全くなく、たまたま同じクラスにいただけの人。そんな行天は多田の後を着いていきます。『帰れと言いたくても、行天には帰るところがない。そういう相手に、どんな言葉を告げればいいんだ』仕事を辞め、アパートも引き払い、一文無しだという行天。そんな行天の便利屋での居候生活がスタートしました。

    便利屋として色んな仕事を手掛ける多田。あまり役に立たない行天。そんな行天に給料を支払うようになった多田。でも行天は『犬のように小金を貯めこみ、鶴のように恩返しする男。行天の行動は、多田からすると謎に満ちていた』と、何か訳ありな事情を抱えているようにも見える行天。でもそんな行天との出会いが、多田の人生観に大きな変化を生じさせていきます。

    今まで私は便利屋を利用したことはありませんが、自分の住む街にもあることはチラシなんかで知っています。さて、自分だったら何を依頼するのだろうか?とも思います。専門知識を要するのでないなら、身近な誰かにちょっと手伝ってもらえば済むことなのではとも思います。でも、『近しいひとじゃなく、気軽に相談したり頼んだりできる遠い存在のほうが、救いになることもあるのかもしれない』お金を払ってでも仕事として引き受けてくれる人にお願いした方が気持ちとしては楽になる、そういったことって場面によってはあるのかもしれません。だからこそ、便利屋という稼業は思いがけず依頼者にとても近い部分、その人の生活の深い部分を偶然にも垣間見ることも多くなるのかもしれません。
    『だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ』
    『黙っていれば、相手は自分にとって都合のいい理由を、勝手に想像してくれる』
    そんな二人の会話の中からは、このようなどこか冷めた、どこか人生を悟ったような言葉も飛び出してきました。そして、二人がそれぞれに背負う過去が語られていくに従って、こういった言葉がどんどん重みを増して胸に入ってきます。

    裏世界の闇、夜の街で生きる人たちの光と影、一見幸せそうに見える普通の親子の希薄な繋がり、まほろ市に生きる色んな人たちの生活を便利屋稼業を通じて垣間見る多田と行天。どこまでいっても他人事、仕事としての便利屋。でも二人は関わった人を放っておけない、事情を知った人を助けてあげたい。そして、最後まで付き合って面倒を見る。時にはケンカしながら、お互いに影響を受け合って最後は助け合って仕事をこなしていく二人。

    なんだか見ていて飽きない、憎めない、どこかホッコリした気持ちにもさせてくれる多田と行天。

    行天が言った言葉『人間の本質って、たいがい第一印象どおりのものでしょう。ひとは、言葉や態度でいくらでも自分を装う生き物だから』確かにそうなのかもしれませんが、第一印象に現れないものもあるように思います。たまたま友だちになる機会がなかった人たちの中にも、付き合ってみたら…という人がいたのかもしれない。時間を経て再び出会った多田と行天。高校時代の第一印象だけでは決して見えなかったものがそこにはありました。深く知り合ってみて初めて見えてくるものがありました。初めて感じるものもありました。だから、人間社会は面白い。そんな風に改めて感じました。

    どことなくノスタルジックな雰囲気の香る街並み、そんな中に今日も生きる人たち、そこに流れるとてもあったかいものを感じた作品でした。

  • 池袋ウエストゲートパークとはまた違った
    トラブルシュート。

    仕事として便利屋をやっている中で
    依頼以上の関わりをする。

    自分の築いてきた世界に、
    新たな出会いが入り、
    それに本気で関わることで、
    また新しい世界が生まれる。

    この2人も、きっとそうだと思う。
    続編も是非読みたい。

  • 都会で、情緒あって、裏には怪しい場所もある各地にありそうな街まほろ。便利屋でなく便利軒というのがいいと思った。駅前の風景が浮かびそう。
    ほっこり、色々な依頼人との交流を描いてゆく、というだけではなかった。
    表紙が気になっていました。この本を手に取ったのは偶然ですが、表紙の印象より深い本だった。
    便利屋を営む多田と風変わりな行天。あつい友情、とも違う。過去にわだかまりがある二人が切磋琢磨しながら見出すものはなにか。
    行天は多田に「俺の小指にさわってみな」という。
    (過去の)傷口に触れるのが苦手な私だったら、無理無理、というところだろう。
    「傷はふさがってるでしょ。すべてが元通りとはいかなくても、修復することはできる」
    この言葉、自分が聞き取る年代によって、受け取り方が違うのだろうな。
    失ったものが完全に戻ってくることはなく、得たと思った瞬間には記憶になってしまうのだとしても。
    幸福は再生する。形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ。
    「形を変え、何度でも」なんだなあ。


  • まほろ駅前多田便利軒 三浦しをん著
    1.購読動機
    三浦しをんさん。舟を編む、風が強く吹いている、きみはポラリスと読んできました。
    こころ温まる、でも少しだけホロリとくる、そのテイストが好きです。
    映画はみずに本著だけ読みました。

    2.物語
    東京南西部に位置する街。
    その便利屋が舞台です。
    ①夜逃げ家族からの飼い猫の面倒
    ②飼い猫の引き取り先探し
    ③中学受験の送り迎え代行
    ④地元悪組織との格闘
    ⑤高校生失踪事件の真相究明
    ⑥育てと生みの親。違いに悩む大人との出会い

    この物語を通じて、便利やが自身よ人生を振り返る、そして新しい一歩に踏み出す物語です。

    3.読み終えて
    「誰かに必要とされること。
     それは、誰かの希望になることだ。」

    穏やかな物語でした。
    何にも、脅かされず、心を落ちつかせて読むことができました。
    まほろ駅。ぜひ、見つけたい。

  • 三浦しをんさん4冊目。主人公の便利屋の多田の家に過去に多田の同級生だった行天が居候する。便利屋の仕事は草むしり、子どもの送迎、旧彼と別れたいなど雑多。2人の仕事には何故かヤクザと関係してしまう。さらにヤクザを追う警察とも顔なじみ。多田と行天の共通点は離婚歴。自分の「こども」への想いが共通点のような気がする。多田はこどもが病死し、行天は生き別れる。この2人の暗い過去、人生の対比、さらに同居。エネルギーを放ち懸命に生きる2人は全く見えない「幸福の再生」に向け歩む。2人の生き様は不格好ではあるが何故か眩しい。

    「不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはない」BY 行天

  • 先日、三浦しをんさんの『墨のゆらめき』を読み、未読の他の小説も読んでみたくなり手にした。2006年出版の直木賞受賞作品。2011年には映画化も果たしている。
    東京郊外の「まほろ市」で便利屋を営む多田とその高校の同級生で半ば転がり込む形で便利屋にやってきた行天の1年間。のんびりした町を舞台としたほのぼのした話を想像していたが、まほろ市の治安が予想以上にわるく笑、様々な「事件」に関わりつつ、それぞれの過去や、便利屋での業務を通じて多様な人たちと交流し人間的な成長も垣間見られる濃厚な話だった。最後の「今度こそ多田は、はっきりと言うことができる。幸福は再生する、と。形を変え、さまざまな姿でそれを求める人たちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ。」というフレーズが特に良かった。

  • まるで、長いようでいて、あっという間の旅、ロードムービーを味わった感覚になりました。

    主人公は、便利屋を営む多田。職を失い住むところもなくした行天。ひょんなことから再会した高校時代の同級生2人に、次々と舞い込む仕事は、

    母親の見舞いの代理、ペットの預かり、庭と納屋の掃除、塾の迎え、身辺警護に、身辺整理の依頼等々。便利屋と聞いて想像できる内容から、かなり刺激的なものまであって、2人は、依頼を受けるなか、過去の自身の傷に、嫌がおうなく向き合っていくストーリー。

    ぶっきらぼうで内省的な多田。
    よくしゃべるのに心のうちを明かさない自分も他人もどうでもいい素振りを見せる行天。

    2人の掛け合いは、所々笑いを誘う軽快さもありつつ、愛情を与えてもらえない小学生や、明日をも知れぬ暮らしぶりの夜の世界を生きる娼婦との出会いから、反社会的な物騒な世界に巻き込まれて…。

    愛情とは何か、血をよりどころとせず、つながった家族の幸せとは。希望とは。切り離された過去の傷は、罪悪感から赦されるのか。

    「傷はふさがっているでしょ。たしかに小指だけいつも他よりちょっと冷たいけど、こすっていればじきにぬくもってくる。すべてが元通りとはいかなくても、修復することができる」という行天

    「幸福は再生する」と心につぶやく多田

    2人の言葉に全てが込められている気がしました。

    多田と行天、一見ハードボイルドなのに、やわらかく強い輝きや優しさを胸の奥底に秘めた2人の魅力が光る素敵な作品でした。

  • なんたるハードボイルド!

    タイトルから勝手に「便利屋を通じて出会う市井の人々との心温まる交流」みたいな話を想像して敬遠していたのだが(あながち間違いとはいえないが)『風が強く吹いている』が抜群に面白かったのと、続編のドラマ化の影響でようやく手に取った。

    多田と行天がどうしても瑛太と松田龍平で脳内再生されてしまう。

     「なんじゃこりゃあ!」
      多田は呆然とつぶやき、
     「それ、だれの真似? 全然似てない」
      と行天は笑った。

    『ジーパン』の物真似に息子がツッコんでいる姿を想像して僕も笑った。

    それにしても三浦しをんさんって女性なんでしょう?
    なんでこんなに、30過ぎた子持ち男の哀愁を描けるのだろう。
    女性作家が書く男性って、スキンケアも万全で高級車のCMに出てくるような人ばかりだと思っていたけれど、この雄の匂いを発散させた輩どもよ! そして格好悪いながらもギリギリのラインで踏ん張る矜持。
    三浦さんってなんか特殊な嗜好でもあるのだろうか(褒め言葉です)。

    多田や行天をはじめ、ルルやハイシー、星と清海、由良公に「元妻」凪子など、善悪では割り切れない「心優しき人々」
    一匹のチワワから細く微かに繋がっていく「縁」がいい。

    病院で買ったお茶にカステラを浸し、ふやかしながら食べる曽根田のばあちゃん。
    スーパー横の暗い道にへばりつく何台もの自動販売機と、必要とは思えないほどの数の証明写真のボックス。
    里山の風景などではない21世紀型の郷愁も凄い。

     金色のスプーンでコーヒーに深い渦潮を作ったり、
    等の、何でもないシーンにも随所にさらりと織り込まれた表現も贅沢。

    軽く読めるエンタテインメントのようでありながら寓意に満ちた味わい深い物語。
    早く続編が読みたい。

    • kwosaさん
      まろんさん!

      逢瀬!? ですか!
      実はドラマのほうは初回を観て
      「ヤバい! 面白い!!」と思い、あわてて原作を読み始め、一時中断しているん...
      まろんさん!

      逢瀬!? ですか!
      実はドラマのほうは初回を観て
      「ヤバい! 面白い!!」と思い、あわてて原作を読み始め、一時中断しているんですよね。
      映画版は昨日、早速DVDをレンタルしてきたのでこれから観ます。

      三浦しをんさん、いいですね。
      じわじわとハマってきましたよ。
      すでに『まほろ駅前番外地』と『神去なあなあ日常』が待機しているので、ゆっくり楽しみたいと思います。
      2013/02/16
    • MOTOさん
      あ、そう、そう!

      私も、この本…(じゃなかった。未だに未読!でも、映画見て。それと、『風が強く吹いている』の印象も、兼ねて)

      「しをんさ...
      あ、そう、そう!

      私も、この本…(じゃなかった。未だに未読!でも、映画見て。それと、『風が強く吹いている』の印象も、兼ねて)

      「しをんさんって、なんでこんなに男心がわかるんだろう??」と、同じ疑問を抱いておりました♪
      作品に充満している、あの男くささは一体どこからくるのでしょうね。
      >特殊な思考の持ち主・・・。

      あはは♪実際、そうじゃなければ、こうもリアルに女性が男性の心情描ける事は無いかもしれません。
      kwosaさんのレビューを読んで、ますます本のほうも楽しみになってきました!
      (でも、購入した本って、ほんと後回しになるからつらいとこです~~)

      2013/07/06
    • kwosaさん
      MOTOさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      >作品に充満している、あの男くささは一体どこからくるのでしょうね。

      本当に思い...
      MOTOさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      >作品に充満している、あの男くささは一体どこからくるのでしょうね。

      本当に思いますよねぇ。
      最近、エッセイ『本屋さんで待ちあわせ』を読んだのですが「なるほど、そんなご趣味が......」
      謎の解答の一端を垣間みた気がします。
      そう考えると『風が強く吹いている』が男二人の入浴シーンから始まるのも......いやいや邪念が頭をよぎりました(笑)

      >(でも、購入した本って、ほんと後回しになるからつらいとこです~~)

      MOTOさんの心の叫びに激しく同意!
      僕も、続編の『まほろ駅前番外地』読みかけのまま積んでます。
      ああ、はやく読まなければ。
      2013/07/06
  • 続けて読んでみたいなと思う作家さんに出会うと嬉しい。作中に出てくる言葉が妙に心に残る時がその時でもある。《愛情と言うのは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手からもらうこと》

  • 三浦しをん(2006年3月単行本、2009年1月文庫本)。
    舞台は東京の西南部まほろ市、駅前で便利屋を営む多田啓介の元へ高校の同級生の行天春彦が転がり込んで来る。そして様々な依頼仕事に対処しながら厄介な問題に巻き込まれる物語だ。
    多田と行天は高校時代に同級生ではあったが、友達ではなかった。と言うより話したこともなかったが、行天が指を切り落とすという事故の現場に多田が居合わせたことがあった。どうもその時の様子が多田の行天への隠れた負い目になっているらしい。
    二人とも進学校のまほろ高校を卒業して大学へ進み、多田は自動車販売会社、行天は製薬会社へと就職し、結婚するが二人とも離婚している。この二人の各々の結婚と離婚の事情が今も二人を引きずっている。

    依頼を受けた便利屋の仕事は曽根のばあちゃんという入院中の90歳の老人の息子のふりをしたり、アパート経営で悠々自適の隠居生活を送る岡さんという人の家の庭掃除をしながらバス運行の監視をしたり、訳ありの佐瀬家の年末年始の帰省時に犬のチワワを預ったりする仕事だ。
    そしてそのチワワは佐瀬家の夜逃げによる捨て犬だとわかり、新しい飼い主を探していると、飼いたいと言う駅裏で娼婦をしているルルと言う女性がやって来る。そしてルルとルルのルームメイトのハイシーと言う女性二人と関わることになる。
    ルルの付き合っている男が薬の売人をやっているシン(森岡慎)というチンピラで、多田はルルにはチワワを渡せないと行天に言い、行天はルルの気持ちに沿って力ずくでシンをルルから遠ざけ、取り敢えずチワワがルルに飼われる環境を整えるのだった。便利屋の仕事ではないが漢気がある優しい行天だった。

    便利屋の仕事で小学四年生の田村由良という少年を塾から自宅までの送り届けるというのがあったのだが、由良は星と言う半グレのヤクザの下っ端の男の手先になって薬の運び役をさせられていた。行天は星と取引きをして由良を薬の運び役から解放させる。これも便利屋の仕事外であったが、由良と言う一人の少年の未来を救うことになる。

    ハイシーにはしつこくつきまとってくる山下というチンピラがいて困っているのを行天がこれも顔面パンチで引き離す。行天はこの山下に刺されて1ヶ月半も入院することになり、その後山下は行方不明になる。まほろ署刑事の早坂が追っているが依然わからず、この山下というのは星の配下の者でもあり、行天は星が殺したと思っていて星を追求するが上手く煙に巻かれる。

    そしてまほろ市で殺人事件が起こる。由良が住んでいる同じマンションで芦原園子と言うまほろ高校二年生の両親が殺された。園子のクラスメートだと言う新村清海をマスコミから逃れるために匿ってくれと何とあのヤクザの下っ端の星が便利屋に連れて来た。星は清海の二年先輩で二人は付き合っているらしい。
    清海は多田を信用して事件の真相を打ち明けることになる。殺したのは娘の園子で虐待を受けていたと言う。そして清海はその逃亡を手伝っていた。多田に説得された清海は園子と話して園子は自首するのだった。

    多田と行天の結婚と離婚の経緯が語られるが、二人とも複雑で特異な経験をしていた。
    多田は大学法学部の同級生と卒業後すぐに結婚、多田は自動車販売会社に就職したが彼女は卒業後2年で司法試験に合格し弁護士になった。年収の差はあっても上手くいってたはずだった。しかし彼女は浮気した。多田の問い詰めに彼女は泣いて許しを乞うた。そしてその直後に妊娠がわかった。多田の子だと言う彼女の言葉を多田は信じた。しかし生後1ヶ月で突然死んだ。それから諍いが絶えずに半年後に離婚する。子供の月命日には元妻はお墓参りをしており、多田はその前日にお墓参りをして二人はそれ以来会っていない。
    妻と子供を失った心の傷は今も残っている。

    行天は大学を卒業後、製薬会社に就職した。営業で病院に行った時に内科医だった5歳位年上の三峯凪子と知り合った。そして結婚して女の子が生まれ、すぐに離婚した。凪子には同性のパートナーがいて子供が欲しかった。行天は形だけの結婚・離婚をして人工授精に協力しただけなのだが、お互いに信頼し合う希望の象徴であった。しかしそれ以来一度も会うことはなかった。
    行天は子供の頃、親から虐待を受けたことで感受性が損なわれた変な性格になったようだ。しかし他人との関わりを一切持たなかった高校時代から今は人に何かを感じ取らせる不思議な雰囲気を持つような人間になったらしい。
    凪子は多田に「愛情というのは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手からもらうことということを行天と共有した」と言った。行天は決して変人ではなく、優しい心を持った思いやりのある人間なのだ。
    それでも幼少時に親から受けた傷は今も残っている。

    この二人の心の傷がぶつかり合うことが、便利屋の依頼仕事の中で起こり、多田が行天を追い出してしまうのだが、多田の心の闇を吐き出したことでかえって二人の関係は近いものになるのだった。
    高校時代の行天の小指を切断する事件への多田の関与の疑点、多田の亡くなった子供の父親、元妻への悪意の有無、色んな疑点を抱える多田の心の傷を行天は包み込む。

    多田と行天の身辺に現れるまほろ署刑事の早坂、娼婦のルルとハイシー、薬の運び役から救った小学生の由良、その他便利屋の依頼客の面々、いづれもまほろ市の住民だ。これからも多田と行天の人生にどう関わって来るのか想像が膨らむ。

    映画は観てないが、番宣映像で見た多田役の永山瑛太、行天役の松田龍平、これ以上ピッタリ来る俳優はいない。テーマ音楽もピッタリ、今度は是非映画を見てみたい。そして次作の「まほろ駅前番外地」も是非読んでみたい。

  • 舟を編むを読んで他の作品もと思い読書。
    始めはただおもしろいという感じでさらさらと読めてしまったけれども、途中からそれだけではなかった。登場人物はあまり世間一般的には褒められるような人達ではないかもしれないけれど、人を思う気持ちが優しくて。
    多分今は上手くいけてなかったり、人から見たらあまり幸せとはいえない環境でも彼らはみな幸せが何かを知っているような気がする。
    映画の方も観てみようと思う。

  • 私、町田駅前に住んでいるので、あっさり★5つ。(笑)

    ここの登場人物は皆、この街のあるあるな人達です。
    このごった煮具合の雰囲気は親近感しかありません。苦笑

    「探偵物語」を彷彿させるハードボイルド感、
    シリアスな中にも笑いとホロっとさせるところがいい。
    レイモンド・チャンドラーのマーロウが言う
    「やさしくなくては生きていく資格がない」って奴か。

    何がいいのか、うまく言えない。でも、いい。
    続編も楽しみです。

  • 三浦しおんの多彩さに舌を巻く。「風が強く吹いている」「舟を編む」そして「まほろ駅前」。同じ作家が書いたとは思えない。時に若者の目線で、時にハードボイルドのタッチで読者を話に引き込む筆力には脱帽。事前の細やかな取材がバックグラウンドになっているのだろう。

    過去を引きづる便利屋多田と心を置き去りにした相方行天。二人がまほろ市民の問題を解決していく話。今、どういう状況にあっても前に進んでいけば、違う幸せが待っている⁈ということかな。

  • 私の地元がモデルだと聞いて読んでみました。
    なるほど確かに舞台となっている地域は懐かしさ一杯。
    短めのお話のなかで多田と行天が走り回る物語は、昔好きで見ていた探偵ドラマを思い出しました。

  • 三浦氏の作品を読むのは初めてだったのですが、第135回直木賞受賞作と帯にあったので読んでみました。
    はじめの1/5は ちょっと現実離れしていて 読むペースが遅くなりましたが、登場人物の人間像や過去が描かれてからは面白く一気に読みました。
    便利屋さんが主人公で、そこに同級生が転がり込んできて、二人で仕事をするようになるのですが、その2人の人間模様がおもしろい。
    主人公が便利屋さんなので、いろいろな依頼人もでてきます。
    本当に最後の方は読むのを止めれなくなりました。

    もう一度 時間をおいて読み返したいと思います。

  • まほろシリーズ第一弾。第135回直木賞受賞作。東京の外れに位置する都市南西部最大の町「まひろ市」便利屋を営む多田のもとに高校時代の同級生の行天が転がり込む。ぶっきらぼうだけどどこか心優しい便利屋の二人によるワケありだがユーモア溢れ、心温まる「幸福の再生」のお話。

    ドラマと映画では多田を「瑛太」、行天を「松田龍平」が演じていましたが脳内再生余裕でした。

    5つの短編から構成される本作。めちゃくちゃ良かった。お節介焼きの多田と変わり者の行天。ともにバツイチ子あり。けどその背景は大きく異なる二人。孤独と深い闇を抱える主人公の心の成長が描かれている。

    「愛情というのは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手からもらうこと。」

    「不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはない」

    多田と仰天のくだらない会話がとても心地良くて、「物語はどこに向かっていくんだろ〜」って、ふわふわと読み進めていたのに、気付いたときにはとても心が温まる作品でした。心がなんだか楽になる。とても良い作品です。

    みなさんも「まほろ市」に足を運んでみてはいかがですか?

    どこか温かい気持ちになれると思いますよ。

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著者プロフィール

1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』で、デビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で「直木賞」、12年『舟を編む』で「本屋大賞」、15年『あの家に暮らす四人の女』で「織田作之助賞」、18年『ののはな通信』で「島清恋愛文学賞」19年に「河合隼雄物語賞」、同年『愛なき世界』で「日本植物学会賞特別賞」を受賞する。その他小説に、『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『きみはポラリス』、エッセイ集に『乙女なげやり』『のっけから失礼します』『好きになってしまいました。』等がある。

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