まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫 み 36-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167761011

感想・レビュー・書評

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  • 「あんたはきっと来年忙しくなる」
    「旅をしたり、泣いたり笑ったりさ」
    「とてもとても遠い場所。自分の心の中ぐらい遠い」
    まほろ駅前の便利屋の多田が依頼を受けて「息子」として見舞いに行った曽根田のおばあちゃんの予言だ。
    新年早々、多田は子犬を預りながら、市バスが間引き運転をしていないか監視をするという仕事をしていた。ふと気付くと子犬がいない。と、バス停のベンチに座っている男の膝に子犬は抱かれていた。
    「お前、多田だろ」
    その男は高校時代の同級生、行天だった。小指の傷で分かった。高校の工芸の時間、裁断機を使っていたとき、同級生がふざけていて、小指がスパッと飛んだ時の傷跡である。行天はその時すぐに拾ってくっつけたので、くっついてはいるが、いつまでも生々しい傷跡を残していた。
    行天は小指が飛んだ時に「痛い」と言った以外は、高校時代、全く言葉を発しなかった。
     だから、行天は高校時代、多田だけでなく、誰とも友達ではなかったのだが、何十年ぶりかであったその夜、自分から話しかけてきたのだ。
    「あんた、今何の仕事してんの?なあなあ」とちゃらけた感じで。
    真冬なのに、素足にサンダル。「今晩、多田の事務所に泊めてくれ」と言う。
    二人ともずっとまほろ市にいたのに、高校卒業後会わなかった。行天は多田の予想に反して結婚歴があり、子供も一人いるということだった。多田は順調に幸せな人生を歩んでいるという行天の予想に反して、離婚して子供はいなかった。そして、大学を卒業して順調に就職したにもかかわらず、今は便利屋をしていた。行天は今は家族はおらず、帰るところも無いようだった。
    そのまま行天は多田の事務所に居候を続け、たいして役に立たない従業員として働いた。
    まほろ市は東京の町田市がモデルになっているそうである。
    東京か神奈川かどっちつかずの町。夜はヤンキーであるれる町。東京都南西部最大の住宅街、歓楽街、電気街、書店街、学生街。スーパーもデパートも商店街も映画館もなんでも揃い、福祉と介護制度が充実している。まほろ市民として生まれた者は、なかなかまほろ市から出て行かず、一度出て行ってもまた帰ってくる割合が高いそうだ。
    そんな、まほろ市の「便利屋」多田のところには、さまざまな依頼がくる。大抵は自分でやれないことはないのに人にやってもらいたい依頼。
    依頼者の代わりに動物を預かったり、探し物をしたり、家族の送迎をしたり、物置の片付けをしたり、人を匿ったり…。
    「便利屋」の仕事を通して、様々な人間模様が見えてくる。一見「教育ママ」でありながら子供に無関心な親。その結果、知らぬ間に闇バイトに巻き込まれている子供。DV、風俗、暴力…。
    多田も行天も心に深い傷を負っている。そのため淡々としているが、実は傷ついた分、誰かを愛そうと無意識のうちにしているのが分かる。だから二人の行動は滑稽だが暖かい。

    「旅に出るよ」と予言があった割には、「まほろ市」の中から出ず、まほろ市の中を深く、そして人の人生の過去を深く旅する小説だった。

  • 高等学校のクラスの人数って40名くらいでしょうか。毎日朝から夕方まで、一年という長い時間を一緒に暮らす、たまたま一緒になった人たち。さらにたまたま隣の席になったから、その時にたまたま好きな歌手が一緒だったから、様々な理由で、たまたま一緒になった人たちの中から友だちという一段上がった輪が、繋がりが生まれます。同じクラスといっても全員と友だちになるわけじゃない。その時たまたま友だちになった人、友だちにはならなかった人。その時、友だちにならなかった、もしくはなれなかったとしても、長い人生かけてみれば、もしかするとその人たちの中にこそ、あなたにとって、あなたの人生にとって知り合うべきだった人がいたかもしれません。あなたの人生に影響を与えた人がいたかもしれません。

    『おおげさに言えば、まほろ市は国境地帯だ。まほろ市民は、二つの国に心を引き裂かれた人々なのだ。外部からの侵入者に苛立たされ、しかし、中心を目指すものの渇望もよく理解できる』東京23区の西部に位置し、『外部からの異物を受け入れながら、閉ざされつづける楽園。文化と人間が流れつく最果ての場所。その泥っこい磁場にとらわれたら、二度と逃れられない。それが、まほろ市だ』という主人公・多田啓介が生まれ、暮らす街・まほろ市。そんな街の駅前で便利屋を営む多田。『庭に猫の死骸があるから片づけてほしい。押入のつっかえ棒がはずれて洋服をかけられないので取りつけてほしい。夜逃げした店子の荷物を処分してほしい』などなど、そんなことは自分でやれ、と言いたくなるような依頼を嫌な顔ひとつせず引き受けていく多田。

    そんな多田が、とあるバス停のベンチに、遠い記憶の中にあった顔を見かけます。『成績はすこぶるよく、見た目も悪くはなかった。校内では変人として有名だった。言葉を発さなかったのだ』という高校時代のクラスメイト・行天春彦。当時繋がりは全くなく、たまたま同じクラスにいただけの人。そんな行天は多田の後を着いていきます。『帰れと言いたくても、行天には帰るところがない。そういう相手に、どんな言葉を告げればいいんだ』仕事を辞め、アパートも引き払い、一文無しだという行天。そんな行天の便利屋での居候生活がスタートしました。

    便利屋として色んな仕事を手掛ける多田。あまり役に立たない行天。そんな行天に給料を支払うようになった多田。でも行天は『犬のように小金を貯めこみ、鶴のように恩返しする男。行天の行動は、多田からすると謎に満ちていた』と、何か訳ありな事情を抱えているようにも見える行天。でもそんな行天との出会いが、多田の人生観に大きな変化を生じさせていきます。

    今まで私は便利屋を利用したことはありませんが、自分の住む街にもあることはチラシなんかで知っています。さて、自分だったら何を依頼するのだろうか?とも思います。専門知識を要するのでないなら、身近な誰かにちょっと手伝ってもらえば済むことなのではとも思います。でも、『近しいひとじゃなく、気軽に相談したり頼んだりできる遠い存在のほうが、救いになることもあるのかもしれない』お金を払ってでも仕事として引き受けてくれる人にお願いした方が気持ちとしては楽になる、そういったことって場面によってはあるのかもしれません。だからこそ、便利屋という稼業は思いがけず依頼者にとても近い部分、その人の生活の深い部分を偶然にも垣間見ることも多くなるのかもしれません。
    『だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ』
    『黙っていれば、相手は自分にとって都合のいい理由を、勝手に想像してくれる』
    そんな二人の会話の中からは、このようなどこか冷めた、どこか人生を悟ったような言葉も飛び出してきました。そして、二人がそれぞれに背負う過去が語られていくに従って、こういった言葉がどんどん重みを増して胸に入ってきます。

    裏世界の闇、夜の街で生きる人たちの光と影、一見幸せそうに見える普通の親子の希薄な繋がり、まほろ市に生きる色んな人たちの生活を便利屋稼業を通じて垣間見る多田と行天。どこまでいっても他人事、仕事としての便利屋。でも二人は関わった人を放っておけない、事情を知った人を助けてあげたい。そして、最後まで付き合って面倒を見る。時にはケンカしながら、お互いに影響を受け合って最後は助け合って仕事をこなしていく二人。

    なんだか見ていて飽きない、憎めない、どこかホッコリした気持ちにもさせてくれる多田と行天。

    行天が言った言葉『人間の本質って、たいがい第一印象どおりのものでしょう。ひとは、言葉や態度でいくらでも自分を装う生き物だから』確かにそうなのかもしれませんが、第一印象に現れないものもあるように思います。たまたま友だちになる機会がなかった人たちの中にも、付き合ってみたら…という人がいたのかもしれない。時間を経て再び出会った多田と行天。高校時代の第一印象だけでは決して見えなかったものがそこにはありました。深く知り合ってみて初めて見えてくるものがありました。初めて感じるものもありました。だから、人間社会は面白い。そんな風に改めて感じました。

    どことなくノスタルジックな雰囲気の香る街並み、そんな中に今日も生きる人たち、そこに流れるとてもあったかいものを感じた作品でした。


  • まほろ駅前多田便利軒 三浦しをん著
    1.購読動機
    三浦しをんさん。舟を編む、風が強く吹いている、きみはポラリスと読んできました。
    こころ温まる、でも少しだけホロリとくる、そのテイストが好きです。
    映画はみずに本著だけ読みました。

    2.物語
    東京南西部に位置する街。
    その便利屋が舞台です。
    ①夜逃げ家族からの飼い猫の面倒
    ②飼い猫の引き取り先探し
    ③中学受験の送り迎え代行
    ④地元悪組織との格闘
    ⑤高校生失踪事件の真相究明
    ⑥育てと生みの親。違いに悩む大人との出会い

    この物語を通じて、便利やが自身よ人生を振り返る、そして新しい一歩に踏み出す物語です。

    3.読み終えて
    「誰かに必要とされること。
     それは、誰かの希望になることだ。」

    穏やかな物語でした。
    何にも、脅かされず、心を落ちつかせて読むことができました。
    まほろ駅。ぜひ、見つけたい。

  • まるで、長いようでいて、あっという間の旅、ロードムービーを味わった感覚になりました。

    主人公は、便利屋を営む多田。職を失い住むところもなくした行天。ひょんなことから再会した高校時代の同級生2人に、次々と舞い込む仕事は、

    母親の見舞いの代理、ペットの預かり、庭と納屋の掃除、塾の迎え、身辺警護に、身辺整理の依頼等々。便利屋と聞いて想像できる内容から、かなり刺激的なものまであって、2人は、依頼を受けるなか、過去の自身の傷に、嫌がおうなく向き合っていくストーリー。

    ぶっきらぼうで内省的な多田。
    よくしゃべるのに心のうちを明かさない自分も他人もどうでもいい素振りを見せる行天。

    2人の掛け合いは、所々笑いを誘う軽快さもありつつ、愛情を与えてもらえない小学生や、明日をも知れぬ暮らしぶりの夜の世界を生きる娼婦との出会いから、反社会的な物騒な世界に巻き込まれて…。

    愛情とは何か、血をよりどころとせず、つながった家族の幸せとは。希望とは。切り離された過去の傷は、罪悪感から赦されるのか。

    「傷はふさがっているでしょ。たしかに小指だけいつも他よりちょっと冷たいけど、こすっていればじきにぬくもってくる。すべてが元通りとはいかなくても、修復することができる」という行天

    「幸福は再生する」と心につぶやく多田

    2人の言葉に全てが込められている気がしました。

    多田と行天、一見ハードボイルドなのに、やわらかく強い輝きや優しさを胸の奥底に秘めた2人の魅力が光る素敵な作品でした。

  • なんたるハードボイルド!

    タイトルから勝手に「便利屋を通じて出会う市井の人々との心温まる交流」みたいな話を想像して敬遠していたのだが(あながち間違いとはいえないが)『風が強く吹いている』が抜群に面白かったのと、続編のドラマ化の影響でようやく手に取った。

    多田と行天がどうしても瑛太と松田龍平で脳内再生されてしまう。

     「なんじゃこりゃあ!」
      多田は呆然とつぶやき、
     「それ、だれの真似? 全然似てない」
      と行天は笑った。

    『ジーパン』の物真似に息子がツッコんでいる姿を想像して僕も笑った。

    それにしても三浦しをんさんって女性なんでしょう?
    なんでこんなに、30過ぎた子持ち男の哀愁を描けるのだろう。
    女性作家が書く男性って、スキンケアも万全で高級車のCMに出てくるような人ばかりだと思っていたけれど、この雄の匂いを発散させた輩どもよ! そして格好悪いながらもギリギリのラインで踏ん張る矜持。
    三浦さんってなんか特殊な嗜好でもあるのだろうか(褒め言葉です)。

    多田や行天をはじめ、ルルやハイシー、星と清海、由良公に「元妻」凪子など、善悪では割り切れない「心優しき人々」
    一匹のチワワから細く微かに繋がっていく「縁」がいい。

    病院で買ったお茶にカステラを浸し、ふやかしながら食べる曽根田のばあちゃん。
    スーパー横の暗い道にへばりつく何台もの自動販売機と、必要とは思えないほどの数の証明写真のボックス。
    里山の風景などではない21世紀型の郷愁も凄い。

     金色のスプーンでコーヒーに深い渦潮を作ったり、
    等の、何でもないシーンにも随所にさらりと織り込まれた表現も贅沢。

    軽く読めるエンタテインメントのようでありながら寓意に満ちた味わい深い物語。
    早く続編が読みたい。

    • kwosaさん
      まろんさん!

      逢瀬!? ですか!
      実はドラマのほうは初回を観て
      「ヤバい! 面白い!!」と思い、あわてて原作を読み始め、一時中断しているん...
      まろんさん!

      逢瀬!? ですか!
      実はドラマのほうは初回を観て
      「ヤバい! 面白い!!」と思い、あわてて原作を読み始め、一時中断しているんですよね。
      映画版は昨日、早速DVDをレンタルしてきたのでこれから観ます。

      三浦しをんさん、いいですね。
      じわじわとハマってきましたよ。
      すでに『まほろ駅前番外地』と『神去なあなあ日常』が待機しているので、ゆっくり楽しみたいと思います。
      2013/02/16
    • MOTOさん
      あ、そう、そう!

      私も、この本…(じゃなかった。未だに未読!でも、映画見て。それと、『風が強く吹いている』の印象も、兼ねて)

      「しをんさ...
      あ、そう、そう!

      私も、この本…(じゃなかった。未だに未読!でも、映画見て。それと、『風が強く吹いている』の印象も、兼ねて)

      「しをんさんって、なんでこんなに男心がわかるんだろう??」と、同じ疑問を抱いておりました♪
      作品に充満している、あの男くささは一体どこからくるのでしょうね。
      >特殊な思考の持ち主・・・。

      あはは♪実際、そうじゃなければ、こうもリアルに女性が男性の心情描ける事は無いかもしれません。
      kwosaさんのレビューを読んで、ますます本のほうも楽しみになってきました!
      (でも、購入した本って、ほんと後回しになるからつらいとこです~~)

      2013/07/06
    • kwosaさん
      MOTOさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      >作品に充満している、あの男くささは一体どこからくるのでしょうね。

      本当に思い...
      MOTOさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      >作品に充満している、あの男くささは一体どこからくるのでしょうね。

      本当に思いますよねぇ。
      最近、エッセイ『本屋さんで待ちあわせ』を読んだのですが「なるほど、そんなご趣味が......」
      謎の解答の一端を垣間みた気がします。
      そう考えると『風が強く吹いている』が男二人の入浴シーンから始まるのも......いやいや邪念が頭をよぎりました(笑)

      >(でも、購入した本って、ほんと後回しになるからつらいとこです~~)

      MOTOさんの心の叫びに激しく同意!
      僕も、続編の『まほろ駅前番外地』読みかけのまま積んでます。
      ああ、はやく読まなければ。
      2013/07/06
  • 私、町田駅前に住んでいるので、あっさり★5つ。(笑)

    ここの登場人物は皆、この街のあるあるな人達です。
    このごった煮具合の雰囲気は親近感しかありません。苦笑

    「探偵物語」を彷彿させるハードボイルド感、
    シリアスな中にも笑いとホロっとさせるところがいい。
    レイモンド・チャンドラーのマーロウが言う
    「やさしくなくては生きていく資格がない」って奴か。

    何がいいのか、うまく言えない。でも、いい。
    続編も楽しみです。

  • まほろシリーズ第一弾。第135回直木賞受賞作。東京の外れに位置する都市南西部最大の町「まひろ市」便利屋を営む多田のもとに高校時代の同級生の行天が転がり込む。ぶっきらぼうだけどどこか心優しい便利屋の二人によるワケありだがユーモア溢れ、心温まる「幸福の再生」のお話。

    ドラマと映画では多田を「瑛太」、行天を「松田龍平」が演じていましたが脳内再生余裕でした。

    5つの短編から構成される本作。めちゃくちゃ良かった。お節介焼きの多田と変わり者の行天。ともにバツイチ子あり。けどその背景は大きく異なる二人。孤独と深い闇を抱える主人公の心の成長が描かれている。

    「愛情というのは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手からもらうこと。」

    「不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはない」

    多田と仰天のくだらない会話がとても心地良くて、「物語はどこに向かっていくんだろ〜」って、ふわふわと読み進めていたのに、気付いたときにはとても心が温まる作品でした。心がなんだか楽になる。とても良い作品です。

    みなさんも「まほろ市」に足を運んでみてはいかがですか?

    どこか温かい気持ちになれると思いますよ。

  • 面白い!!


    読みやすくあっという間でした
    さらっといい言葉が書いてあって
    それもいいです


    続編が届くまで
    2回目読みます。

    ドラマ等は見たことないですが
    メインのキャストは知ってて
    イメージしながら読んでました。

    読み終わってから調べたら
    瑛太さんと松田さん
    まさかの逆のキャスティングでした!笑

  • ひょんなことから高校時代の同級生(話したことない)、行天と暮らすことになった、便利屋の多田。便利屋を頼ってくる人々と2人の人間模様を描く。

    大変面白かった。
    癖がない文体で読みやすい。

    話的には「家族」がキーワードになってくるのではないか。
    違う言い方をすれば「一緒に暮らしてるひと」。

    思いかえせば、この物語では色んなパターンの「一緒に暮らしてるひと」を描いている。
    そこには幸せばかりでなく、様々な苦しみや辛さも描かれていた。そこから幸せに向かおうとしたり、逃げたり、付き合って生きていったりする。

    ただ、登場人物それぞれに明確な幸せが訪れた描写も、明確な不幸が訪れた描写もない。
    誰かと暮らしている限り、どちらもやってくる。

    それを「淡々」と「ドラマティック」の間の感触で書いているのが心地良かったんだと思う。

  • 多田と行天の距離感と本質的な想いが心地よく、
    ワタシにとってはいろいろと共通点もあったりで
    一緒に泣いたり、ぼんやりしたり、再生に向かう光をもらったりした1冊でした。

    状況も事情も違うけど、ワタシも生まれたばかりの息子を
    亡くしたばかりなので、中盤からはそこに触れるのかなぁ…と
    少し澱のようなものを感じながら読み進めつつ…

    多田の心情と自分の心情が重なって苦しかったけど、
    失ったものが完全に戻ってくることはないという覚悟の元に
    でも、形を変えながらも、それを求める人たちのところに
    幸福は何度でもそっと再生していくと、今の自分の心情と同じでもあり
    必死でつかもうとしている一筋の小さな光の欠片だったりと
    重なって、涙は止まらないながらも明るい気持ちになれたラストでした。

    上っ面じゃなく、べたべたせず、ぶっきらぼうだけど
    根っこの部分ではココロで感じなくても本能的に
    相手を思う行動をとってしまう、多田と行天の関係を
    もっとたくさん見ていけたらいいなぁと思いました。続きも楽しみ。

著者プロフィール

1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』で、デビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で「直木賞」、12年『舟を編む』で「本屋大賞」、15年『あの家に暮らす四人の女』で「織田作之助賞」、18年『ののはな通信』で「島清恋愛文学賞」19年に「河合隼雄物語賞」、同年『愛なき世界』で「日本植物学会賞特別賞」を受賞する。その他小説に、『風が強く吹いている』『光』『神去なあなあ日常』『きみはポラリス』、エッセイ集に『乙女なげやり』『のっけから失礼します』『好きになってしまいました。』等がある。

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