どれくらいの愛情 (文春文庫 し 48-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167772017

感想・レビュー・書評

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  • -20年後の私へ-
    この作品は白石先生らしい福岡を舞台に社会的に自立した離婚歴のある女性の物語。
    40歳を目の前に迎えて、今後このまま独りで人生を送っていくのか、それともある種の妥協の言い訳を自分に言い聞かせながらでも伴侶を得て世間一般的に普通らしい人生を送るのか…そんな分岐点に立って、これまで気づいていなかった愛情に気づく…ほんと白石先生らしい展開の物語でした。100頁程の短い物語なのでそんな感動すると言うほどのものではありません。彼らしさを感じられる作品として受け止めれば良いかと思います。

    -たとえ真実を知っても彼は-
    これはとても面白かったです!
    作家と編集者という戦争を共に戦うような仕事を越えた濃密な関係性を構築する二人と双方の妻…それぞれ夫婦としての評判は高く、一方は親子共に仲睦まじく幸せな家庭だった。作家が急逝して明るみに出た真実、ドラスティックにうねりを上げて崩壊する家族関係とどう向き合い、どう折り合いをつけるのか?そこが読み処でドキドキしながら読ませてもらった。結果、作家の残した言葉通りであったが、それまでのあらましと逡巡…結論までの持っていきかたに白石先生らしさを感じた。
    -ダーウィンの法則-
    白石先生による夫婦間におけるセックスレスに関する考察が非常に興味深くて、そこへ結婚という夫婦間に横たわる倫理や節操という束縛を絡めて、すでに冷えてしまっている妻や家族との生活を守る人生と結婚後に出会った人であっても息の合う人と一緒の人生と、本当に幸せなのはどちらなのか?
    「運命のヒト」…白石一文先生が描く物語には常にそのテーマが潜んでいる。そんな運命のヒトと出逢ってしまった男女が見せる葛藤や苦悩のような感情を通して「今を生きている自分は」一体何をどう感じて生きているのか?諦観や妥協じゃなく自分の自然な欲求に正直に生きるって事がどれほど大事なことかを伝えていると感じます。僕が白石一文先生が好きな理由がそこだと思う。これはとても良い作品でした。
    -どれくらいの愛情-
    この作品では作者の言いたいことの全てを「先生」が担っていて、他者を愛するという行為、他者を思うという行為とはどういうものであるのか?…それを喝破していたように感じました。二人一緒になりたいだけなのに目の前に立ちはだかる障害の数々を乗り越えて「愛するということの意味」に辿り着く…白石先生の頭の中にうずまく想いを叩きつけたような言葉だった。とてもいい読後感です。あとがきも素晴らしかったです。この本は、おススメです。

  • この著者らしい、相変わらず理屈っぽい文体が素晴らしい(好きなのです)、短編集。

  • 2018.03.05 朝活読書サロンで紹介を受ける。

  • 【あらすじ】
    5年前、結婚を目前に最愛の女性、晶に裏切られた正平は、苦しみの中、家業に打ち込み、思わぬ成功を収めていた。そんな彼に突然、電話が。再会した男と女。明らかにされる別離の理由(表題作)。目に見えるものだけでは分からない「大切なもの」に気づくとき、人は感動に打ち震える。表題作の他3作を収録した傑作恋愛小説集。

    【感想】

  • 博多に住んだことあるもんやったらバシバシ感じるストーリー

  • あとがきで「世界の完全性」ということに言及している。小説の中ではある意味わかりやすい象徴的な人物が出てきているが、確かに「世界の完全性」なるものはあるのかもしれない。あると信じて、探求していきたいとも思うし。そんなあとがきを読んでいて思い出したのは「一般意思2.0」。いろいろなものが自分の中でつながっていく小説だった。

  • 「ダーウィンの法則」の知佳と交際相手の英一の哲学を理解することができず。

    英一の時代錯誤な考え方、知佳の保育士時代の話。不倫を正当化はできない。少なくとも私は。

    全体に宗教色が強く、受け入れ難い作品だった。

  • 4編の短編集で愛がテーマとなる作品。どれも愛を追い求めるが故、たとえ歪んだ情事でも対峙しながら幸せになろうとする。世の中不倫や裏切りなど、がっかりさせられることが多いのだが、この作中の登場人物たちはそれに支払う代価が多いと感じる。器用に生きていそうで実は不器用な部分はもはや同情の気持ちさえ芽生えた。

  • 白石一文さんの中、長編小説集。なんかどれ読んでもおんなじようなことが書いてある。
    不倫を崇高なことのように扱って酔いしれてる男が多いんだよな。
    結婚していて恋に落ちることはあると思う。でもそれって不倫だし、私は不倫するような男がぬけぬけとそのまま純愛を育むことなんてできるわけない気がする。
    同時に、いくつかの結婚には確かに間違いもあると思う。でもその結婚がいくら間違いだったとしても、「この不倫こそが真の愛だ」なんて言っちゃだめだよね。
    むずかしいなぁ…。

    「たとえ真実を知っても彼は」のテーマとなっている、真実の絶望こそが人間に真実の愛を与え得るっていう言葉が重かった。これは分からなくもない。
    「ダーウィンの法則」では、最低な不倫男だけど英一の言うことに一理あると思った。
    --愛情があるから肌を合わせるんじゃないんだ。人と人とが肌を合わせるために愛情という接着剤みたいなものが必要なのにすぎないんだ。

    そして長編「どれくらいの愛情」。
    こてこての博多弁と安っぽいトレンディドラマ的展開に辟易したけれど、そこにでてくる教祖みたいな先生の言葉は信じたいと思った。
    本当に互いに愛し合うようになれば、別々の場所で別々のことをやっていたとしても、同じ感慨、感覚を同時に共有できるのだということ。
    そういう意識の共有が愛し合っているということで、だから別れるということは、二人が別れたいから別れたということ。誰のせいでもなく、それが正しいと互いに信じたその理由だけで別れたのだ。
    毎日一緒にいればそれだけで愛し合っていられるわけじゃない。逆に、ずっと離れていたって連絡を取り合わなくたって死に別れていたって、心から相手のことを思う気持ちがあればそれで十分に愛し合える。
    祈りとはそういうもので、祈りこそが何より一番大切なのだ。

  • 『二十年後の私さん。心がくたびれて、なにもしたくなくなったり、誰のことも好きになれないような気がしたら、どうか、この私のことを思い出して下さい。私はいま、あなたのことを心から応援しています。そしてあなたが素敵な人と出会い、幸福な人生をこれからも送っていくことを心から願っています。父や母、いやそれ以上の強い気持ちで、私はあなたの幸せを祈っています。あなたは決して一人ではありません。こうして今も一生懸命に生きている私がいます。これからも一生懸命に生きていく私がいます。そういうたくさんの私が積み重なって、いまのあなたがいるのです。だから、あなたは決して一人ではありません。一人だと思ったときは、二十年前のこの私を、いまから一年後の私を、二年後の私を、三年後の私を…どうか思い出して下さい。そういうたくさんの私を決して忘れないで下さい。そして、そのあなたのそばには、きっとあなたのことを心から愛してくれる人がいるはずです。私はそのことだけは絶対に信じています。そう信じてこれから一生懸命に生きていくつもりです。二年後の私さん。あなたが歩んだこの二十年の人生に、私は精一杯の拍手を送ります。本当にご苦労さま、本当にありがとう!では、二十年後のいつの日にか、あなたに会えるのをいまからとても楽しみにしています。』

    『お前が、その人を幸せにする自信があるのなら、俺は身を引く。ただし、お前がその人に幸せにして貰いたいと思っているのなら俺は離婚は絶対に認めない。こんなやり方をしておいて、誰かに幸せにして貰おうだなんて余りに虫がよすぎるからね』

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著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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