あるキング (徳間文庫 い 63-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198935870

感想・レビュー・書評

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  • この作品の単行本が2009年に出たときに読んだ際の感想は「すっきりしない」でしたが、今あらためて文庫版(改稿はされているけれども)を読むと、ああ伊坂作品の芯というか筋というかブレのなさはそのままだと思いました。フェアかファウルか、誰にとって正しいのか都合がいいのかっていうのは、今の世相もあいまって考えさせられます。

  • 導入は仙醍という都市にある弱小プロ野球チームとそれを応援するとある家族(山田家)の話から始まります。熱烈な仙醍キングスファンの家族のもとに育つ劇的な天才野球児の話です。

    仙醍なんて書いたらほぼ仙台だろって感じますが、これを読んで球団設立当初の楽天イーグルスを思い出さすには居られませんでした。仙醍キングスは弱小・常敗チーム。一方現実の仙台のチームといえば楽天ですが、新規参入の際は体制づくりがビハインドのなか、当初リーグダントツの最下位、当時の田尾監督は常にへの字口であったことを思い出します。

    ・・・
    さて、山田家の天才野球児の王求(おおく)、名前からして(横書きで球(たま)とも読める)野球の神様から祝福されているかのような彼は、小学生時には引退したプロ野球選手の球を軽々とホームランするほど。中学時代もその名はとどろくも県大会どまり、そして高校では訳あって中退。しかし、幸運もあり仙醍キングスに入団。

    そしてぼろくそに打ちまくる。ないしは敬遠か死球。結果として6割・7割打者という驚異的な成績に至る。

    ・・・
    自分にストイック、野球にしか興味がない。

    それはそれで素晴らしいことであるも、はるかに他を凌駕した才能を持つ彼。その姿勢や存在が気に食わない連中も多い。明示はされていないものの、彼はチームの監督にこっそり刺され、この世での生を20年と少しで去ることになります。

    ここに私は、凡人の衆愚、嫉妬を見た気がしました。主人公山田王求への日本的出る杭は打たれる的バッシング。

    ・・・
    実は、主人公山田王求へのバッシングは、彼の父山田亮が犯してしまった殺人にも理由がありました。

    そのため彼は高校を退学せざるを得ず、またどうにかプロ野球でプレーできることになるも、常に殺人者の子として後ろ指をさされることになったわけです。

    ここで気になるのは、加害者家族に人権はあるのか、という話です。被害者家族は金銭的に補償され、また精神的にもケアされるべきだと思います。加害者本人も法の下に罰せられるべきでしょう。その中にあり、加害者家族、なべてもその子どもはどれくらいの責任を負うべきなのでしょか。

    作品ではこうした価値判断については一切明言はありませんでした。しかし、温厚な仙醍キングス監督が狂人じみたクレーマーの差し金を受け入れた末に山田王求を刺したことに及んだシーンから、「大衆は加害者家族を抹殺する」「大衆は加害者家族を許さない」、と感じました。もちろん、被害者家族の気持ちを離れて、大衆はうねりを作ります。

    加えて、シェークスピアのマクベスから”Fair is foul, foul is fair”という文句を度々引用し、善悪の相対性、善悪は大衆による都合によって決定される、というメッセージを勝手に受け取りました。このあたりのストーリー展開、歯止めが効かない流れ、にゾクっときました。

    ・・・
    ということで一風変わった伊坂作品でした。

    天才打者の短い一生はバッドエンドで終わり、明言されない寓意が霧のように立ちこめる作品でした。その点でも、伊坂氏の純文学的エッセンスが感じられる面白い作品だったと思います。

    伊坂作品のファンはもとより、野球好きの方、純文学好きの方、倫理学やジャーナリズムに興味がある方にはお勧めできる作品でした。

  • おもろかった。
    王の話。
    王求はけっこう苦労した。

  • ものすごい野球が上手な青年のお話。今(2023年)、ホームラン数が大騒ぎになっている大谷翔平選手。その大谷選手ですら打率は3割くらいなのに主人公は打率10割。フィクションだけど恐怖を感じる。話の展開もホラーというかハッピーエンドではないので相まって怖かった。

  • 2023.05.08
    フェアはファウル、ファウルはフェア 野球の天才 マクベス
    最後のコーチは帝王切開で生まれた?
    うーん、よくわからんかった

  • Fair is foul, and foul is fair.
    良いは悪い、悪いは良い

    普段は子どもの部活もテレビで観るのもサッカーですが、野球が嫌いなわけではないです。下手なりに少年野球やってたし、先日のWBCは感動もしました。

    本書は天才的な野球選手が主人公の不思議な話。いつもの伊坂ワールドよりは軽めですが、冒頭の一節を「フェアはファウル、ファウルはフェア」と野球用語になぞらえて、正義と悪、真実と虚構を織り交ぜながら展開していきます。

    前半はスポーツをする子どもの親目線、そして後半は、人間の温かさとか哀しさとか。そして何より、全編にわたってオマージュされているのはシェイクスピアの『マクベス』。

    シェイクスピアの作品って断片的に知ってたり映像化されたものを観た程度なので、しっかり読みたくなりました。

  • フェアはファウル、ファウルはフェア!

  • つまらないわけではないけど、あまりに報われなく淡々と短い一生を傍観する感じが読んでいて辛かった。ラストに一筋の希望を書くことが伊坂さんは多いけれど、これには希望はなにひとつない。

  • ラストでなるほど〜となったけど、ちょっとファンタジー要素多め

  • 伊坂幸太郎作品の中でも異色と言われるのが頷ける作品。登場人物を愛したり、登場人物に感情移入したりする事なく読み終える。人生ってフェアかファウルか紙一重なのか、運命はかえられないのか?
    私もマクベス読まなきゃ。

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著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞し、デビューする。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で、「吉川英治文学新人賞」、短編『死神の精度』で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞。08年『ゴールデンスランバー』で、「本屋大賞」「山本周五郎賞」のW受賞を果たす。その他著書に、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』『重力ピエロ』『フーガはユーガ』『クジラアタマの王様』『逆ソクラテス』『ペッパーズ・ゴースト』『777 トリプルセブン』等がある。

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