- Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
- / ISBN・EAN: 9784260004572
作品紹介・あらすじ
はじめて出会ったとき、暴力をふるわれそうになったとき、退院が近づいてきたとき、著者は患者さんにこんな言葉をかけてきた-本書は、二〇〇五年六月〜〇六年十月まで、兵庫県の有馬病院でおこなわれた「医師・看護師合同研修会」での講義内容をまとめたものである。
感想・レビュー・書評
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ほんとうは治りたくない人もいる。
治ったらもっとイヤなことが待っている場合。
ああ、あるかもなあと、
いろいろ中井さんの優しさが満ちた本。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2005年から06年にかけて行われた「医師・看護師合同研修会」の全五回の講義録からなり、これに付章としてインタビューと「精神保健いろは歌留多」を加えたものです。タイトルのとおり著者の精神科医としての経験をもとにした講義内容で、治療と専門の統合失調症に関わる発言がとくに多くなっています。本書がもっとも参考になる読者はやはり精神医学にたずさわる医師・看護師の方々、ついでその他の医療関係者だと思われますが、専門とは関係なくても生きるうえで参考になる助言を多く拾うことができました。私に専門的な知識がないこともあって、体系的に読むというより人と社会を考察した格言集のように読みました。興味深かった言葉のなかからいくつかを紹介します。
「夢というのは「こころの胃液」みたいなもの」「生活の基本線は睡眠」
「回復というのは、登山でなく下山なのです」
「おだやかに挨拶することが大事です。挨拶は最低限の対人関係です」
「じつは味に注意を向けることは、肥満を防ぐいちばん簡単な道」
「デタラメを言えるということは、精神にゆとりがあることです」
「選択というのは、人間にとっていちばんエネルギーを食うものです」
「建物以上に患者とスタッフの顔に生気があるかを見ること」「老人ホームなどの選択でも同じです」
「たいていの患者は看護師が健康な面に光を当てているからこそ治るのかもしれません」 -
やはり、統合失調症患者様は、外部が理解深めていかないと思いました。
統合失調症といえども、特性は、千差万別…。
私自身、勉強していかないとならないと、
奮い立たせるため、また、私も著者の書物は拝読していく。
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精神科医の中井先生が、ご自身の体験を話された講義を本にしたもの。
患者の病的な体験ではなく健康な面に注目し光を当てる治療に心震える。
今とは時代も状況も違うでしょうけれど、患者だったらこんな医師に当たりたいと思う。 -
情報考学のブログに載っていた「こんなに違う!世界の性教育」から→「エッチのまわりにあるもの―保健室の社会学」→「その後の不自由」→中井久夫、にたどり着いた。
この先生もアンリ・エランベルジェを訳していたりして(エランベルジェのファンなので)嬉しくなります。精神症はかなり重度なものに触れられていて普段の生活に役立つかというと事例が極端です。ただ、看護士さんへの数回の講義を元に構成されているので、病院運営について触れてある所が示唆的だった。看護婦さんの仕事のストレスはコールセンターに近い物がある気がする。
・驚くべき病的体験、たとえば世界が粒粒に分解するというような、まだ誰も報告していない現象を話してくれる患者がいるとします。その彼が友達と映画を見に行ったり、ベースボールをしたり、喫茶店にいったりしたことを、驚くべき病的体験の話しよりも身を乗り出して興味を持って聞けるか。あるいは、たいていの患者は看護師が健康な面に光を当てているからこそ治るのかも知れません。患者が医者に多くを与えた場合、その患者の長期予後は良くない。
・急性の精神病ではできるだけでたらめに1から9まで言って下さいと頼んでも、123456789としか言えない。登頂するかしないかでグループが分裂した時も、人はゆとりがなくなり乱数を言えなくなる。
・幻聴や妄想は頭だけで受け止めて作動させているので、夢には出ない。
・いままで聞いた事がないような言葉を耳にして、その人が「なんだろう?」と考えるようにすることが精神療法。サリヴァン先生曰く「面接とは面接時間以外の2、3時間(患者の中で)働いているものである。
・人の幸不幸に関わらず、思い出は「楽しい事6:中立的な事3:つらい事1」と言われているが、つらい時には楽しい事を思い出せない。生理的に楽天的になれるのが健康になるという事で、つらい時に楽しい歌を歌わせるなどは心無いこと。
・暴れる患者は恐怖から。
・私は患者さんの訴えのときは、温度と気圧と湿度の3つを見ます。そして本人に異常がなければ、気象の責任にします。気象のせいにしても誰も傷つきません。「待つことができれば半分治ったと同じ(土井健郎)。」
・自分の支配する小世界で権力を持とうとする人は《アルコール依存症が多い。病院の催し物で、活躍したがるが私は絶対にヒラにしてきた。奉仕の形を取る権力欲。
・「君見ずや双眼の色、語らざるは憂いなきに似たり(芥川)。」家族が分離しないように病気から治れないと思っている患者は実際にいる。ペットがこの役を分担していることもある。
・感情が揺さぶられたり患者に悪感情を持つことは当然あるが、スタッフをスケープゴートにしてはいけない。キーパーソン的な人を呼んで、スケープゴートにしてはいけないとはっきり言う。
・システム改革の時は治療のスピードを緩めなければならない。それで式が崩壊した時はベースキャンプ(ゼロの状態)まで戻る必要がある。
・睡眠障害の強度の段階は最初が「寝られない」。次が「寝てもすぐ覚める」「寝ても眠った気がしない」で、「いくら寝ても寝たりない」。徹夜しようと思っても5時ごろにはうとうとするが、本当に全不眠で2、3日目に「自分は天才になった」「もう眠らなくてもよい体になった」と思ったら、すぐ精神科医に行きなさい。「なかなか眠れない」が一番軽い。「何時までに起きねばならない」と考えると寝られないが、「何時まで眠っていいよ」と自分に言い聞かせると眠れる。
・子供がお腹が痛いと言った時に、「ビオフェルミンでも飲んどき」と言うか、どれどれとお腹を触ったり顔色を見てあげたりできるかどうか。 -
低い声のトーンが患者を落ち着かせる。私も自然と診療のときはそうなっているかも。中井先生の患者へのまなざしがやさしくて、読んでいて心温かくなりました。
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もはや信者なのであまり公平な評でないけれど、対人援助職はもとより精神科と縁のない人でも読みやすいと思う。
先生自身、精神医学(だったと思う)を江戸時代の農書に例えていたが、まさしく支援の現場に入るときに携えていたい実践書である。
クライエントを理解するためのエッセンスが詰まっていて、現場でうすぼんやりと思っていたことを言葉にしてもらったり、壁になっていた暗黙の了解を丁寧に掘り崩してもらったり。対人援助職の人には読んでほしい本。 -
彼の臨床の残り香。
彼の行ったことをたどるにはもはや書かれたことばのなかにしか見いだせないのが非常に惜しまれる。
人生の中で病気をすること、生きて死んでいくこと、善く生きること、自分とはいったいなんなのか。ほんとうのことというのはいつも惹きつけてやまないもの。たくさんのひとがこれまでに生きて考え、死んでいき、そして違う人間がやっぱりおんなじことを生きて考えている。
彼から学んでいったひとたちが、またたくさんのひとたちを導き、彼の臨床の何かがそこで生き続け、あるいは消えていくのだろう。そうしてこころの何かが少しずつ変わり、どこかに進んでいく。そういう儚い人間の漸進のひとつひとつが、いったい人間をどこに連れて行くのだろうか。 -
最後の索引まで含めて、優しい。