新カラマーゾフの兄弟 上(上・下2巻)

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 198
感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (672ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309024226

感想・レビュー・書評

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  • 本作を読むために、元祖ドストエフスキー作の『カラマーゾフの兄弟』を読了して、しばらく経った。特別な理由があって期間を置いたということでもないが、あまり原作の先入観を持ち過ぎずに読むには、ほどほどの期間だったような気もしている。
    本作は1995年の日本を舞台にしている。この設定は意味深長だ。1995年といえば、オウム真理教が大規模テロ活動を行った。阪神淡路大震災の年でもある。この時代に、作者は『カラマーゾフの兄弟』に登場する三兄弟とともに、使用人だったスメルジャコフを出現させ、「父殺し」の物語を再現してみせる。といっても、ドストエフスキーのコピーではない。そもそも、ドストエフスキーがいたロシアと違って、1995年の日本ではすでに父権など失墜してしまっている。そうした背景で、日本も戦争を回顧する時代から、身近なテロリストに怯える時代へと変化した。バブル景気もはじけ、インターネットがやすやすと国境を越えた時代に、ドストエフスキーが描いた家族、国家、神を、父殺しの謎を、亀山氏はいかに描くのだろう。それは下巻を読まねばならないが、著者がこの物語に傾けた「熱」は上巻でも充分に伝わってくる。
    著者がこの小説に書いた「予言」はすばらしい。ソ連崩壊後の米国への一極集中は容易に想像できるとして、ソ連に代わって台頭してくる中国を見事に言い当てた。さらには「一億総中流」だった日本も、他国のように富の集中が起こり、格差が拡大することも予言している。これは昨今、しばしば話題に上るトピックではないか。
    インターネットが国境を曖昧にし、国家間で戦っていた「戦争」は「テロリズム」という形で私的なものに変貌をとげた。国家の信頼は地に堕ちて(それにつれ、政治家たちは国家をも私物化し始めた)、父権は失われた。これよりは、小さなコミューンが乱立して、これらがときに対立し、人々は大きなよりどころを見失っていくだろう。そうした時代の先に訪れるものは何なのか? 父殺しの謎とともに、下巻での著者の予言を楽しみに待ちたい。

  • 河出書房新社 — 亀山郁夫インタビュー『新カラマーゾフの兄弟』入門
    https://kawadeshobo.tumblr.com/post/133512035157/%E4%BA%80%E5%B1%B1%E9%83%81%E5%A4%AB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E6%96%B0%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%BE%E3%83%95%E3%81%AE%E5%85%84%E5%BC%9F%E5%85%A5%E9%96%80

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    ドストエフスキーの未完の傑作、ついに完結……あのミリオンセラーの翻訳者が作者の遺志を継ぎ、現代日本を舞台に「父殺し」の謎に迫る。桁外れのスケールで贈る、著者初小説!
    http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309024226/

  • 光文社版の「カラマーゾフの兄弟」の全訳をされた亀山氏による小説。”新”などと銘打っているし「未完の大作ついに完結」などとする宣伝文句で売り出された本書だが、実際は1995年の日本に舞台を移して書かれた二次創作的な小説である。著者自身がモデルとしか思えない「K」なる人物がドストエフスキーとチャネリングするシーンがあるなど、かなりぶっ飛んだ内容で、終始戸惑いを覚えた。

  • ひょんな事から知った作者の本を読んでみようと、カラマーゾフなんて何も知らずに手に取った。
    通勤時間に読むようなボリュームではなく、読み返しながら読了。
    そもそものカラマーゾフに関する部分は読み流しても、それなりに面白い。
    新興宗教や価値観などの話。
    ロシア崩壊の後に読めばまた違う感想なのだろう。
    多数の伏線を回収しながらのため、うっかり話を忘れてしまう。
    神に関する考えは興味深い。

  • ドストエフスキーの未完の長編小説「カラマーゾフの兄弟」の訳者が創作した、「あったかもしれない」続編。ということで、是が非でも読まなければならないと手に取った。

    どうやらカラマーゾフの続編ながら、「地下室の手記」ならぬ「Kの手記」が組み込まれている。Kというのは、作者亀山郁夫のようでもあり、主人公黒木リョウの頭文字Kのようでもある。

    また、両者の生きる世界は、「嶋先生」や東京は「野方」を蝶番として、パラレルワールドのようでもありながら、繋がっていそうでもある。

    中盤、夢の描写や幻想的な描写が続出するので、いま、なんだかストーリーがよくわからなくなっている。
    ---------------
    終盤、いよいよ、K氏と黒木リョウの動向がよりあわされてきた。

  • 私の主人公に愛を込めて。

    『カラマーゾフの兄弟』を読んでいて、かつ、1995年という時代(阪神大震災やオウムなど)の空気を知っていないと、この話を読むのはしんどいと思った。Kの手記と黒木家の物語が交互に入ってくるのは、どこで関わってくるのだろうと読み進める吸引力にはなったけれど。でも、いかんせん長くて半分を超えたくらいで辛くなってしまった。そういえば、ドストエフスキーの方も、半分を超えたあたりでギブアップしそうになったような。

  • なかなか読みづらいようにも感じますが、地下室の手記よりは読めます。
    あっちこっちと寄り道するところも含めて、群像劇的だと感じました。

  • 黒木兵午とミツル、イサム、リョウの3兄弟、料理人須磨幸司、そして瑠佳、香奈という重要な配役は本編のキャラそのもので、現代1995年頃を舞台として、父・兵午の13年前の謎の死からの物語を紡いでいく。Kの手記と黒木家の兄弟の2つの物語が進行していく書き方は村上春樹ばり、「1Q84」を読んでいるような錯覚さえ感じる。Kが著者自身であることを年齢・大学名などから隠さない。どう展開していくのか興味を惹く。「フクロウ」事件、Windows95登場が悪魔の支配を予見することも春樹本を想起させる。イサムとリョウの「大審問官」談義、神に代えての国家、幼児虐待に関わる会話。兵午の死の謎を巡るイサムと須磨の会話などが本編を繰り返す形で再現することが非常にスリリングで楽しく!正に謎解きの喜び。

  • 私もカラマーゾフの兄弟の新訳かと思っていた一人です。舞台も日本で時代も現代になり、読みやすいかと思いましたが、難解でした。登場人物の関係性も複雑で、時間も前後するので、混乱しました。一読では理解不十分という感じで、下巻も読むか悩んでしまいます。原作はもっと大変なんだろうな。名作って難しいのね。

  • 今30ページ目くらい。やっとカラマーゾフ感を思い出してきた。これはかなり長い戦いになりそう。

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著者プロフィール

名古屋外国語大学 学長。ロシア文学・文化論。著書に『甦るフレーブニコフ』、『磔のロシア—スターリンと芸術家たち』(大佛次郎賞)、『ドストエフスキー 父殺しの文学』『熱狂とユーフォリア』『謎とき『悪霊』』『ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光』ほか。翻訳では、ドストエフスキーの五大長編(『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』)ほか、プラトーノフ『土台穴』など。なお、2015年には自身初となる小説『新カラマーゾフの兄弟』を刊行した。

「2023年 『愛、もしくは別れの夜に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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