- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309028309
感想・レビュー・書評
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村田さんの本をたくさん読んでいるわけではないが、いつもこの世の常識と戦っているなあと思う。その戦い方はアナーキーというか、度肝を抜くというか。
『コンビニ人間』や『しろいろの街の、その骨の体温の』のように、「常識」や「普通」にどうしてもなじめない人の狂おしい姿を描く作品と、今私たちが生きている世界から見ると異常な世界が常識ある世界として描かれる作品(『消滅世界』とか『殺人出産』とか)があるように思うが、この本は短編集なのでどちらも入っていた。
表題作は、葬式の代わりに「生命式」という式を行う。死者を美味しく食べるのが当たり前の世界。次の「素敵な素材」は、死者を素材にしてインテリアやアクセサリーや衣服を作るのが、死を尊ぶことだと考える社会を描いてる。どちらもグロテスクではあるのだが(佐川君やエド・ゲイン、強制収容所のユダヤ人の脂でできた石鹸などを思い出す)、グロテスク描写が目的のホラーではないので、どこかしらユーモラスである。山本さんの肉でカシューナッツ炒めを作り、「ね。山本って、カシューナッツと合うんですね。生きてるうちは気がつかなかった」(P43)には笑ってしまった。そりゃそうだろう。生きてるうちから、その人の肉がカシューナッツと合うなんて分かったらビックリだ。
とんでもない設定ではあるが、どこか共感できるところがある。
未熟さを感じる作品もあったが、12も短編が入っているので、村田さんらしさがよく伝わってきた。
「拒否反応を示されないようにこちらの「自然」に引きずり込むのだ。そのためには、彼女を驚かせるのではなく、相手の今もっている常識に基づいた感覚をあえて大切にして、愛撫でもするように彼女の共感を撫でまわしながら、ゆっくり、ゆっくり、こちらの世界に引き込む必要があるのだ。雪ちゃんにはもうたっぷりこちら側の生理感覚を染み込ませてある筈だ。もっと、もっと、溢れそうになるまで彼女を浸すのだ。」(P230)
表紙は高橋涼子さんの髪の毛を使ったオブジェで、まさに「素敵な素材」。よくこういう作品を見つけて来たなあ。ぴったりすぎ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
目を覆いたくなるような、軽蔑したくなるような光景が、どのページを開いても広がっている。
けれど、例えば30年後の私達が、どんな「正しさ」を信仰していて、何を軽蔑するようになっているのだろうか、と、ふと思わされる。
例えばこの国でも、ある時代には、ある価値観の下に積極的に自死することが正しいことであったりもしたわけで、
またある時代のある国では、ある種族の人間を徹底的に排除することが正当化されたりもした。
それは今では、理解し難く、軽蔑され得ることでもある。
今だって、例えば罰ゲームとして無理矢理に現地の「ゲテモノ」食材を食べさせるようなバラエティ番組の一企画があったりするのだけれど、
正直、自分はそういった企画への違和感を禁じ得ない。
それは現地の食文化へのリスペクトに欠ける行為であると思うし、
いっそ文化の違いをきっぱり伝えて、
「私はこれを食べません」と言い切る方がよほど誠実だと思う。
良くも知らないうちに、相手の宗教に対してみだりに理解や関心を示すべきではないのと同じように。
それは相手の文化を聖別する行為であり、同時に自身の文化を守るための行為でもあるのだと思う。
ある価値観は同時に、他者にとっての違和感である。
「価値観」の対義語は「違和感」であると、この本に教えられた。
また、「正しい軽蔑の仕方」も教えられた。 -
第一印象は「グロッ」でした!グロッ、なんそれ、謎、って感じでした。不思議な世界観…、正常というものはこの世には本当は存在していない。
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「正常」とは何か考えさせられる短編集。人間の生物としての美しさと気持ち悪さが全体を通して伝わってくる。
村田沙耶香の作品は度々性行為の必要性について描写される印象だったが、恋人なら性行為を行うのが当たり前、ということが強く世間に浸透しているからだと今更気付いた。
「素晴らしい食卓」は状況を想像するだけで地獄の食卓で、すごく面白かった。食事は文化だ。
「孵化」は私の話かと思った。もちろんここまで極端ではないけど。私も6人目のキャラを作ろうかな。 -
『生命式』
人が死んだらその肉を料理して食べ、受精する世界。しかしパラレルワールドという訳ではなくて、この世界も30年前は人肉は食べてはいけないものだった。
この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶ。
『素敵な素材』
死んだら人体が家具や指輪やセーターなどの素材として使われる世界。
人体が素材として使えるのに捨ててしまったり、動物を殺して素材にするほうがよっぽど残酷、というのは正論。
「残酷」は確固とした理由からくるものではなく、漠然とした感覚である。 -
「文章を食べた」っていう感覚になりました。
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最初の作品は読んでいて吐き気がするくらいでした。村田さんの小説はこわくもありどこかユーモラスで近未来でもありそうな魅力が詰まっています。
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「素晴らしい食卓」「孵化」が特に好きだった。