それでも、生きてゆく

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 163
感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309031644

感想・レビュー・書評

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  • 『Mother』や『カルテット』等、私が大好きなドラマを手掛けている坂本裕二さん脚本のドラマが小説になった作品。
    ドラマから小説になったからなのか、全て台本のような形式で書かれている(こういうタイプ初めてなので、何と説明するのが適切かわからない^^;)

    〈ドラマ部分(全11話)〉、〈スケッチ(ごく一部のスタッフとキャストが読むために書かれた「それでも、生きてゆく」の構想文)〉、〈巻末座談会〉、〈ふりかえって〉の4パートで、頁数348ページとボリューミー。

    ◆あらすじ
    7歳の妹を殺された兄 洋貴と、加害者を兄に持つ妹 双葉の二人が主人公。事件から約15年、被害者家族と加害者家族の長い月日を追ったサスペンス&ヒューマンドラマ。(と、ストーリー部分まで読了して思っていたけれど、巻末座談会を読んで、これがラブストーリーでもあった(確かに!)、むしろ制作陣の想いとしてはラブストーリーの比重割と高め?にびっくり!)
     
    ◆感想
    被害者も加害者も未成年の少年犯罪という重いテーマであるが、会話シーンが多い(しかも洋貴と双葉のやり取りが淡々としている)為か、そこまで暗い気持ちにならず、一気読み。
    作品紹介でドラマで放映された作品ということはわかっていたが、キャストは敢えて調べずに読了し終えて、主演が瑛太と満島ひかりの二人ということで(大好き)ドラマも観たい思った。

    巻末座談会では、脚本の坂本裕二さん、演出の永山耕三さん、プロデューサーの石井浩二さん、主演の瑛太と満島ひかりによる、ドラマ制作の裏話を垣間見ることができ、こういう裏話を知るのも初めてだったので最後まで楽しむことができた。
    (ドラマ制作の現場がかなり過酷で肉体労働だということもわかる…。)
    本作を読み始める前は、気になるくらいの心持ちだったが、これからドラマの方を鑑賞するにあたっては、制作の裏側を知ったからこそ、作り手の想いを受け止める気持ちでより没入できたらと思う。

    内容でいくと、巻末座談会でも話題に挙げられていたが、響子の長台詞は、字で追っていても、子を殺された親の生々しい心情が伝わってきて、これをドラマでは大竹しのぶが演じたら尚更心打たれるだろうなと思った。(今から観るの楽しみ)

    一番最後の、坂本さんの〈ふりかえって〉もとてもよかった。坂本さんのこの作品に対して込めた想い、大事にされていたことが、最後に改めて伝わってくる。この、〈ふりかえって〉まで読むことで、作品全体をすべて読み切ったと思えるくらい、貴重なパートになっているなと思った。
    いつ、自分がこうした悲劇的な事件の被害者・加害者になるかわからないからこそ、日頃から食べる、寝る、シャワーを浴びる等、基本的な生活習慣を身につけておくことが大切、ということは、作品のあらゆるシーンに散りばめられていて、そしてしっかりとタイトルにも繋がっていくというところが、改めて一つの作品としての完成度の高さを表している感じもした。

  • 「それでも、生きてゆく」は僕の最も好きなドラマであり、坂元裕二という脚本家にハマった作品である。
    もちろん、「わたしたちの教科書」や「Mother」を観て、おぉ、何かいいなって思ってはいたんだけど、このドラマは、毎週、真剣に観て録画を2回くらい見直して、ってくらいのめり込んだ。今でも、満島ひかりの野茂英雄をマネするシーンや風間俊介の背中にドロップキックするシーンとか覚えている、っていうか全話録画してあるので、たまに観たりするのだ。

    坂元裕二のドラマの本質は「がんばっても、伝わらない、理解し合えない」という諦観を前提として、それでも、いつか、ほんの少しだけど、いいことがあるかもしれない、と思わせてくれるところなのだ。
    生きていると、とにかく、何だかなんだ、思い通りにいかないことが多い。むしろ自分の望んだようにモノゴトが進むことの方が少ない。言い換えると3勝7敗くらいの人生なのだ。
    そんな僕たちに対して、「いつ恋」の音(有村架純)は『努力ってときどき報われる』と言う。そうなのだ、時々、なのだ。ほとんどの場合、努力は報われないのだ。だけど、もしかしたら、大成功とはいかないまでも何かいいことがあるかもしれない、と思うからこそ、生きていけるのだ。坂元裕二は、時に手紙というツールを使ったりして、僕たちをそんな気持ちさせてくれる。

    最終回の二人の台詞が本当に「珠玉」だと思う。
    【洋貴】
    そしたら、僕ら、道はまぁ、別々だけど、同じ目的地、見てる感じするじゃないですか。それ、すごく嬉しくないですか。
    【双葉】
    私が誰かと繋いだ手のその先で、誰かがあなたの手を繋ぎますように。

    この本の魅力は、巻末の4人(坂元裕二・石井プロデューサー・瑛太・満島ひかり)の座談会、そして坂元裕二のあとがきにある。そこにはこんなことが書いてあった。これを読むだけで、この本を買う価値がある。
    【石井P】
    本当に真面目に作らなきゃいけないという思いでやっていました。その一番の理由は、坂元さんがこのドラマに取り掛かる時に「本当にヒリヒリするドラマを作りたいんだ」と言ったことなんです。
    わかりやすいハッピーエンドにしなくてもいいので、ちょっとでも明るい未来の兆しが見えるところで終わるということさえ約束していただければ、僕は全力でこの企画を通します。
    見た人がタイトル通り「やっぱり生きていこうかな」と思えたドラマなんじゃないかと。

    【坂元裕二】
    心を込めて書いたらちゃんと誰かに届くんだなって思うんですよね。

    【あとがき】
    このあとがきを書くにあたって、当時のメモ帳を開いてみたんです。記憶になかったんだけど、一行目にこんな言葉がありました。
    “がんばってもがんばっても”
    振り返ってみると、洋貴と双葉をはじめとする登場人物たちに共通する言葉だなと思います。
    がんばってもがんばっても、報われない。
    がんばってもがんばっっても、届かない。

  • ドラマが大好きで、好きすぎて見返すことができないドラマのシナリオ本。
    ドラマを見た時に好きだった部分とはまた違うところを好きだと思った。
    洋貴と双葉が一緒にいることができなくても相手が生きているという事実だけで生きていけるというほんのわずかな希望は、辻村深月にも感じたことのある切実さ。
    それは双葉の言う希望とは誰かに会いたくなることに通じてると思う。
    ただ生活を続けていくことだけでも罪の意識に苛まれていた2人が一回だけ抱きしめ合って、それを嬉しいと口に出すことができたその一瞬のためだけに紡がれ続けたこの作品を改めて好きだと思った。
    自分の手を繋いだ誰かの先に、誰かと手を繋いだあなたと繋がっていてほしいという祈りこそ、会いたくなる希望であると思う。

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著者プロフィール

脚本家。ドラマ「東京ラブストーリー」「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」「わたしたちの教科書」「Mother」「Woman」「カルテット」等、向田賞ほか受賞多数。映画、舞台でも活躍。海外でも高い評価を得ている。

「2022年 『初恋の悪魔 2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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