- Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309201443
感想・レビュー・書評
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リドルストーリーの名手と言ってもよいのでは。
中でも、「なにかが起こった」が秀逸。特急列車に乗った主人公が目にしたものは?詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『Sessanta racconti』(六十物語)から訳者の脇さんが十六編を選んで訳したよりぬき版なので、どの話もぴりっときまっている短編集。光文社の『神を見た犬』より面白かった。
「なにかが起こった」「道路開通式」「急行列車」は、いわゆるブッツァーティ。手を変え品を変え執拗に「人生はすぐ終わるから!取り戻せないから!」のいつものテーマを追求するので、一冊の本で続けて読むとちょっとインパクトが薄れるかもしれない。でも、それぞれに面白いと思う。特に、「急行列車」は一生懸命なにかに挑戦している人に読ませてはいけない。
『タタール人の砂漠』を読んだあとだと「もうそれはわかりました」と言いたくなる、不安をあおる短編群のなかで、座る動作ができない宇宙人がかわいい「円盤が舞い降りた」と、設定上出てくる人がみんないいひとな「聖者たち」が今回は気に入った。
冒頭の三篇は言うまでもない名作なので、とりあえず頭から読むのがおすすめ。 -
少し寂しい寓話
表題作を含む16編の短編集。
最初の数編を読み終えた時点でどうも報われない匂いを感じたが、ついつい読んでしまった。
格別不運という訳でもなし、出過ぎた望みを抱いたという訳でもなし、ただ、そういう物事の巡り会わせに当たってしまっただけのこと。ああ、世の中って無情。しかし、どこかに情があってもそれは別への痛めつけに繋がる訳だから、何も介入しないのが世界の意思なのかなぁ。
若干幻想の色を帯びた、無情な物語たち。 -
短編集。
ブッツァーティの良いところがよく出た短編が多いように思われた。とても満足。
「七人の使者」
終わりがないのが終わり。一方で旅立ってきた先とは遥か彼方とはいえ確かに繋がっている。このふわふわした不安感、たまらない。★★★★★
「大護送隊襲撃」
これはブッツァーティにしては、優しい作風だなあ。良い話。★★★★
「七階」
読むのは2度目だけど、やっぱり好き。本当は病状が急激に悪化しただけなんだろうけど、全体に漂う意地悪な雰囲気が良い。★★★★★
「それでも戸を叩く」
プライドが邪魔したのね・・・。亡霊とはいえ戸を叩いてくれる人がいるだけ幸せだったのになあ。★★★
「マント」
なぜ途中でこのオチに気付けなかったのか!ラテンアメリカ文学みたいな雰囲気。★★★★
「竜退治」
何でしょうね、人間の原罪ってことですかね。傲慢なのは。★★★
「Lで始まるもの」
中世だとホントにこんな感じだったんだろうかな。一発で世界が逆転する恐怖。★★★
「水滴」
いや、うん、きっとただの水滴なんだろうけどね。日常の何でもない隙間に不安を見つけるのが上手いっす。★★★
「神を見た犬」
これも読むのは2度目だけどやっぱr(ry ほんとブッツァーティは意地悪です。★★★★★
「なにかが起こった」
うん、なにかが起こったんだね。人が恐怖を感じるのは、不可知のものに対してらしいしね。★★★★
「山崩れ」
もしかしたら上司は未来から来たのかも。★★★
「円盤が舞い降りた」
あまりに淡々と話が進むので笑える。★★★
「道路開通式」
目的地はあるはずなのに到達しないこの感じ。時間が伸縮してしまっているような。★★★★
「急行列車」
これも時間が人を騙しているような、どうしようもない無力感。★★★★
「聖者たち」
この境地に到達できれば、幸せな人生を送れそうだ。★★★★
「自動車のペスト」
起こり得ないことが起こった時のこの不条理。★★★
★レビュー500件目★ -
行く先のわからない旅についての短編集。ミステリーかと思った。
イタリア人って、信心深そうなイメージがある。実際はどうなんだろ?ヴァチカンのお膝元だし、離婚するのめんどくさそうだし。信念を持って生きるのは良いことだ。
ディーノ・ブッツァーリは信心深そう。
ディーノ・ブッツァーリ 1906-1972
人の数だけ違った人生がある。それは普遍だ。しかし、人生は不確実で時に不条理であること。そのような生の中での不安、焦燥、苦悩もまた普遍だ。ブッツァーリは生の不条理に対する普遍的な意識を、時間も場所も超越した寓話で表現した。
七人の使者 1942年以前
父の治める王国を踏査しようと出立して以来、私は日ごとに都から遠ざかり、私に届く便りも次第に間遠くなっていく。
国境はない
大護送隊襲撃 1942年以前
部落の通りで逮捕され――身元が割れなかったため――単なる密輸の罪のみを宣告された山賊の首領、ガスパーレ・プラネッタは、3年間牢に入っていた。
七階 1942年以前
列車でまる一日旅をしたのち、ジュゼッペ・コルテは、3月のある朝、その有名な病院のある町についた。
それでも戸を叩く 1942年以前
マリア・グロン夫人は別荘の一階のサロンに刺繍の道具を入れた籠を手にして入ってきた。
マント 1942年以前
待ちに待ったあげく、希望ももう消え去ろうとした時になって、ジョヴァンニは家に帰ってきた。
竜退治 1942年以前
Lで始まるもの 1942年以前
シストの町に着き、年に二、三度は投宿するいつもの宿に入った材木商のクリストフォロ・シュローデルは、気分が優れないので、すぐ床についた。
水滴 1949年以前
神を見た犬 1954年以前
なにかが起こった 1954年以前
山崩れ 1954年以前
円盤が舞い下りた 1954年以前
道路開通式 1958年以前
急行列車 1958年以前
聖者たち 1958年以前
人の人生に、特別に変わったところなどあるはずがないでしょう。神を信じ、仕事に励み、休息を得たとき、自らの生涯を神に感謝する。誰でも同じですよ。 チャマン 「性なき巡礼」より
自動車のペスト 1958年以前 -
短篇集“Sessanta Racconti”(『六十物語』 )より、16篇収録。
表題作「七人の使者」に、まず、がつんとやられる。
国境を目指す皇子のあてどない旅は、人生の暗喩のようであり、七人の使者は、過去への回路を表わしているようにも思える。
「大護送隊襲撃」は、初めて読んだ時は、山賊の元頭領の自分の運命に対するいさぎよさや、最期の意気の見せ具合に魅了されたが、再読してみるとそれに加えて、過去の山賊の亡霊が現われるシーンの荘厳ともいえる美しさが心に残る。ここでのラストは、「七人の使者」のそれと呼応しているかのようだ。
現実を直視せず、外界の変化に対応できない特権階級を皮肉っているかのような「それでも戸を叩く」は、ほら、まだ気づかぬか、と読んでいるこっちが焦燥感にかられるほど。
超特急列車の車窓から見える人々のただならぬ様子の描写だけで、どんどん不安感が煽られていく「なにかが起こった」
あるはずのものがない、という不条理な状況下で、なおもあるはずのものを求めて進む人を描いた「道路開通式」
人生の時の流れそのままの「急行列車」
どの作品にも、胸がざわざわかきたてられる。
I Sette Messaggeri by Dino Buzzati
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このホラー要素がなんともたまらん!
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短編集。
一瞬にして引き込まれてしまう幻想的な空気、それでいて妙にリアル。
非現実的なストーリーの中に、もしかしたら…、というひやりとした不安を感じるのは作者の筆力のなせるワザであり、スタイルなんでしょうね。他の作品も読んでみたい。
全てのストーリーに満足。久しぶりです。