時代劇は死なず! 完全版: 京都太秦の「職人」たち (河出文庫 か 27-1)
- 河出書房新社 (2015年2月6日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309413495
感想・レビュー・書評
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映画会社のスタートから記述して、時代劇の栄枯盛衰を膨大な資料とインタビューと愛情と分析力でまとめている興奮の一冊。
東映は片岡千恵蔵、中村錦之助等のスターをもつ王国東映京都撮影所だが、黒澤時代劇の衝撃から、工藤栄一等の集団時代劇に移行、さらに任侠映画と続いていく。
東映京都テレビプロダクション いい加減な初期設定の中で進んでいく「素浪人花山大吉」、ホームドラマの要素を入れた「銭形平次」がヒットする。
大映は「羅生門」など芸術的映像に力があって、勝新太郎の座頭市などを勝プロといっしょに撮っていくが倒産。そこでできたのが映像京都で、「木枯し紋次郎」がここでスタートする。テレビの「座頭市」五社監督の《鬼龍院花子の生涯》など光と影の芸術的な作品を撮っていく。ここの勝新太郎のこだわりが画面からも伝わっていたがスゴイですね。座頭市は脚本すら軽く扱われ、勝の内面風景となっていく。
松竹は京都映画。狭いスタジオしかなく弱小会社だった。山内久司がここで「仕掛人」をスタートさせる。ノウハウがない中若い人たちが「木枯し紋次郎」に追いつき追い越せでヒットする。
「座頭市」「必殺」「木枯し紋次郎」といずれも映像美に酔って見ていたが、それは現場の熱意があってからこそだったことがよく分かる。にもかかわらず時代劇は散発するものになってしまったのは残念。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
サブタイトルに「京都太秦の職人たち」とあるように、時代劇の俳優ではなく制作に関わってきた、スタッフや裏方の人々の苦労と努力と喜びが熱く語られている。
時代劇は1950年代の東映時代劇の頃がピークであり、「知恵蔵のいれずみ判官」「右太衛門の旗本退屈男」「錦之助の一心太助」「橋蔵の葵新吾」などのスーパーヒーローが観客を魅了した。その全盛期から、一気に斜陽産業になり、テレビの時代への変化へと移っていったが、その中でも、時代劇は、「銭形平次」「紋二郎」「必殺仕掛け人」「暴れん坊将軍」などの作品を作り続け生きながらえた。その時代劇を裏から支えた人間の生き様を丹念に描いている。
本書のオリジナルは2006年に書かれ、「時代劇は死なず」とハッピーエンドで終わっているが、この間時代劇を取り巻く環境は日々悪化しており、今や絶滅危惧種のような状況になっている。
今回の文庫化に当たり、著者は「今に繋がるサバイバルの戦いを描いたつもりでいたが、結果として失われてしまった、古き良き時代を記録しただけの作品になってしまったのかも知れない。そうなるとこのタイトルはもう合わないのかも知れない。それでも復刊に当たってタイトルは変えたくなかった」と書いている通り、時代劇への熱い思いがヒシヒシと伝わってくる作品です。 -
半世紀にわたるTV時代劇の歴史を、プロデューサーや裏方スタッフ=「職人」に着目して辿った一冊。著作の中で証言している「職人」たちの多くは既に鬼籍に入っていることを考えると、実に価値ある書といえる。個人的にTV時代劇は東映作品を贔屓にしているもので、本書で明かされた東映の商魂たくましい"雄姿には落涙を禁じ得なかった。ホントにすげぇよ東映……大好きだよ……!"
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サブタイトルの通り、太秦の時代劇の撮影所ではたらいていた人達が、映画からテレビへと活動の舞台が移り変わっていく時代に、どのように時代劇を継続していたのかという話。
新書執筆時の 2006 年くらいまでは、まだ、ちゃんとした時代劇が存在していたので、このタイトルも有りだったのかもしれませんが、現状を見るとねぇ。
(作者はその後、「なぜ時代劇は滅びるのか」という本を書いています。)
NHK の時代劇は、登場人物がコスプレしている現代劇みたいなものだし(特に殺陣はヒーローショーにしか見えないっていうね)、年末年始の特番は長さだけで勝負しているようなものだし、映画もぱっとしないし。
そもそも、時代劇にあった所作のできる役者さんが少ないですよね。
必殺シリーズの新作(ジャニーズ必殺)は期待していたんだけど、長続きしなかったよなぁ。
あれは、割とできが良い感じだったのに。 -
東映、大映、松竹と京都にあった撮影所の面々の苦闘を描く。映画からテレビへの移行期、そして、テレビ時代劇の衰退の流れの中で、撮影所の職人たちの時代劇を愛する姿を愛情のこもった視線で描いている。一読に値する好著。
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集英社新書で一度読んだので、再読(のはず)。
スタッフの力によるものだなと改めて実感。 -
著者デビュー作に加筆、完全版として文庫化された本。まず「おわりに」を読んだほうがよいのかもしれない。読んだら時代劇に興味がない人でも込められたものの重さがわかって読みたくなるのでは。作り手の思いと業界の構造が理解しやすい文で書かれている。個人的には90ページ目にあるシーン描写が残る。時代劇の何が凄いのか、文字にするのは難しいのに、ちゃんと伝わってくる。観てみたい。ただ着物を着て刀を振り回せば時代劇じゃないからなあ。
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春日さんのこれまでの著書の原点でもあるデビュー作の完全版としての文庫本。トークイベントでもこの本は自分はこういうものが書けますというカタログ的なものだと言われていた。『天才 勝新太郎』『あかんやつら』で書かれたことと重複している部分はあるが各章ごとで一冊は書けるという気持ちが当時からありそれが一冊ずつ世に出ていくことになった。
時代劇に詳しくなくても時代劇を作ってきた裏方の方々の人生や職人としての生き様が記録として残されていることはジャンルを越えて届く強度がある。これから時代劇に関わる人や新しいものになっていくかもしれない作り手には古き良き時代の先輩達がどう戦っていったのかという歴史でもある。
書かれて残されるということの意味の大きさも感じられる一冊。 -
太秦の職人たちの技術と熱意、果敢な挑戦が『新選組血風録』『木枯し紋次郎』『座頭市』『必殺』ら数々の傑作を生んだ——多くの証言と秘話で綴る白熱の時代劇史。春日太一デビュー作、大幅増補・完全版。