消滅世界 (河出文庫 む 4-1)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309416212

感想・レビュー・書評

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  • 生まれながらに避妊処置をされる人々。夫婦でセックスすることが近親相姦とされ、架空のアニメキャラに恋するのが正しいとされる世界。主人公・雨音は父と母が動物的にセックスして生まれた珍しい子だった。男女が愛し合って子作りすることを是とする古い価値観の母と、母の呪いにも似たものを抱えて、それでも現実の、「清潔」な世界と迎合する雨音。そのころ世間では実験都市千葉で、完全な管理社会の元、性欲や性の存在しない、家族制度も廃止された新しい世界が作られようとしていた。

    架空の未来を舞台にして、昔と現在、未来の変わりゆく価値観が交錯する小説。性欲・家族・子供・性などの色んなテーマが混在していて、壮大だが、ある意味掴みどころのない小説だった。僕の村田さんの好きなところはポンポン出てくるアイデアとその切れ味の鋭さ、奇想天外さ、なのだが、本作ではあまり感情を揺さぶられなかった。抑制の効いた悲観的な世界観だったからかもしれない。村田さんの小説では僕はどちらかというと肯定的でアップテンポの作品が好きなのだ。また『地球星人』のようにラストでまた凄いものを持ってくるかと思ったがそういうカタルシスもなかった。なので星3とした。

    でも架空の世界を立ち上げて、破綻せず中編小説を書いてしまうのは凄いと思う。純文学では過去や現在を書く人が多い中、未来を描くのはそれだけで挑戦的なことなのではないだろうか。個人的には設定の舞台が未来だと、それだけで語りの信憑性が薄まる気がする。でも村田さんの世界はしっかり構築されていてそんな心配はいらないのだ。


  • 村田沙耶香さん
    2018年の小説、単行本で読みました。


    子供は男女のセックスから生まれるのではなく、
    人工受精で生まれてくるのが常識の世界で、
    セックスは汚らわしいと思われていた。

    それでもなんとか家族という形態は残っていて、
    親子のつながりもある。

    結婚は家族という形を作るため、条件が合った者
    同士がする共同生活になり、家族間での性行為は
    絶対的なタブー(近親相関)になっていた。


    赤ちゃんが人工受精で生まれるのは、
    発売の2018年でもあっただろう
    ただ、その先があまりにも歪んでいる。

    政府は千葉に特別区を作り、ヒトは限られた
    面積の中で清潔に管理されるようになり、
    話の中の特別区である千葉は、異様な状況だった。

    先進的すぎる条件設定に、書籍の発行から
    時間がたった今でも、あってもおかしくないが、
    異様さが漂う。

  • 100年前の人から見れば、今のきっと家族のあり方や性のあり方は信じられないと思う。人工授精なんて、想像もつかないと思う。だから、村田沙耶香さんのこの物語も決して突飛なことではないのかもしれない。村田沙耶香さんは常に物事に違和感を持って向き合ってるのがすごいと思う。

  • 頭おかしくなりそうだった。半日で読んでしまった。わかるけどこわいけどわかる。
    その世界の形に狂うのが正しいというか、正しいとはその通りに狂うということ、っていうのはよく思うこと。

  • 【2023年161冊目】
    えーん、相変わらず発想が怖い…!殺人出産のような管理された世界観と同じ匂いがするなと思いながら読み進めましたが、もっとやばかった。「おかあさん」と「こどもちゃん」の破壊力よ。

    人が行為をしなくなった世界、と言えば一見綺麗なように見えるのか、いや全然でそんなことない思想が怖い。

    「正しい世界」に呪われ、「変わってしまった世界」で変化の途上にいる主人公は、一体これからどうなってしまうのだろう。隣の部屋では何してるんですかという怖さと、最後の行為の怖さ。

    綺麗に綺麗に狂っていって何が正常で、異常なのかこっちまでわからなくなりました。

    ディストピアを書くのが上手すぎますね。

  • 怖い。うん、怖い。

    ホラーとか、そういう意味の怖さではない。

    両親の「近親相姦」の末生まれた雨音が、母から受けてきた愛の呪縛に苦しみ、もがく姿が描かれている。
    実験都市ユートピアと化した千葉は、異様でしかない。異様だと思っていた雨音も、だんだんと適応していく姿はサイコパスなのだろうか。

    性欲や、家族、子供、愛
    そういったものが当たり前にある日常について考えるきっかけになる作品。

  • 小説の役割というか機能みたいなものとして、いまある既成概念に対する問題提起とか多くの人が気付いていない新しい価値観を登場人物やストーリーを通して読者に伝えるっていうのがあると思うんだけど、この小説では家族、結婚、恋愛、性欲、性行為とかのそれぞれにおける合理性と意味付けを分解して、こういう場合だったらこれは要りませんよね?みたいな思考実験を丁寧にやっている感じがする

    普通のSF的ディストピア小説としても面白いんだけど、作者の夫婦とか恋愛とか性行為の論理構造がかなり緻密に組み立てられているのでそれを正確に読み取るのが少し難しい
    来週の金曜日にこれを読書会で紹介しようと思うんだけどそれまでに自分なりに咀嚼できるか分からない

    あと村田沙耶香さんって常に淡々とした文体なのが好きなんだけど、物語の核心に触れるときだけ主人公の語りが明らかに狂気を帯びる(狂う)時があってそこを読んでる時が1番テンション上がる
    普段淡々としている分その描写が際立ちますね

  • 「恋愛と結婚は全くの別物。恋愛するなら私は男が好きだけど結婚は家計の共同経営者としてとにかく信頼できて上手く楽しくやっていけそうな女友達としたい。子供がほしい時は精子バンクを利用する。」
    「子供がほしいとなった時、妊娠して悪阻に苦しみ産休育休をとってキャリアを一時中断して激痛出産に耐えるのは必ず女、というのはずるい。男にも産んでほしい。」
    と日頃から夢想していた。

    そんな夢想と『消滅世界』的世界との親和性の高さに驚く。
    夫婦間にセックスは持ち込まず家庭を協力して切り盛りしつつ、恋愛は外で。みんな避妊処置を受けているから恋愛相手とセックスしてもしなくても子どもができることはなく、妊娠は人工受精で必ず自発的意思のみによって可能。

    そんな世界が最も先鋭化されているのが実験都市千葉の「楽園」。恋愛、家族、性愛、生殖、全てが解体された世界。選ばれた人たちが一斉に受精し一斉に出産。生まれた子どもはみんなの「子供ちゃん」であり大人みんなが「おかあさん」。ここでは全てが解体されているからこそ不倫なし、DVなし、虐待なし、ネグレクトなしの最大公約数的な幸福がある。

    とても合理的でジェンダーレスで、今世間で私たちが苦しむ性差別や不倫浮気、機能不全な家庭に偶然生まれるか否かの差異、貧富の差によって受けられる教育の差異も、何もない。

    なのに違和感が拭いきれない。ユートピアのように感じられるのに、セックス、生殖という極個人的な事柄を全て管理されることの歪さ。「子供ちゃん」たちの同じ格好、同じ表情が全て歪んで見える。とはいえ自分の血の繋がった子しか愛せないのか?それは血縁至上主義ではないか?現実に血縁関係がなくても愛情を注ぎあう親子が当然いる。それを極端に最大化させたのが「楽園」システムの親子関係なのか?

    「個」があるから「差」が生まれて苦しむこともあって、でも「個」を埋没させることで本来あるべきその人の自我やあるべき差異、全てを「均一」にすることが良いとも思えない。

    この本を読むと、何が正しくて何が異常なのか、もう何も分からなくなる。異性愛至上主義も恋愛至上主義も家族至上主義も嫌なのに、「信頼できるたった一人の相手と家計においてもセックスにおいても生殖においても全て一対一の関係を結ぶ」ことを宗教として信奉している自分がいる。でもそれを宗教としていて異常ではないと見なされているのは、それが今のスタンダードだからに過ぎなくて、時代が変われば常識も変わるのは過去の歴史を振り返っても事実。

    人はいつも「相対的に正常」であることを指向しているだけで、その正常は絶対ではない。ということに、とりあえず今は落ち着いた。

  • 文庫で再読しました。
    村田作品は価値観がぐらぐらして再構築される感じがとても好きです。
    生きていくと、いつの間にか新しい価値観や状況の中にいて、この作品の「どの世界でも正常な私」に知らず知らずのうちに皆なっているのかも、と思います。
    子どもの頃はこんな電脳世界になっているなんて影も形も想像していなかったので、この作品のような世界にこれからならないとも限らないです。
    「命あるものはみんな化け物で、私も、ちゃんと、化け物だったの。」という台詞にはっとしました。
    「どうせなら、その世界に一番適した狂い方で、発狂するのがいちばん楽なのに」というのは村田さんの作品の根底に流れているもののように感じました。
    村田さんの頭の中はいったいどうなっているのだろう…これからも追いかけます。

  • この世からセックスというものが消えたなら…。
    異常な世界で読んで気持ちが良いものではないが、その世界がおかしいのはなぜかと言われれば説明に困る。
    家族とは何のため?恋とは?セックスとは?普段当たり前にある事の意義を考えてしまう。
    異常と正常。今の世界も異常であり正常であるのかもしれない。
    村田沙耶香さんの本は読んだ後にしんどい時思うのに、たまに読みたくなる

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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