愛人 ラマン (河出文庫 509B)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309460925

感想・レビュー・書評

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  • 映画を見てから読んだので、印象が違って驚いた。愛人(ラマン)と呼ばれたのが男の方だったのが一番の驚きだった。15歳の少女からラマンと呼ばれる青年の微細さ。男はいつも女の前では弱いのかもしれないが。これを読んだ後で映画を観ればまた違った印象になっただろう。

  • 1929年、仏領インドシナ(現在のベトナム)で暮らす15歳半のフランス人の少女は、裕福な中国人の青年と出会い彼の愛人になる。少女の家庭は貧しく、父の死後は教師の母の収入のみで生活してきたが、土地購入の失敗など不運ばかりが続き、さらに横暴で支配的な上の兄、その兄だけを溺愛する母の難ありな性格などもあり、少女は孤独だ。彼女が家族の中で愛しているのは大人しい下の兄だけ。母親は少女と中国人男性の関係をお金目当てで黙認している。やがて少女はフランスに帰国することになり・・・。

    デュラスが70歳の時に発表された自伝的小説。1992年に映画化されたときに文庫化されたので、その時ぶりの再読。映画も当時観ました。14歳の少女がお金持ちに嫁ぐ『第三夫人と髪飾り』というベトナム映画を最近観て、急にこの『愛人』のことを思い出し(ベトナムと少女繋がり)無性に読み返したくなったのでした。

    解説によると、もともとデュラスの思い出の写真にコメントをつける体裁の本の企画があり、そこから発展して結果この小説になったらしい。確かに、写真についての言及、そこから喚起される記憶、という感じのエピソードが多々あり、映画は少女と中国人青年との恋愛部分だけを抜き出してありましたが、小説のほうはもっと時系列バラバラの雑多な回想といった印象。母親や兄たちのこと、高校の寮の女友達、他の作品でも繰り返されるモチーフやエピソードが、思いつくままに挿入されているかのような。

    映画のように恋愛部分だけを物語として抜き出すなら、最初はお金のための割り切ったつきあいだったのが、いつのまにかこの中国人青年を愛していた(かも)というお話になるのだろうけど、70才のデュラスの回想はもっと客観的で分析的な語り口なので、あまりべたべたした感傷はありません。どう感想を書けばいいのか困ってしまうけれど、ただただデュラスの人生の年輪を感じさせられました。

  • 植民地時代の仏領インドシナ。
    貧困家庭の白人の娘と裕福な黄色人種の青年。
    そもそも始まりからして歪んでいて、
    それは愛として結実できる代物ではなく、
    熟んで倦んだ。
    昇華できない情欲の関係は
    娘の心と若さを削り取っていくしかなかった。
    とてもフランス的な自叙伝。

    私は好きだったけどね、
    こういう救いがないけど抜け出せないような
    どうしようもない話は。

  • フランス語訳難しいんでしょうねえ…

  • 訳:清水徹、原書名:L'AMANT(Duras,Marguerite)

  • フランス領インドシナで生きるフランス人の主人公の、中国人青年との性愛を中心に描いた自伝的小説。
    植民地の中でフランス人としては最下層におり生活に困窮しているため、中国人青年と関係を持つのはある種生活のためであるという義務感と、どれだけ困窮しようとも自分は白人であり黄色人種の中国人青年とは違うのだという差別意識とが綯交ぜになって感情が複雑なまま、一つだけ確かなのはその青年との悦楽のみ。決して青年を愛してはいないと、自分に、彼に言い聞かせながら関係を持ち続けていた主人公が、はたと自分の本心に気づく瞬間のやるせなさにぐっときた。

  • p.180「そしていまようやく、彼女はその愛を見出したのだった。

    ちょうどのちに、死を横切って、下の兄の永世を見出したように。」


    散文詩とでも言うのか、あざやかな言葉と影像の塊によって描かれた小説。インドシナの地で、貧困と憎しみで結び合わされた家族と、思春期の変わった少女と、中国の青年との出会い。
    植民地・肌の白い・人種の違い・プライドとコンプレックスといった感情と歴史的背景を完全に理解することはできなかったが、溢れ出るかの地の情緒とコラージュされた映像、とても印象的な小説だった。

  • 小説ではなく詩のような、
    たゆたうようなうねるような、
    この文章をそのまま飲み込んでいくことが、
    この人の小説を読むということなのかな。

    わかりにくいといえば確かにわかりにくいけれど、
    イメージを直接注ぎ込まれるような
    この書き方が私は好きです。

    誰とどこにいても本心をみせない主人公に、
    心惹かれるものの、理解や共感はしにくかったのですが、
    船上で不意に訪れた裂け目のようなシーンに、
    もしかしたらそういうことだったのかもしれないと
    思いました。
    そうだったのなら、幼くいびつな愛が切ない。

    <引用>ーーそして彼女は突然、
    自分があの男を愛していなかったということに
    確信をもてなくなった、
    ――愛していたのだが彼女には見えなかった愛、
    水が砂に吸いこまれて消えてしまうように、
    その愛が物語の中に吸い込まれて消えていたからだ、
    そしていまようやく、彼女はその愛を見出したのだった、
    はるばると海を横切るように音楽の投げかけられた
    この瞬間に。 (180ページ)

  • マルグリットが少女だったころ
    さまざまな事情からデュラス家は貧乏だった
    早くに夫をなくした母は、実らない耕作地を知らずに買ってしまった
    フランス領インドシナにあるその土地で
    白人の最下層に立った母は、誰にも見下されまいと身をこわばらせ
    それがよくなかったのか
    子供たちの教育に失敗したあげく、精神を病んだ

    マルグリットはのちに、そのころを小説に書いて名声を得るのだが
    必ずしもそのことに満足したわけではなかった
    なぜならそこでは不道徳な真実が省かれていたからだ
    母の不安はマルグリットの不安だった
    精神的に、経済的に
    それを癒すため、彼女はみずから男を求めたのだった

    母が死に、兄たちも死に、年老いた彼女は
    すべてを暴露してみずからの物語を破壊することに決めた
    それはひょっとしたらありえたかもしれないもう一つの人生
    失われたイマージュ、失われた愛情をとりもどそうとする試みだった
    あるいは、社会が望む物語のため犠牲になったものたちへの
    鎮魂の試みであったかもしれない

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著者プロフィール

仏領インドシナのサイゴン近郊で生まれる。『太平洋の防波堤』で作家としての地歩を築き、『愛人(ラマン)』はゴンクール賞を受賞、世界的ベストセラーになる。脚本・原作の映画『ヒロシマ・モナムール(24時間の情事)』、『モデラート・カンタービレ(雨のしのび逢い)』、『かくも長き不在』は世界的にヒット。小説・脚本を兼ねた自作を映画化し、『インディア・ソング』、『トラック』など20本近くを監督。つねに新しい小説、映画、演劇の最前線にたつ。
第2次大戦中、ナチス占領下のパリでミッテラン等とともにレジスタンスに身を投じ、戦後も五月革命、ヴェイユ法(妊娠中絶法改正)成立でも前線にたち、20世紀フランスを確実に目に見える形で変えた〈行動する作家〉。

「2022年 『マルグリット・デュラスの食卓』 で使われていた紹介文から引用しています。」

マルグリット・デュラスの作品

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