精神鑑定はなぜ間違えるのか? 再考 昭和・平成の凶悪犯罪 (光文社新書)
- 光文社 (2017年12月14日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334043254
感想・レビュー・書評
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精神鑑定はすべて本人の訴えであり客観的な評価がそもそもできない。また、医師が何か精神状態に異変があったに違いないという態度で面接に臨むと一定の割合で、患者側もこれに応えようと医師が望むような症状に話してしまうという。ときには精神科医の誘導により偽の記憶が無自覚に捏造されることさえある。残念ながら精神科医がこれに気付くことはほとんどない。あまつさえ検察側が提供する資料は検察に都合の良いものばかり。被告に有利な資料は秘匿されてしまう。結果として検察側のシナリオどおりの鑑定となってしまう。鑑定書は矯めつ眇めつあらゆる角度から眺めなければならないということ。精神鑑定には自ずと限界があり、そういうことを十分ふまえたうえでの対応が求められている。
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借りたもの。
日本戦後~平成を震撼させた5つの事件を挙げ、その事件の経緯と加害者の精神状態、それに下された精神鑑定を紹介。
1)付属池田小事件(2001年) … 見逃されたADHDによる二次的被害(強迫性妄想)
2)新宿・渋谷セレブ妻 夫バラバラ殺人事件(2006年) … 他人を支配したかった妻の計画的犯行。病名なし
3)池袋通り魔殺人事件(1999年) … 統合失調症
4)連続射殺魔・永山則夫事件(1968年) … 虐待の連鎖
5)帝銀事件(1948年) … コルサコフ症候群
各々の詳細については、文中に他書籍も紹介。
リアルタイムで知っている事件も、マスメディアがセンセーショナルに報道するだけでよくわからなかった事が、端的にわかりやすくまとまっていて、非常に読みやすかった。
付属池田小事件だったか、ワイドショーが犯人の証言――妄想内容――をさかんに紹介しているものがあったように思う。しかし、そこに真実は無い。むしろその妄想を見ている状態が精神疾患の症状であり、それが“問題”だった。
常軌を逸脱したような事件の背景に、戦後どころか戦前~1990年代まで、馴染みがなく偏見だらけだった発達障害や統合失調症といった精神疾患に起因するものが多くあることが伺える。
その一方で、マスメディアによってセンセーショナルに書かれすぎて、遺体の状態が異常に思える事件も、よくある?殺人事件の衝動性が事件の発端に過ぎなかったものもあることを指摘する。
永山則夫事件には、昭和の人間が「凶悪事件の背景には貧困がある(貧しさは自己責任論)」という考えを持っていた理由(きっかけの事件)のように思えた。高度経済成長期に経済発展の波に乗れなかった、時代に取り残される人(戦時・戦前の遺物扱いか?)…
言及はされていないが、永山則夫の父親がギャンブル依存症だったのは戦時中のPTSDによるもので、それが経済的虐待になり、則夫の次兄の身体的虐待、母親からのネグレクトに繋がったのではなかろうか?
タイトル「精神鑑定はなぜ間違えるのか?」の答えは、そもそも精神医学自体がまだ日の浅い分野であることが否めないことを指摘。
糾弾はしていないが、精神鑑定をする時代によっても、名称はおろか基準も変わっていくため、「それが正しい診断だったのか?」と疑問を投げかけている。
最初に挙げている付属池田小事件の精神鑑定をした岡江氏に相当のプレッシャーがあったことを指摘しつつ、診断を放棄したことにベテラン医師としてのプロ意識欠如を怒っているようだった。
興味深かったのは、著者が多重人格を否定する理由がわかりやすかった。
最近はよく指摘されているが、ダニエル・キイス『24人のビリー・ミリガン』( https://booklog.jp/item/1/4151101047 )、『ビリー・ミリガンと23の棺』( https://booklog.jp/item/1/4151101063 )を読んでいたので腑に落ちなかった。だが、‘ミリガンは心理士らの誘導によって、過去にさかのぼって自分を多重人格にしたてあげているようにも見える。つまり、「多重人格」という症状は、故意かどうかは別として、医療者によって誘導されたものなのである(p.73)’という見方は、勉強になる。
付属池田小事件と池袋通り魔殺人事件には、犯人の支離滅裂な犯行動機・思考に眩暈を覚える。「お前は何を言っているんだ…?」
同著者『やさしい精神医学入門』( https://booklog.jp/item/1/4047034738 )の後半に掲載されていた判例を思い出す。罪の意識…そもそもの罪の定義を認識できない、共有してもらえないという越えられない溝。
こうなる前に…と、押川剛『「子供を殺してください」という親たち』( https://booklog.jp/item/1/4101267618 )を思い出す。医療に繋げられないものか、医療は救えないのか、と。 -
精神医学は未だ未熟、という所から入るこの本から見えるのは精神鑑定の危うさ。これが判決に大きな影響を与えると思うと複雑な物があります。
新書という事もあり、各事件の掘り下げ方は割とあっさりしています。個人的には少し食い足りなさが残る一冊でした。 -
東2法経図・開架 B1/10/919/K
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伝説と化している事件から記憶に新しい事件まで、凶悪な犯罪を犯した人々の内面を掘り下げた研究書。
逮捕後の精神鑑定は、与えられる情報が偏っている可能性が高く、専門家といえども中立的な判断を下すのは困難だということがよく理解できた。
犯人たちの犯行に至るまでの来歴は素人目にも異常だ。治療するなり保護するなり措置を行って犯罪を未然に防ぐことができなかったのだろうか。そんな疑問が生じるが、それも事後に振り返ってみての印象である。実際は周囲からは境界線上にいるように見えていたのかも知れないし、犯行の直前に一線を越えてしまったのかもしれない。
正常と異常の狭間について考えさせられる一冊。