松本清張短編全集 2 (光文社文庫 ま 1-14)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334744915

感想・レビュー・書評

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  • 「青のある断層」「赤いくじ」「権妻」「梟示抄」江藤新平「酒井の刃傷」酒井忠恭「面貌」松平忠輝「山師」大久保長安「特技」稲富直家

  • 『青のある断層』
    画商・奥野がみいだしだ画家・姉川滝治。寡作の滝治だが最近は本格的なスランプに突入し全く絵がかけない状態に。奥野のもとに絵を持ち込んだ畠中良夫。絵の技術もない畠中の絵を買う奥野。ある旅館で畠中の絵を滝治に見せる奥野。絵を習い始め絵の書き方が変わってきた畠中。

    『赤いくじ』
    軍医の末森が夜中に往診した出征兵の夫人。塚西夫人に心を引かれる末森。末森がひかれた塚西夫人に同じくひかれる参謀長の楠田。お互いに牽制しあい塚西夫人に近づく。敗戦になり朝鮮から退去する日本人たち。汽車から逃げ出した末森と塚西夫人。うか楠田。

    『権妻』
    京都勤番の時に妻以外の女性を妊娠させた杉野織部。養子のために妻に頭が上がらず愛人のつねを妻に追い出されてしまう。22年たった維新後杉野の隣に引っ越してきた官僚の畑岡。畑岡ね愛人・お由がすむ屋敷。お由に恋をしてしまった杉野の息子・進介。お由の出生をしる杉野。

    『梟示抄』
    新政府への不満から佐賀の乱を起こした江藤新平。破れた江藤の逃避行。土佐で元同士との再会と失望。捕縛された江藤。大久保利通を甘く見た江藤の誤算。

    『酒井の刃傷』
    国替えになった元老中・酒井忠恭。国替えを運動した本多民部左衛門、犬塚又内。国替えに不満を持つ国家老・川合勘解由左衛門。酒井忠恭の調停で一度は収まった対立。打ち合わせと称して本多、犬塚を屋敷に読んだ勘解由左衛門。勘解由左衛門の屋敷で起きた惨劇。

    『面貌』
    面貌が醜かった為に父親である徳川家康に疎まれた六男・忠輝。大阪の陣で家康に不満を持ち勝手に帰国した忠輝。兄である秀忠とも対立。

    『山師』
    家康の前で披露された猿楽。猿楽師の中でも金を採掘する知識を持つ藤十郎。藤十郎の知識で採掘される金。大久保長安と名を変えた藤十郎。気に入られていたはずの家康の心の奥を見た長安。

    『特技』
    鉄砲の名人・稲富伊賀直家。細川忠興に使えていた直家。朝鮮の役での狩り対決で忠興の不興をかう直家。関ヶ原直前、ガラシャを警護していた直家。ガラシャの自害。鉄砲の腕を惜しまれ脱出させられた直家。諸国放浪。忠興からの報復。家康の鉄砲講師としての立場。ある日目撃した家康の瞳。

  • 松本清張の小説の魅力は“コンプレックス”だと思う。
    生い立ちや外見、才能にコンプレックスを抱えた人物が、必死に抗い、隠し、ときに罪を犯す。読者は判官贔屓と野次馬の視線で楽しみながらコンプレックスに共感し、小説の世界に引き込まれていく。社会派と言われた素材選びやトリックでエンタテイメントに仕上げたが、底辺にどんよりと流れるコンプレックスこそが彼の小説の本質ではないだろうか。
    開放的な作品が少ないのはそこに起因しているのかも知れない。
    生活のためにサラリーマンを辞められず、長いこと作家デビュー出来なかった彼の体の奥底に溜まり続けた底なしのコンプレックスが、一気に溢れ出したのかとさえ思う。

    さて本書は松本清張が芥川賞受賞後、まだ朝日新聞広告部にいたころの短編集です。
    全盛期の作品に比べるとまだテンポや表現力に物足りなさを感じますが、こんな小説を書くサラリーマンがいたらやはり凄いなぁと思います。

    世に出てないけど凄い才能を持った松本清張やポール・ボッツみたいな人は、まだまだいるのかも知れないですね。

  • この本に収録されている時代小説は江藤新平、松平忠輝、大久保長安、稲富直家、川合定恒といったこの手の小説ではあまりスポットが当たらない人物が主人公になっている。そのせいか、清張の他の現代小説に通じるような人間の有様が描かれている少し変わった歴史小説になっていた。なかなか新鮮。

  • 松本清張には伏線がない、後のために張る伏線がほとんどない、という説にはうなずけるものが。
    それゆえに、「現実」の感触に近い。
    「現実」のささいな行為や出来事は、それがどんな結果を招くかを予測して行われるのは特殊な場合と言ってよく、ほとんどの場合それはない。
    つまり、張ろうと思って伏線を張るわけではなく、結果的にあああれが伏線となったんだな、と思うだけだ。

    時折「とほほ」な結末だったりすることも含めて、その感触に近い。

  • 表題作「青のある断層」が抜群におもしろい。清張サンの人が持って生まれた才能に対するやっかみ、しっとがにじみ出ている。

    才能を持つ者は他人の才能を吸い取る能力にも長けている。それゆえに、持つ者と持たざる者の格差はさらに広がっていく。そんなどうしようもない現実を突きつけられる作品だ。つくづく、才能のある人はうらやましいと思う。

  • 20101103

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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