カメラ・オブスクーラ (光文社古典新訳文庫 Aナ 1-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752361

感想・レビュー・書評

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  • ナボコフさんなのに読みやすいってちょっとびっくりした。初期だかららしかった。ストーリーがさくさく進んでくれるからですね。そう考えるとナボコフお得意のよくわかんない修辞とかもうちょっとあってもよいのかも(偉そう)解説にもあったけど視覚っていう主題を表現するにはイメージをもっと膨らませてあってもいいのかもと思ったので。
    ストーリーは一種面白いくらいのふぁむふぁたーるでした、マグダが思ったより狡猾でどこか矮小な存在に思えたのはたぶんロリータのほうと無意識的に比べてる(まだ読んでないけど)。

  • 真面目な中年男性が小悪魔的な少女にあらぬ思慕を抱いた揚句破滅への旅に向かう・・・というプロットはまさに「ロリータ」。ロリータの原型にしてナボコフが初期にロシア語で書いた作品というのが興味深い。ナボコフはこのテーマがよほど気に入っていたのだろう(笑)マグダの蠱惑的な悪女ぶり、クレッチマーが蟻地獄のようにトラップに嵌っていくどうしようもなさを、実に巧みで緻密に描写しており、「うーん巧い」とうならされる。
    タイトルが示しているように視覚がポイントとなっているようだ。クレッチマーはマグダとの旅の途中で事故に遭い視力を失う。マグダの愛人との奇妙な3人同居生活を強いられていることに気付かない。このあたりの設定の分かりやすい「いかにも」感は、面白いがナボコフの若さでもあるのだろう。

  • 一言でいうと、中年の妻子持ちの男が、16歳の少女にのめりこみ破滅していくさまを描いた話だが、裏テーマは、性的魅力のない妻を持った妄想男の行く末、と読んだ。
    (とはいえ、ロリータよりだいぶ以前のこの段階では作者が未成熟の女性に興奮する性向を隠したいがために性的魅力のない妻を利用した、とも読めるが、自分の都合で前者と解釈することにする。)

    妻/母を長いことやっている私は、いいお母さんだけれど日々の生活でもベッドの中でも大人しく、徹底的に退屈でセクシーじゃなく描かれている作中の妻を、反面教師とした。

    妻/母を長いことやっている私はまた、主人公の男が、いけないとわかりながらも性的嗜好に翻弄されてあれよあれよと堕ちてゆく様を疑似体験し、自分の破滅願望をすんでのところで食い止めた。

    妻/母を長いことやってきた私は、モラルというガラスの水槽に自分を閉じ込めていたとようやく気付いた。だからこの小説のようにモラルを蹴散らすような話が好きなんだとようやく理解した。
    安心で退屈な家庭生活を長く続けるために、魔がさして破滅する前に、多少の波風~秘密とインモラルというスパイスを織りこんでゆく所存です。

    ナボコフはほかに「ロリータ」と「絶望」を読んだが、妄想や変態性を、独創性あふれる空想を盛り込みながら、ごく客観的に描く、面白い人だと思う。酒を飲んでみたいと思う作家のひとりだ。

  • 「カメラ・オブスクーラ」とは「暗い部屋」という意味で、ピンホールカメラの元になった装置のことを言うそう。暗い映画館でマグダを見出したときからクレッチマーはカメラ・オブスクーラから映しだされた虚像を見ていたということか? だとしたらマグダがスクリーンに映された自分を観ることに耐えられなくなるシーンはある種の皮肉なのだろうか? 映画もカメラ・オブスクーラと同様に、スクリーンに虚像を映し出す機械であるはずだが、その虚像によってマグダは自分の凡庸さに気づくのだから。

    マグダが視覚的に描写されているのに対し、アンネリーザは「オーデコロンの香り」に象徴されている。これは、アンネリーザがクレッチマーの欲情(これは視覚ベースの欲求であるようだ)の対象ではないことを象徴している。

    にしても、視覚が欲情の象徴で、嗅覚がもっと曖昧で希薄な愛着(というか、クレッチマーがアンネリーザと離婚できないでいること)の象徴というのは、ヨーロッパ的というのか、男性的というのか……。

  • ノワールだw クレッチマーの堕ちざまもさることながら、マグダやホーン、ゼーゲルクランツら脇を固めるキャラが、クレッチマーの歪んだ世界に見えない照明で残酷に浮かびあがらせる様もどす黒いw

  • 面白かった。定評あるナボコフのレトリックを意識しながら読んだので一層楽しめた。三文芝居的ストーリーがなんとふくよかになることか。さすが言葉の魔術師。『カメラ・オブスクーラ』というタイトルは絶妙。視覚的意識の描写ゆえかヒッチコックの映画を観ているかのような錯覚に陥る。

  • えらいもん読んでしまった。活字を介していろんな感覚を乗っ取られてるような錯覚。なんだかクラクラしてきた。話しは分かりやすくスリリングな展開にグイグイ引き込まれる。

  • 1933年、ナボコフ初期の小説で、『ロリータ』の原型をなすような、オヤジの、少女への愛と裏切られる受難をえがいている。
    後年のナボコフは文章自体がすさまじく濃密なディテールに溢れ、読みにくいのだけど、この初期作品はずっと読みやすい。ストーリーも明快で、普通に面白い。
    ロリータは12歳だがこの作品の少女マグダは16歳。ふつうなら高校1年か2年生だ。援助交際とかで女子高校生を漁るエロオヤジもたくさんいるみたいだから、性的に異常とはもはや言えないだろう。ロリータの12歳はかなり若い(小学5年か6年)が、13歳で結婚させる社会もこの世にはあるのだから、ローティーンの少女を性的対象として見ることをタブーとするのは、単にわれわれの社会/文化の機制であろう。かく言う私も、20歳以下の女性は「子供」というイメージしかしないので、とても恋愛の対象にはできそうにないが、それは無意識裡に文化にすりこまれたというところか。
    まあ、年齢はちょっと低いけれども、妻子のある中年オヤジが若い女性にメロメロになってしまうという点では、個人的にとても共感できる。
    この小説では少女マグダが別の男性とべったりになって中年主人公を裏切る。ブニュエルの映画「欲望のあいまいな対象」に似ているが、谷崎潤一郎的なマゾヒズムの契機は、ナボコフには存在しない。彼はヘンタイとは言えない、普通な心性を持ったまじめな文学者というべきだ。
    この小説も、谷崎的ないしドストエフスキー的なマゾヒズム、破滅志向が存在しないため、意外にも健康的な、純粋に小説的構成を楽しむための作品となっている。それはまるで推理小説的な構造をもった『ロリータ』でも変わらない。
    ナボコフの興味は倒錯的心理にあるのではなく、あくまでも純粋な「小説作法」にあるわけだ。その意味では、この初期作品はまだ円熟期の濃縮が足りないのだが、ふつうに楽しく読めることは確かだ。後味も意外と悪くない。

  • 2013/3/8購入

  • 「ロリータ」とストーリー的に重なるところは大きいが、「ロリータ」ほど複雑でないぶんだけ、よく言えば気軽に、別の言い方をすれば〈読む〉という行為に無自覚に読める作品であった。

    後半、盲目になったクレッチマーをマグダとホーンがあれこれ騙すが、騙される側の無力は解説にもあるように、読者と同じといえる。
    また他方、騙す側のいやらしさ、見えないことが常にふくむいやらしさは、小説であれ何であれ輪廓や構造を有するものに内包されるものといえそうだ。

    読者は常にマゾヒスティックにならざるを得ず、だからこそせめて、どうせ騙されるなら華麗に騙されたい。
    小説において騙す側は、マグダのように、いやらしければいやらしいほど読者を惹き付けるのではないだろうか。

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著者プロフィール

ウラジーミル・ナボコフ(Владимир Набоков, Vladimir Nabokov)
1899年4月22日 - 1977年7月2日
帝政ロシアで生まれ、ヨーロッパとアメリカで活動した作家・詩人。文学史上、亡命文学の代表者とされることもある。昆虫学者としての活動・業績も存する。
ロシア貴族として生まれたが、ロシア革命後の1919年に西欧へ亡命。ケンブリッジ大学に入学し、動物学やフランス語を専攻。大学卒業後にベルリンで家族と合流して文筆や教師などの仕事を始める。パリを経て1940年に渡米、1945年にアメリカに帰化。1959年にスイスに移住し、そこで生涯を閉じた。
ロシア時代から詩作を開始。ベルリン、パリにおいて「シーリン」の筆名でロシア語の小説を発表して評価を受ける。パリ時代の終わりから英語による小説執筆を始めた。渡米後も英語で創作活動を続け、詩・戯曲・評伝を記すだけでなく翻訳にも関わった。
代表作に、少女に対する性愛を描いた小説『ロリータ』。映画化され、名声に寄与した。ほかに『賜物』、『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』、『青白い炎』、自伝『記憶よ、語れ』。

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