正しい愛と理想の息子

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334912505

感想・レビュー・書評

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  • ひょんなことから背負うことになった200万の借金を返すために詐欺師となったハセと沖。
    女を騙して偽宝石を売りつけていたが、貯めたお金を持ち逃げされ、次なるターゲットをお年寄りに定めた。

    憎めない詐欺師ハセ。
    根っからの悪人ではないため、善良なお年寄り達も、ハセに好意を寄せます。
    表紙のハセが今ひとつ好きになれず、どうしてもイメージの相違があって入り込めませんでしたが、ストーリーはとても好きでした。

    ハセ父の『お年寄りなんて言う生きものはいない。それぞれ違う心をもって、それぞれ違う長い年月を生きてきた人たちがそこにいるだけ』というセリフがいい。

    寒い施設のフロントで、息子を気遣う痴呆の沖の母が切ない。
    ずっと昔から、もっと息子にわかるように愛してあげていたらよかったのに、と思わずにはいられませんでした。

    わたあめの飼い主さんも素敵。
    今後は新たな仕事を得て、残りの借金を返していくのでしょう。

  • ニセモノの宝石を売ったり、老人を騙して暮らしている詐欺師の男たち。決して真の悪人ではないように描かれています。みんな誰かを好きだったり愛していたりしているので、少しの想像力があればいい人になれるはず。コメディタッチで面白かったです。

  • 思わせぶりなタイトルと、表紙に描かれた“いかにも”な男の泣き顔。無償の愛は知っているが、正しい愛ってのは初耳である。理想の息子もわかるが、この二つの関係は? そう思いながら読み始めた。弟分の不始末で金が必要となった男は詐欺を企む。だが、せっかく作った金を奪われてしまい、期限が迫る中、男が目をつけたのは老人だった……。この男、人がいいんだか悪いんだか、真面目なんだか不真面目なんだかよくわからないが、別に開き直っているわけでもない。でも悪人ではないというのは伝わってくる。母親に対する思いや、子に対する思いなど共感(?)する部分もあって考えさせられた。

  • ・「とりつくろうようなへたくそな笑顔を見て知った。俺はたった今、沖の母を傷つけた」
    ・トクコのどっしりと構えた優しさ。
    ・ハセが愛について気づく2章の終わりは、夜の公園を想像してとても良い。
    ・沖の部屋、学習机の抽斗から出てきたクッキーの缶。その時の部屋の日差しや温度まで想像して、沖の代わりに泣きそうになる。
    ・『お年寄り』なんていう生きものはいない。それぞれ違う心をもって、それぞれに違う長い年月を生きてきた人たちがそこにいるだけだ。
    ・「すべての愛は正しくないのだと、あの日に知った」
    ・施設に着いてロビーの椅子に座って。「......沖を生んでくれて、ありがとうございます」。泣いた。
    ・えっちゃん...笑

    なぜこの人はこんな可愛いシャツを着ているのだろうって表紙を眺めて思っていたけど、読み終わってから「わたあめじゃん!!」ってなった。気付くの遅い。
    可愛いな、わたあめちゃん。

    寺地さんの本は2冊目。
    今作も、切迫した状況の中にも可笑しさがあって包み込むように優しい。
    描写が頭の中でスムーズに再現されて入り込める。視点が好き。完全にファン。笑
    次は何を読もう。

  • デビュー作から追いかけている寺地さんの直近作。宝石詐欺や、老人をカモに悪事を働く男性2人。決して性悪ではなく、それぞれの生い立ちでの痛みや、親との関わりに難を感じ、実家にも社会にも居場所を持てない疎外感が少しずつ露わになる過程が寺地さんらしい。

    「いまだに母親に認めてもらいたがる沖も、娘をほったらかして民生委員の活動に精を出していた民恵の母も、沖を理想の息子の型にはめようと躍起になった沖の母も等しく歪んでいる。それぞれに親を、子を、愛していたはずなのに。

    でももしかしたら、愛とやらはそもそもいびつで、醜悪なものなのかもしれない。誰もが愛とは美しく崇高なものだと思い込んでいる。だから、愛ゆえに起こす行動は正しいと勘違いしてしまう。」

    「愛しているからこそ、間違ってしまう。踏みにじってしまう。押し付けてしまう。俺もまた美しく崇高なものこそが愛だと勘違いしていた。」

  • やはり、この作者が描く人物は優しい。今回の主人公は、詐欺を働く男。
    でも、なぜか憎めない。おそらく被害者側に立つと、許せないような男なのだが、なぜか憎めない。

    やっていることはもちろん最低なこと。女性を騙したり、老人を騙したり。でも、なんか憎めないのは、作者の心なのか。ハセと沖。それから、ハセの親父。みんな最低な男たちだけど、なんか最高。

    ハセと沖はバカラで働き、沖のミスで200万の借金を背負った。その借金を返すため偽宝石売りを始める。しかし、騙したはずの女に騙され、やっと貯めた200万を取り上げられる。この後騙す対象を老人に絞った2人。この気持ちの優しい2人は老人を騙すことができるのか・・・。

    世の中にはたくさんの犯罪があって、その数だけ犯罪者がいる。でも、その犯罪者たちがこの2人だったならば、少しはマシな世の中になるのかなと思えた。

  • 1歳になる前に母は出奔、以来中学卒業するまで、整った顔を武器に女にたかっていた父とふたり暮らしの長谷眞。1年前、働いてた灰嶋さんのカジノハウスで後輩の沖が作った借金返済にイミテーションの宝石売ることを押し付けられ、ようやく金が貯まった夜ー

    ◆なんか悪い奴なんだけど憎めない←結局悪い奴になりきれずに痛い目にあってるからかも…でもえっちゃんまでは騙し取ってきた、てことだよね…。「女にたかって暮らす父」て文章にするとロクデナシだけど色々深いこと言っててやっぱり手練手管がスゲーなと。

    母に認められたかった沖。認知症発症しても沖の学費貯めてたお母さん。他人のために奔走するお母さんみたいになりたかった号泣する民恵。民恵もハセも受け止めようとするトクコ。ハセを守ろうと必死、こんなの酷だとすすり泣く善一郎。ふさ子を見送る時泣いてたハセ。どの人もみんな愛しい。老婆の老婆心、わたあめ連れた典子さんによる素敵な着地点。このシステム、ホントにこれからの日本には必要な気がする。

    いや-、でもやっぱり父ちゃんがMVPかもな。「手握ってもらっても、死ぬ時はひとりだ」『だからこそ、手を握っててほしいんじゃないか。お前は女性の気持ちがまったくわかってない』『ご婦人にはけっして奥さんとかお母さんとか呼びかけないようにしなさい。誰の妻になっても、彼女たちには名前がある。その名前で呼ぶんだ』←これは詐欺師のマインドコントロールでもあるけど(笑)

  • 紹介文の「泣けるバディもの」ってのにひかれてライトな内容をイメージして手に取ったけど、良い意味で裏切られた。
    本著は不器用に愛を求め、また不器用に誰かを愛する人たちの物語だった。
    社会的には白い目で観られたり(主人公・ハセの父親やハセのように)、糾弾されるような行為をした人だって(虐待じみた教育をした沖の母親だって)、そこに愛情がなかったとは言い切れない。
    大多数の人がイメージするような、模範的愛情がすべてではない。
    ハセの上司も、ハセが詐欺にかけようとしたお爺さんも、なじみの薬局のおばちゃんも、沖も、その表し方は様々でもハセに少なからず愛情を持っていたように。

    正しい愛なんてない。この作品のこの一つのメッセージは「愛はこうあるべき。こうあらねばならない」というどこか息苦しい固定概念を解きほぐしてくれる気がする。

  • 詐欺師の沖とハセ。

    沖の母親の認知症をきっかけに
    更生する。。。かも、しそう、多分するだろう。

    32歳と34歳を若いと思うか、
    何を今さらと思うかはそれぞれ。

    私は、人生に遅いはないよ!と思う、思いたい。

    生い立ちの不幸が詐欺師になる根拠というのは
    甘えていると思うけれどね。

    自分で働いて、お金を得て、身の丈で生活する。
    とても尊いことだと思う。
    子育ての目標はここにあるとも思っている。

    寺地さん、優しい言葉遣いでとても入りやすい。
    ただ、ストーリーは好きだけど、
    タイトルがちょっとなぁ。
    表紙の絵もストレートすぎて好みではない。

  • 人を騙すためにその人を見ていたら自分の内面を見つめていて、ダメなところや、焦りばかりが出てくる。2人が見せる強がり、弱さ、不器用な優しさ、悪人になりきれないところ。短い作品の中でたくさんの想いを感じられる。2人のやってきたことが消えるわけではないけれど少しでも良い日々が来ることを願ってしまう。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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