- Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336025715
感想・レビュー・書評
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ボルヘスが監修した文学集。
青を基調とした縦長の装丁で並べると美術品のようです。
こちらのロシア短編集には、
ドストエフスキー「鰐」、アンドレ―エフ「ラザロ」、トルストイ「イヴァン・イリイチの死」が収められています。
【ドストエフスキー「鰐」】
ある日ある役人紳士イワンが、商店街の見世物の鰐に生きながらにして丸呑みにされた。
しかしイワンは鰐の腹の中で生きていて、さらにそこはそれなりに居心地がいいらしい?!
鰐の持ち主の興行師は「賠償金を払え!!」と金額を吊り上げ、お役所の同僚たちは「休暇中の事故だから我々はなにもできない!」とお役所体制、イワンの妻は悲劇により美しくなった自分を自覚して次の恋に進みたがり、そしてイワンは鰐の腹の中から勝手な未来構想を…
それぞれが勝手な言い分を繰り広げているうちに未完。
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はい、未完です(笑)
内容は官僚的社会を皮肉ったものですが、鰐に呑まれる描写や、それぞれの勝手な言い分がかなりグロテスク。
「ドストエフスキーはという人はまるでドストエフスキーの作中人物のように思える」
とはボルヘスの序文。
【アンドレーエフ「ラザロ」】
キリストにより墓から蘇ったラザロのその後の人生。
生き返ったラザロは以前とは別人のようになり、友人も去り、人々からの問いにも答えなかった…。
【トルストイ「イヴァン・イリイチの死」】
判事のイヴァン・イリイチが死んだ。
患ってからは自宅療養を送り、最期の三日間は叫び通しだったという。
それを聞いた同僚たちは、空いた彼のポストにだれが就任するか、それにより空いたポストには誰が就任するかという想いを巡らせる。
イヴァンの妻は、慰労金を少しでも大く取ろうと根回しに余念がない。
前半は役人気質の社会を皮肉った展開だが、後半からイヴァンの一生の振り返りになる。
イヴァンの人生は、前半で彼の死後彼の周りの人間が示したように、官僚気質で表面を繕ったものだった。
自分の病魔に気が付き自宅療養となったイヴァンの心に到来する恐怖や肉体的精神的苦痛。死はどこにあるのか、自分の人生は間違っていたのか。次々に流れ込む追憶。
最期の三日間は叫び通しだった。
しかし何かわからぬ力が訪れた。穴の中から光を見た。死はもうなかった、死の代わりに光があった。
ああ、これだったのか。
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この作品に向けたボルヘスの序文。
「人間の認識と文学的完成とが見事に一致しているこのすぐれた作品は、当然ながら有名で、それをわれわれた読まずに済ませるわけにはいかない」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ドストエフスキー「鰐」、アンドレーエフ「ラザロ」、トルストイ「イヴァン・イリイチの死」の三篇を収録。どれもカラーが異なり面白くて、ボルヘスは趣味がいいなあ、と感銘を受けた。いいかげんボルヘスを食わず嫌いでいるのは止めようと決意。
「鰐」は素っ頓狂で笑えた。可笑しなことはこういう風に真顔でやってくれないといけない。ただ素っ頓狂すぎて収まりがつかなくなったらしく、未完。ドストって長くて深刻なのばかりじゃないのね。こういうのならもっと読みたい。
「ラザロ」初アンドレーエフ。硬質な幻想小説。山尾悠子とか、硬い画になってからの萩尾望都とか、そういう感じなので、好きな人は要チェックだと思う。日本では忘れられた作家らしくて、幻想寄りの作品はまとめて読むのは難しそうだけど、アンソロジーで拾えそう。
「イヴァン・イリイチの死」ゴリゴリ前のめりにたたみかけてくるところがヘヴィメタルでとてもよかった。これは訳者の川端さんがすごいのかな。フエンテスの『アルテミオ・クルスの死』は本作を下敷きにしているんだろうか。題名が一緒だし。アルテミオはメキシコの成り上がり者だけどイヴァンはロシアの上級官吏(?)だから、そんなに大物じゃなくて普通の人だ。普通の人が死ぬ前に「俺間違えてた?」ってなるんだからとても身につまされた。生活は忙しいから、気づいたらいろいろなものが色あせた状態で独り取り残される可能性ってあるんだろうね... でも、中学生の息子があんなにいい子だったから、トルストイ先生そんなに意地悪じゃないな、って思った。 -
第16冊/全30冊
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『鰐 ── ある異常な出来事、或いはアーケード街の椿事』 ドストエフスキー
『ラザロ』 レオニード・アンドレーエフ
『イヴァン・イリイチの死』 レフ・トルストイ