アルゼンチン短篇集 (バベルの図書館 20)

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  • Amazon.co.jp ・本 (163ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336025753

感想・レビュー・書評

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  • ボルヘス監修、バベルの図書館シリーズ。イタリアで刊行された青を貴重とした縦長の装丁で出版されています。
    収録されている作品は幻想的、SF的なもの。

    『イスール』レオポルド・ルゴ−ネス
    サルが人間の言葉を喋らないのは、その能力がないからではなく、喋るまいと自らに禁じているからだという。
    そこで私はサルのイスールに人間の言葉を教える実験を行うことにした。
    唇や下の動きの訓練、単語の発声。何年経っても実験は捗らなかった。しかしイスールは、徐々に物思いにふけり、星を眺め、感受性が豊かになり涙もろくなっていく様子を見せていった。
    =冷静に記録された文体ですが、それを眺める読者には皮肉さが感じられます。

    『烏賊はおのれの墨を選ぶ』アドルフォ・ビオイ=カサレス
    始まりはドン・フアンの屋敷の庭を整えていたスプリンクラーが消えて納屋を湿らせていることだった。
    町の人たちは養子のタデイートから話を聞き出す。
    なんでもドン・フアンの納屋には、宇宙から来た知的生命がいるという。そして地球の原子爆弾の危険性を憂いてこの地球を開放しに来たというのだ。
    =後半SFだった。外部からの救済を選ぶか、人間の限られた存在を保つか…。

    『運命の神様はどじなお方』アルトゥーロ・カンセーラ/ピラール・デ・ルサレータ
    ブレノス・アイレス鉄道の御者のフアン・ペドロ・ルアルテは、事故により右足を負傷したのです。この頃はまだ労働災害法もなく、ルアルテは時代に取り残されるのでした。
    老人となったルアルテは、ある時自分が過去にいることに気が付きました。まだ町の人たちがお互いに挨拶していた頃。馬による馬車が人々に必要とされていた頃。
    坂道を馬車で疾走しながらルアルテ老人は、運命の神様がなぜ自分を30年の時間を飛び越えさせたかを悟ったのでした。
    =取り返せない日々や権利を皮肉的な運命で受け入れる。

    『占拠された家』フリオ・コルタサル
    アルゼンチンの屋敷で二人きりで閉ざされた生活を営む中年の兄妹。
    ある日その屋敷が占拠されたことに気がつく。
    =ラテンアメリカ短編の中でも結構有名かつわけわからん話(笑)
    政治的などの裏を読み取るべきか、いやいやなぜ?とかなに?とか考えなくていいじゃんとも思う、印象的な短編。

    『駅馬車』マヌエル・ムヒカ=ライネス
    資産家の妹を密かに毒殺し、遺産を隠し持って都会を目指す老婦人は、駅馬車の客に自分が殺した妹の姿を見つける。
    =ホラーだった。

    『物』シルビーナ・オカンポ
    老年を迎えたカミラは、ずっと昔になくした大切なブレスレットが道に落ちているのを見つけました。喜んだカミラはその夜かつてなくした大切な物たちのことを思い出したのです。
    しかしそれらのすべてが自分のもとに返ってくるに連れて、カミラは徐々に不安を募らせていったのです。
    =不穏になりそうだったけれど、これはこれで安堵なのだろう。

    『チェスの師匠』フェデリコ・ペルツッァー
    師匠よりチェスの腕を上げたとうぬぼれた私は、師匠と最後の対決をする。
    負ける要素のない展開だったが、ちょっと見たところでは気が付かない一手を打たれて私は負けた。自身を持ちすぎるのは良くないのだと私は師匠から教わった。
    そういえば師匠の名前を聞いていなかった。師匠は答えた「デイオス(神)」

    『わが身にほんとうに起こったこと』マヌエル・ペイロウ
    私は一日の間に、ある男の違った時間を見かける。
    彼を通じれば時間を遡り、自分が別れた相手、悔やんだ日に戻れるのではないだろうか。
    しかしそのばん顔が現れて言う。「過去を覗いてみようとしてはいけない。見たくないものも見て、人の輪郭もなくなってしまう」

    『選ばれし人』マリア・エステル・バスケス
    選ばれた人が、もう会えなく声も忘れた相手に「なぜ私が選ばれし人になり、忘れられし人になったのか」と心で問う話。
    いろいろな作家が取り上げられている題材。丁寧な言葉遣いが哀切と受け入れた静かさを感じます。

  • 選・ボルヘスで、イタリアで発売されたシリーズ。本の形も装丁もすごく素敵。ものすごい読書家だったというボルヘスが選んだ作品が気になるのでシリーズの他の本も読んでみたい。にしてもブンガク好きには涎が出そうなくらい素敵なシリーズ。

    『イスール』Yzur レオポルド・ルゴーネス
    冒頭の部分だけ原書で読んでたんだけど、まさかこんな話だったとは。とんでもない設定だけど、狂人(博士なのかな・・・)とサルの間にまぎれもない愛を見たような気がします。じわじわと沁みいる。サルに感情移入。わたしも狂人に囲われたい。

    『烏賊はおのれの墨を選ぶ』El calamar opta por su tinta アドルフォ・ビオイ=カサーレス

  • ボルヘスが編纂したアルゼンチン作家の短編アンソロジー。

    「イスール」(レオポルド・ルゴーネス)
    科学者らしい緻密な語り口の回想ゆえ、まったくもって冷静な観察に見えるが、よくよく考えたらこの語り手は狂気に陥っていたのでは・・・?そう考えると、なかなか奥が深い気がしてくる。★★★★

    「烏賊はおのれの墨を選ぶ」(アドルフォ・ビオイ=カサーレス)
    差しのべられた救いの手を拒絶してしまう人類の愚かさ・・・。これにしても、もしかしたら単なる冗談だったのかも、と思うと、ボルヘスの解説の通りの内容と受け取ることが憚られるから面白い。★★★★

    「運命の神様はどじなお方」(アルトゥーロ・カンセーロ/ピラール・デ・ルサレータ)
    結局どこが「現時点」だったのかイマイチつかめず終いだったが、何というかちょっとしたロマンを感じた。★★★★

    「占拠された家」(フリオ・コルタサル)
    読むのは二度目。読者としては何が起こったのか分からないが、登場人物は理解している。この置いてけぼり感はある意味爽快。★★★

    「駅馬車」(マヌエル・ムヒカ=ライネス)
    気づけば死んでいたのは自分でしたー!うわはははー!いつの間にー! そんな感じ。★★★

    「物」(シルビーナ・オカンポ)
    これは不思議な話であるに違いはないが、最後の一文が曖昧な表現で、何とも測りがたい話。★★★

    「チェスの師匠」(フェデリコ・ペルツァー)
    不覚にもモンス○ーエンジンのネタを思い出してしまった。まぁ、そりゃ強いわな。★★★

    「わが身に起こった本当のこと」(マヌエル・ペイロウ)
    ここまで執拗に描かれると、さすがに幻想だと断じることはできなくなってしまうから恐ろしい。★★★★★

    「選ばれし人」(マリア・エステル・バスケス)
    聖書を読まなきゃなあ・・・。改めてそう思う一編でした。★★★

  • ■「イスール」……澄まして黙っているけどおまえらほんとは喋れるだろッ! お猿さんにむりやり言葉を喋らせようとするお話。
    ■「烏賊はおのれの墨を選ぶ」……スプリンクラー+小学校の教科書=? ナマズ型異星人との遭遇のお話。
    ■「選ばれし人」……「なぜにあなたは敵意に満ちたこの地上に私を置き去りにし、変わることも、老いることも、死ぬこともゆるしては下さらないのか」。結局、あれから死ぬことができなくなったラザロのお話。

    ・・・あとは面白くない。

  • 本書は、ボルヘスが20世紀前半のアルゼンチンの作家たちの短篇9つを編集したもの。ボルヘスの編とあって、いずれも多かれ少なかれ神秘性や幻想性の片鱗を持っている。現在ガルシア・マルケスやバルガス・リョサをはじめとしてラテン・アメリカ文学が注目を集めているが、そうしたものの萌芽がここに見られるようである。文学としての出来においても、篇中で面白いと思ったのは、巻末の「選ばれし人」ラザロの物語だ。その趣きや思想史的な背景は全く違うが、プロットの根幹は「八百比丘尼」にそっくりだ。白眉はコルタサルの「占拠された家」か。

  • 第20冊/全30冊

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