ディンマスの子供たち (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)

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  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336059185

作品紹介・あらすじ

その少年はすべてを目撃していた――イングランドの架空の港町ディンマス、人々は複雑な事情がありながらも平和な生活を営んでいる。しかし、一人の少年によって人々の意識の裏に潜む欲望・願望・夢が暴き出されていく。平凡な海辺の町を丸ごと描いて、読む者を戦慄させるトレヴァー初期の衝撃作、ついに邦訳!

イングランド・ドーセットの海辺の町ディンマス。復活祭を前に人々の生活は活気づいている。教会運営に悩む若い牧師夫婦、海岸を徘徊する退役軍人とその妻、息子に家出された老夫婦、互いの親が再婚して同居するようになった少年と少女、そしてタレント発掘番組に出演することを夢見る孤独な少年ティモシー。やがて彼は悪魔的な言動で人々の平和な生活の裏に潜む欲望・願望・夢を暴き出していく……トレヴァーのダーク面が炸裂する群像劇にして、1976年ウィットブレッド賞を受賞した傑作長篇がついに邦訳。

感想・レビュー・書評

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  • トレヴァーがこんなにダークになれるとは知らなかった。カフカ少年(春樹)が世界一タフな15歳の少年なら、ティモシー・ゲッジは邪悪な15歳。「子供たち」なのでスティーヴンやケイト、家出したネヴィル・ダス、ラヴィニアが失いミス・ラヴァントから生まれたかもしれない子供まで含めた「子供たち」なのではないか。ティモシーの造形が、悪魔やサイコパスで片づけられない人間臭さ、アイルランド出身のバリー・コーガンがうまく演じそうな気持ち悪さ、そのさじ加減が絶妙だ。ティモシーは貧しく孤独で未来に希望もない、そんな少年を生み出したディンマス社会の業が暴かれるようで居心地が悪い。ぞわぞわして不気味だが、「虐げられた人間が語る飾り気なしの事実」だとしたら、少年を悪魔として排除できるだろうか。面白かった。

  • うーん、一言で言えば確かに「ダーク」。
    ティモシーが不気味で怖いのは、人が隠そうとしていることを見ているからだよね。見られたという恐怖、暴かれるのではないかという恐怖。強く迫ってくるわけではないのに、見られたというだけで、勝手に怖くなる。

    スッキリもしないし、私には希望もそれほど感じられなかったが。不快というのとは違う、なんか人の折り目の深さを感じるというか。

  • ティモシー・ゲッジはディンマスに住む大人たちの憎しみを養分に生きているようです。彼が町の隠し芸大会で披露するのは喜劇なのですが、たぶんまったく笑えない内容でそんなものを見せられる町人には悲劇といってよいでしょう。彼が悲劇的な喜劇にこだわるのは出生に秘密があるようですが、彼が町をうろついているのに出くわすのは読者も恐ろしい感じになってきます。

  • とある街を舞台に様々な家族が一人の少年の自己中心的な言動によって秘密を暴露され、あるいは疑念を植え付けられ、日常を揺さぶられていく。この悪魔じみた少年の、悪意のさじ加減が絶妙。身近にあるあると思わされるちょっとした不快な言動がやけに執拗で、足の小指をぶつけた痛みのように、ささやかなディティールから強烈に不快感が想起される。面白い人物造形だった。

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著者プロフィール

Willam Trevor Cox 1928-2016.
1928年、アイルランド・コーク州生まれ。
本書はペンギン社版
トレヴァー短編集『After Rain』(1996)の全訳。
邦訳書に、
『同窓』
(オリオン社、鈴木英也訳、1981年)、
『リッツホテルの天使達』
(ほおずき書籍、後恵子訳、1983年)、
『20世紀イギリス短篇選 下 岩波文庫』
(「欠損家庭」(ウィリアム・トレヴァー)所収、
 小野寺健編訳、岩波書店、1987年)、
『フールズ・オブ・フォーチュン』
(論創社、岩見寿子訳、1992年)、
『むずかしい愛  現代英米愛の小説集』
(「ピアノ調律師の妻たち」(ウイリアム・トレヴァー)所収、
 朝日新聞社、柴田元幸・畔柳和代 訳、1999年)
『フェリシアの旅  角川文庫』
(アトム・エゴヤン監督映画化原作、角川書店、皆川孝子訳、2000年)、
『聖母の贈り物  短篇小説の快楽』
(国書刊行会、栩木伸明訳、2007年)、
『密会 新潮クレスト・ブックス』
(中野恵津子訳、新潮社、2008年)、
『アイルランド・ストーリーズ』
(栩木伸明 訳、国書刊行会、2010年)、
『恋と夏  ウィリアム・トレヴァー・コレクション』
(谷垣暁美 訳、国書刊行会、2015年)、
『異国の出来事  ウィリアム・トレヴァー・コレクション』
(栩木伸明 訳、国書刊行会、2016年)、
『ベスト・ストーリーズIII カボチャ頭』
(「昔の恋人 ウィリアム・トレヴァー」所収、
 宮脇孝雄 訳、早川書房、2016年)、
『ふたつの人生  ウィリアム・トレヴァー・コレクション』
(栩木伸明 訳、国書刊行会、2017年)、
『ラスト・ストーリーズ』
(栩木伸明 訳、国書刊行会、2020年)ほか。



「2009年 『アフター・レイン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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