ヒトラーの経済政策-世界恐慌からの奇跡的な復興 (祥伝社新書151)

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  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396111519

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。まず、著者は学者ではない。ジャーナリストというか、ライターと本には書かれてる。要は、権威を持っている人物ではないということだ。

    そのせいか、この本から見えるナチス、ヒトラーはとても違って見える。これは新鮮だった。著者はナチスの政策を理解できるものとして割と絶賛している。行き過ぎる前のナチは国民の味方だった、と。

    政策もとても思い切りが良く、うまく回れば素晴らしいものに思える。

    一部、意見が行き過ぎてる気もするが、今までにない視点から、しかも新書という読みやすい形で見せてくれたので素晴らしい。

    追記(2021):専門家の本を読んでないため、多分に感化されるのはよくないとも。石田氏の「ヒトラーとナチドイツ」を積読したい。

  •  ヒトラーやナチスと言えばユダヤ人虐殺を始め非道な行為ばかりがクローズアップされるが、彼らが選挙で支持を得て政権をとったのも事実だ。ではなぜ当時のドイツ人が彼らを支持したのかと言えば、第1次世界大戦に負けた結果ナンセンスと言うほどの賠償金を課せられてボロボロになったドイツ経済を建て直すために闘ったからだ。

     ここまでは歴史の常識だが、具体的にナチスがどのような経済政策を行い、どのような成果を挙げたかについてはあまり語られない。アウトバーンの建設くらいは教科書にも出てくるが、それ以外に様々な政策を実行しており、その多くは現代にも通じるものだった。本書ではヒトラーとナチスの経済政策の内容と目的、そして成果を紹介している。

     「国家社会主義ドイツ労働者党」が正式名称であるナチスは、その名の通り労働者のための政党だ。金持ちではなく底辺の労働者の生活を向上させることによって経済全体を活性化するという手法は、多くの成果を挙げている。もちろんすべてが成功したわけではないが、「強欲資本主義」に毒された現在の日本や欧米が見習うべき部分は少なくないと思う。

     本書の記述はかなりナチスに好意的だ。非道な行為についての記述は大幅に省略されているが、その点はすでに数多くの書籍があるのだから今更繰り返す必要はないだろう。また本書によれば、英仏がドイツに対して課した要求や攻撃はドイツを壊滅させるのが目的だったと言っても過言ではない。事実上、敗戦国に対する略奪である。それだけやったらドイツ人が怒るのは当然だと思えてくる。

     欧米で「ヒトラーを見習え」などと言えば大変なことになりそうなので、この本を翻訳することは難しいだろう。これが読めるのは日本人の特権かもしれない。

  • ヒトラー就任当初のナチスはすばらしい経済政策を行っていて、成果も上げていた。
    後半、ヒトラーは暴走した。
    最初からユダヤ人を疎ましく思う国民感情はあったこと。
    経済政策の話がメインだけど、ゼンゴ関係も書かれていてかつ読みやすくてとても良かった。

  •  タイトルに難がある。
     正確に言えば、ここでの経済政策は、ナチスでもヒトラーでもなく、ナチス非党員であって後日ヒトラーに罷免されたヒャルマール・シャハトの経済・財政政策とすべきだろう。
     また、何をしたかではなく、誰の立案かの点で、ナチス政策という大雑把な切り口に止まっているのは、解説としてはかなりの減点。

     確かに、シャハトの資金捻出法は、綱渡りの裏技だろうが、支出面に関する公共投資や社会保険など各種制度は、現代日本からすればさして目新しくはない。必要なのは、それがどのような経緯で編み出されたのかということなのだが、それはない。
     ただし、①累進課税制度の重視、②公共投資に振り向けた金額を労働者向けに多く配分した点(公共投資額の約50%弱)は眼を引く。つまりケインズ的な乗数効果を発揮するには、消費する層(必需品を購入せざるを得ない層)に広く、浅く分配する方が望ましいという指摘が眼を引くのだ。
     ところで、著者は日本の公共事業は、ゼネコンと土地所有者に配分される額が多く、乗数効果を大きく減殺していると見るようだ。

     さて、ナチスという観点で見れば、ヒトラーの言うことを聞かないシャハト(限定軍備はともかく、戦争は否定し、軍備拡大の抑制方針を提言)を政権から切り離したことが、ナチスの大きな蹉跌と転落につながったことは容易に読み解ける。それは、一見短期的な成果を獲得出来そうに見える戦争が、実のところ最も金喰い虫の政策で、非効率的だということに由来するのだろう。

     こういう切り口の書であるため、ナチスのユダヤ人迫害や種々の自由権侵害には触れない。本書はあくまでも一面的な経済政策論の書にすぎないのは言うまでもない。

     さて、シャハトの「経済政策は科学ではない。一つの技術である。だから確固不動の経済方策や不変の経済法則について云々するのは誤りである」とは含蓄深い発言である。
     

     備忘録。
     独内で自足可能な石炭に由来する人工石油は航空機燃料にも使えるほど高品質だったが、採算取れずじまいだったとのこと。

     2009年刊行。

  •  当時のドイツ人にはナチス党を支持するに十分な理由があったという話。軽く読めて、勉強になります。

  • 職場Yさんおススメ

  • Sat, 06 Jun 2009

    日本にしろドイツにしろ,二次大戦にころがりこんだ大きな原因の一つが”経済”にあることは重要であり,それにアメリカの欲望が噛んでいる事も大きなポイントである.

    日本の場合は,明治維新以降 列強に連なりたいという欲望から拡大政策でグイグイいってしまった面もあるし,明治欽定憲法で軍隊のポジションを天皇の直下にぶら下げてしまったという,制度上の不備があると思うが, ドイツの場合は,第一次大戦の尋常ならざる賠償額や,徹底した懲罰的貿易規制,さらにはウォール街発大恐慌に追い打ちをかけられ,ハイパーインフレ. とにかく,踏んだり蹴ったり

    その中で,良く耐えたという面もある気がするし,近隣の大人げない行動が,二次大戦を生んだといえなくない.

    歴史の勉強をしてると,謎なのが,よく第一次大戦・ベルサイユ条約でここまでコテンパンにされたドイツが,第二次大戦でフランスやイギリスをボッコボコにするまでに回復出来たなぁという事だ.

    このポイントは余り習わないので,謎のまま大人になってる.

    僕は日本史選択で世界史選択じゃないけど,世界史選択でもならうのかな?? ならわないんだろうな.

    結局,その針の穴に意図を通すような難しい経済政策運営を行って,経済を急回復させたのが,ナチスの経済政策だったというお話.

    特に金融・財政担当だったシャハトの業績がすごい模様. しかし,途中で軍備拡大を急ぐヒトラーに外され,それ以降,ナチスは下り坂におちるわけですが・・・.

    失業率600万人でたのを,ほぼ3年で解消してしまうという辣腕. 計算され尽くした公共事業,アウトバーンの構築. なんと公共事業額のうち46%が労働者への人件費として分配されるように計算されていたらしい・・.


    これにより,市中での消費も活性化されるわけです・・・. 大方のイメージとことなり,減税政策を行いさらに,福利厚生を激しく充実,日本に何十年先駆けてるかわからないアスベスト対策,従業員の健康診断の義務化!8時間労働,有休取得の徹底! 少子化対策!フォルクスワーゲンの支援!

    とにかく,ナチス前半は,失業者に公共事業で職を与え,経済を活性化させるとともに,国民の感情を穏やかにし,治安を回復する. そして,賠償金や膨大な負債の中,シャハトが職人芸の財政運営で資金調達を行う.という,内政重視によって,ナチスは国民の気持ちをがっちりキャッチしたんですね.

    そこがポイントなわけだ.

    民主主義国家で権力を握るためには,「理由」があるのだと思う.

    ナチスについては,あまりに「悪」の面を強調しようとする戦後の宣伝のおかげで,アンネの日記的な部分ばかり強調されるが, ストーリーは通して読まないと,将来への教訓にはならないし,学べない.

    ユダヤ人の虐殺 という点だけならば,そんなことは日本ではほぼあり得ないので, なかなか学ぶ機会もないように見えるが,ソコにいたるプロセスでは,類似の状況が散見される.歴史に学ぶ際には,しばしばタブーが邪魔をする.

    本書の書く事実のみならず,スタンスをどこまで酌むかは意見が分かれるところかもしれないが,多分に重要な点を含んでいると思う.

    ナチスを肯定しきるつもりは毛頭ないが,学ぶべき歴史の事例を提供しているのもまた事実なので,それらをタブー視して捨ててしまうのも,また,先達に失礼なのかもしれない.

  • 長岡駅宮脇書店で見つける。ヒトラーを異なる視点で見るにはよさそうなので、ぜひとも読みたい。

  • 本書は、ナチス・ドイツの経済政策に関してポジティブな評価を下しています。確かにナチス・ドイツはアウトバーンなど公共事業に多額の資金を投じるなどして、世界大恐慌から早期に復活しています。その手腕に対しては、かのケインズも賞賛していたようです。他にも、労働者を厚遇する政策や少子化対策などナチスが行っていた政策に関しては一定の評価をしてもよいようにも思えます。しかし、本当にそうなのでしょうか。経済政策としては、評価できるような実績ではありますが、ナチスが行ったすべての政策の一部としてこれらの経済政策をみると見えてくるものは変わってきます。僕は、これらの経済政策に見習うのではなく、有権者としてこういった経済政策に騙されないための反面教師として本書を活用すべきではないかと感じました。

  •  シャハトという存在を知ることができた。
    当時のナチス政権が、統制独裁オンリーというイメージを覆してくれる。

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著者プロフィール

1967年生まれ、福岡県出身。出版社勤務などを経て、フリーライターとなる。歴史の秘密、経済の裏側を主なテーマとして執筆している。主な著書に『ナチスの発明』『戦前の日本』『大日本帝国の真実』『大日本帝国の発明』『福沢諭吉が見た150年前の世界』(ともに彩図社)、『ヒトラーの経済政策』『大日本帝国の経済戦略』(ともに祥伝社)等がある。

「2022年 『吉田松陰に学ぶ最強のリーダーシップ論【超訳】留魂録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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