ブラウン神父の無心 (ちくま文庫 ち 12-3)

  • 筑摩書房
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480430069

作品紹介・あらすじ

ホームズと並び称される名探偵「ブラウン神父」シリーズを鮮烈な新訳で。「木の葉を隠すなら森の中」など、警句と逆説に満ちた探偵譚。怪盗フランボーを追う刑事ヴァランタンは奇妙な二人組の神父に目をつける…「青い十字架」/機械人形でいっぱいの部屋から、血痕を残して男が消えた。部屋には誰も出入りしていないという。ブラウン神父の推理は…「透明人間」。

感想・レビュー・書評

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  •  ブラウン神父シリーズ、初読み!
     神父が探偵、という設定故の面白みと、このブラウン神父の、一見隙だらけに見えるのに実は冴えてるというキャラクターの魅力。これが第一作『青い十字架』ですでに炸裂していたが、その後のどの作品でも余すところなく発揮されていて、さすがホームズと並び称される名探偵二大巨頭の一人、遅ればせながらたいへん楽しく読むことができた。
     隙だらけに見える系としては、コロンボさんや古畑さんの元祖という感じもするが、ブラウンは神父なので、犯人を突き止めたのちに行うことは逮捕ではなく説教。そして求めるのは悔悛。ここが最高に独自性があって面白い。推理小説の締めくくりにおける犯人の状態って、「絶対悪のまま」「同情を禁じ得ない」「改心する」「自殺する」などいくつかパターンがあるが、ブラウン神父の場合、聖職者ならではの人間への向かい方で犯人さんにも向き合ってくれるので、他の推理小説にはない優しさや救いが感じられた。
     そんなわけで、「神父にして探偵役のブラウン」「芸術家肌でスポーツマンの大泥棒フランボー」「ヨーロッパ屈指の知能を誇るパリ警察の長官ヴァランタン」、この三つ巴をお楽しみあれという感じで始まったシリーズが、あの人がああなってこの人もこうなって、意外な形でトリオが解体していく様が、なんといっても見ものだった。
     神学の話が出てきたり、フランス人がどうとかスコットランド人がどうとかカルヴァン主義者がどうとかいうような発言があったりと、ヨーロッパやキリスト教文化の知識がないといまいちピンとこない箇所は多かった。もっと若い時に読んでいたら、小難しい印象で楽しめなかったかもしれない。今の私はそういう知識が増えたから読めたというよりは、「ここは薄目で読んじゃえ」と適当に流す、とにかく楽しく読むための読書スキル(?)が、昔より身に付いたなあと感じた。

    • 111108さん
      akikobbさん、こんにちは。

      ブラウン神父読まれたんですね!
      先日私も大昔はまってたと発言したくせに、薄ぼんやりとした記憶しかなかった...
      akikobbさん、こんにちは。

      ブラウン神父読まれたんですね!
      先日私も大昔はまってたと発言したくせに、薄ぼんやりとした記憶しかなかったので今日ちょうど図書館で借りてきたところです。
      「薄目スキル」を私も駆使して読んでいきたいです♪
      2022/09/04
    • akikobbさん
      111108さん、コメントありがとうございます。

      読みました!きっかけありがとうございます♪
      レビューでは触れませんでしたが、亜愛一郎の紹...
      111108さん、コメントありがとうございます。

      読みました!きっかけありがとうございます♪
      レビューでは触れませんでしたが、亜愛一郎の紹介で「ブラウン神父のような…」と例えられるのもよくわかりました。
      ところどころ難しめのところは薄目でしたが、ときめきポイントは捉えられたと思います笑
      2022/09/04
  • ◆この本は、創元推理文庫から1982年に出版された「ブラウン神父の童心 (http://booklog.jp/item/1/4488110010)」の新訳です。その出で立ちは無垢な子どものように、誰にでもすぐに騙されてしまいそうなブラウン神父。ところが神父は、鋭い観察眼と推理によって次々と難事件を解決してゆきます。なぜ無垢な神父が、世界中に名をとどろかせる大犯罪者をも出し抜く悪知恵をもっているのか。ブラウン神父シリーズ第一作にして、面白い傑作ぞろいだと思います。

    ◆しかし、この表紙の「神父」の絵はイメージと少し違いましたね。神父はもっとまん丸で、無垢な赤ちゃんのような見た目だと思っていました……容姿について試しに読み返してみると「顔はノーフォークの茹で団子のように真ん丸くて間が抜けており、眼は北海のごとく虚ろだった (p. 11)」、「小柄な神父は短く刈った茶色い髪に、まん丸い鈍そうな顔をしていて、見たところ興味を惹く人物ではなかった (p. 200)」などとあります。その点、やはり創元推理文庫の”神父”のほうがそれっぽいかな? あ! もしかして、フランボウ……? いやいや。


    * メモ *
    ◆ぼくが「童心」に書いたレビューともいえないメモと比べると、新訳で読み直すことでいっそう神父の考え方が分かった気がします。◆具体的には2つありますが、第一に、宗教と理性が対立しないという著者(チェスタトン)の考え方が示されていることです。この本の「青い十字架」で大犯罪者フランボウは、人間の理性の上に素晴らしい宇宙、本当の理性の世界があるのだという考え方を示していますが、ブラウン神父は「教会のみが理性を真に至高なものにする」と反論します (pp. 31-32)。一見して違和感を覚えた部分なのですが、そこにこそブラウン神父の「無心 (innocence)」があり、神父の推理の秘密があるのだと思います。

    ◆第二に、神父の役割は罪を裁くことではないということです。この大切なことに関する記述をいくつも見落としていました! たとえば一か所取り出すと、ブラウン神父は「神の鉄槌」で、殺人者に対してこう呼びかけます。「人殺しにそういう光明を見つけるのが、私の仕事でしてね。それでは村へ下りて行って、風のように自由にご自分の道を進みなさい。わたしから言うことは、何もありません(「神の鉄槌」, p. 279)」。苦しむことのない狂人(阿呆)に罪をかぶせたところから、神父は光明を見出しています。神父の考え方がはっきりわかる一文でした。

    ◆神父は罪の裁きを法の手に委ねるわけではなく、罪を犯した人自身に委ねます。事件が解決して終わりのように見えて、描かれていない部分にこそ神父の本質があるのではないでしょうか。それは人間の心に寄り添う神父の態度なのだと思いました。

  • うう…なんとなく説教くさい。
    だって神父さんだから、仕方ないか。

    伝説のネタを直接味わえたのは、楽しかった。
    「木の葉は森に隠せ」とか
    見ているのに見えない犯人とか。
    12話の短編で構成されていますが
    2話目の真相にびっくりよ!

    警察関係者ではないので、直接捜査はできないし
    犯人がわかっても裁くことができないのが
    もどかしいところです。
    (宗教的、倫理的に追い詰めてるけど)

  • 米澤本に触発されて、論理による推理の元祖といわれる古典ミステリを読んでみた。1911年発行だから、今から100年以上前のヨーロッパ黄金時代が舞台。なぜかいつも現場にいる控えめな小男ブラウン神父が謎を解決していく。1話20ページ程度なのに、文章が回りくどくて読みにくいし、事件も謎解きも説明が不親切。難しいので半分まで。「青い十字架」「秘密の庭」「奇妙な足音」「飛ぶ星」「透明人間」「イズレイル・ガウの信義」。どれも、神父がひらめいた瞬間に、全部のピースがあるべきところにはまっていく感覚は、ミステリの醍醐味。さすがは『木の葉を隠すなら森の中』の名言を記したチェスタトンだけのことはある。ただし好きな人向け。

  • それこそ学生か高校生の頃、創元推理文庫で読みましたが、ちくまの新訳で再読です。
    ホームズやポワロなんかと並び称されるブラウン神父の最初の短篇集です。
    まあ、あまりにも有名な短篇集ですが、非常に独特な探偵術が展開されます。そこにはホームズのような科学分析もないし、ポアロのような出生にまつわる複雑な秘密も存在しません。ある意味、学習雑誌の付録にあるような推理ゲームのような謎解きが続きます。
    そこにあるのは、一種の美学に基づく可能性の陳列です。
    印象深いのは推理よりも、情景描写の巧みさだったりするわけで、特に思うのは、登場人物のほとんどすべてに宗教的バックボーンが明らかにされている点です。誰は無神論者だとか、長老派だとか、といった感じ。そして、神父は決して犯人を直接捕えないことです。彼は犯人と長時間にわたって話し合ったりして、要は懺悔を受け入れるわけですね。
    このあたり、この作品のあと、英国教会からカトリックに改宗するチェスタトンの思想的背景を感じます。
    いずれにせよ、短篇なのですぐ読めるし、推理も素晴らしく楽しめますよ。

  • 大好きなブラウン神父の活躍。
    イギリス人が描くフランス人像が、ある意味すごいですね。ミステリ好きな方には是非読んでもらいたいミステリの名作。

  • 奇想ありきの探偵小説。
    もしくは探偵小説風の奇想。

    探偵小説やミステリという枠に対して読者が当然のように期待してしまう犯罪にいたる動機や心理描写とか、トリックの必然性などのいわゆるリアリティがありそうでない。枠はきっちり守っているけど、何かが足りない。あるのは、結末がきちんと用意された奇妙なお話。
    だいたい、ブラウン神父が登場して謎を解くからブラウン神父すげーてなるけど、もしかするとブラウン神父いなくても、警察がちゃんと時間かけて捜査したら自然と事件が解決するようなトリックだったりするし。
    探偵小説である必要がそもそもあるのかね?なんてことすら思っちゃうくらいだけど、これはこういうもの、と思ってチェスタトンの奇想に身を委ねて、独特でいささか強引な論理を受け入れてみると、箱庭的な世界を眺めているみたいでなんだかとっても心地よい。

    移動中の手持ち無沙汰の時にいつでも手に取れるようにカバンに一冊チェスタトン。

  • 30ページ程度の長さで、ほどよい謎解きと緊張感。これがこの作品の面白さ。

  • 創元推理文庫では「ブラウン神父の童心」と言うタイトルの新訳版。
    ちくまでも全部邦訳されるのかなぁ。

  • 図書館に行ったら新訳版が出ていたので何となく読んでみました。
    表現とかわかりやすくて読みやすくなってる。
    もっかいシリーズこっちの訳で読みなおしてみようかな。

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