- Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480804822
作品紹介・あらすじ
1945年7月、4カ国統治下のベルリン。恩人の不審死を知ったアウグステは彼の甥に訃報を届けるため陽気な泥棒と旅立つ。期待の新鋭、待望の書き下ろし長篇。
感想・レビュー・書評
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本の扉をめくると最初に出てくるのは、1945年の敗戦後のドイツの地図。ソ連の占領地域、アメリカの占領地域、イギリスの占領地域、フランスの占領地域に分けられている。第二次世界大戦中のナチスの行いについては歴史で学んだ。その後、ドイツが長らく西ドイツと東ドイツにベルリンの壁で分けられていたことも知っている。でもその間にこんなにドイツ国土が継ぎ接ぎだらけの時があったなんて、この地図を見るまで想像していなかった。
この小説を読むとこの頃のドイツ住民の心もこんなに継ぎ接ぎだらけだったのだと感じる。痛々しい。
ヒトラーが台頭した時代、ユダヤ人が差別され虐殺された。だけど生きづらかっのはユダヤ人だけではない。ユダヤ人そっくりの顔をした、アーリア人。そんな人はアーリア人社会にもユダヤ人社会にも入れなかった。ジプシー系の民族もアーリア人ではないので虐待された。それから共産党員。彼らはナチスへの反逆者と見られただけでなく、後にスターリンからも裏切られた。
両親が共産党員だったことが原因で、両親を殺され、自分自身身を隠しながら妹のように可愛がっていた盲目のポーランド人の少女も亡くし、身寄りのなくなった17歳の少女アウグステは戦後の混乱の中で、アメリカ兵の集まる食堂で働きながら生きていた。
ある時彼女はソ連の基地な連れて行かれ、ドブリキンという大尉の元へ引きずり出された。理由は、クリストフというチェリストが不審な死を遂げたということで彼女に疑いがかけられたからだ。クリストフは戦前はアウグステのようなナチスから身を隠さなければならない子供を匿う慈善者であり、表向きの顔は、権力者の前でチェロを演奏する演奏家だった。
アウグステの殺人容疑は晴れたが、今度はエーリヒというクリストフの義理の甥を探し出せという命令がくだる。彼に殺人容疑がかかっているからと。大尉の要求には納得がいかないがアウグステには彼女なりのクリストフな会わなければという使命感があり、旅のお供にカフカという元ユダヤ人俳優の泥坊を連れていけと言われた。たった2日間であったが、焼け野原の凸凹道、鉄道が壊れていたり、アメリカ兵に捕まったり、ソ連兵に捕まったり、〈魔女〉のような少女の支配する地下組織に捕まりそうになったり、スリリングな旅であった。途中で、子供の窃盗団の少年二人も旅に加わってくれることになるが、彼らは自分で部品を集めて作った木炭自動車に乗せてくれたり、野営するときにカエルを料理してくれたり、たくましい少年たちだった。二人はジプシーの子供と性同一性障害をもつ少年。訳ありユダヤ人俳優のカフカにしろ、アウグステにしろ、みんな若いのにスネに傷を持っていた。だけどこんな四人が協力して旅を続ける姿は、ジブリ映画のようで頼もしかった。
深緑野分さんはすごい。若いのに、この時代のことをものすごく調べて、歴史小説のように読み応えがあるばかりでなく、前述のようにスリリングでキラキラした要素も盛り込ませている。
ミステリーの部分はもうあってもなくてもいいと思うくらい重厚なのに、最後にあっと言わせてくれる。
この小説はユダヤ人の皮を被ったアーリア人のように社会と人間の内面の複雑さからくる悲劇を描いているが、この小説自体も〈戦争〉の悲劇を描いた小説という皮を被りながら、実はもっと深くて複雑な人間の闇を描いている。それが最後に分かる。
だけどこの小説がそれでも一貫してどこか明るいのは、アウグステがいつも自らの命の危険を感じながらもユダヤ人や障害を持つ人など弱い人の味方でいた両親の教えを守って生きていたからであろう。そこに深いメッセージ性もある。
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やっと読み終えた…
ここのところ、なかなか読書する時間を作れなかったというのもあるが、読み進めるのが僕にとってはつらいところのある本だった。
翻訳小説っぽいからかとも思ったが、それより登場人物がカタカナだと人物設定が頭に入ってこないからだろう。
戦争に敗れ、4ヵ国統治下のベルリン。不審死を遂げた恩人についての真実をドイツ人の少女アウグステが追うロードノベル。
はっきり言って、ストーリーに必然性を感じられず、ラストで明かされる真相も「なるほど」とは思ったけどモヤモヤが残る。アウグステに感情移入もしにくい。
ただ、戦時や統治下のドイツの描写が圧倒的にリアル。凄惨な状況が目に浮かぶようで、歴史を学ぶという意味ではオススメです。-
2019/11/21
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2019/11/21
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太平洋戦争敗戦国の日本国民として、原爆投下の惨劇も含めて戦争の悲惨さや残虐性は、体験はしてないものの映像や文献で見聞きしてきたが、同時期同盟国のドイツ ベルリンの惨劇・混乱がここまでのものとは、思い至らなかった
ナチ党支配下でのユダヤ人への迫害、密告、疑心暗鬼、強姦、窃盗、狂気・・
昨日まで居た隣人が今日は消えている?!
移住とは名ばかりの収容所送り
昔見た「シンドラーのリスト」や「ホロコースト」を思い出した
人間は自分が生き残るためには、ここまで残虐になれるものか
途中、胸が痛くなり、読む進めるのが辛くなったが、主人公の少女アウグステと両親デートレフとマリアが、最後まで賢明で愛情深く、人道的だったのが救いだった
戦後は戦後で、ソ連・アメリカ・イギリス、フランスの4カ国による分割統治
連合国のトラックが行ったり来たりする。ソ連の鎌とハンマーの赤旗、アメリカの星条旗、イギリスのユニオンジャック、フランスのトリコロールをそれぞれにはためかせ、クラクションを鳴らし、大きな声で異国の言葉をしゃべる
ブランデンブルクの門の柱には「ソヴィエト管理区域はここで終わり ここから先はイギリス管理区域」という、ロシア語、英語、ドイツ語の三ヶ国語で書かれた看板が立てかけてある
解放された囚人やユダヤ人潜伏者によるナチス党員への報復
想像を絶する光景だっただろう
初めは、なぜアウグステは混乱の中、いろんな危険を冒して恩人の死を甥に伝えにいかなければならないのかその必然性が全く理解できず、また、地名やら人名やら分からないカタカナが多く、しんどくなったが最後に全ての謎が解けた
巻末の膨大な量の参考文献を見ると、著者のこの作品にかける並々ならぬ努力と熱意が伝わってくる
その意味でも、文中の描写は、市街地地図と合わせ信憑性があり、歴史的記録としても意味があるのではないかと思った
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戦争直後ベルリンで少女が成り行きで仲間となった人達とともに人探しをする珍道中と、幕間の戦時中の暮らしが段々と狂気化し悲惨になる様子が交互に描かれる。『エーミールと探偵たち』や『試作品第一号』等小道具もいい。戦争への蹴りをつけようともがく者達の世界観に引き込まれて一気に読んだ。
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終戦直後のドイツ・ベルリンを舞台にしたミステリー。
主人公は、両親を失い、ソビエト赤軍兵士から市街戦のさなかに陵辱を受け、その兵士のライフルを奪って殺した経験のある17歳のドイツ人少女・アウグステ。
終戦後、英語ができたアウグステは占領軍である米軍の食堂施設でウエイトレスとして働いていたが、戦時中、自分を匿ってくれた恩人が殺されたことを知る。アウグステは、ひょんなことから知り合いとなった元俳優のカフカと共にその恩人の死の真相を追っていく。
戦中と戦後の状況が交互に語られ、ヒトラーが台頭するドイツがいかにして戦争を繰り広げ、それが一国民の生活をどのように変えていったかも詳細に描かれる。
まさに、ミステリーの真骨頂。
特筆すべきは、日本人が書いたとは思えない筆者の圧倒的リアリティーのある戦時中、戦後のベルリンの描写。
筆者の『戦場のコックたち』もそうだが、小説の主人公の目を通して、読者はその時代のその日、その日を追体験させられる。まさに映画を見ているかのように脳裏に鮮明にその光景が映し出される。
終戦直後の東京ならば、空襲により焼け野原になった状況など、日本人ならいろいろなメディア(教科書や当時のニュースや今まで作成されたドラマや映画)によって知識を持っているが、同じような状況であったはずのドイツ・ベルリンのことはよく知らない。
ベルリンはソビエト軍、アメリカ軍、イギリス軍等によりそれぞれ部分的に占領された。
特に対ドイツ戦で最大の戦死者を出したソビエト軍人の「ドイツ人憎し」の感情は想像に余りある。
ヒトラーが台頭し、今までの日常が日常では無くなっていく、そのような異常な状況のなか、ユダヤ人へ迫害や障害者やポーランド等の被占領外国人への差別など、戦中のさまざまな狂気が淡々と描き出され、そして壊滅的な終戦を迎える。
娯楽エンターテイメント・歴史ミステリー!・・・としては読めないが、読者がこの小説を体験することは、いろいろな意味で価値あることだと思う。 -
ドイツ人少女アウグステ。戦争中大変世話になった男性が歯磨き粉に含まれる毒で死んでしまう。そのことでアウグステは犯人と疑われる中、元俳優の男性とともに、死んでしまった男性の甥に死を知らせようと旅立つ。
もうそこは戦後のベルリンでした。
ページをめくるとベルリンの世界が広がって、その街を歩いているような感じになるくらい、しっかりとした空気で書かれていました。
誰が死に至らしめたかのか、なぜかだけではなく、その時代、戦後の米ソ英仏の占領下に置かれているベルリンの様子、いや、その前のナチスが筆頭になるまでの様子も人々の心理も詳細に書き上げられ、圧巻です。読んでて悲しくなる部分はたくさんです。「”戦争だったから”と自分に言い聞かせてきた」とかユダヤ人や障碍者への行為。私たちは歴史を振り返らねばなりませんね。「自由だ。もうどこにでもいける。なんでも読める。どんな言語でも」その言葉がとても重いです。
カフカが魅力的に書かれていました。手紙も良かったです。