ウンベルト・エーコの小説講座: 若き小説家の告白 (単行本)

  • 筑摩書房
3.50
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本棚登録 : 197
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480836502

感想・レビュー・書評

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  • エーコが大学で行なった客演講義を書き起こしたもので、邦題では副題になっている「若き作家の告白」が原題。「学者としてはプロ、小説家としてはアマチュア」と自称する76歳のエーコが、「まだまだ若くて将来有望な作家」である自身の小説執筆の極意を語る。


    講義の書き起こしなので具体的なエピソードをたくさん話してくれるのがやっぱり面白い。学位論文の査読担当から「この論文では、自分の研究が推理小説のように語られている」と言われた経験から『薔薇の名前』を書こうと思ったとか、とある国の翻訳者に『薔薇の名前』の盗作疑惑をだされたとか。『フーコーの振り子』のフーコーはレオン・フーコーなのに、ミシェル・フーコーと結びつける「薄っぺらいジョーク」がこんなに出回るとは思わなかった、とか辛辣なことも言っている。
    第三章「フィクションの登場人物についての考察」は、虚構だと知っていてなぜ私たちはキャラクターの不幸を思って泣くのかというテーマを扱い、現実世界における〈仮定〉と虚構世界で起きるできごとの違いを明らかにしていく。ピエール・バイヤールが「ホームズ・コンプレックス」と呼んだ、虚構キャラクターに実在性を感じ、現実世界の人物に対するような感情を抱いてしまう心理を記号論的に説明してくれる。「わたしたちの世界観もフィクションの登場人物の世界観と同じように不完全なものであることをフィクションは示唆してくれます」という結びがよい。
    第四章の「極私的リスト」だけは講義ではなく書き下ろしで、エーコの趣味が爆発。『芸術の蒐集』好きにはたまらない、〈列挙〉の例を文字通り列挙する特集!列挙という修辞法を「『歪み』への純粋な愛にもとづく詩的なもの」「過剰なものを愛する気持ちや、野心的な衝動、より多くの言葉を求める貪欲さ、複数性や無限性を探求することの情熱」と定義するエーコの語り口がまた楽しそう。読者から"ここ要らなくない?"と思われることも多そうなリストの連なりを、「このようなリストは、世界を再編成する方法になります」と言い切る力強さ。「純粋なリストへの愛にもとづくリストの詩学」を存分に楽しんだ。

  • 小説講座というのは邦訳の際につけたしたタイトルらしい。流石に詐欺では。とはいいつつもふつうに面白いし創作に関する話も少ししている。

    物語の種としてまずイメージがあって、イメージ同士を繋げていくのが書き方だといってる。あとその前にエーコ自身は、物語の世界をまずみっちり詰めてしまうってその世界で自由に動けるようになるまで詰めるということ。建物の間取りを細かく決めたり、登場人物の肖像画を描いてみたりする。現地を言ってみる。など。

    テキスト論というのでしょうか、解釈可能性についても話していた。テキストの意図があって、奨励しないまでも妥当とする解釈というのはある。でもそれを明言するべきじゃない。

    後半のリストの話はよくわからなかった。
    追記)枕草子のものを列挙するタイプの章段を類聚的章段と呼ぶそうだけど、それもエーコのいうリスト(分類は文学的リスト?)なのかなとおもった。

    レトリック用語
    首句反復、接続詞省略、接続詞畳用、

    増大、漸層法、上昇
    incrementum.climax.gradatio

    970

  • 190315*読了
    図書館の返却本コーナーでたまたま見かけて、手に取った本。
    彼の小説も著作も読んだことはなく、名前を聞いたことがあるなー程度でした。海外の作家が説く小説講座というのが気になったもので、読んでみることに。
    小説講座というから、彼自身の小説の書き方かと思いきや、その部分はアイデアが生まれてから書くまでの経緯やリスト好きといったぐらいで、あとは小説という大枠における講義でした。

    第四章のリストについてが一番長く、わたしにとっては一番おもしろかった。つらつらと長いリストをあげつらうのが好きな人って、ちょっと変態的な気がする。笑
    よくここまで言葉を思い浮かべられるなぁ。だからこそ、作家や物書きという職業に就いているのか。
    彼の著作のあらすじすら知らなかったので、この本を読んで、そんな話を書いた人なんだなと興味が湧きました。「薔薇の名前」から読んでみようかな。
    小説の世界に入り込みすぎて、架空の建造物が実在にあると思ってそれを発見したという読者がいたり、あまりにも小説のキャラクターが有名になりすぎて、実在にいる人物だと思われたり。言ってみれば、ただの言葉の羅列から生まれたものなのに、それがそんなにも影響を及ぼすとしたら、作家冥利につきますね。

  • 『ウンベルト・エーコの小説講座 若き作家の告白』おわたー。自作品の創作秘話とか、自作品を例にした記号論の簡単な説明とか、物語の登場人物についての考察とか、おもしろかった。あと、ぼくもリスト愛好者の気があるかもしれない。

  • 小説家はこんなふうに考えて小説を作っているんだ、という内容が興味深い。そんなことまで考えているんですねぇ…
    ただ、この人のなんか発散していくばかりの議論がちょっと肌にあわないなぁ、と改めて確認できた。興味深いけど、わくわくはしないなぁ。

  • 2008年にアメリカの大学で行われた講義を元にしたエッセイ。
    代表作が如何にして書かれたかという意味で、非常に興味深い内容。

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著者プロフィール

1932年イタリア・アレッサンドリアに生れる。小説家・記号論者。
トリノ大学で中世美学を専攻、1956年に本書の基となる『聖トマスにおける美学問題』を刊行。1962年に発表した前衛芸術論『開かれた作品』で一躍欧米の注目を集める。1980年、中世の修道院を舞台にした小説第一作『薔薇の名前』により世界的大ベストセラー作家となる。以降も多数の小説や評論を発表。2016年2月没。

「2022年 『中世の美学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ウンベルト・エーコの作品

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