• 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488011123

作品紹介・あらすじ

彼女は湖のほとりのサマーハウスで首をつっているのを発見された。夫によると数年前に親密だった母親を病で失い、以来精神的に不安定になっていたという。死後の世界に興味をもち、降霊術師のもとにも出入りしていた。自殺で間違いない。だが本当に? レイキャヴィクの捜査官エーレンデュルは、わずかな疑問を胸に孤独な捜査を進める。暴かれる悲痛な過去、明らかになる驚愕の真実に、心の奥底までゆさぶられる好評シリーズ第6弾。

感想・レビュー・書評

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  • 柳沢由美子さんはアイスランド語からスウェーデン語に訳されたものを日本語に訳しているそう
    なるほど

    というわけでエーレンデュル捜査官シリーズです

    これは猛吹雪の中で幼い弟の手を離してしまった少年が「探し続ける」人生の物語だ
    何を?「弟」を「人生」を「真実」を

    暗い影に包まれた人生を歩むエーレンデュルに「見つける」ことで少しずつ、ほんとうにほんの少しずつ光が指す

    今回彼が見つけたのは、自分の過ちと身勝手な欲にまみれた人間の罪でした

    最後に彼が光に包まれることになるのか
    ちゃんと見届けたいシリーズです

  • アイスランド・レイキャビク警察・犯罪捜査官エーレンデュルシリーズ第六作。
    毎回重苦しい展開が続くのだが、今回もヴァランダー刑事シリーズでお馴染み柳沢由実子さんの読みやすい翻訳で気付くと入り込んでしまった。
    それに今回は重苦しいだけではない、少し希望もあった。

    本筋は女性が首を吊って死んだ事件。
    だが発見者である友人は彼女の自殺に疑問を唱え、彼女が生前霊媒師による降霊術を受けていた時のテープをエーレンデュルに渡す。最初は乗り気でなかった彼だが、そこから例の単独捜査クセが顔を出す。
    また三十年前に息子が行方不明になった事件の捜査状況をいまだ尋ねにくる老人が病気のためにこれが最後だと言ったのをきっかけに、他の失踪事件と合わせ『今は比較的暇』という理由で独自捜査を始める。

    同僚のエリンボルクからは古い失踪事件に首を突っ込むことに『国民の税金で給料をもらって遊んでいいのか』と辛らつな言葉を投げられているし、もう一人の同僚シグルデュル=オーリからは自殺で片付けられた事件を掘り返す彼に『失踪だけじゃないんだ、あなたが関心を持つのは』と皮肉を言われている。
    シリーズ初期を忘れてしまっているが、同僚二人、こんな嫌な性格だっただろうか?とちょっと意外な印象だ。
    特にシグルデュル=オーリ、職業や教育程度で人を差別するってどうなのか。

    エーレンデュルが失踪事件に並々ならぬ興味を持つのは、幼いころに吹雪の中で弟を見失ってしまいいまだ行方が分かっていないという辛い経験が根底にある。
    娘に年寄り扱いされる年齢になっても、弟のことは一日たりとも頭から離れることはないし、時間があれば弟を探しに行っている。
    原題の「HARD SKAFI」とは弟を探しに行くのによく行く地名だった。
    息子がなぜ行方を絶ったのか、その理由を知りたいと死の直前まで願い続ける老人の気持ちが痛いほど分かるから、エーレンデュルは同僚たちに皮肉や反発を食らっても真実を追求することを止めないのだろう。

    本筋の事件においても過去の失踪事件においても、彼のやっていることは同僚たちが言うように本来の仕事ではないのかも知れない。だから潜水夫も個人的に雇っているし、これだけ歩き回っても起訴できるだけの証拠はない。
    そうした意味では彼は警察官というより探偵であって、犯人を逮捕するのではなく真実を突き止めることを目的にしているように見える。
    だがその甲斐あって冒頭に書いたように少し希望もあった。人が亡くなったという事実は変わらないが、家族が少しでも前向きになれるような真実がそこにあればエーレンデュルの苦労も報われる。なかなかそういう事件は無いのが残念だが。

    彼のハードなプライベートも少し落ち着いてきたように思う。ドラッグ中毒だった息子と娘も更生に向けて頑張っているし、恋人との付き合いも順調だ。元妻との久しぶりの再会だけは物別れに終わってしまったが。
    そもそも世界が違う二人がなぜ結婚したのかが分からないが、この結婚が原因で子供たちがドラッグ中毒にまで陥ってしまったのかと思うと辛い。元妻もエーレンデュルに出会わなければもっと違う人生があったかも知れない。

    訳者あとがきによれば、アイスランド人は幽霊やお化けを本気で信じている人が多いし霊媒師に会いに行く人もいるとか。エーレンデュルのように神も死後の世界も信じないという現実主義者もいる一方で、人が死ぬ事件があれば担当地区の牧師が呼ばれる。厳しい自然環境の国だからこそ宗教や超自然的なものにすがるのも頷ける。

    ※シリーズ作品一覧(邦訳版のみ)
    ★はレビュー投稿あり
    ①「湿地」
    ②「緑衣の女」
    ③「声」
    ④「湖の男」★
    ⑤「厳寒の町」★
    ⑥ 本作 ★

  • シリーズ6の一冊。

    今作は精神不安定な一人の女性の死は自殺なのか…という疑問を発端に、過去の未解決失踪事件とエーレンデュルの私生活が絡み合っていくストーリー。

    陰鬱なのにどこか心地良い雰囲気がやっぱり魅力的な作品だ。

    正直、驚愕な真実はないけれど、そこにたどり着くまでの過程がじっくり丁寧に描かれていくのが良い。

    正か否かわからずも真実を求めるエーレンデュルの姿は彼の苦しみを重ね合わせるかのようで、せつなく届く。
    全力でぶつかってくる娘との関係もまた一つ光に繋がると良い。

    老人への語りに思わず涙のラストシーンが秀逸。

  • 湖のほとりのサマーハウスで女性マリアが首をつっているのを、週末をここを借りる約束をしていたマリアの友人がみつけた。自殺ということでかたずけられたが、エーレンデュルはひっかかるものを感じて独自に調べ始める。並行して30年前の若い男女の行方不明事件2件も調べている。男性の男親は死期の近づいた今なおエーレンデュルに結果を問い続けているのだ。

    マリアの死、30年前の行方不明者、そしてエーレンデュルの弟の遭難が絡み合い、最後に収束する。マリアの死の真相はちょっと・・ だが、若い二人の死の結末は悲しいのだが、希望もみえる。弟の遭難がエーレンデュルにもたらしたものは、途方もなく大きかったのだなあ、という感慨。

    マリアのサマーハウスはシンクヴァトラ湖のほとり。レイキャビクから車で約45分の距離。アイスランドで最大の湖。そのほか文中にたくさん湖の名前が出てきて、いちいち確かめたくなるのだが、グーグルマップで一苦労。原語だけのものもありカタカナになっていても表記のしかたが訳文とマップ上で異なっているのだ。

    エーレンデュルの家族の遭難の悲劇を取材した本があり、娘のエヴァ=リンドに読んで聞かせる場面があり、それによると「エスキフィヤルダルヘイジの悲劇」と題され、アイスランド南東海岸のところというのが分かった。その海岸奥のバッカセルスヒャレイガというところにエーレンデュル一家だけが暮らし羊を飼っていたらしい。アイスランドは北海道より少し大きいくらいなので、レイキャビクが札幌だとするとエーレンデュルの故郷は根室とかかな、などと想像した。
     題名のHARDSKAFIは、最初三人はスヴェラルダールの谷間に入り、そこからハルドスカフィ山の方へ上った。・・弟が吹雪で飛ばされたかもしれないハルドスカフィ、と出てくる。

    エスキフィヨルズル
    https://www.google.co.jp/maps/@65.0725382,-14.0562464,12z

    マリアのサマーハウスがあるシンクヴァトラ湖
    https://www.google.co.jp/maps/search/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%88%E3%83%A9%E6%B9%96/@64.0766778,-22.7111515,8z/data=!3m1!4b1


    シンクヴァトラ湖はシンクヴェトリル世界遺産になっている
    https://www.hankyu-travel.com/heritage/northerneur/thingvellir.php

    ウィキにアイスランドの湖のページがあった
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E6%B9%96


    スウェーデン語からの翻訳

    2007発表 アイスランド
    2022.5.13初版 図書館

  • 派手な殺人事件が起こるわけでないし、手に汗握るアクションで盛り上がる訳でもない、この作家さんのシリーズ、つい、取ってしまう。
    美しいアイスランド(ほとんど馴染みは無い)
    と家族の物語(こちらは普遍的)
    今回も美しい湖畔のサマーハウスが舞台。

    警察犯罪捜査官のひとりである、エーレンデュルが抱いた自殺者へのささやかな疑問と、30年前の行方不明者の細々と継続している捜査の並行作業。
    他に警察の仕事ないの?と心配してしまうほど、のめり込んで行く主人公。
    何度も言うけれど、決して派手ではない。
    自分自身の家族問題も抱えながら。

    それでも傍から見るレイキャビクの風景は美しい。

  •  なぜこの作家に惹かれるのか、自分でもわからない。主役であるエーレンデュルは、特に憧れの対象にするようなスタイリッシュな主人公ではなく、むしろどこにでもいそうな地味な刑事である。シリーズ全体がどことなく物静かで、寂寥感に満ちている。そもそもがアイスランドを舞台にしていること自体がとても寂しい。

     シリーズを通して、吹雪の山で置き去りにしてしまって以来行方のわからなくなった幼い弟のことに囚われている。どこか精神を病んでしまっているか病みそうなくらいにその記憶に取り憑かれている。とりわけ本作ではそれを強く感じさせられる。

     死。あの世。臨死体験。あの世からのメッセージ。サイン。

     それらが本書の主たるテーマだ。本書では事件と言う事件は起こらない。一人の女性が縊死をした。それは自殺として解決した。警察署は比較的事件に追われず、刑事たちの負担は現在はさほど多くない。だからこそエーレンデュルは、この時間を使って少女の縊死について、自殺と片付けられたにも関わらず深く調べることにこだわろうとする。自分の弟の行方に深くこだわり続けるように。

     行方不明となった息子のことをエーレンデュルに相談するため定期的に訪問してくる老人がいる。今回は老人は癌で余命いくばくもないために最後の訪問だと言うが、エーレンデュルには過去の事件を今さら解決できるとは思えない。しかし、時間はある。老人の代わりにその時間を使ってみようと思う。

     一方で車で出かけたきり、その車ごと行方がわからなくなっている少女という未解決事件がある。さらに縊死した女性の父親がボートから冷たい湖に落ちて急死したという過去の事件が冷たく横たわってそこにある。それは事故として解決済みな墓のように古い出来事だが、もしかしたら今回の縊死と何か関係があるかもしれない。

     縊死した女性は、死んだ母からのサインを待っていたという。

     一方で、冷水を使って心臓を止めた後にAEDを使って蘇生する、という危険な実験をやっていた男の存在がわかる。縊死した女性の夫だ。事件たちは時空を超えて、エーレンデュルの現在に集中してくる。

     さらにエーレンデュルの娘の独特の個性のプレッシャー、別れた妻との再会シーンなどなど、主人公の私生活を揺する出来事も今回は印象的である。

     というように地味ながら読み始めたら止まらない異様な面白さをもった作品である。文学的な叙述は他の娯楽作品の追随を許さないほど硬質で、イメージは豊穣だ。何度も気高い文学賞を受賞しているのもわかる。ちょっと心臓に負担がかかるほど重い読み応えながらも、他の追随を許さぬこの緊張を今回もまた楽しませてもらった。

     シリーズ6作目である。今回は個性的な相棒の二人がほとんど登場しないのがちと寂しかった。彼らとの丁々発止もそれぞれの個性も魅力的なだけに、次作以降の邦訳への期待が深まるばかりだ。

  • 切なくやるせない

  • 北欧ものの中でもかなり好きなこのシリーズ、久々の新作だったが面白かった!

  • 待望のエーレンデュルシリーズ第6弾!今回はシリーズ恒例の「過去の事件を掘り返して犯罪を暴く」話ではなく死後の世界や霊媒師などオカルト要素が絡でくる。本シリーズの名翻訳者・柳沢由美子氏が「少々引いてしまった」とあとがきに書かれていて、確かに!と笑ったが、それが後々ポイントとして効いてくるのがさすが。本筋と別に横糸として出てくる、30年間行方不明の青年のエピソードがこれまた印象深く切ない。娘エヴァ=リンドとの関係や弟の話ももどかしいながら進展?しつつある。邦訳版が出ていない6冊が待ち遠しい!

  • 読書備忘録685号。
    ★★★★。

    アイスランドミステリー、レイキャヴィク警察犯罪捜査官エーレンデュルシリーズの第6作。

    今回も暗いです。笑
    北極圏の島国、昼なお暗い世界で起きる犯罪です。暗いに決まっています。笑

    レイキャヴィク近郊、湖畔のサマーハウスで首つりで死んでいる女性が発見された。
    警察は自殺で処理したが、発見者の友人は自殺であるはずないと。
    エーレンデュルは、警察の正式な捜査とは別に、自殺したとされるマリアの夫、友人などから話を聞く。
    マリアが死ぬ前に、最愛の母レオノーラが病死しており、マリアは死後の母と会うために霊媒師に頼っていた。死者の国のレオノーラからマリアに印(サイン)が送られて来ることを信じていた。
    そして、マリアが小さいころ、湖でボートから転落して、これまた最愛の父、マグヌスを失っていた。
    マグヌスは本当にボートから転落したのか?
    地道な聞き取りで徐々に明らかになるさまざまな過去。過去の断片が1枚の絵を構成していく。
    果たしてマリアは自殺したのか、それとも殺されたのか。

    一方、30年前に行方不明になった息子を探す老父。息子を探すことにずっと協力してきたエーレンデュル。
    サイドストーリーとして、息子がなぜ突然行方不明になったのか?これまた地道な聞き取りで解決に導いていく・・・。
    このシリーズで常にエーレンデュルの心を占めるのは、少年だったころ山で遭難し、行方不明になった弟ベルギュルのこと。
    行方不明になったことの責任をずっと背負っているエーレンデュルは、行方不明事件を解決することに強い思いがあると感じる。
    巻末、行方不明事件を解決したあと、エーレンデュルは弟の遭難に関わるなにかを見つけるために、再び山に向かう・・・。

    そして、エーレンデュルの娘と息子。
    危機的な薬物中毒からは脱したようだが、一筋縄ではいかない親子関係もこのシリーズの重要なサイドストーリー。

    今回、正式な捜査ではなかったので、同僚のエリンボルク、シグルデュル=オーリの活躍が全く無かったのがちょっと寂しかった。笑
    あと6作が刊行されているみたいなので、翻訳を楽しみに待ちたいと思います!

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