孤児の物語 I (夜の庭園にて) (海外文学セレクション)

  • 東京創元社
3.67
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (518ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488016524

作品紹介・あらすじ

昔ひとりの女童がいて、その容貌は糸杉の木と水鳥の羽毛を照らす新月のようであった。彼女は魔物と呼ばれ、おそれられ、スルタンの宮殿を取り巻く庭園で野生の鳥のように暮らしていた。そこに訪ねてきたのはスルタンの息子。女童は自らの瞼に精霊によって記された物語を彼に語って聞かせる。つぎつぎと紡ぎ出され織り上げられてゆく、物語の数々。合わせ鏡に映しだされる精緻な細密画のような、果てしない入れ子細工の世界。比類なき迷宮体験。現代のシェエラザードが語る稀代の書。ミソピーイク賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • いやもう、すごかった。
    庭園で暮らす女童がスルタンの息子に語る話は、主人公を次々に変えながら描く、大きな大きな世界の中の1つの小宇宙のようだ。馬から誕生した世界をはじめとして、魔女が技を使い、鵞鳥に姿を変えられた娘が羽ばたき、白熊は愛と信念のために旅立つ。皮を売り、また買う者たちは皮に縛られ、十二の塔は外からの干渉に立ち向かう。滅びた一族、滅びかけた一族の行動がもたらした結末……ばらばらに見えた1つ1つの物語はじわじわとつながっていき、ぐるりと周って帰結するのが本当に見事。まさにイマジネーションの宝庫と呼ぶべき1冊なのだが、この物語の特徴的魅力である「入れ子」構造が、時として苦行に感じるのもまた確か。登場人物が増えるたびに「ああ、また新しい話が始まるのか」と(苦笑)。世界観も語られる話も非常に面白いのだが、ひたすら繰り返されるこの構成を楽しめるかどうかで、評価は分かれるかもしれない。

  • ここには聳え建つ神話のような迷宮があります。覚悟なしに近づく者を容赦無く追い払いますねぇ。次々に口を開ける入れ子、膨大な名前、あだ名、変身譚、視点を転換した語りなど、読み手を混乱させる仕掛けに満ちています。そうでなくても、過剰に修飾された文体に幻惑されるのに。とりあえず、最後まで辿り着けた自分を褒めてあげたいです。スルタンの庭・物語の世界・創世神話が、一つの球体のように、奇跡のような美しさで収斂されることを期待しつつ。次は下巻です。

  • ★ペンネーム:あさっぴ文学館さんからのおすすめコメント★
    夜の庭園で、主人公はめくるめく物語を聞く。彼はこの館のお坊ちゃんで、物語の語り手は不思議な少女。庭園で育った彼女が語る物語は、何重にも交差していて、きらみく深みをましていく。千夜一夜をほうふつとさせるそれらは荘厳な神話、うっとりする恋物語、ハラハラドキドキの冒険譚など。題名からは想像もできない、芳醇な世界が広がり、読者をとりこにしていく驚きの1冊だ。
    武蔵野大学図書館OPACへ⇒ https://opac.musashino-u.ac.jp/detail?bbid=1000153022

  • 絢爛たるミザナビーム。
    人々から忌避され独り庭園に棲む女童が王子に語り始めた物語は、次々に語り手を変え次の物語を語り紡いでいく。
    生い茂り枝葉を伸ばしていく物語の中で、再会しその消息を知ることのできた者もいる一方、女庭師や鵞鳥の娘、その先を知りたくなった者達もいて、童子のように更に女童に続きをせがみたくなった。
    絡み合う蔓草のような縁(えにし)の糸で編み上げられ織り成されたその織物は、馥郁たる異国の香油と花の薫りの匂い立つ、血の赤と夜の漆黒、哀しみと別離で彩られた、気高い女達を讃えたタペストリーとなっている。

  • 「2013年 POPコンテスト」

    所蔵なし

  • 読みたいよぅ。図書館から借りるね。

  • 2/25 読了。
    この作者は魔女だ。紡ぎ出す世界はユートピアというよりむしろディストピアに近いにも関わらず、強靭に物語の中へ誘い込む力を持っている。
    <妖精国のセプテンバー>シリーズのキッチュでポップな色彩感覚や、古今東西の文学パロディに見られる遊び心も大好きだったが、本書はぐっと落ち着いた色合いで、古くから伝わるタペストリーの絵解きを途切れなく聞いているような印象。もちろん一番最初に連想するのは構造からして『千一夜物語』だが、その他さまざまな神話・童話が換骨奪胎されて散りばめられている。<妖精国>と同じくファンタジーでありながら全く異なる世界観を創り上げ、またそれに相応しい触感の語り口を物にしているのには驚く。下巻も楽しみ。

  • 孤児の女童がスルタンの王子に語る物語。物語の中の人物がさらに物語る入れ子構造で展開される。狼頭人身、熊、火の鳥、蜘蛛、バジリスク、柳人形などの妖しい登場人物が紡ぎ出す、奇想天外なエピソードがモザイク模様のように重なって不思議な世界を構築する。「第二の書 海の書」が良かった。
    入れ子構造が深くて話を覚えておくのが結構大変。脳がスタックオーバーフローを起こして戻れなくなることが頻繁に発生した。

  • 物語の物語
    夜の庭園で語られる神秘的な物語。
    物語は入れ子構造になっており、めぐりめぐって全ての物語が一本の線で繋がる。
    くらくらとした目眩の中で物語を見た。
    月の光、星の光に照らされて、物語は進む。

    長い長い物語。
    しかし大きく分けると二つの物語が本書では収録されている。
    その物語をなす物語達に聞き手(読み手)は惑わされ、魅了され、引き込まれていく。

    できることならそれぞれを一気に読みたい。
    時間をおいてしまうと入れ子の物語が追えなくなってしまうからだ。
    アラビアンナイトのような世界を楽しむのならば、他の本はとりあえずおいておいて、本書に集中したい。

    美しいのは物語だけではない。
    挿絵が創造力をより羽ばたかせるのだ。
    じっくりと本書を堪能するには、オリエンタルな雰囲気を部屋に作るのも、チャイやハーブティをのむのも、それもそれで素敵な演出だが、必要なのは創造力だけ。

    往事と鵞鳥の物語、魔女、乳母、.......話は続く。
    白い娘に妖術師、グリフィンや賢者の物語。
    どれもこれも美しい宝石を纏ったように心を刺激してくるのだ。
    いや、多くは語るまい。
    これらが全て、庭園にひっそりと暮らす女の童が、精霊から受け取ったという物語ーそれらは瞼のしわに刻まれているーというのだから嫌が応にも期待は高まる。
    水面に照らして読み取った数多の物語の世界へ、王子とともに、いざ。

  • 久々に心がざわめく物語だった。想像力を駆使して読み進めても、途中で物語同様に迷宮に入ったような気分になりクラクラする。しかし、出て来る女達や怪物の孤独でありながら生き生きとした姿に惹かれていく。

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