ハザール事典 女性版 (夢の狩人たちの物語) (創元ライブラリ)

  • 東京創元社
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本棚登録 : 144
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (468ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488070762

作品紹介・あらすじ

かつて実在し、その後姿を消したハザール族。この謎の民族に関する古書の新版の形をとった、前代未聞の事典形式の小説。ハザール族が三度改宗したキリスト教、イスラーム教、ユダヤ教、それぞれの宗教関係別に編まれた本書の45項目は、項目順に読むもよし、たまたま開いた項目を読むもよし、読み方は読者の意のまま。完読は求められていません。ただし注意深い読者であれば各項目間の結びつきが必ずや見抜けるはず。男性版と女性版があります。

感想・レビュー・書評

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  • 「ハザール」とは、Wikipediaから抜粋すると「7世紀から10世紀にかけてカスピ海の北からコーカサス、黒海沿いに栄えた遊牧民族およびその国家」のこと。本書はこの、かつて実在した、いまだ謎の多いハザールについての、(史実を交えた)架空の事典という体裁をとった不思議な本。「赤色の書(キリスト教)」「緑色の書(イスラーム教)」「黄色の書(ユダヤ教)」の三部と、二つの附録文書(テオクティスト・ニコルスキ神父の告解全文/ムアヴィア・アブゥ・カビル博士殺害事件心理記録の抜粋)から成っている。

    ポイントは「ハザール論争」と呼ばれる、改宗問題。ハザールのカガン(統治者)が見た夢の謎を解いた者の宗教に改宗するというお触れのもと、キリスト教、イスラーム教、ユダヤ教、それぞれの代表が呼び集められる。8世紀頃のこの論争に呼ばれたこの三人と、さらに17世紀にハザールについて研究している各宗教の三人、そして20世紀の現代やはりこれらについて研究している各宗教の三人の人物の経歴や物語が主な収録事項。

    事典なのでどこから読んでも自由とされており、さらに翻訳の時点でその国の言語により順番が入れ替わるのもOKとのこと。日本版ではもちろん五十音順。作中に登場する実はサタンだったとされる画家ニコン・セヴァストにこんなセリフがある。「見る人が、辞典を頼りに文章や本、いや、絵そのものを創るのだ。書く作業にしても、似たようなことはできないかね。作者は書物を構成する言葉の並んだ一冊の辞典を読者に提供するだけで、それらの言葉からどう全体を組み立てるかは読者に委ねる。そんなふうにできないものかな(88頁)」つまりそういうことでしょう。

    歴オタ的には年表作りたい誘惑に駆られる(笑)ランダムな項目を、すべて読み通したときに、ようやくパズルの全体像が見えてくる感じが面白い。ミステリ要素もあり、ある人物の死因について、別の人物の項目を読んで初めて「犯人お前だったのか!」というようなパターンがいくつかあった。たぶん逆の順番で読めば「被害者お前だったのか!」となると思われ、最後まで通して読むと、もう一度最初から読み直したくなってしまった。

    あきらかに著者の創作と思しき部分に幻想要素があり、ハザールの王女アテーと、彼女にまつわるエピソード、そして彼女が信仰していた<夢の狩人>という宗派、さらに自身が<夢の狩人>だった人々にまつわるエピソードがとても好きだった。ハザールの歴史と直接関係なさそうな挿話、たとえばアヴラム・ブランコヴィチの項目内にある「ペクトーチンとカリーナの物語」なんかは短編として十分面白かった。総じて一種の奇書。

  • 2023/2/24読了。
    事典形式の小説という奇書。奇想に満ちた奇妙な構造の小説という意味で、奇書。
    事典形式で、どの項目をどんな順番で読んでもいいと著者みずから勧めているという意味でも奇書であり、一種のハイパーテキスト小説であるという意味でも奇書。
    本当にどんな順番で読んでもいいのかと思うわけだが、本当にどんな順番で読んでもいいのだ。仮に収録順に一直線に読んだとしても、日本語版に翻訳された時点で原著のアルファベット順とは異なる五十音順に並べ替えられているわけであり、他の言語版ではまた別の文字のルールに従って配列されているわけだから、本当に世界中でいろんな人がいろんな順番で読んでいるのは事実なのだ。今回、訳あって単行本と併読してみたのだが、文庫版では配列が整理しなおされていて、若干異なる並び方になっていた。
    同じ作品が読む人によって異なる読書体験で受容されているというのは、とても面白いと思う。

  • 再読。一気読みするとミステリーとしての構造がはっきりと見え、初読時よりエンタメ小説らしく思えた。読み終えてからも各項目の読み直すのがまた楽しい。
    前回はあまりに東欧について無知だったが、マイリンクの『ゴーレム』やストーカー『ドラキュラ』の想像力が生まれてくる風土を頭に入れて読み返せば、惜しげも無く詰め込まれた奇譚の豊かさにクラクラする。アテーと鏡の話、人生の一日を閉じ込めた卵の話、天使と契約して聖画を描く悪魔の話、亀の甲羅に文字を彫ってやりとりする秘密の恋人たちの話など。特に妖婦エフロシニアに捧げたドラキュラオマージュの長詩は美しい。
    また一気読みしてキリスト教(ギリシャ正教)、イスラーム、ユダヤ教、それぞれの資料の読み味の違いがよくわかった。キリスト教資料は幻想味が強く、物語として面白いものが多いが客観性に欠ける。イスラームの資料は神秘主義的な言い回しをするが、最後まで読んでからまた戻るとヒントの多い章。ユダヤ教の資料はカバラ主義的であると同時に歴史記述意識が高く、比較的客観的な目線で書かれていると思う。
    史実ではハザールの王室はユダヤ教に改宗したとみなされている。本書では改宗の謎は謎のままだが、国が消滅し他者が見る夢のなかを転々として生きるハザール人は、セルビア人のパヴィチの手で、同じようにアイデンティティをめぐる争いに巻き込まれた人びとの抽象的なアイコンになったのではないかと思う。
    辞典形式、広く言えばカタログ形式の小説は今じゃそう珍しくないけれど、やっぱり完成度でこの作品を凌ぐものには巡り会えそうにない。

  • 本に男性版と女性版があるのは面白いよね。

  • 2015-12-27

  • これまでの読書体験とは一味違う新鮮な感動が味わえる。いくつものストーリーが複雑に絡み合っているので多方面から全体像を探る必要がある。これから読み返すたびに新たな発見がありそうで楽しみ。

  • 2015.12.26市立図書館
    しおりが赤、黄、緑と三本もついているのは伊達じゃない。限られた貸出期間で読める本ではなかった。また借りよう。

  • 奇書として有名な幻想小説。男性版と女性版があり、こちらは女性版。

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